◆ことばの話3285「突き落としと突き落とされ」

3月25日にJR岡山駅で起きた、18歳少年による突き落とし殺人事件。それを報じた3月26日各紙夕刊の見出しが、微妙に違いました。
(朝日)「線路に落とされ男性死亡」
(読売)「線路に落とされ男性死亡」
(毎日)「突き落とし男性殺害」
(産経)「線路突き落とし男性死亡」
読売と朝日は「突き落とされ」で、被害者が主語、産経と毎日は「突き落とし」で加害少年が主語になっています。ただ、その「主語」が見出しには書かれていないために、見出しだけ見ると、
「落とされ」「落とし」
が混在して、ちょっとわかりにくいかもしれません。さらにその後の、
「死亡」「殺害」
も混在していますが、「死亡」だと「殺意があったかどうかはわからない」ですが、「殺害」だと「その意志があった」と判断されたということですね。
(ここまで3月に書いて、中断していました)
まだ事実関係がよくわからない段階では、こういった乱れもあるんでしょうか。
2008/6/10


◆ことばの話3284「おしん」

5月22日の深夜熊本の病院で、農薬を飲んで自殺を図った男性が吐き出した農薬が気化して、54人が気分が悪くなるなどしたというニュースがありました。これって怖いですよねぇ。医療関係者も命がけです。
これに関して元・国際基督教大学教授の田坂興亜さんが電話のインタビューに答えて、その気化した農薬を吸ってしまった場合の症状について、
「頭痛、おしん、目まい、嘔吐」
と話していました。字幕スーパーも、そう出ていました。それを見て聞いた私は、
「この『おしん』というのは、先生が『発疹(ほっしん)』と言ったのを、書き間違えた(聞き違えた)のではないか?『悪寒(おかん)』なら聞いたことがあるけど、『おしん』ってなんだ??」
と思って、担当ディレクターに聞いたところ、
「それでいいんです、『おしん』です。」
との答えが。よく聞いてみると、漢字で書くと、
「悪心(おしん)」
だそうです。『精選版日本国語大辞典』(電子辞書)を引くと、載っていました。
「おしん(悪心)」=気持ちが悪くなって、吐き気を催しそうになる感じ。
とありました。用例は『駿台雑話』(1732年)と、なんと江戸時代でした。
放送では間違ってはいなかったので、ほっとしましたが、その一方で、
「確かに正しかったのかもしれないけど、『おしん』と書いても、一般の視聴者はわからないんじゃないだろうか?『おしん』で思い出すのは『小林綾子』が主演のNHKのドラマだ(私の場合)。もう少しわかりやすく説明を、字幕につけたほうが良かったのではないか」
とも思いました。
2008/6/10



◆ことばの話3283「握り込む」

2008年5月28日の読売新聞「時代の証言者」という特集コラム「鮨を握る〜小野二郎」の15回目に、
「そのギリギリの点を見切る勘は、ある程度握り込まないとつかめません。」
というふうに、
「握り込む」
という言葉が出てきました。たとえば、プロ野球のバッターだったら、特訓をして
「打ち込む」
という言葉がありますね。ピッチャーなら、
「投げ込む」
ことで肩が出来てきますね。アナウンサーでも原稿を、
「読み込む」
ことが必要ですし、フリートークを自由にこなせるようになるには、
「しゃべりこむ」
ことが必要です。「鮨職人」も、スポーツ選手やアナウンサーと同じように「握り込む」ことが必要なんですねえ。普段、あまり素人は使わない言葉というか、作業です。
最近は、役人などが
「使い込む」
ことがありますが、これは困りますね。野球の野手のグラブは、
「使い込む」
ことで、こなれて使いやすくなってくるんですけどねえ・・・。
Google検索(6月10日)では、
「握り込む」= 1万6900件
「握りこむ」= 1万9100件
「打ち込む」= 162万0000件
「打ちこむ」= 3万5600件
「投げ込む」= 27万5000件
「投げこむ」= 6860件
「読み込む」= 246万0000件
「読みこむ」= 3万5700件
「しゃべり込む」= 172件
「しゃべりこむ」= 293件
「使い込む」= 99万2000件
「使いこむ」= 4万7900件
「こむ」は大事なんですね。どっと込むとか・・・ドットコムか。「打ち込む」は、別にやきゅうのバッターに限らず、「仕事に打ち込む」とかもありますのでね。件数が多いでしょうね。
そうそう「にぎる」と言えば、
「役人の 子はにぎにぎを よく覚え」
という川柳がありましたね・・・いかんいかん、また「役人」に・・・・「居酒屋タクシー」のニュースを読んだからかな?
2008/6/10


◆ことばの話3282「強盗致傷と強盗傷害」

以前、社内の用語勉強会で、報道の若い記者から、
『「強盗致傷」と「強盗傷害」の使い分けは、どうすればいいのか?』
という質問が出ました。これに関して、4月に行われた新聞用語懇談会放送分科会で伺いました。 各社の状況は、
*「傷害」は犯罪の結果、ケガをさせた。「致傷(チショー)」は、耳で聞いてわかりにくいために「傷害」を使う。「致死」は言い換えがないので、そのまま使う(「致死」を「殺人」とは言い換えられない。罪が違うから)。(NHK)
*裁判の中で「致傷→致死」への「訴因変更」もあり、分けるのが難しいので「傷害」にしておく。(TBS)
*「致傷」は耳で聞いてわかりにくいので「傷害」と言い換えるが、裁判の判決のニュースでは「致傷」を使う。(フジ)
*「致傷」→「致死」と変わることもあるので「致傷」の方が良いが、ワイドショーでは「傷害」か。(テレビ朝日)
*原則「傷害」を使う。個別の原稿では「致傷」も出てくるが・・・。(テレビ東京)
*区別していない。データベース検索でも「致傷」「傷害」半々の使用。深く考えずに使っている。耳で聞いてわかりにくいということなら「傷害」の方がいいかも。(共同通信)
*報道局用語担当者に聞いたところ「慣用的に『致傷』を使っている。共同原稿に『傷害』があったら『致傷』に変えている。ただ『自動車運転過失致傷』は『自動車運転過失傷害』としている。」とのこと。(朝日放送)
*書く人によって違う。一方で若い記者が警察発表を「致傷」としていることもある。裁判で訴因が変わった時は「致傷→致死」。(毎日放送)
*「傷害」を使う。「致傷」は使わない(関西テレビ)
*「致傷」を使う。警察発表と同じ。(静岡放送)
*データベースで検索すると、両方使っていた。気を使っていない用語だ。(日本テレビ)
というようなことだったのですが、さらにこの話の中で、
「マスコミは『被告人と被告の区別をしていないのではないか?』と言われたことがあるが、どうか?」
という質問が出ました。つまり、
・刑事事件=被告人、初公判
・民事事件=被告、第1回口頭弁論
この区別が出来ていないのではないか?と。
結論から言うと、
「刑事事件の『被告人』を、新聞が1字でも省くために『被告』としたのが原因ではないか?」
ということに。ただ、来年の裁判員制度実施に向けて、「裁判関係用語のわかりやすい整理」の必要があるのではないか、ということで会議はまとまりました。また次回への課題ですね。
2008/6/10


◆ことばの話3281「キメジ」

先日、会社の食堂に行った時に、見慣れない料理がありました。
「キメジ」
の刺身です。「キメジ」ってなんやろ?きのこの「シメジ」は知っていますが。メニューの説明書きをよく読んでみると、
「キハダマグロの幼魚」
のことなんですって。魚の名前は、方言のように地方によっていろいろありますからね。これもその一つかな?それと幼名も、いろいろありますからね、魚は。『精選版日本国語大辞典』の電子辞書にも『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』『広辞苑』にも載っていませんでした。Googleで検索してみたところ(6月4日)、
「キメジ」=1万1100件
「きめじ」=   895件
「キメジ」は大体10〜15キロ。また「クロマグロ」の幼魚は「メジ」「マメジ」と呼ぶとか。神奈川県水産技術センターのHPを見ると、胸ビレの長さが「マメジ」は短く、「キメジ」は長く、また体形も「マメジ」はポッテリで、「キメジ」はスリムなのだそうです。
会社の食堂で勉強になりました。「キメジ」のお刺身、おいしかったです。
2008/6/4
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