◆ことばの話2915「パクチャ」

兵庫県の小学校の先生やPTAの方と話す機会があって、お話を聞いている中で、
「先日、警察の人が講習会に来て、こんな言葉を使っていた」
と言って教えてくれました。その言葉とは、
「パクチャ」(LHL)
です。「3拍中高アクセント」、関西風アクセントです。意味は、
「パクッたチャリンコ」
つまり、「盗んだ自転車」「盗難自転車」ということ。フーン、そんな言い方あるんだ。
アナウンス部でその話をしたら、O田アナウンサーが、
「ああ、ボクら、高校ぐらいの時には『パクチャリ』と言っていましたねえ。」
と言うではありませんか!結構昔から似た表現はあったのですね。
ちなみにGoogle検索では(7月19日)、
「パクチャ」=  204件
「パクチャリ」= 362件
で、あまりたくさんは、出てきませんでした。大修館書店の『みんなで国語辞典!』にも載っていませんでした。梅花女子大学の米川明彦先生編『日本語俗語大辞典』(東京堂出版)を引いてみたら・・・なんと「ぱくちゃり」が載っていました!
「ぱくちゃり」=(「ぱく」は「ぱくる」の略、「ちゃり」は「ちゃりんこ」の略)自転車を盗むこと。盗んだ自転車に乗ること。また盗んだ自転車。若者語。<関連後>置きちゃり・かまちゃり・原ちゃり・ママちゃり・やみちゃり。
とありました。O田アナウンサーの言っていた「パクチャリ」ですね!でもいまやさらに関西風に進化して、「り」が欠落して「パクチャ」ですか。なんだか、中国の上等なお茶の名前のようですね。
2007/7/20


◆ことばの話2914「みたいで」

新潟中越沖地震から丸一日。7月17日の午前10時半過ぎ、新潟の被災地から中継していたNHKの画面を見ていると、アナウンサーらしき男性が、
「さきほど朝食も配られ終わったみたいで」
とリポートしていました。これを聞いて、
「配られ終わった」
という「受身形と完了形の混合した形」が変だなあと思っていたら、同じくテレビを見て(聞いて)いた隣の席のHアナウンサーが、
「みたいな・・・?」
とつぶやきました。たしかにリポートなのに、「みたいな」という話し言葉調の、しかも自分で確認すればいいのに確認していない情報として流す言葉としての「みたいな」は、中継リポートの言葉として不適当であるなということです。ここは、
「さきほど朝食の配布が終わったようで」
と言えばいいところです。受身がねじれるのは、配る立場と配られる立場のねじれが生じているからです。
そんな話をしているうちに、声だけだったそのリポーターの男性の顔が映り、名前のスーパーが出ました。「田所拓也」。案の定若い男性でした。声が出来ているので、記者ではなくアナウンサーでしょう。早速、NHKのアナウンサーのページで検索したら、
「平成17年入局」
と書かれていました。3年目かあ。まだまだこれからだね。勉強して頑張ってください。
でも今朝、もう中堅からベテランと言っていい、日本テレビの古市幸子アナウンサーも、中継リポートの中で「おや?」と思うような、日常会話の口調が混じった中継をしていました。
「○○していて」
と言うべきところを、
「○○してて」
と言ったような気がします。「い」が抜け落ちていたのです。もしかしたら今、若い人たちを中心に、中継リポートの言葉が変わり始めているのかもしれません。
2007/7/17


◆ことばの話2913「ハットとホウトウ」

漫画週刊誌『ビッグコミック・スピリッツ』「美味しんぼ」を読んでいたら、
「青森では麺のことを『ハット』と言う」
と書かれていました。それを見て、ハットしました。
「この『ハット』というのは、山梨の『ホウトウ』と同じなのではないか?」
そして、
「これは子音が変わらず、母音だけ変わってるからではないか?」
と思ったのです。つまり、
「HA TTO」(ハット)
「HOUTOU」(ホウトウ)
「ホウトウ」の「U」は、「O」の長音化によるものですので、母音は青森の「ハット」と山梨の「ホウトウ」では、
「あ⇔お」
という関係ではないかと。さらにそこから思いついたのは、例の田村正和さんのしゃべり方で、「たむらまさかずです(田村正和です)」と言うと、
「てめれめせけぜ」
となる。ここでは、
「あ⇔え」
という変換が起きています。ということは、ですよ、
「方言の一つの特徴とは、母音の変化ではないか?母音変化こそが『訛り』と呼ばれるものではないか?」
ということを思いついたのです。また、沖縄方言では、
「おきなわ」⇔「うちなー」
となるように、
「お⇔う」
という変化と、
「き⇔ち」(k⇔t)
という子音の変化が見られますね。
うーん、どうなんでしょうか?でも「ハット」と「ホウトウ」、似てますよね。
ところで、7月4日の日経新聞の文化欄に、
『「耳っこ」離れぬ秋田弁』
という文章を、元・小学校教諭で県内を回って方言を採集し、忘れられつつある秋田弁の番付表を作ったという河田竹治(かわた・たけじ)さんという方が書いていました。その冒頭に、
「バシからおじる人がしんでから、乗ってけねしか」
という秋田弁が紹介されていました。これは、
「落ちる人が死んでから」
では、もちろんありません。
「降りる人が済んでから」
です。この話は以前にも聞いたことがありましたが、この場合、
(共通語)    →(秋田弁)
「バス」     →「バシ」
「すんでから」 →「しんでから」
という風に、
「U→I」
という母音の変換が起きています。また地名の「新津(にいつ)」が言えずに、どうしても「ぬえち」
になったことが、河田さんはあったそうです。この場合は、
「にいつ」→「ぬえつ」
ですから、「に→ぬ」は、さっきと逆の、
「I→U」
の音韻変換、また、「い→え」は、そのまま、
「I→E」
の音韻変換ということになりますね。

2007/7/18



◆ことばの話2912「はいろ」

ニューヨークのスチーム管が破裂した事故の様子を、7月19日のテレビで報道していました。地元の人は、あの9・11のテロを髣髴したとインタビューに答えていました。実際は老朽化したスチーム管の事故だそうですが。
それを伝えたNHKの久米井彩子さんという若い女性記者のリポートを見ていたら、
「はいろの煙」
と言っていました。明らかにこれは、
「灰色の煙」
ですね。「い」が一つ欠落しているのです。これは「体育」を、
「たいく」
と言ってしまうのと同じですね。同じ母音が二つ続く場合には、一つ省略した方が早くしゃべれるし、言いやすいのでしょう。関東出身の新人などにも、よく見られる傾向です。新人アナウンサー研修などでは、
「音を飛ばさないように、母音をしっかり言い直せ」
と指導しています。そんなことを思いながら見ていたら、そういう雰囲気が伝わったのでしょうか、久米井記者は、
「テロじこん」
と言っていました。隣の席のHアナと同時に、テレビ画面に向かって、
「じこん!?」
と突っ込んでしまいました。「事故」と「事件」が混じってしまったのでしょう。いろいろとネタを提供してくださって、ありがとうございます。
2007/7/19


◆ことばの話2911「シティモ」

バーゲンの季節ですね。私は、それほど関心はないのですが、女性陣はやはり、
「待ってました!」
という感じなんでしょうね。先日、
「シティモ 夏のバーゲン」
という中吊り広告を、京阪電車の中で見ました。それを見て私は、「シティモ」を、
「ジモティ」
かと思いました。「地元民」のことをちょっと昔の若者言葉で、「ジモティ」と言いましたが、これってもう「死語」なんだろうな。「ジモピー」(「地元ピープル」の略)という言い方もありましたね。覚えてますか?
ところで、驚いたことに、私のケータイのメールでは、なんと「ジモティ」が「一発変換」できました!!
Google検索では(7月17日)
「シティモ」=     593件
「ジモテイ」= 7万0500件
「ジモティー」=5万4600件
「ジモピー」= 1万8600件
と意外や意外、「ジモティ(−)」、まだまだ大活躍でした!


2007/7/17
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