◆ことばの話2990「『故』はいつまでか?」

ちょっと古くなってしまいましたが、2007年3月28日、サンヨー(三洋電機)の井植敏雅社長(44)が辞任を表明したことを受けて「創業家」をテーマにした特集を『情報ライブ・ミヤネ屋』で放送しました。その原稿を読む際に、
「創業者・井植歳男氏を紹介するのに『故』を付けるかどうか」
が問題になりました(私が問題にしたのですが)。つまり、
「亡くなってどのくらい経つまで『故』を付けるかという基準は?」
という問題です。私は、
「その人が亡くなったことがもう歴史になっていたら『故』は付けなくてもいい」
と思います。でも、5月13日、日本テレビのお昼のニュースでは、
「故・毛沢東主席の肖像が燃える事件」
と、・・・いや、もう歴史になっている「毛沢東」に「故」を付けていました。これは
もし「毛沢東主席」とすると、現在も「国家主席」という役職はあるので、現在なのか過去なのかがわかりにくくなるという判断から「故」を付けたのでしょう。
そうすると「歴史になっているかどうか」というよりも、どういう文脈の中で使うかということで、「故」を付ける・付けないは決まっていくのかもしれません。
なお、夕方のニュースでは、「故」は付けていませんでした。
2007/9/11


◆ことばの話2989「借入金」

9月11日、テレビ朝日のお昼のニュースを見ていたMアナウンサーが、声を上げました。
「シャクニューキン?カリイレキンじゃないんですか?」
「ああ、『借入金』。普通に読んだらカリイレキンだから、たしか違う読み方をしたんじゃないかな。シャクニューキンでいいんじゃないの?」
などと答えて辞書を引くと、「シャクニュウキン」は見出しがありません。3種類ぐらいの辞書を見ても載っていません。それに対して「カリイレキン」はちゃんと見出しが出ています。ということは、「カリイレキン」が正しいんだ。
しっかり覚えておきます。テレ朝のお姉さんも、ちゃんと覚えておいてくださいね。
2007/9/11


◆ことばの話2988「しょっぱいとすっぱいとぽい」
「しょっぱい」
という言葉は標準語です。しかし関東ではよく使われますが、関西人は使いません。関西では、
「塩辛い」
と言います。辞書を引くと「しょっぱい」は元々、
「しおはゆい」
であったそうです。ということはやはり「塩辛い」と同じで「しおはゆい」も「塩はゆい」で、「塩」に関係する言葉 なんですよね。「はゆい」は、もしかしたら「歯がゆい」のような感覚の言葉なんでしょうかね?また、
「塩辛い」=「塩はゆい」=「しょっぱい
だとすると、
「辛い」=「ぱい」
なのか???いやいや、実は、
「ぱい」=「ぽい」(=「〜のようだ」「〜に似ている」)
ではないか?つまり「しょっぱい」は、
「塩っぽい」
から来ているのではないか?そう考えるほうが自然ではないでしょうか?
一方「しょっぱい」にちょっと似た言葉、
「すっぱい」
は、関西でも使います。「しょっぱい」(塩辛い)と「すっぱい」は全然違う味覚に使われる言葉ですが、もしかしたら「すっぱい」も、
「しょっぱい」←「しおはゆい」
のように元々は、
「すはゆい」
という言葉があったのではないか?推測しました。つまり「すっぱい」は、
「酢っぽい」
が訛って「すっぱい」になったのではないか?と想像したのです。『日本国語大辞典』を引いてみると、まさにそのように書かれていたのです。
『「しょっぱい」が「しおはゆい」の転とみられるように、「すっぱい」も「すはゆい」からと考えられるが、文献上「すはゆい」「すはゆし」の実例は見あたらない。』
推測のセンは良かったのですが、「すはゆい」「すはゆし」という実例は文献では見当たらないということでした。いろいろ想像が広がりました。
2007/9/11


◆ことばの話2987「ブランコのアクセント」

9月10日の『ニューススクランブル』で、大阪市平野区の公園のブランコで9月7日に起きた事故のニュースを読みました。ブランコの鎖が金具の磨耗によって突然外れて、小学生の男の子が手の骨を折るなどのケガをしたというものです。その中で、
「ブランコ」
のアクセントをどう読むかというのが気になりました。つまり「頭高アクセント」で、
「ブランコ(HLLL)」
とするのか、それとも「中高アクセント」で、
「ブランコ(LHLL)」
と読むのか?という問題です。私は原稿の中に何回も出てくるこの「ブランコ」を、「頭高アクセント」に統一して読みました。『NHK日本語発音アクセント辞典』では、「頭高」「中高」の順で2つとも載っています
放送を見ていると、横須賀キャスターはリード部分で1回目は「中高」の、
「ブランコ(LHLL)」
2回目に出てきた時には「頭高」の、
「ブランコ(HLLL)」
と読みました。それをアナウンス部で見ていて、
「あ、横須賀、1回目と2回目でアクセントが違う!俺は頭高アクセントで統一したのに!」
と言うと、周りにいた後輩アナウンサーたちが、
「そうなんですか!」
と納得したように聞いていました。
たしかに、その時流れていた放送で私が読んでいた「ブランコ」は「頭高アクセント」でした。しかし次の瞬間、今度は「中高アクセント」の、
「ブランコ(LHLL)」
と読んでいるではありませんか!ありゃりゃ・・・。後輩たちにも、しっかり笑われてしまいました・・・。
ま、どちらのアクセントも「間違いではない」のですが、混じると違和感がありますね。
思うに、そもそもポルトガル語から入って来たという「ブランコ」ですから、最初は後ろから2つ目の母音にアクセントがあって「中高アクセント」 だったのではないか、それが日本語の中で定着して語源が忘れられ、カタカナということで英語のように「頭高アクセント」に変わって行ったのではないか?普通、英語経由の外来語の場合は、最初が「頭高アクセント」で入って来て、日本語化するにつれて「中高アクセント」に変わることが多いように思うのですが(たとえば「マジック」は、最初は「頭高アクセント」で「マジック(HLLL)」、のちに「中高アクセント」で「マジック(LHLL)」)この「ブランコ」は逆のパターンではないかな?とうふうに思いました。
なお『新明解日本語アクセント辞典』アクセントは両方載っていましたが、驚いたのは「ブランコ」を漢字で書くと
「鞦韆」
なんですね。ビックリしました。こんな漢字、初めて見ました。
2007/9/11


◆ことばの話2986「懐を締め付ける話ばかり」

『ニューススクランブル』の特集のナレーションの読み合わせをしていた時のこと。
ガソリンや食品の値上がりが続くと、家計も厳しくなる、という原稿の中に、
「懐が締め付けられる」
という表現があって、「ん?」と立ち止まってしまいました。なんだかヘンだな。どこがヘンなのかな?「フトコロ」が「締め付けられる」かな?
「締め付けられるのは『胸』」
だよね。
「胸が締め付けられるような思い」
というふうに使いますね。ではこの場合「フトコロ」を使ってどう表現すればいいか?
えーと・・・そうだ、
「懐が寂しくなる」あるいは「懐が寒くなる」「懐に響く」「懐が痛む」
ではないでしょうか?
今回「懐が締め付けられる」と書いた記者は、おそらく、
「財布のヒモを(引き)締める」
のイメージがあって、それと混用したのでしょう。
こういった場合に参考になる本(辞書)を見つけました!
『知っておきたい日本語コロケーション辞典』(監修・金田一秀穂、学研)
という本です。「コロケーション」というのは、「連句」「連語」「縁語」 などと日本語に訳されるのだそうです。そしてたとえば「懐」を引くと、
「懐が暖かい」「懐が寂しい」「懐が寒い」「懐が深い」「懐を痛める」「懐を肥やす」
というふうに、「懐」を使った表現が用例とともにたくさん載っているんです!便利でしょ。
これでも「懐が締め付けられる」は載っていませんでした。そもそもこの場合の「懐」は、
「懐(=うち背広のポケットや、着物の袂)に入れた財布」
のことを意味していると思われます。「お金」が入っているところ、という意味ですね。その辺も考えることが必要です。あ、考えたから「(懐が)締め付けられえる」なんて表現を使ったのか。じゃ、まあ、いろんな本を読んだりして「この表現はおかしいな」と思える感性を磨くしかないですね。
2007/9/10
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