◆ことばの話3235「弱冠の年齢」

「ミヤネ屋」のスタッフから、また質問です。
「『じゃっかん(若干)9歳』という表現はOKでしょうか?」
答えは即座に
「ああ、それはダメだね。『弱冠』は20歳だから。」
と答えました。スタッフは「弱冠」ではなく「若干」あるいは「若冠」という漢字をイメージしていて、それならばOKかな?と思って聞いてみたようです。
「若干」は「少し」という意味で「若干名、募集」などに使います。一方、同じく「じゃっかん」と発音する、
「弱冠」
ですが、これは昔の中国で「男子二十歳」のことを「弱」と言い、「冠」を授けたところからある言葉で、年齢の若いことをも示しますが、『放送で気になる言葉・改訂新版』の37ページには、
「(20歳から)あまり範囲は広げたくない」
と記されています。原則は、
「20歳プラスマイナス2歳ぐらい(18〜22歳)まで」
でしょうね。
なお「若冠」という書き方は「間違い」、と『放送で気になる言葉・改訂新版』『新明解国語辞典』には記されています。『新潮現代国語辞典』には載っていますが、他のいくつかの辞書にも見当たりません。使わないことに越したことはありません。
『放送で気になる言葉・改訂新版』には、
×「弱冠12歳」
×「弱冠40歳」
となっています。ところが、『三省堂国語辞典・第6版』の用例では、
「弱冠24歳」
と使われ、『精選版日本国語大辞典』の用例では有吉佐和子の作品から、
「弱冠34歳」
が載っています。そこで、他の国語辞典での用例の年齢も調べて見ました。
『三省堂国語辞典』   =24歳
『精選版日本国語大辞典』=34歳
『日本語新辞典』    =18歳
『明鏡国語辞典』    =18歳
『広辞苑』       =17歳
うーん、『広辞苑』と『精選版日本国語大辞典』では、年齢の開きが2倍にもなっているぞ。これはどうしたことか?でも、放送ではさっきも書いたように、原則、
「20歳プラスマイナス2歳ぐらい(18〜22歳)まで」
でいきましょうね!

2008/5/6

(追記)

『三省堂国語辞典・第6版』の編集に携わった、早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんに聞いてみたところ、こんなお返事が。

『「弱冠」についてですが、『三国』で「弱冠二十四歳で」の例を出したのは今回の6版からです。このような例が多いので無視できないのです。そこで、まず原義を〔=男子二十歳(サイ)〕として示し、でも、実際には男女を問わず広い範囲の年齢について言われることを示したものです。これは編集部提案のものです。
手元の用例では「弱冠39歳で郵政大臣に就任」(野田聖子さんのことですね)とか、「弱冠27歳の監督」「弱冠十三歳で女子のメジャー『ナビスコ』に招待された」など、男女いずれも、かなり幅のある使い方がされています。
「惜しくも」とか「奇(く)しくも」とかいうのと同じく「若(わか)くも」という副詞があれば使えるのですが、そんなことばは無いので、その代わりに「弱冠」を使っている、といったところでしょう。「何歳から何歳まで」という基準の意識はうすいと思います。』
ということでした。現状では確かに幅広く使われてしまっているのですよねえ。ありがとうございました。
2008/5/9
(追記2)

真山 仁『虚像(メディア)の砦』(講談社文庫)を読んでいたら、
「弱冠一四歳の若造に指摘された」
というふうに、
「弱冠14歳」
の例が出てきました。
2008/9/8
(追記3)

『イギリス型〈豊かさ〉の真実』(林 信吾、講談社現代新書)という本の中に、
「弱冠43歳のトニー・ブレアが首相の座に着くこととなった。」
というふうに、「43歳」で「弱冠」という例が出てきました。
ところで「首相の座に着く」は「着く」でいいのかな?本にはそう書いてあるけど。
「就く」
ではないのかな?ちょっと著者の国語力に「?」が「付く」部分でした。重箱の隅の話ですが。
2009/4/9
(追記4)

4月11日、テレビを見ていたら、スポーツ飲料の「アクエリアス」のコマーシャルで、プロゴルファーの石川遼選手が出てきました。その時画面に、
「弱冠17歳」
という字が出てきました。たしかに、つい、使いたくなるよなあ。最近「ハニカミ王子」とはあまり呼ばれなくなった気がします。「ハンカチ王子」こと、早稲田大学の斉藤投手も、あまりマスコミに出てこないし。もう「王子ブーム」は去ったのでしょうか?
2009/4/13


◆ことばの話3234「けが人はいない?ない?」

5月6日放送の『情報ライブミヤネ屋』で、前日、大阪府阪南市の道路が大きく陥没した事故についてお伝えしました。最初その原稿には、
「幸いけが人は、いなかったが」
となっていましたが、ちょっと待てよ。ここは、
「幸いけが人は、なかったが」
にすべきじゃないかな。「幸い」もないほうがいいし。「けが人」は、例えば、
「けが人は、ありませんでした」
のように「ある・ない」(有・無)で表現します。一方、「ケガをした人」の場合は、
「ケガをした人が、いる模様です」
のように、
「いる・いない」
で表現します。これは天気予報で、「にわか雨」の場合も、
「にわか雨が、あるでしょう」
と表現して、「にわか雨が降るでしょう」とはしないのと似ています。この場合は、「にわか雨」という言葉の中に「にわかに降る雨」と、
「既に『降る』という動詞が含まれている」
ので、もし「にわか雨が降る」というと、
「『にわかに降る雨が降る』『降る』が重なってしまうから」
だと、お天気キャスターの小谷さんが以前言っていました。「けが人」の場合も、
「ケガをした人」
という意味で、
「既に『する』という動詞が含まれている」
ので、「けが人はいなかった」とすると、
「ケガをした人はいなかった」
となり「する」と「いる(いない)」という動詞が2つ続いてしまうからではないかと思われますが・・うーん、 これは説得力がないな・・・そうか、わかった!「けが人がいませんでした」と言うと、
「ケガをした人が一人も出なかったのか、それとも、けがをした人は出たのだが、たまたまその場所に今はいなかったという意味なのかの区別がわからないおそれがある」
からではないでしょうか?
つまり、「いない」という言葉には「けが人の有無」と「けが人の不在(=留守)」の二つの意味があり、その混同を避けたということではないでしょうか?それなら納得できますね。< br/> そういうことですので、皆さんご注意下さい!
2008/5/7
(追記)

NHK放送文化研究所の塩田雄大さんからメールをいただきました。
『平成ことば事情話3234「けが人はいない?ない?」興味深く拝読しました。
関連することとして、以下のようなものを書いたことがあります。ご参考まで。
http://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/qa/kotoba_qa_06020101.html』
ということで、そのサイト「ことばQ&A」を見てみると、タイトルは、
「けが人はありませんでした」(2006、2、1)
で、
「『乗客の中に、けが人はありませんでした』というコメントは、おかしいでしょうか。人に対して『ある』は使えないのでしょうか。」
という質問に答えて
『専門家の間でも意見の対立があるのですが、現時点でこれを「日本語として間違っている」と決めつけてしまうことはできないように思います。人間・動物の存在を表すのに「ある」が絶対に使えないというようには、必ずしも言えないと考えています。』
との答えが。くわしい【解説】はこのサイトを見てもらうことにして、NHK放送文化研究所がこの言い方(「人」に対して「ある」を使った言い方)について、ウェブ上でアンケートを取ったことがあるそうです(2005年8〜9月実施、1638人回答)。それによると、
「乗客の中に、けが人はありませんでした」は、
                (男性) (女性)
「問題のある言い方だ」  49%   43%
「問題のない言い方だ」  51%   57%
『今後、「人間・動物」に対して「いる」ではなく「ある」を使うことには、抵抗感
がさらに強くなっていくかもしれません。』
と書かれています。
これに対して私は、
『昔話で、私の祖父母あたりは 「むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんがありました」 と「ありました」を使っていたような気がします。いまは「いました」、 ちょっと前は「おりました」かな?』
というメールを送りました。塩田さんの返事は、
『ご指摘のとおりかと思います。子どもに「かわいい7つの子があるからよ」と歌ったときに、「おとうさん、からすは動物だから『子がいるからよ』なんじゃないの?」と言われて、驚いた記憶があります。』
とのことでした。塩田さん、ありがとうございました!     
2008/6/10


◆ことばの話3233「ネパール人夫」

北海道でネパール人の夫に、日本人の妻が殺されるという痛ましい事件が起きました。この夫は逮捕されましたが、このニュースの字幕で、
「ネパール人夫逮捕」
と出ているのを見て、私は、
「ネパール人夫(にんぷ)逮捕」
かと思ってしまいました。これは「の」を入れて、
「ネパール人の夫逮捕」
とすべきではないかと思い、その旨を、SB解説委員とSK解説委員にメールで書いて送ったところ、返事はありませんでしたが、後日、SB解説委員に会った時に、
「あれは結構、悩んだよ。たぶん『人夫』という言葉が、いまや死語だから、特に意識をせずに『の』を入れずに使ったんだろうな。『にんぷ』と聞いて思い浮かべるのは『妊婦』だし。それと『の』を入れて『ネパール人の夫』をすると、『殺された奥さんが、ネパール人』なのかと思っちゃうこともあるでしょ。『ネパール人夫』なら、『逮捕された夫がネパール人』であることもわかるだろ。そのへんも、もしかしたら配慮したのかもな。」
な、なるほど!「ネパール人の夫」とすると、
「奥さんがネパール人」
と勘違いするおそれは、確かにありますね。まあ、そこまで考えたかどうかはわかりませんが。字数に制限がなければ、
「ネパール人である夫を逮捕」
とすれば誤解は招きませんが、いかんせんテロップなので(新聞の見出しとおんなじで) そんなに字数は使えません。そうすると「ネパール人夫」とするしかないのかなあ。悩むところですね。
2008/5/9


◆ことばの話3232「北海道を道と略する」

新聞用語懇談会放送分科会で、東京の委員から、
「自治体・北海道(道庁機関)を『道』と表現することの可否について」
という問題が議題に上がりました。
つまり「東京都」に関して「都は…」、「兵庫県」(などの「県」)について「県は…」は可能ですが、「大阪府」「京都府」について「府は」とすること、そして「北海道」を「道は」というのは、地元では使っているかどうか?という質問です。
読売テレビをはじめ在阪のテレビ局大阪府・京都府に関して、2回目に出てくる時などは、「府は」と、しょっちゅう使っています。
北海道も使っているような気がします(北海道にいった時に見たテレビなどで)が、事際は「どう」なのか、系列のSTV(札幌テレビ)の明石英一郎アナウンス部長(同期です!)に、他の北海道のテレビ局の状況も含めて聞いてみました。しばらくしてメールが返ってきました。ご本人の許可を得て、そのまま転載します。
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『北海道→道ですが、STVでは頻繁に「道(どう)」をニュースで使用しています。
ただ、ケース・バイ・ケースで微妙なパターンが存在します。
■道教委(北海道教育委員会)の場合
ニュースで最初に出てきた時には、「北海道教育委員会」と伝え、同じニュースで2回目以降は「道教委(どうきょうい)」と省略形で伝えています。
■道警(北海道警察)の場合
ほとんど「道警(どうけい)」であって、「北海道警察」と伝える事は、あまりありません。おそらく、「道警」は頻繁に出てくる言葉であり、視聴者に完全に定着しているためと思われます。
■道庁(北海道庁)の場合
道警と同様に、ほとんど省略形です。道庁の各セクションも、「道の土木部では・・・」や「道の財務部では・・・」のように「北海道」はほとんど使いません。
■なぜ、自治体を表す際に「北海道は・・・」をあまり使わないのか?
これは、あくまで明石の私見ですが、自治体なのか地域なのかが、判らなくなってしまうからではないでしょうか?たとえば、大阪府の場合は「大阪府は・・・」でも「府は・・・」でも、自治体である事は明確ですが、北海道の場合は、「道は・・・」と言えば自治体で
ある事が理解できますが、「北海道は・・」と言うと、地域なのか自治体なのかが不明です。
「北海道は・・・良い所」でも成立するわけです。
懇談会の委員の方々にとっては、言わずもがなと思いますが、
東京  東京都   都
大阪  大阪府   府
青森  青森県   県
北海  北海道   道  
のように明確に対応していれば問題ないのでしょうが、実際には「北海」という呼称はありません。
東京    東京都    都
大阪    大阪府    府
青森    青森県    県・・・ときて
北海道   北海道    道・・・なのでややこしいんですよね!
逆説的に言えば、「道は・・・」と省略形で表現すればこそ、地域ではなく自治体である事を明確に表現出来るとも言えそうです。ただ、全国に発信する場合は「道は」だと、違和感があるかも知れません。かといって「北海道庁は」では行政組織そのものも表しますが、建物的イメージもありますので難しい。結局、そちらと同様に、ニュースの最初は「北海道は」、2回目以降は「道は」と伝えているのが現状です。
長々と判りにくい文章で失礼しました。こちらはなぜか7月並の気温で、道民(北海道民とはあまり言わない)は、びっくりしています。』
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明石君、ありがとうございました。大変よくわかりました!
2008/5/9


◆ことばの話3231「スイープ」

2008年4月9日(8日発売)の「夕刊フジ」で、野球の記事で
「スイープ」
という言葉が出てきました。意味は、
「3タテをくわせること」
のようです。つまり、
「3連戦3連勝」
ということですね。小学生時代からずっとサッカーをやってきた私としては、「スイープ」と聞いて思い浮かぶのは、
「スイーパー」
ですね。そのポジションをやっていましたから。「ストッパー」の後ろにいて、こぼれて突っ込んできた相手のフォワードを止める仕事をする人のことです。「スイープ」の英語の意味が「掃除する」だということを、「スイーパー」をやり始めた小学4年生の時から知っていました。今から37年前のことです。
野球でも言うのかなあ。スポーツ担当の尾山アナウンサーに聞いてみたところ、
「今日現在、日本ではまだ聞いたことはなく、馴染みもありませんが、誰かが使い始めたら、浸透するかもしれませんね…」
とのことでしたが、その後、少し調べてくれたようです。またメールが来ました。
「お問い合わせの『スイープ』の件、どうやら、メジャーリーグを取り巻く環境では、“敵地での3連戦3連勝”の時に使われている用語のようですね。」
同じくスポーツ担当の小澤アナウンサーに聞いたところ、
「『スイープ』という言葉、少なくとも日本のプロ野球では使いません。球界関係者も我々マスコミも使うことはないですねぇ。メジャーでの使用頻度や使われ方は把握していませんが。よろしくお願いします。」
という返事が来ました。もしかしてもしかしたら、今後広まるかもしれないな、というところでしょうか。Google検索では(5月8日)、
「スイープ」         =  33万1000件
「スイープ、3連戦3連勝」=       91件
「スイープ、3連勝」    =   1万3100件
でした。メジャーリーグ関係では、3連勝の意味の「スイープ」は、既に1万件以上使われているようですね。
2008/5/8
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スープのさめない距離