◆ことばの話3350「グルジアの大統領の名前」

北京では五輪開催中ですが、ロシアとグルジアは険悪なことになっています。8月14日の朝刊を見てみると、そのグルジアの大統領の名前の表記が、
(読売)サアカシビリ
(朝日)サアカシュビリ
(毎日)サーカシビリ
(産経)サーカシビリ
(日経)サーカシビリ
と全部同じようで微妙に違いました。読売と朝日は「サアカ」ですが、他は「サーカ」、語尾の方は朝日だけが「シュビリ」でその他は「シビリ」です。
昔、おそらくモントリオール・オリンピック(1976年)の時だったかと思いますが、ソ連か東ドイツの選手に、
「チョチョシビリ」
という名前の選手がいたように思いますが、あの選手も、もしかしたらグルジア出身だったのでしょうか?ソ連時代に外相を務め、その後グルジア独立後に大統領になったのは、日本でもおなじみの、
「シェワルナゼ」
さんです。日本語の感覚から言うとグルジアの人の名前の響きは、ちょっとかわいらしいというか、面白く響きますね。いや、失礼にあたったら、ごめんなさい。
現在のグルジア大統領の表記について、Google検索してみました。
「サアカシビリ」=  6510件
「サアカシュビリ」= 2770件
「サーカシビリ」=3万9300件
でした。やはり「サーカシビリ」が主流のようです。ついでに、
「サーカシュビリ」=358件
でした。また、
「チョチョシビリ」=2150件
おお、やはりいたか!やはりモントリオール・オリンピックの柔道無差別級で優勝した上村春樹選手が、準決勝で破った強敵というのが、当時・ソ連のチョチョシビリ選手でした。その後、なんとアントニオ猪木選手とも戦っているようですね。それは知らなかった(覚えていなかった)。きっと彼はグルジアの出身だと思います。
2008/8/18


◆ことばの話3349「町おこしか?街おこしか?」

8月14日の読売新聞朝刊の見出し
で、
「街おこし差別化カギ」
と、「街おこし」という表記が載っていました。実は先日スタッフから、
「道浦さん『まちおこし』の漢字の表記は『町』ですかね?それとも『街』ですかね?」
と質問を受けたばかりで、その時は、
「『街』は既に大きな都会という感じがするから、これから『起こす』のであれば『町』の方があっているような気がしますけど・・・」
と答えて、スタッフも、
「そうですね」
と納得、「町おこし」という表記にしたばかりだったのです。でもこれだと、「街おこし」なんですね。Google検索してみました(8月15日)
「町おこし」=41万9000件
「町興し」 = 7万3100件
「町起こし」=   8890件
「街おこし」= 6万1100件
「街興し」 = 1万3100件
「街起こし」=   4090件
ということで、ネット上で使われている順番(頻度)は、
「町おこし>町興し>街おこし>街興し>町起こし>街起こし」
となりました。
2008/8/15


◆ことばの話3348「行き着いた先は」

(だいぶ古くなってしまいましたが)3月18日の「情報ライブ・ミヤネ屋」のニュースで秋田連続児童殺害事件の畠山鈴香被告の生い立ちなどを伝えたナレーション原稿に、次のような一文が出てきました。
「行き着いた先は生活保護だった。」
これは問題があります。「行き着いた先は」という言葉の先にあるものは、(どんな言葉が来ようと)「最下等の」というような意味合いを持ってしまいます。この場合にそれは、「生活保護を受けている人たち」を見下した表現となります。プラス・マイナスの評価をこめるのではなく、事実を客観的に伝える表現にするべきです。そこでこの部分は、
「30歳で自己破産、生活保護を受けるに至った。」
という事実を述べる文章に変えて放送しました。
2008/3/18


◆ことばの話3347「時代をリードするクォリティーマガジン」

先日、出張で東京に行った時に乗った新幹線の中で、女性の車掌さん(?それとも販売員のお姉さん?)が車内放送をしていました。その車内放送で出てきたのは、お弁当やお飲み物のほか、「ある雑誌」だったのですが、その雑誌の名前の前に付くセリフに違和感を覚えました。それはこんな文句でした。
「時代をリードするクォリティクォリティマガジン●●」
違和感ありありなんです!
なぜだろうか?いや、その雑誌が悪いと言うことではないのです。でも、聞いていて気恥ずかしい。大体宣伝・広告なんてシニカルに聞けば気恥ずかしいものなんですけど、それにしても、ある意味堪えられないくらい気恥ずかしく感じてしまいました。なぜなんでしょう?
理由をいくつか考えました。
(1)「時代をリードする」「クォリティーマガジン」という宣伝文句が、既に陳腐だった。
(2)そういった宣伝文句と商品の実態がかけ離れている。
(3)そういった宣伝文句が、“新幹線の車内”という場に合っていない。
(4)これまでそういった宣伝をしていなかったので、馴染めない。
(5)放送をした女性の読み方が、マッチしていなかった。
などなどいくつかの理由を考え付きましたが、なんでしょうね、やはり一番の理由は(3)と(4)、「そういったほめ言葉(宣伝文句) が、“新幹線の車内”という場に合っていない」「これまでそういった宣伝をしていなかったので、馴染めない」ではないかと思いました。
ということは、慣れればどうってことないのかな。
また今度の出張の時に、耳をそばだてて聞いてきます!
2008/6/24
(追記)
どうやらこの雑誌、「リニューアル」をしたようです。だから販売に力を入れていたのか。納得。
2008/7/1


◆ことばの話3346「泳ぎ込む」

大会中盤、盛り上がっている北京オリンピックの報道で、8月15日の日経新聞夕刊に、
女子200メートル平泳ぎ決勝に出場した金藤理絵選手の記事が出ていました。その中に、
「地元にこだわり泳ぎ込んで成長〜女子200平金藤7位」
という見出しで、
「泳ぎ込む」
という言葉が出てきました。なるほど、陸上の選手なら、
「走りこむ」
ところですが、「競泳」ですから、「泳ぎ込む」ですか。意味はおそらく、
「徹底して距離を泳ぐこと」
ですね。
『精選版日本国語大辞典』には、「泳ぎ○○」という言葉は、
「泳ぎ上がる」「泳ぎありく」「泳ぎいず」「泳ぎ着く」「泳ぎ回る」「泳ぎ渡る」
しか載っていません。「泳ぎ込む」は載っていませんでした。「走り込む」は載っていました。
「(2)走る鍛錬を十分に積む。練習でしっかり走っておく」
で、用例は、安部公房の『密会』(1977)からでした。それにならって「泳ぎ込む」の語釈を書くと、
「泳ぐ鍛錬を十分に積む。練習でしっかり泳いでおく」
となりますかね。
「○○込む」という言葉を『逆引き広辞苑』で捜してみると、
「上がり込む」「当て込む」「跨(あふどこ)む」「編み込む」「勢い込む」・・・
など随分あったので省略しますが、「泳ぎ込む」に似たものとしては、「覚え込む」「習い込む」「煮込む」「走り込む」
でした。ちなみに『広辞苑』の「走り込む」の語釈は、
「(トレーニングとして)十分に走る」
でした。


2008/8/18
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