◆ことばの話3115「サブプライムローンの言い換え」

年が明けて2週間、いまだにアメリカの「サブプライムローン問題」の影響でか、日本の株式市況は落ち込んだままです。この、
「サブプライムローン」
何となく聞いていますが、もう一つわかっていない方も多いのではないでしょうか?かくいう私もしっかりわかっているとは言えませんが。
とにかくカタカナを日本語にして意味を分からせようと、新聞各紙はそれぞれの「翻訳」をしているようです。チェックしてみると(日経・朝日・読売は1月4日夕刊、産経・毎日は1月16日朝刊)
日経・『米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)』
朝日・『米国の低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題』
読売・『米低所得者向け住宅融資 「サブプライムローン」の焦げ付き問題』
産経・『米国の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)』
毎日・『低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)』
でした。
これを見ると、朝日だけが「サブプライム」だけの訳をつけていて、あとの4紙は「サブプライムローン」で一つの言葉として捉えていることがわかります。
また、日経だけが、この住宅ローンの借り手を「信用力の低い個人」と説明しているのに対し、残りの4紙は、「低所得者」と規定しています。つまり、
「低所得者=信用力の低い個人」
ということになりますね。
そして産経と毎日がこの住宅ローンを「高金利(型)」としていますが、残りの3紙は金利には触れていません。微妙に違うんですね。
テレビではどうか?
すみません、あまり注目して聞いていなかったんです、「サブプライムローン」という方に耳が行ってしまって。各社にまた聞いてみますね。
なお、1月4日の朝日夕刊、本文中では「サブプライム問題」とし、そのきっかけとなった昨年(2007年)8月17日の出来事を「サブプライムショック」と書いていました。また1月5日の朝日夕刊、2回目は「サブプライム住宅ローン問題」と、説明なしでした。
そして1月15日の「記者の目」というコラムでエコノミスト編集部の内野雅一記者は、
「アメリカのサブプライムローン(低所得者向け高金利住宅ローン)」
と書いていました。1月15日の一般記事と「サブプライムローン」という言葉と日本語の説明の順番が逆になっています。どちらを先に書くか、特に決まりはないのかもしれません。また、1月16日の毎日朝刊の2回目も「サブプライムローン問題」と説明なしでした。各記事、最初の1回だけは説明をつけているようですね。
共同通信のMさんにメールで問い合わせたところ、共同通信では去年の11月15日付け夕刊用から「一面用か、経済面トップ級記事の場合の初出」は
「米国の信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題」
として、米国の問題であることが明らかな場合には「米国の」を省略してよいと。そして2度目は「サブプライムローン問題」とすることや、「通常の円相場や株相場、決算記事など関連原稿の場合」はもう最初から、
「米サブプライム住宅ローン問題」
とする。これも文脈から米国の問題であることが明らかな場合は「米」を省略するということだそうです。

2008/1/16

(追記)

放送局関係の方からもメールを頂きました。
(NHK)=朝日と同様、「米国の低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題」
としているはず。ただ、もう「サブプライムローン問題」で単独使用が始まっている。
(テレビ大阪)=「アメリカの低所得者向け住宅ローン問題」
という表現。ただ、2回目以降は「サブプライムローン問題」をそのまま使っている。ゲストの発言はいきなり使っているケースが多い。字幕は「米国の――――」にしているようだ。
(朝日放送)=概ね朝日新聞の表現と同じ、
『米国の低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題』
に準拠している。
(テレビ東京)=基本的に、
「アメリカの信用力の低い人向け住宅ローン、いわゆるサブプライムローン」
という言い方にしている。ただ、「人」が「個人」になったり、「住宅ローン」が「住宅融資」になったりしているケースもある。なお、すでに多くの人に用語として浸透した感もあることから、2007年年末〜2008年年明けから、経済ニュースや経済番組では(特に尺に制約がある場合)あまり言い換えをしなくなっている。
そして、日本テレビのニュース(1月19日のお昼のニュース)を見ていたら、
「低所得者向け高金利住宅ローン、いわゆるサブプライムローン」
と、今井田彩記者が中継で伝えていました。
2008/1/21


◆ことばの話3114「鍋肌」

「鍋肌」
と言っても、お肌が鍋のように堅くて鉄板・・・とうわけでは、もちろんありません。
「おなべの人」の肌、というわけでもありません。
「鍋の縁の部分」
をさす言葉で、料理番組などで使われています。
1月16日放送の『情報ライブミヤネ屋』林繁和先生の「愛のスパルタ料理塾」のコーナーで、「ふんわりオムライス」の作り方を指導している際に、
「卵は鍋肌から入れる」
という表現が出てきました。この「鍋肌」、以前に日本テレビの『3分クッキング』でも聞いた覚えがありましたが、ほったらかしにして調べていませんでした。
持っていた『精選版・日本国語大辞典』の電子辞書で引いてみても載っていません。
デスクに戻って、
1月10日に出た『三省堂国語辞典第6版』を引くと・・・何と載っていました!
「鍋肌」=なべの内がわの面。『しょうゆを鍋肌から回し入れる』
この例文の「回し入れる」という表現、単に「入れる」のではないところが、この「鍋肌」の特徴ですね。だからこの鍋は、おでんなどを煮る鍋ではなく、
「フライパンや中華なべのような、なべの内側部分がある程度、なだらかな傾斜を持っているもの」
に使われる表現ということがわかりますね。おでんの鍋だと、なべの内側は垂直なので、「回し入れる」ことはできません
編集にあたった早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんは、
「今回は、妻に料理や育児関係の言葉に関して聞くなど、家族総出で(?)言葉を集めた」とメールに書いてらっしゃいましたが、たしかに料理関係の言葉も網羅されていますね。さすがです!2001年3月に出ていた『三省堂国語辞典・第5版』には、「鍋肌」は載っていませんでした。
また、1月11日に出た『広辞苑第6版』にも、
「鍋肌」=「鍋の内面。特に、側面の内側。『調味料を鍋肌から回しいれる』」
とありました。『広辞苑第5版』(電子辞書)には「鍋肌」は載っていませんでした、新しく増えた1万語のうちの一つなのですね。なお、鍋の底の平らな部分は、
「鍋尻」
と言うそうです。

2008/1/16
(追記)

『おんなのひとりごはん』(平松洋子、筑摩書房:2009、3、20)所蔵「ひとり焼き肉のハードル」の中に「鍋肌」が出てきました。
「そこへスッカラを差し入れ、じじじ、ぱちぱち、爆ぜる音をお囃子に、鍋肌からごはんを引きはがしながらさくさく混ぜてゆく。」
クーッ、はらへったあ!!
2009/6/16
(追記2)

『八朔の雪〜みをつくし料理帖』(高田郁、角川春樹事務所:2009、5、18第1刷・2009、5、25第2刷)という本の中に、
「鍋肌に塗りつけられた白味噌がほどよく出汁の中に溶けだしたところへ、ふっくらと太った牡蠣が顔を覗かせていた。」(6ページ)
「鍋肌」が出てきました。
2009/8/13


◆ことばの話3113「メディアを抜かないで下さい」

年末にデジタルカメラを買いました。それまでは、20年近く使っていた一眼レフカメラだったのでフィルムでの撮影です。しかしついにバッテリー部分が経年劣化で壊れて、修理不能。仕方なくデジタルカメラを購入したのでした。それを使って北海道旅行で初めて本格的に撮影しました。
さて。
気が付いたら300枚ぐらい撮ってしまっています。これ、全部現像したら、あ、現像って言わないのか。プリントアウトしたら高くつくだろうな・・・ちょっと削除して、それども100枚ぐらい。でも、デジタルカメラの写真を印刷できるようなプリンターが家にないから、しょうがないのでそのデータの入った2センチ角ぐらいの青色の1ギガの小さなチップ(?)を持って写真屋さんに行きました。店頭にはデジタルカメラのデータをプリントアウトする機械が置いてあります。1枚35円ぐらいで“現像”というかプリントアウトしてくれるのです。
「デジカメプリント」
と書いてありました。「デジカメ」は、「三洋電機の登録商標」のようですが。
その注文コーナーの機械の差込口にチップを差し込んで、データを吸い上げるんですな。なんだかすごいなあと感心してみていたら、こんな文字が出てきました。
「メディアを抜かないでください」
へ?メディア?「抜かないで」って、どういうこと?
私なんかがイメージする「メディア」って、「テレビ」や「新聞」や「ラジオ」といったものなんだけど・・・。
しばらく考えて、この写真データの入った小さなチップのことを、
「メディア」
と呼ぶのだと気付きました。
1月10日に出たばかりの『三省堂国語辞典』を引いてみると、ちゃんと載っていました。2番目の意味で、
「記憶媒体を見よ」
となっていたので、「記憶媒体」を引いてみました。
「コンピューターなどで、データを記録するためのもの。記録媒体。例、CD-ROM・フラッシュメモリー。」
さすが『三国』、新しい言葉もちゃんとカバーしていますね!
「メディア」のもともとの意味は「ミディアム」、つまり「中間」ということですから、まさに、中間にあって何かと何かの橋渡しをするものはすべて「メディア」と呼べるんでしょうね。
ちなみに生地の「メリヤス」も語源は「メディア」。16世紀頃、「膝までの中ぐらいの長さの靴下」を履いたスペイン人に対して、
「その生地はなんだ?」
と言うつもりで日本人が聞いたら、聞かれたスペイン人が、
「その靴下の『長さ』はどのくらいだ?」
と聞かれたものだと勘違いして、
「メディアス(中くらい)」
と答えたのを、日本人が、
「メリヤス」
と聞き取って、
「そうか、あの生地は『メリヤス』と言うのか」
と勘違いしたのが始まりという語源説もあるようです。

2008/1/16

(追記)

平成ことば事情2733「1メディア」もお読みください。関連のことが書かれていました。書いたことをすっかり忘れておりました!
2008/1/29


◆ことばの話3112「船場吉兆の『吉』」

2007年11月12日午後4時10分頃、会社で見ていたNHKのデジタル放送のニュース画面の項目の文字で、
「船場吉兆」
「吉」の字だけが「ひらがな」で、
「船場きっ兆」
というちょっとヘンな交ぜ書きなっていました。「吉兆」から、
「うちの『吉』の字は、『士』ではなく、下が長い『土』だ」
と言われたけど、作字できなかったのでしょうか????
新聞は読売・朝日・毎日・産経・日経、すべて「吉」で、上の部分は上の横棒が長い「士」でした。
その後見たNHKは、上の部分が、下の横棒が長い「土」でした。作字したんでしょうかね?
読売テレビは普通の「吉」(下が短い「士」)です。他局では、11月19日、昼のTBSワイドショーは「土」で下が長かったです。同じ日のフジテレビの昼のニュースは「士」で上が長かったです。

と、ここまで書いて2か月が経ち、年を越えて足掛け2年。
2008年1月15日、「船場吉兆」が民事再生法を申請しました。その関連ニュースで、NHKは1月16日、やはり下が長い「土」の「きち」でした。手書きでも出ないなあ。
ええい、
   
   
作っちゃったけど、かっこ悪いな、これ。
こういった異体字に、どう対処していくべきなんでしょうか。「船場吉兆」の看板などに記された、下が長い「土」になっている「吉」(なってないけど)は、私はみんなに通用する(使用を強要する)「文字」ではなく、デザイン性の高い、
「ロゴ」
だと思うのですが、いかがでしょうか?

2008/1/16


◆ことばの話3111「水落とし」

この前も書きましたが、年末に北海道に行ってきました。
地元の札幌テレビ『どさんこワイド180』を見ていたらお天気中継で、「水道の蛇口が付いた板」の小道具を見せながら、こんなふうに話しているのを耳にしました。
「明日の朝はもっと冷え込みますよ。“水落とし”してね」
この中の、
「水落とし」
という言葉、これって、なんじゃらほい?
本州では「水落とし」と言うと、
自動車の洗車で水で汚れを落とすこと」
かなぁ?なんて思っちゃう・・・そんなことないか。
おそらく、水道の蛇口の中の水が凍ってしまうので、凍らないようにする作業なんでしょうけど、具体的にはどういうことなんだろう?
大阪に帰ってきてからお天気キャスターの小谷さんに、
「『水落とし』って知ってますか?」
と聞くと、
「・・・いや。」
と言うので、もう少しヒントを与えて、
「北海道のテレビで言ってたんですけど、蛇口に関係ありそうなんですが・・・。」
と言うと、
「ああ、あれね。水道の蛇口が凍って破裂しないように、地上に出ている水道管の中の水を全部抜くんだよ。管の根元に抜くピンのようなものがあるんだ。」
とのこと。
へえー、そうなのか。念のため、札幌テレビの同期の明石アナウンサーにメールで問い合わせてみました。すると、長文の返事が!
「『水落とし』というのは、北国独特の言葉だと思いますが、
『水道管が凍結しないように、元栓を締める』
行為を意味します。なぜ『落とす』なのかがわかるように、翌朝に冷え込みが予想される 場合の、寝る前のプロセスを示します。
(1) 水道の元栓を締める。
(2) 台所の蛇口の開く・・・そうすると・・・
(3) 蛇口から空気が水道管に奥へ奥へと入り込んで、 水が水道管の奥に「落ちて」行くような 感覚になる。
要するに元栓から蛇口までの間の、水道管の中の水を抜く事よって、凍結を防ぐのです。
以上は水道管が地面から出て、各家庭の末端蛇口までに適用される話です。
ちなみに、地面の中の水道管は、あらかじめ凍結しない深さに埋められています。北国の土木関係者がよく使う、『凍結深度』とは水道管が凍る・凍らないの分岐点になる地面の深さです。地域によって異なりますので、『凍結温度』で検索すると出てくると思います。
また、現状では住宅事情が進歩していますので、各家庭が全て「水落とし」を行っているわけではありません。マンションは不必要です。一戸建ても、セントラル暖房で家全体の温度管理を行っている場合は必要ありません。
『凍結してしまうとどうなるか?』ですが、最悪の場合は、凍結による体積膨張で水道管が破裂、気温が上がって融けると、破裂部分から水がジャージャーで、修理に2〜3日かかります。破裂しなかった場合は、水道屋さんを呼んで、融かしてもらいます。融かし方は火を使うのではなく、水道管に+と−の電極をつなぎ通電、水道管自体を発熱させる方法が多いはずです。」

ということで、微に入り際を穿(うが)ち、ご教示ありがとうございます!やっぱり地元の人に聞くのが一番ですね。さらに明石アナウンサーは、こうも書いています。
「言葉としての『水落とし』ですが、個人的にはあまり好きではありません。
『今夜は水落としが必要です』
のようにわざわざ『水落とし』と名詞化するのではなく、
『今夜は水道管の水を落としたほうが良さそうです』
のほうが言葉の響きとしては美しいと思います。最近は『エサやり』など、何でも名詞化する傾向にあるように思います。」
とのことでした。その土地、土地で、固有の言葉や作業があるんだな、日本って広いなと改めて思いました。明石君、ありがとう!
2008/1/15

(追記)

札幌テレビ・明石アナウンサーから、さらに短いメールあり。
「ちなみに『凍結深度』より浅いと凍って、深いと凍りません。」
そうですか。ありがとうございます!
2008/1/17