◆ことばの話2905「甘熟バナナ」

5月26日の日経新聞の「訂正」記事に目が行きました。そこにはこう記されていました。
『19日付「完熟で高くなる果実、ならない果実」の記事中、「千疋屋総本店では産地で黄色く熟したものを完熟バナナとして販売している」とあるのは「高地栽培で糖度を高め、輸入後に追熟し黄色くしたものを甘熟バナナとして販売している」の誤りでした。』
つまり、
○甘熟バナナ
×完熟バナナ

ということですね。
そう言えば、最近よく目にするコマーシャルに、ウド鈴木がバンドをやっている「バナナ」のコマーシャルがあります。♪バーナーナーの王様!とか歌っているもの。あれがたしか
「甘熟バナナ」
だったのでは?(あとでCMを見た、確かにバナナでしたが、商品名は「甘熟王」でした。)同音異義語で、
「完熟」
がありますし、おそらく、
「完熟で甘い」
ところから、
「甘熟」
という言葉を造語したのでしょうから、 間違うのも仕方がないかなあとも思いました。
Google検索(6月17日、日本語のページ)では、
「甘熟」 7万2900件
「甘熟バナナ」 8件
「完熟」 189万件
「完熟バナナ」 3万7700件
でした。やはり「完熟」が多いですが、「甘熟」も結構多いですね。「完熟」には、
「完熟マンゴー」「完熟トマト」「完熟卵」「完熟農園」「完熟サクランボ」
「完熟きんかん」「完熟りんご」「完熟堆肥」「完熟みかん」

などがありました。「完熟」も、広がりがありますねえ。それぞれ検索してみよう。
「完熟マンゴー」 30万0200件
「完熟トマト」 31万8000件
「完熟りんご」 6万8200件
「完熟リンゴ」 910件
「完熟林檎」 542件
「完熟みかん」 3万9400件
「完熟ミカン」 844件
「完熟蜜柑」 279件
「完熟きんかん」 1万3100件
「完熟キンカン」 1140件
「完熟金柑」 1万1300件
「完熟堆肥」 7万2200件
「完熟」と言えば、まず「トマト」、「マンゴー」そして「堆肥」ですか、ね。そのあとはりんご、みかんと来て、バナナはその次。これから知名度も上がることでしょう。
さてこの「甘熟」という言葉、思った以上の頻度で「果実全般」に関して使われています。地味ですが、「いつの間にか定着しつつある流行語」と言えるのではないでしょうか?
すでに亀井肇先生あたりが、書かれているかもしれませんね。

2007/6/17


◆ことばの話2904「エコ買い」

6月17日の読売新聞に編集委員の尾崎和典さんという方が、「政(まつりごと)ナビ」というコラムで、
『「エコ買い」と環境外交』
と題して書いています。そこに、日本新聞協会広告委員会が主催する2006年度新聞広告クリエーティブコンテストで最優秀賞に輝いた作品のコピーとして、
「賢い主婦はスーパーで手前に並んでいる古い牛乳を買う。」
という文章が紹介されていました。
え?手前においてある古い牛乳の奥には、新鮮で賞味期限の長い牛乳があるから、奥から買った方がよいのでは?と、つい思ってしまいがちですが、みんながそれをすると、結局前に置かれた牛乳は売れずに残って捨てられることになる。これは環境に悪いということから、手前の方から順に買うことを、
「エコ買い」
と呼ぶのだそうです。理屈には一理あり「なるほど」と思いました。
Googleで検索したら(6月17日)、
「エコ買い」=667件
ありました。思っていたより少なかったです。それによると、「エコ買い」というコピーを発案、2006年度新聞広告クリエーティブコンテストで最優秀賞を獲得した、畑中大平(はたなか・ますひろ)さんの自己紹介文は、
『はじめまして、コピー刑事です(自分は昨年の5月まで警察官でした)。環境広告を作るにあたって、「偉そうなことを言っても伝わらない。チャーミングでカッコよく。環境を考えるきっかけとなり、私もやってみようと思える広告をつくる。」と、どこかで聞いたような言葉をノートの1ページ目にデカデカと書きました。この広告が多くの人に環境を考えるきっかけを与えるかどうかわからないけど、自分はスーパーで牛乳や納豆を買う時、賞味期限をチェックして今までとは逆で古い方を選ぶようになりました。最優秀賞に選んでいただきありがとうございます。これからも楽しく修行を続けます。』
だとのこと。畑中さんのプロフィールを見ると、
「1978年生まれ。2001年に名古屋大学農学部卒業。大阪府警察巡査を経て、05年にジェイアール東海エージェンシー入社。」
とのことです。まだ20代の若い方なんですね。「エコ」は「エコ」でも、「エコノミクス」ではなく「エコロジー」なのですね、21世紀は。


2007/6/17


◆ことばの話2903「脳天気か能天気か」

先日、Nアナウンサーから
「『のうてんき』は『脳天気』と書くのでしょうか?それとも『能天気』でしょうか?」
という質問を受けました。
さっそく『新明解国語辞典』を引いてみると、新解さんの見出しは、
「脳天気」
でした。意味は、
「(関東・中部方言)常識はずれで、軽薄な様子(人)」
とあり、さらに「表記」の注意として、
「もと、『能天気』『能転気』と書いた」
とあるではないですか!え?「能転気」なんて表記もあったの!?知りませんでした。
『新潮現代国語辞典』を引くと、
「能天気・能転気」
を見出しに採用して、「脳天気」はありません。しかし、おかしなことに、用例で採用しているのを見ると、
「離婚記事かなんか見てるみたいな脳天気な調子で自分のことを笑ってるじゃない」(ひざまずいて足をお舐め)
「脳天気」表記の用例をとっています。なんでやろ・・・ていうか、この用例で引用している、
「ひざまずいて足をお舐め」
って、なによ!?巻末の引用文献を見ると、
『ひざまずいて足をお舐め』(山田詠美、1988)
とありました。ああ、山田詠美さんの作品か。なるほど。あまり読んだことないけど。辞書の編纂者はこういうのも読まないといけないのですね。大変だ。
『明鏡国語辞典』は、欲張っています。見出しの漢字表記は
「脳天気、能天気、能転気」
3つとも載せています。『三省堂国語辞典』は、2つ。
「脳天気、能天気」
の順です。『岩波国語辞典』は、見出しは、
「能天気、能転気」
2つだけですが、本文中に、
『▽「脳天気」とも書く』
とあります。何だ、全部じゃん。『日本語新辞典』は、
「能天気、能転気」
2つだけ。『広辞苑』の見出しは、
「能天気、能転気」
の2つだけでしたが、本文には、
「(「脳天気」とも書く)」
とありました。
『日本国語大辞典』は、
「能天気、能転気」
の2つだけ。『大辞林』は、
「能天気、能転気」
2つだけでした。用例は『談義本・当世花街談義』(1754)四・品七ですが、そこでの表記は、
「能天鬼」
でした。もう一つの用例、同じく談義本『花菖蒲待乳問答』(1755)四では、
「能天気」
と使われていますね。『新聞用語集2007年版』は、
「(脳天気、能転気)→能天気」
となっていて、3つの表記があることを認めた上で、「能天気」を使うことになっているのですね。
『NHK新用字用語辞典・第3版』には「脳天」は載っていましたが、「脳天気・能天気・能転気」は載っていませんでした。
ネットでの使用状況はどうか?Google検索で(6月17日)は、
「能天気」=58万3000件
「脳天気」=45万1000件
「能転気」=797件
「能天鬼」=5件
「ノー天気」=18万8000件
「ノーテンキ」=15万9000件

でした。
「はてなダイアリー」というサイトには、
『頭の中が晴れている、という比喩から。「能天気」「能転気」とも。「脳天気」の表記を広めたのは平井和正と言われる。」
と載っていました。平井和正というと『幻魔大戦』の?SF作家の?
さらに調べる、こんな記述も。こちらはNAFL日本語教師養成プログラムの「日本語Q&A」というサイトです。
『古くは18世紀ごろの文典にも見られますが、漢字での表記は一様ではありません。もともとは「能天気」や「能転気」と書かれることが多いようです。また、「脳天気」という表記は「のうてんき」という音から類推してあてられた字のようですが、これもごく最近の表記というわけではなくそれなりに古くから見られるようです。いずれにしても、俗語的表現で、語源は定かでないようです。』
ふーん、なるほど。
まとめますと、昔、江戸時代頃には「能天気」「能転気」、あるいは「能天鬼」が使われていて、その後昭和に入ってから「脳天気」という表記も出てきてかなり広まった。しかし新聞や放送では、従来の表記で一番ポピュラーである「能天気」を使うことになっているということのようです。
こんなことを調べていること自体が「のうてんき」でしょうなあ、ははは。

2007/6/17
(追記)

2007年11月14日に日経新聞夕刊のコラム「あすへの話題」で、脳研究者の池谷裕二さんという方が、
「脳天気」
というタイトルで書いていらっしゃいます。それによると脳研究者の池谷さんは、「楽天的な脳」という科学記事を読んで、
「たしかに脳は能天気だ」
と書いています。そして、脳の楽天癖について研究しているニューヨーク大学のフェルプ博士は、
「人が将来のイベントについて想像する時、ポジティブなことは近未来に、ネガティブなことは遠い未来にイメージする傾向がある」
ことを発見したそうです。さらに、
「好ましいイベントほど鮮明にイメージできる」
んだそうです。脳って自分勝手ですねえ・・・。「脳」と言える私・・・。楽天的な人ほど活動が強いんだそうです。
2007/11/20


◆ことばの話2902「ジャストでーす」

週一でテニススクールに通って4年目になります。
先日、順番待ちをしている間にほかの人の試合形式の練習を見ていたら、向こう側のコートの後ろのラインのギリギリのところにボールが落ちました。それを見たコーチが、
「ジャストでーす」
と言ったのを耳にしました。
「ジャスト」
「ちょうど」ということ。つまり「ちょうど入った」のか。でもポイントは相手の方に入っています。そこで、コーチに
「今の『ジャスト』って、入ったんですか?出たんですか?」
と聞くと、
「アウトです」
との答え。ボールが入ったのかと思ったら、外だったのです。つまり「ジャスト」は、
「ジャストアウト」
の省略形。日本語で言えば、
「おしい!」
というところでしょうか。テニスでは一般的に使われているそうです。ふーん。一つ勉強になりました。

2007/6/16


◆ことばの話2901「100万億円」

6月10日の深夜(時計の針は11日)、寝る前にベッドの中でケータイサイトの読売新聞を読んでいると、こんな記事が!
「100万億6400万円」
えらい金額やな、100万億円。100万置くのと違いまっせ。
これはおそらく、
「100万ユーロ・1億6400万円」
のつもりが、なぜか、
「ユーロと『・』と1が欠落した」
のでしょうけど。
「100万億円」当たるtotoとかビッグとかいう宝くじがあったら、ボクも買ってみようと思います。
真夜中に布団の中で「ぷぷぷ」と笑ってしまいました。
この日は、よく眠れました。


2007/6/14
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