◆ことばの話3000「420円のアクセント」

先日、近くの三井住友銀行の店内で、女性の声で流れていた録音アナウンスが耳に入りました。それは、
「振込み手数料の420円など」
というものでしたが、その「420円」が、
「ヨンヒャクニジューエン(LHHHHHLLL)」(Lは低く、Hは高く発音する)
コンパウンドしていました。つまり、一つながりで真ん中が高くなる「中高アクセント」ということです。従来であればこれは、
「ヨンヒャク・ニジューエン(HLLLLHLLL)」
と読んでいたはずです。わかりやすいように、2行に並べて比べて見ましょう。
(最近)「ヨンヒャクニジューエン (LHHHHHLLL)」
(従来)「ヨンヒャク・ニジューエン(HLLLLHLLL)」
アクセントの山のパターンの違い、わかりますか?
また、9月16日放送の「大阪ほんわかテレビ」の名物コーナー「昼ごはんでっせー」のナレーター・お笑いコンビ「ビッキーズ」の人は、「定食は350円」の「350円」を、
「サンビャクゴジューエン(LHHHHHLLL)」
とコンパウンドして読んでいました。100円台の金額は、よく使う人たちの間では、既にコンパウンドされる傾向にあるようです。
1000円台もそうですね。たとえば「1300円」は、2つに分けて
「セン・サンビャクエン(HLLHHLLL)」
というのが従来の正しいアクセントですが、最近はコンパウンドして一くくりに、
「センサンビャクエン(LHHHHHLL)」
と読む傾向が強くなっています。一応アナウンサーは、放送では、従来のアクセントを守ろう!ということになっていますが、どこまで守ることができるやら・・・。
2007/9/16


◆ことばの話2999「エか?ヱか?」

9月10日、兵庫県姫路市で90歳の女性が殺されているのが見つかった事件のニュースを読みました。その際にデスクから、
「これは『エ』でいいんですかねえ?それとも『ヱ』で行くべきなんですかねえ」
と聞かれました。警察発表によると、亡くなったおばあさん(90歳なので、おばあさんと言ってもいいでしょう)のお名前が、
「マツヱ」
さんなのです。この、
「ヱ」
は、ひらがなで書くと、
「ゑ」
です。「る」ではありません。「わ行の『え』(の音)」なのです。正確には「ウェ」と発音するのでしょうが、現在は「わ行」と「あ行」の「え(エ)」は同じ発音で区別されていません。
「人名=固有名詞」なので、当然、元々の表記が尊重されてよいと思いますが、私たちの年代より下は「ゑ・ヱ」「ゐ・ヰ」などは習っていないので、はっきり言って苦手です。
『新聞用語集2007年版』「外国地名の書き方」の項目には、
「『ヂ』『ヅ』『ヰ』『ヱ』『ヲ』および『ヴ』の文字は使わない」
となっていますが、これはあくまで「外国地名」に関してですし、今回のケースは「日本の人名」なので必ずしもこれには当てはまらないでしょう。同じ「わ行」でも、ひらがなの「ゑ」の場合は「え」に変えることは、まずありません。そこから考えれば「ヱ」で行くべきなのですが、「ヱ」と「エ」は字体が似ているだけに、どっちでもあまり気付かれないような気もします。また、「わ行」の「ウィ」の方は、カタカナの「ヰ」は、
「ニッカウヰスキー」「ヰタ・セクスアリス」
と使われていますし、ひらがなの「ゐ」も字体がはっきり違いますので、使う時には使っているような気がします。
結局この日のニュースでは「個人の名前だから尊重」して、
「マツヱ」
「ヱ」を使いました。
新聞はどう表記しているかを9月11日の朝刊で見てみました。すると、読売・朝日・毎日・産経は「マツヱ」でしたが、日経はアイウエオの「エ」でした。なんでだろう?
そしてこの日(9月11日)のお昼のニュースを見ていたら、なんと、
「マツエ」
「アイウエオの『エ』」で字幕を出しているではありませんか!早速報道のデスクに聞いてみたところ、
「ああ、そうでしたか・・・特に気にせずやってしまいました。夕方以降はこれから検討します。ありがとうございました」
とのことでした。たしかに本人やその関係の方以外は、「エ」か「ヱ」かなど、気付かないものでしょうが、これはきっちりとやるべきことですね。
2007/9/11
(追記)

実は6年前にこの問題に直面していたことに気付きました。「平成ことば事情356」で、
「せつゑ」
さんというおばあさんの名前について、書いています。その時は「あいうえお」の「え」にして放送いますが、これはきっちりと基準を決めておかなければなと思いました。
2007/9/12


◆ことばの話2998「マス・イン」

『情報ライブ・ミヤネ屋』のナレーションを担当する際に、よくディレクターが、
「このVは、マスインが中心です」
ということがあります。私もこの業界20年以上いますが、この「マスイン」は、あまりこれまで、耳にしなかった言葉です。意味は「街頭インタビュー」を指しているようなのですが。Google検索では(9月11日)
「マスイン」=191件
しかありませんでした。
『ミヤネ屋』に出演している森若アナウンサーに聞いたら、
「私も気になっていたんで、昨日スタッフに『マスインて何の略?』って聞いたところ、『マスインタビュー』の略で街頭インタビューのことみたいですね。」
という答えが。さらに、
「どうもABC(朝日放送)用語みたいですよ。ABCの子がよく『マスイン行って来た』とか言ってますから。ほかにも局によってちょっと違う言い方をするものに、うちでは『マルチ』と言っている大画面テレビスクリーンがありますよね。あろもABCでは『ダイモニ(大モニ=大型モニターの略か?)』と言ってるみたいです。」
とこと。そうか、同じテレビ業界でも違う呼び方をしている「業界用語」があるんですね。それを外部スタッフで来てくれている人たちがちょうど媒介する形で、A局からB局へ、またC局へというふうに、まるで「働きバチ」のような役目(実際よく働いてくれているし)をしてに伝えているのかもしれませんね。
そういえば私たちが「フリップ」と呼んでいる表やグラフなどを書いた紙のことを、NHKは「ボード」と呼ぶみたいですしね。こういう言葉もまとめたら、またおもしろいですね。あ、でもうちは、「マスイン」よりは「ズームイン!」です。
2007/9/11
(追記)

私たちが「街頭インタビュー」と呼ぶ行為を「マスイン」とも言うという話の続きで、今日(2008年4月10日)、制作会社のプロデューサーが、
「街録(ガイロク)」
と言うのを耳にしました。全部Googleで検索してみましょう(4月10日)。
「街頭インタビュー」=15万1000件
「街頭録音」    =   2790件
「街録」      =    487件
「マスイン」    =    312件
でした。ということは、15万件も使われている「街頭インタビュー」に対して、たかだか数百件しかない「マスイン」「街録」を、私は耳にしたわけか。結構マレな体験かな。でもその後も「マスイン」は、毎日聞いています。
2008/4/10


◆ことばの話2997「そこのメガネ」

9月12日、午後1時前、急に安倍総理が辞意を表明しました。あまりに急だったので、ビックリしました。これを称して業界では、
「辞意ショック」(G−SHOCK)
と言います・・・。小泉さんみたいな「サプライズ人事」ができなかったのが悔しくて「サプライズ辞任」をしたのでしょうか?それとも辞めさせられるような問題が出てきて、辞めさせられる前に辞めたのでしょうか?事務所費問題とか・・・。わかりませんが。
安倍さんは、
「職を辞することにした」
と言っていましたが、私は午後2時からの会見を前に、そのテレビ中継を見るために、
「食事することにした」
と言って、食堂に食事をしに行きました。
2時からの会見を見ていると、ほんとに今にも泣き出しそうな安倍総理が、なぜ辞意に至ったかを話されました。
「本日、小沢党首に党首会談を申し入れ、率直な気持ちを伝えようとしたが、残念ながら党首会談については断られた。先般小沢代表は(安倍内閣は)民意を受けていないと、このように批判したわけですが局面を転換しなければならない。新たな総理の下でテロとの戦いを継続していく、それを目指すべきではないか。来る国連総会にも新しい総理が行くことが、むしろ局面を変えていくにはいいのではないか。また、改革を進めていく、その決意で内閣改造を行なったわけだが、今の状況でなかなか国民の誠意・信頼の上において力強く政策を前に進めていくことは困難な状態である。ここは自らがけじめをつけることによって、局面を打開をしなければいけない。政治の空白を生まないようになるべく早く新しい総裁を決めていただきたい。私の決断が遅れることが国会での審理が遅れてはいけない。決断はなるべく早く行わなければならないと、まあ判断したところであります。私からは以上でございます。」
そのあと、記者クラブ加盟の各社からの質問に移りました。私も、その質問が出る前に「仮想質問」「一番聞きたいこと」を、テレビ画面に向かってつぶやきました。
「早く判断しなければならないと思うのなら、なぜ参議院選挙で大敗したときに辞意を表明しなかったのですか?」
すると最初の記者の質問は、まさにこれと同じものでした。つまり誰もが同じ気持ちで、
「このタイミングで、なんでや!」
と思っていたのですね。社民党の福島瑞穂党首も、午後3時前のニュースで、インタビューに答えて、おんなじことを言っていました。
きのう・一昨日、衆参両院でした「所信」表明は、一体何だったのか。代表質問の日の、まさに直前にこれでは、 「敵前逃亡」「無責任」と言われても仕方がないのではないか。
「小沢さんが党首会談に応じてくれなかったから・・・」
なんて、責任転嫁にすぎず、まさに「言い訳」めいて聞こえます。小沢・民主党代表もインタビューに答えて、
「40年近く政治生活をやっていますが、こんなことは初めて」
「安倍総理も何をお考えなのか、本当のところはよくわかりません」
と話していました。
さて、ひとりめの記者の質問が終わったあと、司会の人が「質問は挙手をしてからお願いします」と言って、手を挙げた人を指してこう言いました。
「えー、そこのメガネ・・・」
ええ!「そこのメガネ」というのは、ないんじゃないですか?多分その後に小さな声で、
「・・・をかけた人」
と言ったのかもしれませんが、それは聞こえませんでした。総理会見という場では、かなり違和感がありましたね。そのあとに質問をした人は顔見知りだったのか、司会の人は、
「えー、山下さん」「NHKの山下です」
「それでは栗原さん」「朝日新聞の栗原です」
と名前を呼んでいました。この朝日新聞の栗原さんという記者は、
「月曜日に(衆議院で)所信表明をして水曜日に辞意を表明するというのは国民の目から見ると、逃げているのではないかと思われても仕方がないのではないか?」
と質問。うんうん、たしかに。これに対して安倍総理は、
「ま、・・・」
というふうに話し始めたのですが、口癖だとしても「ま、・・・」はこの場にはそぐわないしゃべり方だなと思いました。それぞれの「場」においての話し方というものが改めて大切なものだなと感じました。続いて、司会が名前を呼ばずに指差したのか、いつのまにか次の記者が質問しました。
「日本経済新聞の根岸です。このタイミングでやめることの最大の原因は何ですか」
これは、安倍総理に対するフォローというかアシストする質問のように感じました。なぜなら、小沢党首が会談を断ったことが辞める原因なんだと印象付ける答えを安倍総理が言いそうに感じたからです。そしてそれは容易に想像がつくことです。記者にそのような意図があったかどうかはわかりませんが。
そして司会の人は、
「それでは最後の質問にします。菊池さん」「日本テレビの菊池です。」
と続けて、総理が質問に答え終わると、午後2時17分、
「以上を持ちまして・・・」
と会見を終わろうとしたのですが、
「もう一問だけ」
という声が上がり、
「それでは最後に本当に一問だけ。山口さん」「TBSの山口です」
と質問が出て、安倍総理が、
「テロとの戦いは先般シドニーで『職を賭す』と申しあげたわけでございます。新法だと一時的に中断する。なるべく早い判断がいいだろうと判断しました」
と答えて、午後2時21分に会見は終わったのでした。
2007/9/12


◆ことばの話2996「グラブかグローブか」

9月11日、阪神タイガーズの藤本敦士選手の「グローブ」を騙し取った男が兵庫県警に逮捕されたというニュースを読みました。その際に報道の女性のデスクが、
「道浦さん、これは『グローブ』でいいんですか?それとも『グラブ』でしょうか?」
と聞いてきました。
私たちが子どもの頃は「グローブ」と言っていましたが、それは英語表記の、
「Glove」
日本語風に読んだ時の読み方ですよね。現在は、英語発音を耳で聞いた感じの、
「グラブ」
と表記・発音になっています。ですから、
「野球は『グラブ』だね。守備のうまい選手を表彰する賞も『ゴールデングラブ賞』って言うしね。ただ、ボクシングで手につけるのは『グローブ』なんだよなー」
と離して、このニュースの原稿は「グラブ」に直しました。どうやら警察の広報から回ってくるペライチ(A4・1枚)のファックスには「グローブ」と書いてあったようです。
9月11日の朝刊各紙は、読売・朝日・毎日は「グラブ」でしたが、産経は「グローブ」でした。
実はこの話題は、「平成ことば事情」が始まってすぐの「ことばの話5」でも書いています。是非お読みください。なお「ことばの話5」には、
「『NHK日本語発音アクセント辞典』には『グラブ』しか載っていない」
と書きましたが、ゴメンナサイ、「グローブ」も載っていました。訂正します。ただ野球とボクシングの使い分けについては書かれていませんでした。
2007/9/11