◆ことばの話3010「お箸ご利用ですか」

先日、スーパーDでお寿司のパックを買って、レジで精算しようとしたときのこと。レジの若い女性が、フワフワとした芯のない、自分のリズムの抑揚をつけたしゃべり方で、
「※※※※※※※※」
と話しかけてきました。
「ポイントカードはお持ちですか?」
とか、そんなことを聞いてきたのだと思ったのですが、どうも意味がわかりません。というか、聞き取れませんでした。そこで、
「はい?」
と聞き返し、3回目にやっと意味がわかりました。彼女は、
「お箸ご利用ですか?」
と聞いてきていたのでした。
代金を聞いてきたのなら、フワフワした声でも聞き取れたのでしょうが、「お箸」は聞かれると思ってなかったんですね、私は。予期せぬ答えだったので聞き取れなかったのです。
こういったことは、しばしば起きているのではないでしょうか?システム(?)に慣れていない者は、音は聞こえていても、相手が何をしゃべっているか理解できないという事態が、結構あるのではないでしょうか?特に高齢者は。会話文を理解するには、言葉がわかっているだけではダメで、そのシチュエーションを理解している必要があるのでしょうね。
そんなことがわかった一幕でした。
2007/10/7


◆ことばの話3009「福田総理のモクト」

10月4日の日本テレビ系列のお昼のニュース番組、『ニュースD』改め『ストレイトニュース』で、国会の論戦を取り上げていました。民主党議員から、
「年金の『名寄せ』作業が遅れていると聞くが、本当に、期限の来年3月末までにできるのか?」
と問われた福田総理の答弁の中に、こんな言葉が。
「来年3月末をモクトに・・・」
え、モクト?それってもしかして、
「『目途』あるいは『目処』」
と書いて、
「メド」
と読む言葉のことでしょうか?多分そうでしょうね。この「モクトの件」が引っかかるのですな。(「ホクトの件」でも「北斗の拳」でもございません。)というのは、その福田総理の答弁の映像にかぶせられた字幕スーパーには、
「来年3月末をめどに」
と書かれていましたから。
念のために辞書(『新明解国語辞典』)を引いてみると、
『もくと(目途)=「目標」の意のやや改まった表現。「来春を目途として」』
と、なんとちゃんと載っているではありませんか!用例までほぼそのままだ!「改まった表現」ですか、そりゃ国会の場ですから「改まった」場所ですし、この表現を使うのは適当なのかもしれませんが、やはりここは話し言葉の「メド」を使ってほしかったな、と思うわけです。
こういった細かい読み間違いや言葉遣いなどを指摘することを、
「揚げ足を取る」
と言いますが、それを指して、
「本質的なことではない、瑣末なことだ」
とする声もよく耳にします。しかし、新人アナウンサーではなく「一国の総理大臣」なのですから、答弁ではこういった細かいところにも気を配って、
「棒読みではない、国民に気持ちの届く表現」
を用いていただきたいなと思うのは私だけでしょうか。
2007/10/4


◆ことばの話3008「周産期」

奈良で、妊婦がたらい回しにされた挙句、死産した“事件”で、
「周産期」
という言葉が出てきました。あまり男性にはなじみのない言葉です。国語辞典を引くと、
「まもなく子どもが生まれる直前の時期と、生まれた後の時期」「産前・産後の時期」
というふうに書いてあったので「えっ!」と思いました。私は「生まれる前の時期」だけをさすのだと思っていたのでビックリしたのです。
それも含めて疑問がいろいろあったので、友人の医師にメールで尋ねました。
「妊婦に関して『周産期』という言葉が出てきましたが、これは『もう生まれそうな時期』ということでいいのでしょうか?広辞苑には『産前・産後の時期』みたいなことを書いてあって、生まれたあとのことも指すみたいなのだけど、本当にそうなのでしょうか?」
すると、その病院の看護師さんに聞いてくれたそうで、返事が来ました。
「妊娠22週以後から、出生7日未満(早期新生児期)あるいは出生後28日未満の時期を示します。『もう生まれそうな時期』でも当てはまりますし、妊娠・出産・産後を示しています。」
なるほど、やはり「産後」も含まれるのですね。
それと今回の事件でどうしても不思議なのは、「妊娠7か月にもなっているのに、なぜかかり付けの産婦人科医がいなかったのか」ということです。こういった事例はあるのでしょうか?と聞いてみました。
「あまり考えられないことです。正常経過をたどっている妊婦ならば、大抵は個人医院でも、総合病院でも『かかりつけ』があるはずです。『かかりつけ病院があっても、担当医が決まっていない』ということもふつうはないと思います。考えられるのは、正常に経過していた妊娠期に異常を生じ、個人医院では分娩を行えないということになり、大きな病院での急な分娩に至ったということなのではないかと考えます。」
とのことでした。実はもう一つ考えられることは(今回は違いますが)、旅行などでほかの地域から関西に来ていて急に産気づいた、というような場合。このケースは、関西にはかかりつけのお医者さんは当然「いない」ということになりますね。観光客の多い京都では、そういった場合にも対応できるようにしているそうです。
いずれにせよ、たしかに「周産期医療」については、しっかりと対策を採っていただきたいと思います。
2007/10/2


◆ことばの話3007「2個としてない」

10月2日放送の日本テレビ『スッキリ!!』で「地球にやさしいエコグッズ」を女性リポーターが紹介していました。その中で、
「同じデザインが2個としてないのが、うれしいですね」
といったのが耳に障りました。
2個としてない?それも言うなら、『ふたつとしてない』だろ!」
しかし、バッグのことを言っているのであれば2個も2つも同じようなものですよね。何が引っかかるんでしょうか?そうか、ここで問題にしているのは「バッグそのもの」ではなく、「デザイン」なので、「1個、2個」と数えるのではなく「一つ、二つ」と数えるのでしょうね。
10月2日のgoogle検索では、「2個としてない」は、たったの2件でした。
「2個としてない授業をする為に」
「同じものは2個としてないです!」(携帯ストラップ)
という2件でした。「二個としてない」は「0件」でした。「二つとしてない」「2つとしてない」は、
「二つとしてない」=2060件
「2つとしてない」=1590件
でした。「唯一無二」というのと、意味は同じですね。
2007/10/2


◆ことばの話3006「あたり前田のクラッカー」

「ソフトクラッカー黒ごま」
というのを買ってみました。これがおいしい。素朴な味。そのパッケージに書いてあるとおり、
「黒ごまが入ったサクサク 香ばしいおいしさ」
でした。パッケージを見ていて驚いたのはそこに、嗚呼なんと懐かしい、
「あたり前田のクラッカー」
と書かれていたのです。そうなので、この商品はあの「前田製菓」の商品だったのです。まだあのキャッチコピーは生きていたんだなあ、、、感激!
そんな思いを持つながら、山口仲美先生の『若者言葉に耳をすませば』(講談社)を読んでいたら、なんと
「あたりまえだのクラッカー」
が出てきたのです。それによると
「彼らのあげてくれた語呂合わせ言葉を見て、びっくりしました。なんと、私が若者のときに使っていた言葉が、いまだに使い続けられているではありませんか!たとえば、私が若いときに使った『あたりまえだのクラッカー』を、今の若者も『あたりまえ』と言いたいときに口にしているのです。そして、こんなコメントが付いていました。『すごく古いけど、その古さが逆に面白くて高校時代によく使いました。』」
とのこと。ふーん、生きているんですね、「当たりまえだのクラッカー」が、21世紀も!
Google検索では(10月2日)、
「当たり前田のクラッカー」= 2万7100件
「あたりまえだのクラッカー」=   713件
でした。
2007/10/2
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