◆ことばの話2850「数字の読み方2007年4月」

3月、4月に気になった数字の読み方をまとめてみました。
3月23日午前0時のニュースで、NHK坪倉アナウンサーが、「15度」をコンパウンドして、
「ジューゴド(LHHL)」
と読んでいました。
3月29日、『NHK特集』の「しんかい6500」からの海の様子を移した番組。その中で、ナレーターの緒方拳さん「99年」を、
「キュージュークネン」
と読んでいました。
4月17日テレビ朝日『報道ステーション』で、「7時15分」の「15分」をコンパウンドして、
「ジューゴフン(LHHLL)」
と言っていた。
同じく『報道ステーション』で、「15人」をコンパウンドして、
「ジューゴ二ン(LHHHL)」
と言っていました。
4月21日朝日放送の羽谷直子アナウンサー「27日」を、
「にじゅーななにち」
と言っていました!オンエアーでアナウンサーが「にじゅーななにち」と言うのは、はじめて聞いたような気がします。これに関してはNHKのHさんも、まさに「4月27日」に、元・朝日放送アナウンサーで今はフリーになった赤江珠緒アナウンサーが、
「にじゅーななにち」
と言っているのを聞いてビックリしたと話していました。朝日放送ではラジオもあるので「にじゅーななにち」と言うことになっているのか?とABCのアナに聞いたところ、
「そんな指導はしていない」
とのことでしたから、単なる偶然なのでしょうか?
4月24日フジテレビ「すぽると」の男性ナレーターが、「15本」をコンパウンドして「中高アクセント」で、
「ジューゴホン(LHHLL)」
と読んでいました。
2007/4/30
(追記)

2007年九州場所14日目、力士の星取り紹介でNHKのアナウンサーが、
68敗(ハチハイ)」
と言っていました。
2007/11/26


◆ことばの話2849「メンズ」

報道と兼務となったNアナウンサーから、新しく見つけた言葉の報告です。
20代後半ぐらいまでの女性が、「若い男性の複数形」を、
「メンズ」(LHH)
と「平板アクセント」で言うと。「メン」でも男性の複数なのに、「メンズ」を「男の人たち」の複数の意味で扱っているのはおかしいのではないか、「新しい若者ことば」ではないか?と言うのです。ここで、それを耳にした20代の女性記者Sさんが、
「それを言い出したのは叶姉妹じゃないんですか?」
と、いっちょかみで噛んできました。そうか、そうかもしれないな。
もしかしたら、
「メンズ・ファッション」⇔「レディース・ファッション」
の「メンズ」が独立したのかもしれません。その場合に「ズ」は、アポストロフィーが付いた「所有のS(ズ)」なのに、「複数形のS(ズ)」の意味で使われるようになったのかもしれませんね。
ネット検索してみると、ありました、ありました!立命館大学関係の人の「若者言葉辞典」(http://www.eng.ritsumei.ac.jp/asao/courses/seminar/week07/wakamono_dic_02_asao.doc)
に、
「メンズ(名)男性を指す言葉。★複数ではなく一人だけに対しても使う。「昨日電車でめっちゃかっこいいメンズ見かけた〜!」
とあるではないですか!Nアナウンサーが言っていたのはこれですね。
今度、甲南大学の授業でも聞いてみることにします!
・・・ということで、聞いてみました。やはり10人ほどの女子学生は、
「聞いたことがある」
と、また数人の女子学生は、
「使ったことがある」
と答えました。男子学生は、
「何、それ?」
というような反応でした。
2007/5/1

◆ことばの話2848「氷をとかす旅」

2007年4月、来日した中国の温家宝首相の発言、
「氷を『とかす』旅」
の表記について新聞各社の表現は分かれました。新聞を見ると、
(読売)「解かす」
(毎日)「解かす」
(朝日)「溶かす」
(日経)「溶かす」
(産経)「とかす」
(新聞各社は「解」「溶」それぞれ温家宝首相の発言の内容を検討して使っているとのこと)
でした。産経新聞ではなぜひらがなにしたかと言うと、
『初めに出てきた原稿が「とかす」と「かな書き」。後に「融かす」が出てきて、中国では「融」が使われているとの説明もあったが、「融かす」は使えない訓であり、先に「とかす」でいったことを考慮して、以後「とかす」に合わせた。「雪を溶かす」と「雪解け」のように、「溶」と「解」の使い分けは紛らわしいこともあり、「とかす」と仮名で書いたのはよい判断だったと思う』
とのことでした。

放送各社も分かれました。それぞれ、同じ使い方をした会社で分けると、
<解かす>
(日本テレビ)=「溶かす」→「解かす」
最初「溶」を使っていたが、4月13日の用語委員会で「解」にする事になった。理由は「溶」は液体でとかす。「解」は雪・氷をとかす。の違いを知って「解」でいこうということで意見がまとまった。
(読売テレビ)=「解かす」
理由は、本物の氷を溶かしにきたのではなく、氷に例えたわだかまりを解きにきたので、「解かす」にした。
<溶かす>
(テレビ東京)=「溶かす」
理由は二つ。
(1)温家宝が中国語で「溶」という漢字を使っていた。
(2)「氷を溶かす」という比喩を使うことによって「わだかまりを解かしに来た」という意味を表している。ゆえに原語の比喩のまま、忠実に表記するのが自然だと判断した。
(共同通信)=「溶かす」
「溶かす」は人為的にというか積極的、能動的にとかすことで、「解かす」は自然にとけるとのニュアンス。共同では「融かす」とは読めないため不可。
(フジテレビ)=「溶かす」
「融」はとらず「溶」と「解」だが、新聞協会の用語集によると、
「解かす(自然に)」「溶ける(人為的に)」
なので「溶」とした。
(静岡放送)
「氷をとかす旅」の「とかす」だが、SBSはローカル局なので、TVではネット受け以外扱っていない。ラジオは基本的に共同を使っているが、音声だけのため、問題にはならない。ただ、共同原稿は「溶かす」を使用していたと記憶している。個人的見解では、この場合「解かす」が良いかなと思う。理由は、
 ・「溶かす」は、液体の中にとけこませる・固体を液状にするという意。
 ・「解かす」は、ほどく・取り除くの意
この場合の温家宝首相の真意であろう「日中間のわだかまりを取り除く」という意では「解かす」がふさわしいと思う。
<溶かす・解かす>
(TBS)=「溶かす、融かす」が混在(原稿上)
「融」は中国側の言った言葉として使っている。結論的に中国の字では「融」かもしれないが、常用漢字の音訓に「融」(とかす・とける)とは読まないので、「溶・解」を使ったようだ。(なお月16日に用語懇談会・関東幹事会があり、その席で「テレビ朝日」の委員から同様の質問が出た。)
(NHK)=「溶かす」「解かす」「とかす」が混在、で主に「溶かす」。
<融かす>
(テレビ朝日)=「融かす」
温家宝首相が「融氷の旅」と言っているので協議の結果「融かす」と統一した。
(関西テレビ)Oアナの私見=「融かす」でなければ、次善の「解かす」
原文は、「融氷之旅」だったと思うので、本来は「融かす」だと思うが、あまり見ない。「溶かす」は、あるものに混ぜ込んでしまうこと。もしくは熱を加えてとかす(熔かす)こと。「解かす」は解氷。氷が、とける。格別の熱を加えることなく、どちらかといえば自然にとけるといった感じがする。だから「融」でなければ、次善の「解」といった感じ。

というような回答を用語懇談会の各委員の方から貰いました。ありがとうございました。日本新聞協会の金武氏は、以下のようにコメントしています。
『新聞用語集』には、
「氷が解ける」「雪を溶かして」
という用例があるが、
「(氷、雪を)解かす」という用例はない。「朝日」「毎日」の用語集も同様。「共同」の用語集は、
「雪・氷を溶かす」「雪・氷が解ける(自然現象)」
とある。これらは「溶ける・解かす」を使い分けているようだ。
しかし『読売スタイルブック』は、
「日光が氷を解かす」「氷・雪が解ける」
と、雪・氷についてはどちらも「解」で統一している。
私の語感では『新聞用語集』の用例の方が、「違和感がない」のだが、『三省堂国語辞典』には、
《解かす・融かす(1)〔雪や氷を〕解けた状態にする》
とあるし、『現代国語例解辞典』『日本語新辞典』にも、
「氷を解かす」
の用例があるので、「氷を解かす」が間違いとは言えない。
「読売」のように対象が同じものなら「自動詞、他動詞」を統一するのも覚えやすくてよいかもしれない。
(※フジテレビ、テレビ朝日、日本新聞協会・金武氏に関しては、他社からの報告による)

ということで、一つの言葉をめぐってもこんなに表記が分かれるなんて・・・日本語って自由と言うか、本当に難しい言葉なんですねえ・・・。
2007/4/30


◆ことばの話2847「発砲音と銃声」

4月20日、東京・町田市のアパートに拳銃を持った暴力団組員が立てこもる事件が起きました。それを報じた夕刊各紙の見出しは、「読売」が「ろう城」を使った以外は、「朝日」「毎日」「産経」「日経」は「立てこもり」でした。
ところで、この事件の報道で「ピストルを発射した音」のことをどう表わしたかについてを見てみると、
(産経)銃声
(読売)発砲音
(朝日)発砲音
(毎日)発砲音
(日経)発砲音
と、産経を除いて各社「発砲音」でした。この「発砲音」という言葉、意味はわかりますが、聞き慣れませんね。Google検索では(4月20日)、
「発砲音」=2万7800件
「銃声」=51万6000件
でした。圧倒的に「銃声」の方が多いですね。もしかしたら「発砲音」は新しい言葉かもしれませんね。
ときどきこれらが混同したのか、「銃声音」なんて言葉を使うのも耳にしますが、これは重複で間違いでしょう。4月17日のテレビ朝日「報道ステーション」で、
「27発の銃声音が聞こえた」
「ジューセーオン」と言ってました。応検索すると、
「銃声音」=1万0500件
でした。結構使われているなあ・・・・。
日本テレビの男性アナウンサー(かな。記者かも)は20日の『ニュース・リアルタイム』の中継では、
「拳銃の発射音」
と言っていました。「発射音」を検索すると、
「発射音」=6万9300件
でした。同じ番組のVTRで男性ナレーターは「銃声」を使っていました。
2007/4/20
(追記)

「発砲音」「銃声」に関して各新聞社などの新聞用語懇談会委員の方にメールで伺ったところ、このような返事が返ってきました。
(読売)
どちらかを適切でないとする根拠はないように思う。記者が書いてきた表現をもし、デスクや整理・校閲段階で直すとしたら、たぶんに主観的な判断によるものではないか。あくまで、個人的な感覚だが、「銃声」は「声」の語感からか、「森の奥より銃声聞こゆ」(石川啄木)「銃声の証明」(尾崎豊)といった連想からか、「発砲音」に比べ文学的な匂いがして、「発砲音」の方が、ニュートラルで新聞文章にはふさわしい気もするが。
それから当然のことながら「銃声」は「銃」に限定される。何を撃ったのか分からないときは(まさか大砲ということはないだろうが)、「発砲音」が無難かもしれない。一方「拳銃の〜」と来たら、「銃声」では「重言」になってしまう。

(毎日)
社会部デスクによると「厳密には使い分けていない」そうで、立てこもり事件では「発砲音」も「銃声」も出てくる。ただ警察は「発砲音」を主に使っているようで、それを受けて毎日新聞の地の文では「発砲音」、住民談話などでは「銃声」としていたようだ。

(産経)
大砲等を撃つのなら別だが、拳銃の場合には「銃声」「発砲音」の使い分けは、まったくない。たまたま「銃声」で出稿されただけの話で、「発砲音」で出てくればそれを通していたはず。確かに私たちも口頭語では「銃声」という方が多いかと思う。

(共同通信)
使い分け基準はない。共同のハンドブックでは、「発砲」は「銃、砲弾などの発射」として「発砲事件」の用語をあげている。先の立てこもり事件の際の、記事、速報などを点検してみると、「発射音」「銃声」「発砲音」いずれもあった。弊社の用語委員長は、
「『銃声』は文字通り銃の発射音だが、それ以外やはっきりしない音は『発砲音』ではないか」と言っている。また、比較的大きくない「バズーカ砲」などの火器などは「発砲音」で、「ミサイル」など大きめは「発射音」ではないか。
といったことで、各社と特に定めはないようですが、やはり「発砲音」は、固い書き言葉という感じがしますね。
2007/4/25


◆ことばの話2846「十分な安全対策を怠った」

3月20日、夜9時54分頃のNHKのニュース。美浜原発の事故に関してのニュースの中に、
「十分な安全対策を怠ったとして」
という一文がありました。これは、「十分な」がなければ、
「安全対策を怠ったとして」
となってこれでいいと思いますが、「十分な」がつくと、なんだかおかしい。ちょっと、わかりにくいのです。よりわかりやすい、筋の通った文章にするならば、
「安全対策を【取ることを】怠ったとして」
「取ることを」を補う必要があるのではないでしょうか?このままでは、
「十分な原稿のチェックを怠った」
という感じがします。あ、
「十分な原稿チェックを【行うことを】怠った」
と言うべきでしょうかね。文章意はむずかしいですねエ。
2007/4/28
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