◆ことばの話2883「写メールの言い換え」
制作局のディレクターから、
「『写メ』『写メール』って、普通に言ったら何と言うんでしょう?要するに『自分の携帯(電話)の中に保存してある写真』のことです。どう表現したらいいでしょう?番組のトークのコーナータイトルに『僕のお気に入りの写メ』のようにクレジットを出したいんですが・・・。」
というメールをもらいました。確かに最近は、普通名詞のように、
「写メール」「写メ」
と出てきますよね。
そこで、日本テレビの用語担当者に聞いてみたところ、以下のような回答が来ました。
『「写メール」はボーダフォン株式会社(現・ソフトバンク)によって商標登録された特定商品名です。「写メール」を番組内で使用する時は、機種が「ソフトバンク」のものであれば、「写メール」を使ってもかまいませんが、「他機種」を使って説明する場合は、「一般的な名称」に言い換えます。
ソフトバンク機種以外(一般的名称)は→「写真付きメール」
<例>
×ドコモの携帯を見せながら「今から“写メール”で送ります」
○「今から“写真付きメール”で送ります」(または“iショット”というドコモの商標を使う)
当然のことながら番組で商品をフィーチャーする際には、スポンサーへの配慮は必要です。』
というメールが返ってきました。一般名詞では、
「写真付きメール」
ですか。感覚的には、
「携帯写真」
なども良いかと思うのですが。いえ、これは「写真を携帯」するのではなく、
「携帯電話のカメラ機能を使って撮影された写真」
を略して、
「携帯写真」あるいは「ケータイ写真」
ということなのですが。いかがでしょうか?Google検索(6月13日)では、
「写メール」=130万件
「写メ」=181万件
「写真付きメール」=2万8800件
「携帯写真」=40万5000件
「ケータイ写真」=10万8000件
でした。ちなみに「au」の「写真付きメール」の特定商品名は、
「フォトメール」
でした。これも検索しましょう。
「フォトメール」=6万2200件
とのことでした。
2007/6/13 |
◆ことばの話2882「沖と沖合い」
5月13日ころに、小笠原諸島の父島から大阪府堺市に戻る予定だったクルーザーヨット「遊友(ゆうゆう)」が行方不明になっていましたが、5月18日の朝、海上保安庁の航空機に発見されたというニュースを読みました。その中に、
「新宮沖22キロメートルの海上」
という表現が出てきました。この「キロメートル」という原稿を、何も考えることなく私は「22キロの海上」と「メートル」を省いて読んでしまいました。まあ、それはよいとして、若い記者から質問が。
「これ、字幕スーパーで出すのに、『沖』としたほうがいいんでしょうか?それとも『沖合い』としたほうがよいんでしょうか?」
なかなか細かいところを突いてきますね。
私の感覚としては、「沖」は正確・客観的、「沖合い」はアバウト・主観的な感じがしますのでそう答えました。あくまで、主観的ですが。
ニュースのあとで、もう少しきっちり考えてみました。
「沖」とは?→陸地のある地点から指した、ある程度距離が離れた海上のこと。
つまり「新宮沖」とか「和歌山港沖」など、「陸地のある地点」を基点として「沖」(それに距離)は語られるものなのに対し、「沖合い」は場所も基点もアバウトな感じがするのですね。「沖合い」=「沖のほう」ですからね。
そうすると次の問題は、どこからが(つまり陸地からどのくらい離れると)「沖」と呼ぶのか?ということです。これも「感覚」ですが、
「ある程度の距離」=「1キロ以上」
という気がします。「数百メートル」は「沖」とは言えないような。これを総合すると、
「沖」=陸地のある地点から1キロ以上離れた海上のこと。
ということになりますが、これでいいのですかね?
今回のニュースの場合「(新宮沖)22キロ」と、かなり具体的にわかっています(「約20キロ」とかではなく)から、「沖合い」よりは「沖」とした方がいいでしょう。また、
「22キロ>1キロ」
ですから、問題なく「沖」としていいでしょうね。
2007/6/11 |
◆ことばの話2881「FSB」
先日、漫画の『ゴルゴ13(サーティーン)』を読んでいたら、
「FSB」
というのが出てきました。読売テレビの系列局で、
「FBS」(=福岡放送)
というのは知っているのですが、「FSB」は知りませんでした。舞台はロシアです。何のことだろう?と思って欄外の注を読むと、
「ロシア連邦保安局。元のKGB」
と書いてありました。いつから変わったの?知らなかったなあ。ずっと「KGB」のイメージが強かったですね。ただ、ソ連崩壊後に作られた『ターミナル・ベロシティ』(限界速度)という映画(1994年)で、元KGBの女性エージェントが出てくるシーンがあって、チャーリー・シーン演じる主人公が、
「元KGBか」
というのを「英語のしゃれ」で、
「KG used B(be)」
と言うシーンは印象に残っていますから、そのとき(1994年)には、もう「KGB」はなかったんですね。(平成ことば事情「プライベート・ライアン」参照)
「ゴルゴ13」で見て以降、ニュースでも5月下旬にこの「FSB」が出てきました。
旧ソ連・国家保安委員会(KGB)の元職員、リトビネンコ氏が去年(2006年)、ロンドンで毒殺された事件について、容疑者であるロシア連邦保安局(FSB)元幹部・ルゴボイ氏の身柄引き渡しを英国側が求めているが、ロシア側が拒否している問題に関連して出てきたのです。
でもNHKのニュースでは、たしか「FSB」という名称を使わずに、
「ロシアの保安機関」
というような言い方だったような気もしましたが・・・どうなんだろう?
ネットの百科事典「ウィキペディア」を引くと、
「ロシア連邦の防諜、犯罪対策を行う治安機関であるが、CIS諸国内において限定的に諜報活動も行っている。2003年には、連邦国境庁 (FPS) が行っていた国境警備機能全体、連邦政府通信・情報局 (FAPSI)
が行っていたSIGINT機能、連邦税務警察庁 (FSNP)
が行っていた金融犯罪捜査機能の一部も移管され、旧ソ連のKGBの姿に戻りつつある。」
とあり、「KGB」以降の「名称の変更」についても書いてあります。
『ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国KGB(ロシアKGB;1991年5月〜1991年11月: ソ連KGBとは別にボリス・エリツィンが設立)』
→『連邦保安局(AFB;1991年11月〜1991年12月: ロシアKGBを改称)』
→『共和国間保安庁(MSB;1991年11月〜12月: ソ連KGB解体後の暫定機関)』
→『ロシア保安省(MB;1992年1月〜1993年12月: AFBとMSBを統合)』
→『連邦防諜庁(FSK;1993年12月〜1995年4月: MBを改称)』
→『連邦保安庁(FSB;1995年4月〜)』
ということだそうです。ということはもう12年前から「FSB」なんだ。気づかんかったなあ・・・。
2007/6/8
(追記)
5月29日のNHK朝6時23分のニュースでは「FSB」とも「元KGB」とも言わずに
「ロシアの治安機関」
という表現をしていた、というメモが出てきました。
また、『暗殺国家ロシア〜リトヴィネンコ毒殺とプーチンの野望』(寺谷ひろみ、学研新書:2007、6、15)には、「KGB」の説明文の中に、
「(KGBは)1991年に解体されたはずが、ロシアでFSKとして生き残り、1995年にFSBとなり、その後も変化している。本書ではKGB(国家保安委員会)に代表させ、1992年以降の事象で、必要なときだけFSB(KGBの後身)とした。FSBは直訳すると、ロシア連邦保安庁である。なるべくKGBに統一した。現在の肩書きのようにKGBにできない場合に、FSBも併用した。いずれもロシア秘密情報機関である。GRUはロシア軍(赤軍)の情報部である。」
とありました。
2007/6/13
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