◆ことばの話2875「生原稿」

6月5日、帰宅途中の電車の中でチェックしていたケータイサイトの朝日新聞ニュースで、
作家の故・中上健次の『千年の愉楽』の生原稿発見というニュースが載っていました。
この、
「生原稿」
ですが、普通は、
「自筆原稿」
と書くのではないでしょうか?なんか「生原稿」っていやらしい感じがするのですが。
「生」に関しては、平成ことば事情116「生」や、平成ことば事情921「生セラ」、平成ことば事情2161「生歌と生検証」、平成ことば事情2675「生マグロ」でも書いていますので、お読みください。
Google検索(6月5日)では、
「生原稿」=7万4700件
でした。け、結構多いですねぇ、よく使われています。
でも、デジタル時代なので、パソコンで原稿を書いてメールで送ってしまったら、「生原稿」というのも何を指すのかがわからなくなりますねえ・・・。
2007/6/6


◆ことばの話2874「三十一文字」

新人アナのYさんが、系列の研修に行ってきました。漢字のテストもあったそうです。その出来は・・・・ギリギリ合格ラインぐらいでしたが、読めなかった漢字に、
「三十一文字」
がありました・・・そうです、彼女はこれに、
「さんじゅいちもじ」
と読み仮名を書いたのです。
そこで、2年目の若手アナウンサーに、念のため読み方をたずねると、Tアナは、
「みそひともじ。『短歌』のことですよね。」
と答えられたのですが、Kアナは、
「えー・・・・みそ・・・ひともじ・・・ですか?」
と、なんとか正解したのですが、
「そう!正解。意味は?」
と聞くと、
「意味までは、ちょっと・・・」
と言うではありませんか。彼女の出身高校のある堺市からは、与謝野晶子が出ているというのに!出身大学のある和歌山からは、道浦母都子さんが出ているというのに!!プンプン!!
Iアナウンス部長に、
「こんなことは、中学で習うことじゃないんですか?」
と聞くと、
「ほら、今の子は『ゆとり教育』で育ってるから・・・・」
ほんまに、もう!ちなみに来年入社予定のAさんにも、メールで「三十一文字」の読み方と意味を聞いたところ、
「みそひともじ。意味は、『平凡な日常のこと』」
というメールが返ってきました・・・・
「三十一」=「31日」=「1か月」=「日常」
とでも想像したのでしょうか?これからの「教育」を思うと、先が思いやられます・・・俺にも「平凡な日常」をくれ!!
2007/6/6
(追記)
教えに行っている甲南大学の学生(2〜4年生)「三十一文字」をどう読むか、答えさせました。結果は・・・一番多かったのは、そのまんま、
「さんじゅういちもじ」
と読んだ人で、これが55人中24人(43、6%)「みそひともじ」とちゃんと読めた人は、55人中19人(34、5%)。そのほかの読み方は、
「さんじゅういちもんじ」=5人(9、1%)
「みそじいちもじ」   =2人(3、6%)
「みそいちもんじ」「みといちもんじ」「みとひもじ」「みそいもじ」「わからない」=各1人(1、8%)でした。
ところが、実は「みそじ」という読み方は間違いではないという記述を見つけてしまいました。
山田俊雄『言葉の履歴』(岩波新書)の「三十一文字」の項目に、
『「三十一字」「三十一文字」を「やまとことば」らしく読むとしたら「みそひともじ」と読むのが「末代の常識」』としながらも、
『『太平記』に出てくる「三十一字」には「みそぢおひともじ」とふりがながついているところからいろいろと調べたら、中世近世の読み方・言い方は「みそぢひともじ」であった』と記していたのです。
次の授業でこの説を紹介しましたが、やはり現代において「三十一文字」は「みそひともじ」と読めて欲しいものですね。
 
2007/10/25


◆ことばの話2873「ハニカミ王子」

5月20日、国内の男子プロゴルフツアーで15歳の史上最年少優勝を果たした高校1年生アマチュア・石川遼選手、皆さんご存知のように、
「ハニカミ王子」
と呼ばれて大注目を浴びています。もちろんすごいことだなと思いますが、この「ハニカミ王子」という名称は当然、早稲田大学野球部1年生で去年の夏の甲子園で早稲田実業の投手として優勝を果たすとともに大フィーバーをもたらした、斎藤佑樹投手が青いタオルハンカチを用いたことから、
「ハンカチ王子」
と呼ばれたことを踏まえての表現なのは、間違いありません。いまやそう呼ばれるのを嫌がっているようですが。
で、「ハニカミ王子」。見るたんびに、わたしは、
「ハミガキ王子」
に見えてしまうのですが、皆さんはそんなことはありませんか?「ハミガキ王子」に見えるたびに、私はハニカンでいるのですが、誰も「ハニカミおやじ」とは呼んでくれません。呼んで欲しいとも思いませんが・・・。
「ハニカミ」は、「ハミガキ」にも見えるしもうひとつ、
「ハモニカ王子」
にも見えるんですけど。皆さんはそんなことはありませんか?あ、ない。そうですか。
念のためGoogle検索(6月6日)。
「ハンカチ王子」=136万件
「ハニカミ王子」=85万件
「ハミガキ王子」=348件
「ハモニカ王子」=26件

ふーん、まあ、少数派ですね。普通の人は間違えないし、そうは見えないんですね。
そもそも「○○王子」という形は、自分の子供や孫のことを、男の子の場合は「○○王子」、女の子は「○○姫」と呼ぶ傾向がここ数年ある、というのと関係があるのかもしれませんね。自分たちのヒーロー・ヒロインに、親しみを感じてつけるニックネームの形式なのでしょう。これに関しては、『現代用語の基礎知識2006』に書きました。念のため、以下に載せておきますね。
********************************
(16)「姫」「王子」
自分の小さい息子・娘のことを「うちの○○姫」「○○王子」と呼ぶ傾向がある。少子化の中、数少ない子どもを宝のように思って「姫」「王子」と呼ぶのだろうか。しかし、その呼び名にふさわしく大切に育んでいるのかどうかは疑問。
従来、自分の子どもの呼称は、「愚息」「豚児」のように謙遜した呼び方があった。それがたしなみであったのだろう。そんな中「姫」「王子」と呼ぶことは、周囲に対して明らかに「うちは親バカでゴザリマスル」と宣伝しているようなものだ。本人たちの「親バカ」に対する「照れ」の表れかもしれない。家庭内で呼ぶのならまだしも、どう考えても外で使う言葉ではない。しかしそれが定着することで、親バカに対する「照れ」も「慎み」消えて、呼び名の「姫」「王子」のみが残りつつあるのではないか。「姫」「王子」という言葉の持つ身分の高さが、使われることで磨り減ってしまい、自分の子どもだけでなく、親の程度まで低めてしまう恐れがある言葉だ。
(『現代用語の基礎知識2006』〜「日本のことば」の項)
2006/6/6

(追記)

10月19日の『おもいッきりイイ!!テレビ』の中で、東京で複数の女性を監禁していた男に対して、懲役14年の判決が出たことを取り上げた時のタイトルが、
「“監禁王子”『逃げたら殺す』懲役14年」
でした。「ハンカチ」や「ハニカミ」などに「王子」が付いた時は「プラス」の価値評価だったのですが、今回の「監禁」という行為・言葉は、どう考えても「マイナス」ですからそこに「王子」が付くのは、やはり違和感がありますね。
2007/10/26

(追記2)

11月26日の日本テレビ「スッキリ!」で、女優の川島なおみが婚約発表をしたことを報じていました。その中で、5歳年下のパティシティエの「彼」のことを川島さんは、
「ハミダシ王子」
と呼んでいると話していました。理由は・・・よくベッドからハミダシているからだと。ふーん。さよか。
Google検索(11月26日)では、
「ハミダシ王子」=  1010件
「はみ出し王子」=1万8600件
ひえー、おそらくこの「はみ出し王子」の1万8600件は、ほとんどが川島さん関連案だろうなあ。すごいなあ。想像以上でした。
あ、婚約者の鎧塚俊彦さん(42)、下の名前が私と同じだ・・・。
2007/11/26


◆ことばの話2872「ホース」

6月5日放送の『ニューススクランブル』で、大阪府枚方市にこの5月26日にオープンした、
「ホースセラピー」
の牧場を紹介していました。ここは、不登校や引きこもりの人たちが馬との触れ合いで心身を癒やすところだそうです。それを見ていて思ったのは、
「馬の『ホース』と水を撒く『ホース』の原語は、発音が違うのだろうか?」
ということでした。
英和辞典を引いてみて驚きました。全然違うのです!「馬」の方の綴りは、
horse
「ホース」。「Cのさかさま」のような「オ」の発音記号がついています。これはまったく意外性はないのですが、水を撒く「ホース」の方の綴りが、
hose
で、発音記号をカタカナに直すと、
「ホウズ」
なのです。「オウ」の二重母音で、語尾、濁ってます。この「ホウズ」は単複同形で、
「長靴下」「短い靴下」
という意味があるそうですが、いわゆる「ホース」は、
hose pipe
となっています。
そうなのか、水を撒くのは「ホウズ」か。知らなかったなあ。身近な外来語の原語って、案外気づかないものですね。
2007/6/5


◆ことばの話2871「デジ」

平成ことば事情159「デジカメとDVカメラ」で、2000年の7月に、デジタルビデオカメラの略称は一体なんと言うのか?という問題を提起しました。デジタルのスティールカメラは、すでに「デジカメ」の略称を定着させていたからです。
答えが出ぬまま7年が経ちましたが、この7年間に、放送でも「家庭用デジタルビデオカメラ」で撮影された映像がバンバン出るようになりました。それだけ画質が上がったことと、放送業界でも人件費などの問題で、すべての取材にカメラマンを出せなくて、取材ディレクターがデジタルカメラを手に撮影も行うということが増えたこと、また小さなデジタルカメラだと、取材される相手にも圧迫感を与えないということもあると思います。その上、動画サイトなどインターネットでのデジタルビデオカメラの活用が増えたことも一因だと思いますね。
さて、そういった状況の中、デジタルビデオカメラの略称がどうなっているかに気づきました。今、読売テレビでは、
「デジ」
と呼ばれています。
「取材といっても、デジなんですけど」
というような使われ方です。短くてわかりやすいですね。これが各社でも同じように使われているのかはまだ未確認ですが、おそらく使われているのではないでしょうか。また調べてご報告します。
2007/6/5
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