◆ことばの話2805「宇宙っぽく」

先日『情報ライブ・ミヤネ屋』で「スペース・デブリ」という「宇宙のゴミ」の話題を取り上げました。中国が古い人工衛星「風神1号C」を撃破したということを受けて、その人工衛星の破片が「宇宙ゴミ」となり、他の衛星を破壊する恐れがあるという話です。
そのナレーションを担当したのですが、ディレクターからの要望は、
「宇宙っぽく読んでください。」
え!・・・宇宙・・・っぽく・・?
これはアナウンサー生活20数年で、初めて聞いた要望でした。宇宙っぽくねえ・・・。
なんとなく宇宙空間が思い浮かぶような、あまり抑揚をつけないで、低音で緊張感を持って・・・そんな感じで読んでみたのですが、あれでよかったのかなあ。
でも、肝心の映像で「宇宙っぽい」のは最初の10秒ほどで、あとは国際会議の映像や、どこかの国の政治家の映像ばかり。「宇宙っぽく」読む必要があったのかなあ・・・・?
2007/2/12


◆ことばの話2804「イカとっくりといか徳利」

京都の丹後地方では、イカを膨らませて作る「とっくり」作りが最盛期とか。2月7日の読売テレビのニュースで、そう伝えていました。そのイカで作った「とっくり」の表記が、昼と夕方の番組で異なりました。お昼の『ニュースD』では、
「イカとっくり」
夕方の『ニュース・スクランブル』では、
「いか徳利」
でした。さあ、どっちが正しいの?Google検索(2月7日)では、
「イカとっくり」= 605件、 「いか徳利」= 1810件
「いかとっくり」= 1030件、 「イカ徳利」= 1380件
「イカトックリ」= 242件、 「いかどっくり」= 58件
「イカどっくり」= 50件、 「イカドックリ」= 37件
ということで、ネット上で一番よく使われているのは、
「いか徳利」
つまり、『ニューススクランブル』の表記が多数派というわけ。「徳利」は「当て字」ですが、なんとなく「お酒」と相性の良い、よくなじんだ当て字ということができるのではないでしょうかね。これに関してスクランブルの坂キャスターに聞いたところ、
「放送前にスタッフで表記について相談したところ、カタカナとひらがなのまぜまぜ表記は気持ち悪いという意見と、『イカとっくり』と書くと『ひったくり』みたいに見えるという意見と、『いか徳利』のほうが情緒があるとの意見があり、スクランブルではあえて昼ニュースとは違う、『いか徳利』としました。」
との事。なかなかきっちりと考えて“仕事”してますね。よしよし。
ちなみに『新明解国語辞典』では「とっくり」ではなく見出しは「とくり」でした。
もとはそうなんでしょうね。私は最初「いかどっくり」と「濁る」のではないかと思ったけど、どうも濁らないみたいですね。でも「おみきどっくり」とかは濁りますよね?
2007/2/7


◆ことばの話2803「都心のど真ん中」

2月5日、六本木で発砲事件があり、一人が死亡したという事件がありました。(その後、これは暴力団の抗争事件で被害が広がりました)その模様をリポートした日本テレビの鳥羽アナウンサーが、
「都心のど真ん中で」
と言っていたのですが、これは、
「炎天下のもと」
というのと同じような「重複表現」ですね。それも言うなら、
「都会のど真ん中で」
もしくはシンプルに、
「都心で」
となるところでしょう。ま、たしかに、
「都心も都心、まさに都心の一番中心」
と言うことならば、
「都心のど真ん中で」
も許容でしょうが、おそらくそのつもりでしゃべっているのではないでしょう。リズム、テンポでついポロッと、ということでしょうね。気を付けたいものです。
2006/2/7


◆ことばの話2802「妹を食べた」

1月25日発売の『週刊新潮』(2月1日号)の広告が読売新聞朝刊に載っていました。何気なくそれを見た私は、「おやっ?」と思いました。というのは、東京で、妹を殺してバラバラにしたとして逮捕された予備校生の記事の見出しが、
「『頭部』を抱いて寝た兄は
          『  を食べていた!』」
となっていて、「を」の前の部分が空欄(黒塗り)になっていたのです。ここにはどんな文字が入っていたのか?そしてなぜ一文字(おそらく)分、消されてしまったのか?その謎は、他紙に載っている広告を見て分りました。そこには、
「妹」
という文字が記されていたのです。つまり、『週刊新潮』の出稿は、
「妹を食べた!」
となっていたのを、読売新聞は受け付けず、他の表現に変えることを依頼したが受け入れなかったので、仕方なく「妹」の文字を削除したということなのでしょう。他の新聞は特に問題なくそのまま受け入れたのでしょう。なぜ「妹」だけ削除したか?もちろんとってもセンセーショナルな出来事で、表現そのものも扇情的ですが、一文字消すことでそれは解消されるのか?もし消すならば「を」も一緒に消して「妹を」の二文字を消せば、
「『頭部』を抱いて寝た兄は『食べていた!』」
となって、なにを食べていたかは分らないけれどもそれほど違和感なく、目を引くこともなかったのではないか?なまじ一文字だけ消して空欄が生じたために、
「何の字が消えたのだろうか?」
と読者の目を引きはしないか?という気がしました。こういったことは、たとえば「巨乳」という言葉を朝日新聞は認めていなくて「豊乳」に置き換えたり、今回のように「空欄」にするケースがあって、時々見られます。(平成ことば事情235「巨乳と豊乳」、260「こぼれるオッパイ」、1358「週刊誌の空欄」参照)
このことに関して、報道のSキャスターに、
「『週刊新潮』の広告、見た?」
と聞くと、
「ああ、『妹』ですか?」
と、やはり気づいていました。
それから5日後の今日・1月30日、出社すると、今度はSキャスター方から手招きして、
「ホラ!」
と見せられたのは、やはり読売新聞の朝刊。今度は『FLASH(フラッシュ)』(光文社)の2月13日号の広告です。そこには、5日前の『週刊新潮』と同じ事件の記事の見出しが出ていました。今度は、空欄はなかったのですが、
「妹を舐めた!」
となっていたのです。これは『フラッシュ』がそうなのかな?とも思い、他の新聞に載った『フラッシュ』の広告を見ると、毎日と産経は、
「妹を食べた!?」
になっていました。そして当の『フラッシュ』の表紙にも「妹を食べた!?」とありました。やはりおそらく、もともとは毎日と産経のように「妹食べた!?」だったものを、読売は「品位を欠く」ということで、
「食べた!?→舐めた!」
に変えるように要請してこうなったのでしょう。その下の小見出しが、
「狂気の”唾液”現場スクープ写真」
とありますから「唾液」関係から言うと「舐めた」の方が適当であるという判断だったのかも知れませんね。でもなんだか「舐めた」の方がヘンな感じもしないではありません。「!?」も、読売では「!」1つになっています。なお、朝日と日経は『フラッシュ』の広告が載っていませんでした。
新聞の広告欄では、こういった攻防があるのですね。
2007/1/30

(追記)

2月9日の読売新聞に、
「渋谷・妹殺害 検察異例の否定」
という見出しで、
「一部週刊誌が報じた内容を事実無根だとして、捜査当局としては異例の苦言を呈した」
と出ています。2月5日の記者会見で東京地検岩村修二次席検事が、週刊誌の名前こそ挙げなかったものの、
「週刊誌などで遺体の一部を食べた、なめた、頭部を抱いて寝たなどと書かれているが、そういうことがあったと認めうる証拠はない。つまりウソということだ」
と批判したといいます。対象となったのは『週刊新潮』(2月1日号)、『週刊現代』(2月10日号)、写真週刊誌『フラッシュ』(2月13日号)で、東京地検は今回、起訴前に遺族にも、こうした報道は「事実ではない」と伝えていたそうです。これは裁判員制度を見据えてのことだそうです。そして、読売新聞は、
「読売新聞では週刊新潮と週刊現代、フラッシュの広告掲載にあたり、広告掲載基準の『醜悪、残虐、猟奇的な内容や表現で不快感、恐怖感を与えるもの』にあたると判断、各週刊誌側に見出し修正を求めた。フラッシュ側は応じたが、他の2誌側は応じなかったため一部を墨塗りにした。」
と「墨塗り」にした事情と背景を説明しています。また各週刊誌側の対応については、
「週刊新潮編集部は本誌(=読売新聞)の取材には回答せず、週刊現代編集部は『捜査当局による情報操作の可能性を指摘し、その影響と思われるさまざまな情報の流布につき、検証したまでのこと』、フラッシュ編集部は『記事に書いたことがすべて』と答えた」
と記していました。週刊誌の広告見出しの伏字に関する背景が、このような形で記事になるのは、珍しいことではないでしょうか。
2007/2/13


◆ことばの話2801「プラスの3度」

きょう、2月6日に開幕した札幌雪祭り。今年は暖冬のせいで雪が少なく苦労しているようです。札幌テレビの女性アナウンサーがお昼のニュースでリポートをしていました。
その中のコメントで、
「札幌は現在気温がプラスの3度」
と言っていました。それを耳にしたI部長が、
「ん?プラスの3度?『摂氏3度』でいいんじゃないの?」
と疑問を呈しました。
おそらく近畿地方では、この表現は使われることがないでしょう。でもこの季節、氷点下の気温が常識の北海道においては、「摂氏3度」と聞いてもそれが「摂氏マイナス3度」なのか「摂氏プラス3度」なのか確認する必要があるのでしょう。だから強調する意味で、「プラスの3度」というのではないでしょうか?
そして「の」のない、
「プラス3度」
だと、何度かにプラスで3度(足す3度)と間違えられる恐れがあるから、
「プラスの3度」
「の」を入れるのではないでしょうか?きっと北海道のアナウンサーにとっては常識のことなんでしょうね。


2007/2/6

(追記)

NHKの原田邦博さんからメールをいただきました。
「零度以下の気温について、NHKでは、原則は『氷点下○度○分』(○点○度は使わず)
場合によって「マイナス○度○分」も可としています。(零下は使いません)」
そして北海道でも4年勤務したという原田さんは、そのご体験から、
「(北海道では)冬になると、日常会話では『氷点下』や『マイナス』を省略して、
『けさは10度まで冷え込んだ』
などと言うことがありました。ですからプラスの場合は、あえて
『プラスの3度』
などと言っているのです。なお、『マイナス』には『○度○分』より、『○点○度』の方が付きやすいようで、以前行った『気温の言い方』についての『○度○分』か『○点○度』かという全国調査で、北海道だけすでに『○点○度』が過半数に達していました。」
とのことです。
情報、ありがとうございました!やはりある意味では「プラスの3度」という言い方は、
「寒い地方の方言」
と言えるのではないでしょうか。
2007/2/12
(追記2)

北海道出身の直木賞作家・佐々木譲直木賞受賞作で連作短編集『廃墟に乞う』(文藝春秋、2009、7、15第1刷・2010、1、20第2刷)の中の「復帰する朝」で、「プラス○○度」という表現が、2か所出てきました。
「日が落ちたとたんに気温は下がっていた。いまたぶん、プラス十度前後の気温だろう」(294ページ)
「翌朝も、帯広は快晴だった。ただし気温は低い。プラス七度か八度というところだろ」(312ページ)
やはり北海道では「普通」の表現のようです。
2010/3/15