◆ことばの話3110「もらわれてください」

先日、眼科の病院に行ったときのこと。待合室で待たされていると、看護師さんが患者のおばあさんに、こういっているのを耳にしました。
「お薬、近くで『もらわれてください』ね。」
この「もらわれてください」という言い方、「もらう」という言葉の尊敬語として、
「もらわれる」
を使ったのでしょうが、なんだかおかしいですね。「受身の『れる』」にも思えるし、「もらわれて」だと、患者ではなく「薬を出す方」を尊敬していることになるような気がします。
「授受(受け渡し)の言葉」には、尊敬語・謙譲語で「れる」を使うと違和感があるのかな?いずれにせよ、ここはシンプルに
「もらってください」
でよいですよね。
2008/1/10


◆ことばの話3109「DMV」

年末に北海道に行ったときの話。帰りの特急「スーパー北斗」の車内販売で、
「DMVのチョロQ」
というのを売っていました。800円。ちょっと高いけど、
「買おうかな・・・」
と言うと、妻が、
「ダメ!誰が使うの!?」
と言下に否定した後に言うので、
「ボク」
と、かわいく言うと、
「フン!」
と鼻で笑われました・・・。この、
「DMV」
というもの、もちろん「乗り物の名前」なんですが、私は北海道へ行って初めて知りました。と言うより、ちょうどこの日(12月27日)に読んだ新聞に載っていた、JR北海道の柿沼副社長へのインタビュー記事に、まったく何の注釈もなしに「DMV」というのが出てきたので、
「何のことやろうか?」
と思っていました。すると、ちょうどその特急の車内においてあった北海道キヨスク(株)のPR雑誌『北の特急便 VOL.14』で特集して、こう書いてありました。
「DMV=デュアル・モード・ビークル。20041月、JR北海道が開発に成功。釧網線・浜小清水〜藻琴間で試験的営業運転を行い成功。陣頭指揮をとったのは柿沼博彦JR北海道取締役副社長。」
ふーん、そうなんだ。でも北海道以外では、やはりまだあまり知られていないんでしょうねえ。今度また北海道に行くことがあれば、一度乗ってみたいなと思いました。
2008/1/10
(追記)
1月17日の午前0時45分頃、朝日新聞のケータイニュースを見ていたら、
「DMV 熊本・南阿蘇鉄道で走行」
という見出しが目に付きました。吸収でも「DMV」を取り入れる動きがあるのですね。
翌朝、ネット検索してみると、
「線路も道路も走れるDMV(デュアル・モード・ビークル)の導入をめざす実証実験を熊本県の南阿蘇鉄道と周辺の道路で3月20〜22日に行うことを、国土交通省九州運輸局や同県などでつくる協議会が16日決めた。」
とありました。そして実は去年の11月に「実験走行」は済ましていたこともわかりました。車両はJR北海道から借りたもので、1日4便ずつ計12便を走らせるのだそうです。1度乗ってみたいな。
2008/1/17
(追記2)
2008年5月26日の朝日新聞「次世代乗り物DMV」として紹介されていました。トヨタ自動車と日野自動車が、「DMV」の開発に加わるというニュースでした。記事によると、
「DMVはJR北海道が開発したが、定員が16人と少ない点などの改良が課題だった。」
とありました。トヨタと日野が開発に加わる新型試験車は、25人以上載れるようにトヨタのマイクロバス「コースター」の車台を改造するとのこと。新型車両は6月下旬には完成し、7月の洞爺湖サミットでお披露目となるそうです。
2008/6/3


◆ことばの話3108「防衛省の天皇と女帝

11月29日朝の日本テレビ『ズームイン!!SUPER』で西尾アナウンサーが、逮捕された防衛省の守屋元次官が、
「防衛省の天皇」
と呼ばれていたと伝えていました。これに対して11月29日の新聞朝刊は、日経新聞と読売新聞が、
「独裁者」
という見出しを使っていました。
防衛省内部で、もし「天皇」と呼ばれていたのなら、それを「独裁者」と置き換えたということは、その比喩をつかった、あるいは置き換えた新聞は、
「天皇=独裁者」
と考えていることにならないでしょうか?しかもマイナスイメージの。新憲法下においては、
「天皇は国民統合の象徴」
という「プラスイメージ」のはずなのに、なぜかここではマイナスイメージ的使われ方ですよね。
そんなことを考えていたら、Sキャスターからまたメールが届きました。
「守屋前次官は防衛省の天皇と呼ばれていました。この『天皇』という比喩は戦前もあったのでしょうか?ちなみに守屋妻は『女帝』と呼ばれてたようで…」
おお!ちょうど僕もそれについて考えてたところではないか!気が合うね!
映画監督の故・黒澤明監督も、
「黒澤天皇」
と呼ばれていたとか。もちろん「カゲ」で。
その後Sキャスターと話して、改めて、
「いつごろからマイナスイメージの『天皇』と言うのが使われるようになったのだろうか?」
について考えました。私の考えは、まず「天皇制度」が確立されて、絶対的な権力を持っていることがまず条件としてあるのではないか、それは日露戦争終了後の「1905年」ごろではないか?また、その体制を利用する「虎の威を借る狐」ならぬ「天皇の威を借る軍部」のような動きが出てきたのは、「治安維持法」ができた「1925年」、そして「1931年」の「五・一五事件」、「1936年」の「二・二六事件」こういった時代に「マイナスイメージの天皇の比喩」が出てきたのではないか?と予測しました。
今後また「裏づけ」について調べてみたいと思います。
また、「女帝」の比喩は、「越山会の女帝」を思い出しますね。あ、あれは、
「越山会の女王」
か。「演歌の女王」は、いても「演歌の女帝」は、いないな。
もう一度11月29日の朝刊をチェックしてみると、
「女帝」「大物転落」(朝日)
「大物次官」「『防衛省の天皇』と呼ばれた」「『女帝』として権勢をふるっていた」(産経)「おねだり妻」(毎日)

というような表現が見られました。
2007/11/29

(追記)

東京都の読者の方からご意見をいただきました。
「防衛省内部で『天皇』と呼ばれていて、それを『独裁者』と置き換えたということは、その比喩を使った(あるいは置き換えた)新聞は、『天皇=独裁者』と考えていることにならないでしょうか?」
というくだりに関して、
「全くそうはならない。省内で独裁者のようにしていた人を報道する上で『天皇』と呼ぶのは不適切だという記者の判断ではないか」

というご意見です。「読む人によっては悪意がある記述と考えるかもしれない」ともご指摘を頂、たしかにそう受け取られるかもしれない、言葉が足りない表現であったと反省いたしました。もちろん、悪意はなかったのですが。ご指摘ありがとうございます。
確かにこの置き換えがすぐに「天皇=独裁者」となるとは限りませんし、おそらくそんな意図はなかったのでしょう。
良い・悪いは別にして、もともとの行為者=守屋前次官のふるまいから省内で「天皇」と呼ばれていたという「客観事実」と、その行為を客観的に評価すると、「天皇」ではなく「独裁者」と呼んだほうがふさわしいという「判断」が、「天皇」表現と「独裁者」表現に分かれたのではないかと思われます。つまり「置き換え」ではないと。
俗な呼び方で「○○天皇」という言い方は「○○」に個人名が入りますが、「独裁者」は「○○独裁者」と肩書き風には付かないことから考えても、「置き換えではなかった」と考えられます。ただそれならば、なぜ省内で使われていた表現を、「  」(カギカッコ)付き=直接引用風にそのまま載せなかったのか?という疑問は残ります。
比喩表現はわかりやすさを求めるために使われることが多いですが、その比喩に共通認識がないと、かえって混乱することもありますね。
2008/1/17


◆ことばの話3107「高著?貴著?

11月26日に『スープのさめない距離〜辞書に載らない言い回し56』小学館から出版して1か月。この間にお世話になった先生方に贈呈したり、「買ってね(勝手ね?)」とPRメールを送ったりしていました。そのお礼やら返事のメール・お手紙に、
「私の本のことをどう表現しているか?」
というのに注目しました。これが結構バラバラで、「ホホウ」と思いました。
と言うのも、実は私もここ数年、いろんな方から、ご自分が出された本を贈ってもらってお礼を書くと時に、
「相手の方の本を何と表現していいのやら・・・」
とちょっと悩んでいたので、その参考になるなと思い、まとめて見ました。ちなみに私の「お知らせ」は、
「新著のおしらせ」
というタイトルで送りました。自分の本は「拙著」で済むのですが。
「敬語を冠したもの」は、
「新しいご本」「ご著書」「御著書」「御労作」「貴著」「ご高著」「御高著」
「御近著」「御著」「労作」
というのがありました。この中では「ご高著」というのが何となく私には好ましいように思えます。今度使ってみよう。そして、「敬語なし」のストレート表現では、
「著書」「スープの冷めない距離」(=タイトルそのまま)
があり、これも敬語は使っていないけど「新しく出した」という点を捉えたものとしては、
「新著」「4年ぶりの出版」「新版」「新刊」「新しい著作」「著作の完成・出版」「新しい本」
というのがありました。なるほどねえ、皆さん苦労されているのですねえ。そんな感じが汲み取れました。いずれにせよ、皆さん、ありがとうございました!今後ともよろしく!


2007/12/29


◆ことばの話3106「注力

12月の新聞用語懇談会放送分科会で、フジテレビの委員からこんな質問が。
「最近経済ニュースなどでよく目にする『注力(ちゅうりょく)』という言葉の扱いは、各社どうしているのか?」
これに対してほとんどの委員は、
「この言葉を初めて聞いた。これまでに見たことがない」
ということでしたが、新聞協会の金武委員から、
「1年前(2006年12月)の関東幹事会でも、この『注力』という言葉の取り扱いについて話題に出たことがある。」
との指摘がありました。結局その時は、あまり使わない、というようなことになったようですが、実際は使われているようです。
経済用語らしいので、テレビ東京の委員に「注力」について聞いてみましたが、
「ほとんど聞いたことがない。もし出てきても『力を注ぐ』などに書き直す」
とのことでした。
ところが・・・その会議があった日の日本経済新聞夕刊(12月14日)を読んでいたら、出てきたのです。「追想録」というコーナーで、元・総務庁長官の故・江藤隆美さんを偲んでの記事で、
「運輸相の時、反対農民と協議の場を持つなど成田空港問題に注力しすぎたため現職閣僚ながら落選」
と、しっかり「注力」が使われていました。
その後、『三省堂国語辞典・第5版』を引いてみたところ、
「力を入れる(そそぐ)こと。(例)会社の再建に注力する」
と既に載っていました。ただ放送で、耳で聞いた時にはわかりにくい言葉ではあるので、言い換えたほうが良いでしょうね。専門用語だと思われます。見た目は特に難しい言葉(漢字)ではなく、意味もわかるので、文字の世界では使われてしまうのでしょう。


2007/12/29
(追記)

『朝日新聞で見つけたちょっとヘンな日本語』(飯島栄一、朱鳥社:2007、2、12)という本の15ページに、「注力」が出てきました。
「食糧支配メジャーの中でも特に注力してきた」(平成13年5月2日付)
<正解>「力を注ぐ」。
《「力を注ぐ」は正しい日本語だが、これを熟語に置き換えた「注力」は日本語として存在しない。これを朝日語と称する。》
とあったのですが、別に「朝日語」ではないと思いますがね。気になる言葉であるのは、間違いないですが。
2008/3/14
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