◆ことばの話3265「赤青白黒」

大相撲夏場所(五月場所)は、琴欧洲の初優勝で幕を閉じましたが、その初日、久々に大相撲の中継をじっくりと見ていて、気づいたことがありました。「上位力士の四股名」に関してです。「色に関わる名前」が目についたのです。
「朝青龍、朝赤龍、白鳳、黒海」
これらの色は、
「赤、青、白、黒」
の四色。これは、吊り下げられている屋根についている、
「房の色と同じ」
ではないですか!相撲に詳しい方はご存知だと思いますが、
「赤房、青房、白房、黒房」
という四色の房が下がっていて、この色は、方向や季節を表す「四神」の、
「玄武(黒=北)、白虎(白=西)、青龍(青=東)、朱雀(赤=南)」
と同じです。これが力士の四股名にも反映されているのではないか?とひらめいたのです。緑や黄、橙、紫なんて漢字(色)がついた四股名の力士って、今、幕内にはいないですよね。これまでもなかったのではないか?と思ったのです。「青葉城」とか「青葉山」「栃赤城」「双羽黒」(相撲を見ていた時期がわかるなあ)なども「青・赤・黒」ですしね。あ、「金城」「金=ゴールド」は。まあ、それは別でしょう、本名だし。

しかし・・・たまたまこのタイミングに読んでいた本、大横綱・双葉山が書いた『横綱の品格』という本を読んでいたら、出てきてしまったのです、「赤青白黒」以外の色のついた  四股名が。双葉山の師匠・立浪親方が、現役時代には、
「緑島」
といって、小結まで上ったとのこと。おそらく昭和の初期か大正時代ではないかと思われますが、その頃の四股名には「緑」があったのですね・・・。
でも、今後もちょっと「力士の四股名の色」には注意してみることにします。
2008/6/3



◆ことばの話3264「服育」

2008年3月13日の読売新聞に、
「教育現場に広がる服育」
という記事が出ていました。
「『食育』ならぬ『服育』が注目を集めている。子どもらの服装の乱れを正すとともに、公共マナーや社会性を身につけさせるのが狙いだ。総合学習の時間などを使って授業に取り入れる学校も増えている。」
安藤二郎記者が書いています。
「食育」の次は「服育」ねえ。なるほど、人間の生活で大切なのは、
「衣食住」
ですし、
「衣食足って礼節を知る」
というぐらいですからね。ただ、記事で紹介されている学校は「京都市立花背小学校・中学校」というところで、記事によると全校児童・生徒が
31人」
なんです。それを見て「おやっ?」と思いました。本当に「服育」が注目を集めているのか?と。
記事を読み進むと、堺市教育委員会が市内の4小学校と1中学校で、職業教育の一環としてジャンパーやTシャツのデザインをする授業を行ったことも書かれていますし、学生服などを中心に扱う繊維商社「チクマ」が、本社ビル1階に「服育ラボ」を設けたりもしているそうです。なるほど静かに「服育」、広がっているようですね。
でもそれなら「全校児童・生徒31人」という超小規模校ではなく、もう少し大々的に取り組んでいる学校を、最初に持ってきた方が、説得力があったと思います。まあ、そういった学校は、なかったんでしょうね。そこがちょっと記事として弱いんじゃないかなあ。
Googleで検索してみたら(6月3日)
「服育」=1万0200件
でした。サントリー次世代研究所や京都の学生服専門のお店、子供服メーカーなども参画しているようですね。ちなみに「食育」は216万件。「服育」は、まだまだ始まったばかりのようですね。
2008/6/3



◆ことばの話3263「たもととふもと」

新幹線の車窓から富士山を見ていて、ふと疑問がわきあがりました。
「山の『ふもと』と、着物の『たもと』は、『もと』が同じだなあ。そうすると違いは『た』と『ふ』か。この意味の違いは何だろうか?」
まず「たもと」『精選版日本国語大辞典』電子辞書で引くと、まず、
「袂・手本」
と漢字が書かれていて、
「『手(た)本』の意」
とあるではないですか。そうか「たもと」の「た」は「て(手)」で「てもと」が元々の意味だったのか!そうすると「ふもと」はどうなんだろうか?
「ふもと(麓)」=山のすそ。山麓。
と特に不思議はない記述。でも「すそ」というのは、もしかして「着物のすそ」から来ている比喩表現であれば、なにかその辺りに糸口があるのでは?
ネット検索してみたら「話ことばの通い路」というサイトが一番に出てきました。掲示板のようなページですね。そこでの2006年6月の書き込みを見ていると、春庭さんという方が、
「ふもとの原義は『踏みもと』」
と書いてありました。なるほど!つまり「ふもと」は、
「足で踏み分けて行く土地の土台にあたる場所全体。やまのすその部分」
となると。そして、
『「ふもと」「たもと」も、厳密な使い分けをしていくことはなく、どちらの意味も相互乗り入れ的につかわれていくことでしょうね。』
とも書かれています。やはり使い分けは結構難しいものなのですね。よくわかりました。春庭さん、ありがとう!
2008/6/3

(追記)

万城目学のエッセイ集『ザ・万歩計』の中の「大阪経由松山行き」で、
「天守閣の麓の売店兼レストランでは」
という表現が出てきました。「天守閣」の下のところも「麓(ふもと)」という表現が使えるんですかね。あまり見慣れませんが。Google検索では(6月8日)、
「天守閣の麓」=  269件
「山の麓」=58万0000件

でした。

2008/6/8



◆ことばの話3262「日本名と本名」

3月11日、大阪市の64歳と55歳の姉妹が、相続税としては過去最高の約29億円を脱税したとして、大阪地検特捜部に逮捕されました。2人は不動産賃貸業で営んでいた父の遺産のうち約59億円の札束を、段ボール箱などに入れて、姉の自宅のガレージにほうり込んでいました。
この事件で容疑者の名前を、読売テレビでは最初、
「清水初枝容疑者」
「日本名」(通名)で報じましたが、その後各社の報道を見ていると、
「李初枝容疑者」
「韓国名」(本名)で報じたところが多かったように思います。このように、
「日本名と本名の両方がある場合」
加害者の場合、被害者の場合で、報道する際の使い分けや基準はどうなっているのでしょうか?
新聞用語懇談会加盟の各社に聞いてみたところ、共同通信のMさんからだけ、返事が来ました。
『確たる基準はないが、基本的には「本名表記」。警察が「○○こと××」と発表するケースでは「××」を使うということ。そのまま「○○こと××」の表現は、まずしない。加害者、被害者での使い分けもない。私見だが、30年ほど前、大阪の事件記者時代にはよく「○○こと××」の発表表現が多く、ことさら「この人は日本人じゃないからね」と言って「在日の人」と強調するようで抵抗感があった。しかし本名でないということは「柴又の寅さん」のような「通称・名」ということでもあり、ややこしい問題。作家や芸能人は本名ではなく「芸名、ペンネームが一般的」だから逆。「清水初枝容疑者」も知り合いや、近所の人は「李初枝容疑者」では「いったい誰のこと?」なのかもしれない。』
ほかの各社から返事がなかったということは、あまりはっきりとした基準は決まっていないということでしょうかね。
2008/6/3



◆ことばの話3261「『抵抗勢力のドン』と『なりちゅう』」

5月20日、大阪府の橋下徹知事が、市長会会長の倉田・池田市長と会談したニュースの原稿で、
「いわば抵抗勢力のドン」
というのがあったのですが、この表現はあまりにも「橋下」目線に過ぎるのではないでしょうか?
「ドン」
という言葉にはあまりいいイメージがないので、せめてそこに「中立さ」を出すためには、
「いわば『抵抗勢力』の中心人物」
というふうに、
「ドン→中心人物」
としたほうがいいのではないでしょうか。実際にそのように変えて読みました。「抵抗勢力」は残しましたが・・・。
さらに 同じく橋下知事のニュース、そこまでは主語が「倉田市長」だったのにインタビューの「音生かし明け」が、
「そして、きのう、倉田市長と再び面会」
と、主語がいつの間にか「橋下知事」に変わっていました。(主語は書いていませんが、文脈からはそうなっている)
これでは頭の中がゴチャゴチャになってしまいます。また、「面会」というのが、何かもう一つしっくり来なかったので、ここは「対面」として、
「そして、きのう、橋本知事は倉田市長と再び対面」
として読みました。
さらにさらに、橋下知事のニュースで最後の文章が、
「来月発表される知事案の行方が注目される。」
とありましたが、これは昔、
「なりちゅう原稿」(「成り行きが注目されます」というのを略して「なりちゅう」)
と呼ばれた、
「一見もっともらしいが、実は何も言っていない、無責任な常套句原稿の代表」
として槍玉に挙げられていたものです。(まだ、生きていたか、と。)
便利なので使いたくなる気持ちはよくわかりますが、いつもこれでまとめるクセは、つけないほうがいいと思います。楽ではありますが。そこで、少しこちらの「意志」を表した、
「来月発表される知事案の行方に注目だ」
に換えさせていただきました。あんまり変わらないけど、ちょっとは違うと思います。
結構、細かくチェックして読んでいます。
2008/5/30
(追記)

2010年3月4日の「ミヤネ屋」の原稿チェックをしていたら、
「民主党のドン」
という表現が出てきて、これは、
「民主党のこの人」
という表現に変えて放送しました。「ドン」には「悪いイメージ」が付着しています。
「闇の世界のドン」「政界のドン」
など、「親分」という意味ですが、この言葉を使うと「偏った(マイナスの)イメージを与える」ことになるので、できるだけやめた方がいいでしょう。余談ですが『思いっきりDON』は別です。これは擬態語・擬声語でしょうから。4月からタイトルが「DON」になるそうですが・・・。
2010/3/22
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スープのさめない距離