◆ことばの話3280「肩を少しうなだれて」

6月8日(日)の午後に東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件。7人の何の罪もない人たちの命が奪われました。犯人は現行犯逮捕されましたが、失われた命はもう二度と戻りません・・・。
この事件の続報で 6月10日の日本テレビのお昼の『ニュースダッシュ』で万世橋署から中継していた男性記者は、送検される加藤智大(ともひろ)容疑者の様子について、こうリポートしていました。
「加藤容疑者は、肩を少しうなだれて」
え?肩をうなだれる?
「うなだれる」って意味、わかっているのかな?漢字で書けば、
「項垂れる」
ですよ。「うな」=「うなじ」、首の後ろのところですよね。それを「垂れる」んだから、つまりは、
「首を垂れて」
という意味ですよね。「肩」ではないですよ。「肩」を「うなだれる」ことはできないと思います。言いたいことは大体わかるけど。結局この記者は、
「肩を落とし、項垂(うなだ)れて」
と言いたかったのではないでしょうか。でも、勝手に省略しては困ります。
2008/6/10


◆ことばの話新3279「浴育」

2008年4月3日の新聞に、
「浴育」
という言葉が出てきました。お風呂での親子のコミュニケーションが、子育てにつながるという考え方のようです。確かにそういう面もあるかもしれません。ネットで検索したところ(Google、4月4日)、
「浴育」=466
出てきました。あまり多いとは言えませんが、ちょっとそういう考え方も出てきていると。中でも、去年(2007年)11月に東京ガスが出した、『親子での入浴に関する実態調査』では、「親子のコミュニケーションはお風呂で」として、サブタイトルに
『「浴育」のすすめ』
「浴育」を使っています。抜書きをしてみると、
『東京ガス(株)都市生活研究所では、このたび「親子での入浴に関する実態調査」を行い、親子での入浴の「頻度」「スタイル」「理由」「何をしているか?」を明らかにしました。その結果、父親、母親ともに8割以上が子ども(小学生以下)と一緒に入浴し、特に父親は子どもとのコミュニケーションをとるために一緒に入浴していることがわかりました。さらに、浴室では親子の距離が近く、テレビなどの会話の妨げになるものがないという特徴から親密なコミュニケーションが可能であることもわかりました。そこで、東京ガスでは「入浴で親子のコミュニケーションを深め、そして子どもの能力育成のきっかけにしよう」という「浴育(よくいく)」を提案いたします』
ということで、この言葉の発案は「東京ガス」のようですね。
そのうち『現代用語の基礎知識』に載るかもしれません。もう載っていたりして。念のために引いてみよう・・・2008年版には載っていないみたいですね。じゃあ、2009年版に・・私が書いたりして。平成ことば事情3264「服育」もお読み下さい。
2008/4/4



◆ことばの話3278「准校長」

4月1日の朝刊を見ていると、大阪府の高校と中学の先生の人事異動が、2面にわたって書かれていました。それを眺めていて「おや」と思ったのは、
「准校長」
という役職があったからです。聞き慣れない名前ですねえ。「教頭」ではないんだろうか?
読売新聞によると、
「これまで夜間定時制や通信制が併設されている高校などに配置されていた『副校長』を、『准校長』に名称変更。」
とありました。なるほど、「夜間定時制」や「通信制」が「併設」されているということは、同じ名前の学校であっても、まあ2つの学校があるようなものですからね。そこでの「昼間に通う学校」ではない方一番の責任者を、
「副校長→准校長」
と名前を変えるということですね。わかりました。
そもそも「副校長」も、文部科学省が平成16年(2004年)に、
「教頭→副校長」
にしていたんですよね。全部の「教頭」が「副校長」に変更になったわけではないですが。
また、昔の資料を整理していたら、14年前の『週刊文春』(1994年11月24日号)の122ページ「家の履歴書」で、『お役所の掟』の著者当時、厚生省神戸検疫所課長だった宮本政於さんが出ていました。(たしか、もう亡くなったのでは・・・1999年に死去されたようです。)その説明文に、
「アメリカで、ニューヨーク医科大学精神神経科の準教授をしていた宮本氏が」
と、
「準教授」
という言葉が出てきました。「准教授」ではなく「準教授」という表記でした。
Google検索(6月10日)では、
「副校長」= 79万2000件
「准校長」=    1300件
「准教授」=148万0000件
「準教授」=  8万1600件
でした。やはり新しい「准校長」はまだ少ないですね。
2008/6/10


◆ことばの話3277「万歩計」

万城目学のエッセイ集『ザ・万歩計』を読みました。タイトルの中に、
「万歩計」
という言葉が入っています。「万歩計」というのは「山佐時計計器」という会社の登録商標なんですが、それがなぜ、エッセイ集のタイトルにつけられているのか?
疑問に思ったので、買ってきて全部読んだら、一番最後の奥付に小さな字で、こう書かれていました。
『「万歩計」は登録商標です。書名に使用することについて、山佐時計計器株式会社の許諾を得ています。』
ちゃんと許可を取ってたんだ。
あ、そうか「万城目」が「歩く」のを書くので「万歩計」なんだね、きっと。なお、ホームページのタイトルは、
「どうにも止まらぬ万歩計」
というそうです。
なお、「万歩計」の一般名詞の言い換えは、
「歩数計」
です。
2008/6/9


◆ことばの話3276「歯舞群島」

2008年3月21日、国土地理院は、北海道根室市から地名変更の要望を受け、
「歯舞諸島」
の名称を、
「歯舞群島」
へ変更しました。それに伴い、「歯舞群島」と表記した地図500万分1「日本とその周辺」を4月1日に刊行しました。
根室市は以前から、
「北方領土返還要求運動の現場や教育現場で、『歯舞群島』や『歯舞諸島』が使われ、混乱が生じているので、『歯舞群島』への地名を変更してほしい」
との要望を国土地理院に寄せていたそうです。これを受けて、国土地理院と海上保安庁海洋情報部で構成する「地名等の統一に関する連絡協議会」は、「歯舞諸島」を「歯舞群島」に変更したとのこと。
そうすると「地名の決定権・変更権」は、
「国土地理院と海上保安庁海洋情報部で構成する『地名等の統一に関する連絡協議会』」
というところにあるんですかねえ。
ちなみに、
「諸島と群島の違い」
は、『精選版日本国語大辞典』(電子辞書)によると、
「諸島」=多くのいろいろの島。また、地理学で、ある区域内に散在している島々をいう。
「群島」=群がった多くの島。地理学では「諸島」の旧称
とあります。あれ?そうすると、歯舞は「旧称」が「新称」になったの?
『三省堂国語辞典』を引くと、
「諸島」=海洋の中の、ある場所(一帯)にある、多くのしまじまの呼び名。群島。
「群島」=海洋の中の、ある場所(一帯)にある、多くのしまじまの呼び名。(今は「諸島(ショトウ)」という)
ありゃ。やはり、「群島」は古く、「諸島」の方が新しいという解釈ですよね。というより、一字一句、違わない、同じじゃないの?
『広辞苑』では、
「諸島」=二つ以上の島の集団。
「群島」=まとまりをもって群がっている島々。
うーん、これだと「諸島」と「群島」の差は「島の数」で、
「諸島」<「群島」
のようですね。それでいいのかなあ?Google検索(6月6日)では、
「諸島」= 9810000
「群島」= 5570000
「歯舞諸島」=35000
「歯舞群島」=12900
でした。これまでは「諸島」の方が優勢ですよね。英語ではどういうのか?その違いは?和英辞典を引いてみました。
「諸島」=an archipelago , a group of islands
「群島」=a group of island ,an archipelago
おんなじじゃないか!
よくわかりません。どなたかご教示を!!
2008/6/6
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