◆ことばの話2895「紡積」

6月13日の夜のニュースの本番前、報道フロアの字幕スーパーを発注するオペレーターたちがいるコーナーに目をやると、大きな張り紙が。そこには、
(正)紡績
(誤)紡積

と書いてありました。事情を聞いてみると、
「このあいだ、字幕で間違ったので、注意を促すために張ってあるんです。」
「でも今は『ぼうせき』で変換したら、一発で出るでしょ?」
「あいにく担当者が『紡績』を読めなくて、一字一字変換して出してしまったんです。そのときに『績』ではなく『積』を出してしまったんです・・・」

そうか、やっぱり!
「今ね、いわゆる『糸へん』の産業が、身近ではなくなっているのよ。昔はそれこそ東洋紡やら日紡貝塚やら、紡績関係の『糸ヘン』の産業、軽工業が日本を支えていて、関西にもそういった企業が多かったから、常識としてそういった漢字を知っていたんだけど、そういった工場はみんな中国とか国外に移ってしまい、なじみがなくなっていることが背景にきっとあるんだよね。こないだ、常用漢字表の見直しについて、新聞用語懇談会でも話し合ったんだけど、そのときのアンケートやデータで、常用漢字なのに使われていない漢字に『蚕』や『繭』があったんだ。これも『紡績』関係の言葉でしょ。今の常用漢字は1981年(昭和56年)に出来たんだけど、そのほとんどは1946年(昭和21年)に出来た当用漢字を踏襲しているから、その当時によく使われた漢字がベースになっている。60年以上経って社会構造などが変わって、それにつれて、使われる漢字と使われなくなった漢字というのが出てきているんだよね。『紡績』という言葉も、もしかしたら『蚕』や『繭』と同じく、認知されなくなってきているのかもしれないね。」
という話をしたら、
「はあ、勉強になりました。」
とのことでした。でも「成績」の「績」でもあるから、この漢字は読めないといけないと思うんだけど・・・もしかしたらそのオペレーターは、「成績」も間違って、
「成積」
「ノギヘン」で書いていたんじゃないかな・・・。そんな気がします。もう間違えないようにしてくださいね。


2007/6/14


◆ことばの話2894「ファイルのアクセント」

6月13日、泊り勤務の時に読んだ夜のニュースで、兵庫県警・加西警察署の巡査長が、パトカーのトランクに入れてあった、捜査関係の書類が入ったファイル1冊を紛失していたことがわかったというニュースを読みました。最初原稿を見たときに、この、
「ファイル」
は、パソコンの中のファイルが、ウイニーか何かで流出したのかと思ったのですが、どうやらそうではなく、100円ショップなどでも売っているあの「ファイル」をなくしたようです。
ここで問題は、「ファイル」のアクセントです。一般的に、パソコンの中の「ファイル」だと私たちは普段、「平板アクセント」で、
「ファイル(LHH)」
と呼んでいます。しかし、紙の書類を入れる入れ物の「ファイル」の場合は、伝統的アクセントでもやはり、「頭高アクセント」で、
「ファイル(HLL)」
でしょうね。『NHK日本語発音アクセント辞典』でも「頭高アクセント」しか載っていません。
今回のニュースで出てきたのは「頭高アクセント」の「ファイル」でよかったんですが、今後「パソコンのファイル」のアクセントNHKのアクセント辞典に載せて欲しいなと思いました。
と同時に、「パンツ」も、「下着」(パンツ・HLL)と「ズボン」(パンツ・LHH)でアクセントが違ったり、「クラブ」も、「おやじが行くところ」(クラブ・HLL)と「若者が行くところ」(クラブ・LHH)アクセントが違ったり、というふうに、これまでも、
「アクセントの違いによって意味の違いを表す単語」
はありました。しかし、たとえば「パンツ」の場合はその後、特にアクセントの差がなくなってきたりしていますし(ともに「頭高アクセント」の「パンツ(HLL)」)、「ドライバー」などは「運転手」「ゴルフのクラブ」「ねじまわし」3つの異なる意味のものがあって、「頭高」「平板」の2つのアクセントパターンでは分けきれないケースも出ています。
「ファイル」のアクセントは今後、どうなるのでしょうかね?

2007/6/13


◆ことばの話2893「やっぱ」

ミスユニバース世界大会で、日本人としては48年ぶりに世界一に輝いた森 理世さんが、6月10日「凱旋帰国」しました。
その時のインタビューを聞いていたら、彼女は「やっぱり」の意味で、
「やっぱ」
と言っていました。世界一の美女が「やっぱ」はまずいのではないかと思いました。そういうところ(言葉遣い)の審査はしないのでしょうか?もちろん、いろんな国の代表が来ているから、そんな日本語の細かいところまで審査できないのでしょうが、話し方の雰囲気とかそのあたりはそこはかとなくわかるのではないでしょうか?
え?ミスユニバースはそんなことを審査する会ではないって?そうなんですか?
まあ、まだ20歳の女の子だもんな。堂々として、それはそれですごいんだけど・・・。

2007/6/14


◆ことばの話2892「まずい」

6月12日の「ズームイン!!SUPER」でニュースを見ていたら、いま、世の中を騒がせているコムスンの親会社・グッドウィルグループの折口雅博・会長兼最高経営責任者(CEO)が、介護中に心臓病の3歳児が死亡していたことを受けてのインタビュー(VTR)で、
「事実だとすれば、本当にまずいことだと思います。」
と述べていましたが、これは「まずい」ではなく「申し訳ない」でしょうね。
そのコメントが「まずい」と思った人は多いことでしょう。
インタビューに答えるような立場の方は、日頃から言葉の使い方には気をつけないと、思わぬところで「地」が出てしまいますね。

2007/6/14


◆ことばの話2891「う●ち、ちがう!」

2歳4か月の娘、保育所ではやっているためか、家でもよく、
「う●ち、う●ち!」
と嬉しそうに言っては、
「やめなさい!」
と怒られています。
今朝、いつものように保育所に娘を送っていったら、帰り際にお友達の男の子2人が私に向かって、
「う●ち、バイバーイ」
と嬉しそうに言いました。それを聞いた娘は、
「う●ち、ちがう!」
と懸命に否定していました。普段は自分も言ってるくせに・・・と思いましたが、自分のお父さんが「う●ち」と言われているのを否定してくれる様子を、少しうれしく思ったのでした。

2007/6/13
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