◆ことばの話3230「貝をとる」

5月6日、『ミヤネ屋』のスタッフから、
「潮干狩りで『貝をとる』時の『とる』の漢字は、『獲る』でしょうか?それとも『採る』でしょうか?」
と質問を受けました。これに対しては、
「『採る』または『取る』もしくは、ひらがなで『とる』かな」
と答えました。
「獲る」は常用漢字表の中にその読み方が記されていませんから(=表外訓)、使うなら(原則)「ルビ」が必要です。
採る」は、いくつかの中から選んでとることを意味します。選べるということは、対象物があまり動かないのかな。『新聞用語集2007年版』の用例としては「キノコ採り」「木の実を採る」「山菜採り」などがあります。「昆虫採集」の場合は、対象物(昆虫や蝶)は動きますが、種類を絞って選ぶ、ということが一番の基準なんでしょうね。
「取る」は一番幅広く使える感じです。
「捕る」は意味が「つかまえる」なので、対象物が「動く」ものになるのでしょう。
迷ったら「ひらがな」で「とる」でしょうかね。
このほか、読売新聞東京本社の用語幹事・関根健一さんの『ちびまる子ちゃんの似たもの感じ使い分け教室』(集英社)や、和田みちこさんの『漢字で意味が変わるビミョ〜な日本語』(スリーエーネットワーク)も、同音異義語の表記、区別を知る上で参考になります。
ネット検索(Google、5月6日)での使用例では、
「貝を採る」= 1万2700件
「貝を獲る」=   1980件
「貝を取る」=   3800件
「貝を捕る」=   1680件
「貝をとる」=    672件
でした。和田さんの本では「貝を採る」が用例として出ていました。関根さんの本で「採る」の用例は「決を採る」「血液を採る」でした。
ちなみに、貝の種類を潮干狩りにあわせて「しじみ(シジミ)」と「あさり(アサリ)」にして検索をかけると、
「採る」 「獲る」 「取る」 「捕る」 「とる」
「しじみを」 (2)165件 (4)23件 (1)210件 (3)30件 (4)23件
「シジミを」 (2)207件 (5)72件 (3)146件 (4)139件 (1)225件
「あさりを」 (3)372件 (4)123件 (2)424件 (5)101件 (1)498件
「アサリを」 (1)821件 (3)417件 (2)676件 (5)394件 (4)415件
でした。「しじみをとる」が少ないのは、平仮名が続くからだと思われますが、同じように平仮名が続く「あさりをとる」は、一番多い表記なんですよね・・・。また「シジミをとる」が多いのは「シジミ」がカタカナなので「とる」は平仮名にしてバランスをとったのではないか?とも思われますが、なかなかこれ!という法則があるようで、ありませんね。参考になりましたでしょうか。
2008/5/7


◆ことばの話3229「一からとゼロから」

もう去年の話ですが・・・。
2007年11月30日、二人のスポーツ選手が会見を開きました。一人は横綱・朝青龍、もう一人は、プロボクサーの亀田大毅選手です。ともに“不祥事”からの再起を目指している段階でした。その際の会見で、同じようなことを二人は別々に話していたのですが、その中の言葉で注目したのは、次の言い方です。
朝青龍は「一からやり直す」
亀田大毅は「ゼロからやり直す」
世の中からの逆風を受けた二人の立ち位置は、ほぼ同じでしたが、「一から」と「ゼロから」では、微妙にニュアンスが違いますよね。
「一から」は、今立っているところは「一」ではなく、「ゼロ」もしくは「マイナス」で、進むべき方向が「プラス」ということ。一方の「ゼロから」は、今立っている位置は「マイナス」、あるいはそのベクトル上(プラスにせよマイナスにせよ)にすら乗っていない状態、ということを表すのではないかなと考えたのでした。
・・・・・それから数か月。
年が明けて2008年1月21日、消費期限・賞味期限の改ざんや、牛肉の産地偽装などを行っていたことがわかった 「船場吉兆」の「ささやき女将」こ湯木佐知子・新社長は会見で、
「従業員一丸となって一から再出発させていただきたいと思います。」
と話していました。こちらは
「一から」
でした。しかしまた数か月後の5月2日に(一から出発する前の話ではありますが)、
「客の食べ残しを、使いまわしていた」
という一流料亭にあるまじき衝撃の事実がわかり、さらに「一から再出発」したあとも、その事実を隠していたことが発覚しました。
「一から」と「ゼロから」
どちらが、より良い再出発を切れるんでしょうかねえ・・・・。Googleで検索してみました(5月7日)。「再出発」は、
「ゼロからの再出発」=  7160件
「0からの再出発」 =   9090件
「零からの再出発」=   184件
「一からの再出発」 =  684件
「1からの再出発」=    4060件
と、「0」あるいは「ゼロ」からの「再出発」の方が多いようです。そして「出発」は、
「ゼロからの出発」=   6万9400件
「0からの出発」=     9960件
「零からの出発」=    461件
「一からの出発」=    1万2400件
「1からの出発」=     810件
「ゼロ」からと「一」からが群を抜いていますが、これも「ゼロ」の圧勝ですね。
これから出発される方は、是非「ゼロからの出発・再出発」をおすすめします。
あ、忘れてた、「一からやり直す」「ゼロからやり直す」も検索しましょう。(5月9日)
「一からやり直す」=   5万0700件
「1からやり直す」=    1万6900件
「ゼロからやり直す」=  633件
「0からやり直す」=    5790件
本来の日本語では「一から」でしょうが、ネットでは「ゼロ」が多いと言うことでしょうかね。
2008/5/8
(追記)

11月28日、大阪地裁で無罪判決を受けた羽賀研二被告のコメントが、翌日の読売新聞のケータイサイトのニュースに載っていました。それによると、
「ゼロからではなくマイナスからですけど、しっかりがんばりたい」
とのこと。「一から」のスタートでも「ゼロから」のスタートでもなく、
「マイナスからのスタート」
そういう表現(状況)もあるんだなぁと思いました。
2008/12/1
(追記2)

12月18日、大麻取締法違反などの容疑で逮捕・起訴された俳優の加勢大周被告に、執行猶予の付いた懲役刑(懲役2年6か月、執行猶予3年)の判決が出ました。それを受けてマスコミに囲まれた加勢被告は、
「自分のことを、一からやり直したい」
と、涙ぐみながら語りました。「一からやり直す」でした。
2008/12/18
(追記3)

2009年2月26日、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕・起訴された元タレント(グラビアアイドル)の小向美奈子被告に、懲役1年6か月・執行猶予3年の判決が出ました。これを受けて会見した小向被告は、
「これからはひとりの女性として、大人として、またゼロからスタートしていきたいと思います」
と話していました。「ゼロ」からです。まだ23歳です。
2009/2/26
(追記4)

2009年4月23日、小室哲哉被告に対する論告求刑公判が大阪地裁で開かれました。
検察側の求刑は、「懲役5年」でした。その裁判の際に小室被告が口にした言葉は、
「一から出直したい」
でした。「ゼロ」ではありませんでした。
2009/4/30
(追記5)

『人の噂は七五日or九日?〜数の「英語・日本語」表現くらべ』(山田雅重、丸善ライブラリー2001、5、20)という本を読み返していたら、
「ゼロからスタート」(start at zero, start from zero)
という項目がありました。それによると、
「ゼロからスタートだ、ゼロから出直しだ、という場合のゼロは『何もない状態』という意味です。これに対応する英語表現はいろいろあり、zero以外の単語もよく使われます」
とありました。でも、英語の場合は「1から」ではなく「ゼロから」なんですね。
2009/7/22
(追記6)

9月4日、衆院選では敗れたもののまだ自民党(麻生)政権だった時のこと。(ほんの1か月半前ですが。)首班指名に向けて当時の甘利行革大臣が、
「真っ白な状態から一から始める。」
と、テレビ朝日のお昼のニュースで話していました。つまり、首班指名は「白紙投票」するとの決意を。その後いろいろ情勢は動きましたけどね。ここでは、
「一から始める」
を使っています。「ゼロから」ではなく。
2009/10/13
(追記7)

2009年6月10日の毎日新聞の投書欄に、鹿児島県霧島市の無職・久野茂樹さん(59)という方が、
「『ゼロから始めよう』の気概必要」
というタイトルで、「就活」「婚活」に気弱な男性に向けての投書をされていました。その中で、今の青年の親の世代、つまり久野さんの若い頃の話として、
「今の青年たちと決定的に違うのは『ゼロから始めよう』の気概を、常に持っていた点だろうか」
「ゼロから」を使っていました。
2009/10/14
(追記8)

元・日本テレビアナウンサーでプロレス実況で有名な、倉持隆夫さんの著書『マイクは死んでも離さない』(新潮社:2010、1、15)の中に、
「ゼロからやり直し」
という表現が出てきました。「一から」ではなく。
「アメリカでもう一度、ゼロからやり直しを命ぜられたのである。」(166ページ)
大相撲の横綱からプロレスラーに転身した輪島大士についての表現です。
2010/3/22


◆ことばの話3228「ベビーカーとバギー」

娘も3歳になり、そろそろ「ベビーカー」を使うことは減ってきたのですが、それでも買い物の途中で眠ってしまわれると、ダッコしてもおんぶしても、かなり重い。ベビーカーがあると大変便利です。
先日、東京ディズニーランドに連れて行った時も、結局途中で眠ってしまったので、入園口まで戻ってベビーカーを借りるはめに。1日借りて700円。まあ、安いのではないでしょうか、持って行くことを考えると。もう少し背もたれが高いと良いのですが。
ところで、この「ベビーカー」は「和製英語」だと聞いたことがあります。英語では何と言うのか?という疑問が生じました。
「バギー」という言い方も聞いたことがありますが、これは
「Baggy」
つまり「Bag」と関係があるのかな?赤ちゃんではなく。
去年、サイパンに行った時に「バギー」と言ったら通じず、「ベビーカー」と言ったら通じました。そうすると「ベビーカー」は英語なのかな?
そんな疑問をここ半年以上持っていたら、2008年1月12日放送の読売テレビ系『世界一受けたい授業』に出演していた、英語教師のマーク・レッドベターという先生が、
「『ベビーカー』は英語で言うと『ストローラー』だ」
と言っていました。英語での「ベビーカー」は「小さい車」、つまり日本語で言うところの、「おもちゃのミニカー」
のことだと思う、とのことでした。ふーん。そうだったのか。イギリス製の小さい車は商標名として、
「ミニ(クーパー)」
だけど、あれは「ミニカー」ではないな。なかなか難しいですねえ。
英和辞典を引いてみると、たしかに、
「stroller」=軽便乳母車(幼児の)歩行器
とありました。英和辞典、結構、古いものだから「軽便乳母車」。これは響きがかなり古い感じがしますが、要は「ベビーカー」でしょうね。そうするとやはり「ベビーカー」は和製英語なのかな。同じ英和辞典で「baby car」を引くと、「そのもの」は載っていませんでしたが、
「babycarriage(buggy 米語)」
と書かれていました。そうか「バギー」は「アメリカ英語」か。その「バギー」を引くと、
「buggy」=1頭立て4輪(2輪)馬車、うば車
とありました。なんだ、「バギー」でもいいんじゃない。「うば車」。

なんだか、かえってわからなくなってしまいました・・・。


2008/5/7


◆ことばの話3227「個人の感想です」

一般の企業では多分そんなことはないと思うのですが、テレビ局の現場部局のデスクの周りには、たくさんテレビモニター(テレビですね)が置いてあります。置いてあるだけでなく、常に電源が入ってさまざまな局の番組をウォッチしています。私のデスクの後ろにも、ズラッとテレビが並んでいます。そのうちの一つに目がいった時のこと。コマーシャルを放送していました。何かのテレビショッピングのようなもの。その商品の効能というか効き目のようなものを、使った人が感想のような感じで話しているシーンでした。そこに、字幕スーパーでこういう文字が入っていたのです。
「※個人の感想です」
おお!そこまで来たか!
つまり、たとえば薬事法で、薬以外のものに効能をうたうことは禁じられていますが、薬のようで薬ではないようなものでも、「効能」じゃないけど効き目というか、こういうことに効きますよ・・・・とは言えないので、効くような感じを伝えたい、それこそがコマーシャルではないか・・・というときに、
「あくまでこれは使った個人がそう感じた感想を述べただけで、誰でも同じように感じるとは限りませんよ」
ということをエクスキューズとして強調した文字スーパーが、この「個人の感想です」ということなのでしょうね。うーん、そこまでせねばならぬか。
以前、やはり同じようなテレビショッピング系のコマーシャルで、いかにも素人(一般の人)というふうに見えるおばあさんが、その商品を使った感想として、
「なんだか楽になりました」
と言っているのを見て、
「これはすごいコメントだ!」
と思ったことがありました。これは、その商品の効き目として「楽になった」とはひとことも言っていないし、「楽になった」と断言しているわけでもなく、
「なんだか楽になった(気がする)」

と、まさに個人の感想として言わせているところがスゴイ!と思ったのです。しかしその手法でも、もしかしたらダメになってきたので、文字で「個人の感想です」と強調して、誰にでもわかるようにしたのかなという気がするのですが・・・。なんだか疲れてきた気がします・・・。
2008/5/6


◆ことばの話3226「山のあなた」

先日、『山のあなた』という映画の紹介を『情報ライブミヤネ屋』の中で行った際に、「あなた」のアクセントについて、英語の「You」の意味で、
「あ/な\た」
と読んでいました。私はそれを聞いて、
「おや?『あ/な\た』ではなく『あ\なた』ではないのかな?』
と思いました。
カール・ブッセという人の有名な詩に『山のあなた』というのがあります。詩の中に、
「山のあなたの空遠く 幸い住むと人は言う」
というよく知られた一節があり、ここでの「あなた」は漢字で書くと、
「彼方(=向こうの方)」
ということです。発音は、最初にアクセントの山が来る「頭高アクセント」というもので、
「あ\なた」
となりますね。そもそも指示代名詞の「こそあど言葉」は近いほうから、
(近) 「これ」<「それ」<「あれ」<(かれ)、(どれ) (遠)
となります。そしてそれを代名詞で使うから、「向こうの方」を指す「あなた」が、目の前の「人」のことを指すように変わってきたという言葉の変化の歴史があります。これに準じると、
「こなた」「そなた」「あなた」「かなた」「どなた」
となります。方向(距離)を示す言葉が、人をあらわす代名詞に変わっていったということですね。目の前の人を指して「そなた」という言い方を、時代劇などで使っているのを、聞いたことがありませんか?
また、この有名な詩の一節を言おうとして「あなた」の「あな」のところで詰まってしまって、
「山のあなあなあなあなあなあな・・・」
というギャグを、昔、三遊亭歌奴(さんゆうてい・うたやっこ=現在の三遊亭圓歌=えんか)という落語家がやっていました。知らないかな・・・知らないだろうなあ。いや、若い人は知らないみたいなんです。
さて、映画です。映画会社に、Kプロデューサーが電話して読み方を聞いてみたところ、
「たしかにこの映画のタイトルは、カール・ブッセの詩から取りましたので、その意味では『あ\なた』なのですが、ちょっと英語の『You』の意味を持たせたいので、読むときは『あ/な\た』と読んで欲しい」
ということでした。
ふーん。
2008/5/2
スープのさめない距離