◆ことばの話3170「排水量」

2月19日に起きたイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故から1か月。政局は迷走を続けています。あの事故で、それぞれの船の「重さ」の表記に、新聞各紙ばらつきがありました。2月19日夕刊 では、
(読売)イージス艦「あたご」(基準排水量7750トン)、漁船「清徳丸」(7.3トン)。
(日経)イージス護衛艦「あたご」(七七○○トン)、マグロはえ縄漁船「清徳丸」(七、三トン)。
翌20日の各紙朝刊も、
(朝日)イージス艦「あたご」(基準排水量7750トン)、漁船「清徳丸」(7トン)。
(毎日)7750トン   7、3トン
(産経)7750トン   7、3トン
で、日経だけ「あたご」が50トン軽い。そして「あたご」には、読売と朝日が、
「基準排水量」
という表現を使い、他紙は単に「7750トン」と書いていました。漁船どの新聞も「トン数」のみしか記していませんでした。朝日以外は「7、3トン」、朝日は「7トン」というのは、「あたご」と少数点以下をそろえた(有効数字の桁数をそろえた)ということなんでしょうか?
そもそも「基準排水量」とは何でしょうか?
きっと、小さな船はまだ重さを量ることが出来るかもしれないけど、大きな船はそれを乗せられる秤がないから、水に浮かべた時にザバーッと出る水の量=重さに換算したのが「排水量」ではないか?アルキメデスの「われ発見せり!」というあれじゃないかなと思ったのですが。
『日本国語大辞典』「排水量」を引いてみたら、
「船が水に浮かぶときに排除した水の重量。アルキメデスの原理により、その船の重量に等しく、主に軍艦の重量を表すのにいう。」
とありました。ほぼ正解ですね。「主に軍艦」ですか。それもピッタリ。日経、毎日、産経が「排水量」を使わなかったのは、イージス艦「あたご」を「軍艦」(あるいはそれに準じるもの)とみなさなかったから なのかな?
2008/3/18


◆ことばの話3169「身崩れ」

2月8日、日本直販のコマーシャルを見ていたら「マーブルコート・フライパン」というものの宣伝をしていました。そのうたい文句の中で、
「くっつかず身崩れせずに焼けます」
とありました。この、
「身崩れ」
というのは、あまり料理をしない私にとっては聞き慣れない言葉です。「荷崩れ」は聞いたことがあるけど・・・。
『三省堂国語辞典第6版』を引いてみると・・・ちゃんと載っていました!
「身崩れ」=煮(ニ)ざかなの身などが、しぜんにくずれること。
『広辞苑第6版』も引いてみました・・が載っていませんでした。やはりどちらかと言うと料理関係の「専門用語」なんですかねえ。
今回の『三省堂国語辞典・第6版』の改訂では、「料理関係の言葉にも力を入れた」と、改訂に携わった早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんもおっしゃっていましたし。(奥さんにも、いろいろと教わったそうですよ)そういった一面がうかがえる言葉でした。
なお、Google検索(3月17日)では、
「身崩れ」=6630件
でした。かなり使われていますね「身を持ち崩す」は、まったく別の意味ですから、お間違いなく。え?間違えない?あ、そう。


2008/3/17
(追記)

早速、飯間さんからメールをいただきました。
『この「身崩れ」の項目、じつは第2版から載っています。したがって、私はタッチしていないのです。これは見坊先生が収集した結果ですので、一言追記をお願いできますでしょうか(『三国』の先進性を示す事例ともいえます)。」
とのこと。おお、しっかり前の版まで調べずに書いてしまってすみませんでした!
なお、飯間さんが「三省堂国語辞典」編纂の裏話を書いているサイトも、面白いので、よろしかったら是非お読み下さい。
http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp/author/yeemar/
2008/3/18


◆ことばの話3168「激似」

3月4日の『日刊ゲンダイ』(3月5日号、3月4日発行)に、こんな見出しがあるのを目にしました。
「沢尻エリカ激似AV また発禁!」
この、
「激似」
は、『精選版日本国語大辞典』『広辞苑・第6版』『三省堂国語辞典・第6版』『新明解国語辞典』『明鏡国語辞典』『新潮現代国語辞典』にも載っていませんが、読み方は、
「げきに」
なのでしょうか?それとも、
「げきじ」
なのでしょうか?
「酷似」だと「こくじ」ですが・・・。そのほか「激」の付く言葉だと、
「激突、激化、激減、激戦、激増、激痛、激動、激励、激流、激変」
など、「激」のあとは「音読み」ですが、
「激辛(げきから)」「激安(げきやす)」
などは「訓読み」ですよね。
「激似」は、周囲で聞くと、みな、
「げきに」
だと言うのですが、どうなんでしょうか?新聞用語懇談会のメンバーなどにメールを出して聞いてみたところ、
*『これは「書き言葉」のみの熟語だと思う。あえて読む場合、聞いてわかるのは「ゲキニ」だろう。ただし「激」のさまざまな用例のように、あとに動詞が来る場合は「音読み」、形容詞の場合は「訓読み」というルールで考えると、「ゲキジ」ということになる。いずれにしても放送の中で、無理をして読む必要はないだろう。テレビ朝日の関東ローカルコーナーで「激読み・・・・」というコーナーがあるが、動詞でも2拍の場合、例えば「読む、売る、買う、飲む」などの5段動詞は、連用形(訓読み)でつなげることもできそう。ただ「似る」の場合は上一段で、連用形が「似」で送り仮名がないから、「ゲキジ」「ゲキニ」両様出てくるのだろう。(NHK・H氏)

*『アナウンス部にいた6〜7人に聞いたが、私も含めて「ゲキニ」だった。しかしながら、ちゃんとした言葉という認識ではない。(テレビ東京・K氏)

*『「激似」は「げきに」で問題ないだろう。「激太り」「激やせ」などと同じく、「激+動詞の連用形」という意識で言っていると思われるからだ。「似る」という動詞は連用形にすると「似」と一文字になるので、なんだか二字漢語にみえてしまうが、たまたまそうなったもの。最近の「激」の造語パターンでは、二字漢語でなければという制約がなくなったと思う。「激賞」「激減」も、今作られるとすれば「激賞(ぼ)め」「激減(べ)り」になるのではないだろうか。ちょっと前の「激写」「激白」などのころは二字漢語しか作られなかったのが、だんだん、「激」の造語力が強まってきたということではないだろうか。「最薄」「最安(さいやす)」などとも通じる造語法だ。また「超」が「超小型」「超おもしろい」などと何にでもつくようになったのとも似ている。
「激」のつくことばはいくらでも出てくるので(「激愛・激熱〔あつ〕・激甘・激カワ〔←可愛い〕」など)、すべては辞書に入れられない。『三国』では、俗語臭の比較的うすれたものを載せている。「激辛」は一般語になったけれども、「激甘」はまだだ、という判断だ。(早稲田大学・I氏)

  1. 『「激突、激化、激減、激戦、激増、激痛、激動…」のような昔からある熟語は音読みが原則だが、「激辛(げきから)」「激安(げきやす)」のような新しい語(俗語)は、ほとんど訓読み。「三省堂デイリー新語辞典」には、

「激アツ、激ウマ、激売れ、激辛、激かわ(とてもかわいい)、激食い、激飲み…」
などが載っている。これらから類推すれば「激似」も訓読みの「げきに」だろう。これらの俗語を使う若者にとって、「似」を「ジ」と音読みすることはむずかしいだろうし…。
 一般の国語辞書でも、かなり一般化した「激辛」「激安」などは(俗)として載せ始めた(広辞苑、新明解、三省堂など)。「集英社国語辞典」には「激」の項で「程度がはなはだしい。激臭・激職・激甚…」の最後に、▽近年俗に「激辛(げきから)」「激安(げきやす)」などの形でも使われる―と注記している。(日本新聞協会・K氏)

*個人的な見解、というより、感想のようなものでよろしければひと言。
漢字の熟語としては、音読みの「ジ」で読むのがまっとうなのだろうが、そもそも「激似」は、そんな由緒ただしい漢語ではなく、「激写」に始まり大量に発生した「激〜」のひとつ。耳で聞いてわかりやすい重箱読みの「げきに」がふさわしい気がする。
「似」の「ジ」の音は、「類似」「酷似」「疑似」などいろいろあるが、どれもかたい文章語で、日常会話では出てきにくいもの。「相似形」など、算数で勉強するから読めるだろうが、「酷似」など、「こくに」と誤読するケースはありそうだ。
また、「似」だけ示して音を答えさせたらけっこう間違うのでは。以上は全くの類推だが、機会があれば実験してみてほしい。(読売新聞・S氏)
といった具合でした。皆さん、ご意見ありがとうございました。読み方は「げきに」だけど「俗語」であるということで、ほぼ統一見解が出たようですね。


2008/3/11


◆ことばの話3167「帰宅してきた」

3月11日の『ニューススクランブル』で、大阪府堺市でスプレー強盗が48万円を奪ったという事件のニュースを伝えていました。その中で、
「帰宅してきた○○さんが」
という一文がありましたが、これは、もっとすんなりと、
「帰宅した○○さんが」
でよいのではないか、いやその方が良いのではないか?と思いました。これがたとえば、
「帰ってきた○○さんが」
なら納得しますが、「帰宅」に「してきた」という表現はそぐわないように思いますが、いかがでしょうか?おそらくこれは、
『「帰宅した」+「帰ってきた」の混交表現なのではないか?』
と思われます。


2008/3/11


◆ことばの話3166「三浦和義氏の呼称について」

あの「ロス疑惑事件」の三浦和義氏がサイパンで逮捕されたというニュースは、
「え?なぜ今頃?」
と驚きでした。最高裁で無罪が確定しているわけですし、「なぜ?」という「???」が浮かぶばかりですが、その後のニュースを見ていると、
「アメリカには、時効はない(!?)」
「共謀罪で立件しようとしているようだ」
などの情報も流れてきています。しかし、若い人の中にはもう、事件そのものを知らない人も多いようです。そんな中、毎日放送の用語委員T氏から、メールが届きました。
『「三浦和義」氏の呼称について教えてほしい。JNNでは「容疑者」で放送をしているが、2月26日のANN系列の『報道ステーション』では、「容疑者」の使用は一度だけで、あとは「元社長」。NHKは「元社長」。新聞各紙も「容疑者」の使用はできるだけ少なくし、あとは「元社長」。「元被告」など。
<参考>だが、2月24日新聞各紙1面の「見出し」は(日経は1社会面)
●日経・・・・・・・「容疑者」
●朝日、読売・・・・「元社長」
●毎日、産経・・・・「元被告」

で編集局の苦悩のあともみられる。(かつての対三浦氏・民事訴訟敗訴の経緯が、背景にあるのでは。)このニュース、扱いは東京局中心になるが、ウチは「ラジオ」もあるし「ローカルワイド番組」もある。大きな事案でこのようなケース(「無罪確定」の三浦さんが、アメリカで「容疑者」に)というようなケースは、知る限りなかったように思う。各社の編集方針などはどうか。』
これに対し各社の委員からメールが。
<共同通信>
『この件に関して2月26日、関係加盟新聞社、契約放送各社へ以下の「お知らせ」を出した。
●三浦容疑者呼称についてのお知らせ
 米ロサンゼルスで起きた銃撃事件で逮捕された三浦和義容疑者の呼称について、26日付夕刊用(放送は夕方ニュース用)から原則として初出を「元会社社長、三浦和義容疑者」とし、2回目からは「三浦元社長」とします。米当局の逮捕状に基づき逮捕されているため、初出では容疑者呼称を維持する一方、日本では無罪が確定していることを考慮し、それ以降は肩書を使用します。』
<TBS>
『TBSは、三浦元社長逮捕の翌々日、2月25日に報道連絡を出した。
●三浦和義氏の呼称について『容疑者と元社長を併用する。』
 日本では無罪確定だが、一方でアメリカ捜査当局が逮捕状を執行した事実があるので「容疑者」の呼称は使用可能。日本で無罪確定の為、国内で「容疑者」を連呼するのは好ましくないとも考える。このため、リード及び本記冒頭1回は「容疑者」を使用し、それ以降は「元社長」とする。ただしこの措置は、起訴されるまでの暫定的なものであり、起訴された場合は見直す。』
<日本テレビ>
『当初は「元社長」「容疑者」両方あったが、その後、社会部の見解で、報道では「容疑者」に統一することになった。理由は、日本では無罪でも、海外の犯罪で捜査当局により逮捕されたことから。』
<フジテレビ>
『フジテレビも共同通信と同じように呼んでいる。決定に際してはいろいろ議論があったようだ。』
(朝日放送)
『「三浦氏の呼称」については2月26日に、テレビ朝日から統一基準の連絡があった。原稿は番組で最初に「三浦」が出てくる際は「三浦容疑者」に。2回目以降はすべて「元社長」としている。日本で無罪が確定していることを考慮した。タイトル、サイド、スーパーなどもすべて「元社長」。』

ということで、各社の対応は微妙に違いますが、今のところ、これに対しての問い合わせなどは、特にないようです。
2008/3/4
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スープのさめない距離