◆ことばの話2785「ユニホームに腕を通して」

1月9日朝6時前の『ズームイン!!SUPER』の中のニュースで、ニューヨーク・ヤンキース入りが決まった元・阪神タイガースの井川 慶投手の現地での入団記者会見の模様が流れていました。その中で、髪を短くした井川投手の棒読みの英語にも驚きましたが、そのあとに出てきた日本語でのコメントで、
「伝統ある球団のユニホームに腕を通して」
と言っていたのですが、これは正しくは
「袖を通して」
ですよね。しかし画面上は、井川投手の言葉をそのまま、
「腕を通して」
と字幕スーパーしていました。
こういう、インタビューされた人の言葉が間違っている場合は、たいてい字幕の方で「正しく」修正を加えます。たとえばインタビューに答えた人の言葉が「ら抜き言葉」の場合、字幕は「ら」を補って、
「食べれる」→「食べられる」
「見れる」→「見られる」
「着れる」→「着られる」
という風にさりげなく修正されるのですが、今回は、そうなっていませんでした。
ところが!
その約30分後の6時過ぎの『ズームイン』のニュースコーナーでは、インタビューは同じものを使っていたのに、字幕は、
「袖を通して」
になっていたのです!さすが生ワイド番組、途中で誰かが気づいて、
「これは正しく直しておくべきだろう」
と修正したのでしょう。
でもこういった場合に、字幕を本人がしゃべっていることと変える、本人に対して失礼な気がしないでもないですね。かといって間違った言葉遣いをそのままスーパーでなぞると、「テレビ局の人間は、こんな間違いも気づかないのか!」
と思われるし・・・発言を字幕でなぞるのも、なかなか辛いですね。いっそのこと、こういった字幕でのフォローはやめるとか。なんとか手はないものでしょうかね。
なお、テレビ朝日のお昼のニュースのスーパーでは、井川投手のコメントどおり、
「腕を通して」
としていました。
また各新聞(1月9日夕刊)は、
(産経)「伝統あるユニホームに腕を通して緊張感があるし、これからやるぞという気持ちになりました。」(ニューヨーク・長戸雅子記者)
(日経)「伝統のあるユニホームに腕を通して緊張感がある。やるぞ、といいう気持ちになった」(ニューヨーク・時事)
(読売)「伝統あるヤンキースのユニホームで緊張感もあるし、やるぞという気持ちにもなった。」(ニューヨーク・下村征太郎、1月10日朝刊)
(朝日)「伝統あるヤンキースのユニホームに袖を通して、緊張感があるし、本当に『やるぞ』という気持ちになった」(宮田喜好)
(毎日)「伝統のあるユニホームに袖を通し、緊張感がある。」(ニューヨーク・高橋秀明)
ということで、日経はニューヨークにスポーツ担当の記者がいないのか、時事通信の記事を使っています。また読売は9日の夕刊では「長年の夢が実現した」「やるぞという気持ち」
と井川の発言の引用はその程度で、肝心の「腕」か「袖」の部分は巧みに回避しています。10日の朝刊でもそこはネグっています。誤まった使い方の言葉を直接引用するか、正しい表現に「直す」かの逡巡があったのでしょう。「なかったことにする」という作戦ですね。確かに大筋で意味は変わっていませんから、巧妙な手段と言えるでしょう。
全体を見ると、産経・日経は「腕」、朝日・毎日は「袖」。つまり産経と日経は、
「誤まった言葉の使い方でも、本人の発言を直接引用で使う」
朝日と毎日は、
「本人の発言でも、誤まった発言であれば修正する」
という姿勢のようです。
一方、本来テレビ「本人の発言を本人の責任として、そのまま流す」方向でいいのですが、スーパーで字幕フォローをすると、新聞と同じく「編集して修正するかどうか」の問題が発生したのですね。
「本人の言ったまま、間違ったままで載せる」「そんなことも知らないのか」と苦情が来そうですから、ここは一つ、「修正して出す」方がいいのかな。修正したからと言って、それで苦情が来るとは思えませんので。
2007/1/9


◆ことばの話2784「ザルツブルク」

ガンバ大阪の宮本恒靖選手が、移籍先のオーストリアの、
「ザルツブルク」
に到着、現地で記者会見を行ないました。
そのニュースを伝えた日本テレビ「ニュースゼロ」のラルフ鈴木アナウンサーは、最後の「ク」を濁って
「ザルツブルグ」
と言っていました。そこで、『新聞用語集』に載っている「外国国名と地名」を全部チェックして、「ブルク」とか「ベルク」とかいう名前の地名をピックアップしてみました。
その結果は、以下のとおり。
ザルツブルク(オーストリア)
サンクトペテルブルク(ロシア)
デュイスブルク(ドイツ)
ニュルンベルク(ドイツ)
ハイデルベルク(ドイツ)
ハンブルク(ドイツ)
ヨハネスブルク(南アフリカ共和国)
ルクセンブルク(国名、首都名:ルクセンブルク)

「ブルク」が付く都市が6つ、「ベルク」が付く都市が2つでした。
「ブルク」や「ベルク」「城壁」「城」「砦」というような意味だと聞いたことがあります。壁に囲まれた街が、中世における「都市」だったのでしょう。ドイツ系の都市が多いですね。「ブルク」にせよ「ベルク」にせよ、最後は「ク」と濁りませんでした。
これはわかりやすいけど間違いやすいので、要チェックです。ついつい、
「ハンバーグ」
のように、あるいは英語の発音のように「グ」と濁ってしまいがちですからね。
ちなみに、「ブルク」「ベルク」ではないけれども、なんだか似ていると思った地名もピックアップしてみました。
キルクーク(イラク)
ゲティスバーグ(アメリカ)
ナノルビク(ノルウエー)
ノボシビルスク(ロシア)
ハバロフスク(ロシア)
ペトロサボーツク(ロシア)
ペトロパブロフスク(カザフスタン)
ミンスク(ベラルーシ)
レイキャビク(アイスランド)

アメリカは、
「ブルク」→「バーグ」
になりますね。
2007/1/8
(追記)

ドイツのボン特派員を2度務めたドイツ通のH報道局長から、
「『ブルク』はたしかに『城』とか『砦』っちゅう意味だけど、『ベルク』は『山』だよ」
とご指摘を受けました。ありがとうございます。
2008/10/14


◆ことばの話2783「カラヤンのアクセント」

去年の12月8日の深夜、出張先の東京のホテルでベッドに寝転がりながらテレビを見ていたら、指揮者の佐渡 裕さんが出てきました。たしか私と同い年ですが、すごく貫禄がありますよね、この人は。関西出身だし。
その佐渡さんが、あの名指揮者「カラヤン」のことを、
「カラヤン(LHLL)」(Lは低く、Hは高く発音する)
「中高アクセント」でしゃべっているのを聞いて、「やっぱり!」と思いました。標準語のアクセントだと、
「カラヤン(HLLL)」
「頭高アクセント」なのですが、関西人は「中高アクセント」なのです。でも中高にすると、「カラヤン」の「ヤン」が、大阪弁で(たとえば)「中田君」のことを、
「ナカヤン」
と呼ぶような感じになってしまうんですよね。親しみやすいけど。「カラヤン」も(たとえば)、
「唐山(からやま)君」
を親しみを込めて呼んでいるように思えるんですけどね。でもやっぱり関西人は、親しみと尊敬の気持ちを込めて、
「カラヤン(LHLL)」
なんですよ、やっぱり!
2007/1/8


◆ことばの話2782「ごだいます」

年始にJR阪和線の特急「オーシャンアロー」に乗った時のこと。車内放送で男性の車掌の声で
「ありがとうごいました。」
「3号車4号車には出口はごいません。」
と言っているのに気づきました。はっきりと、ではないのですが、よく耳を澄ますと、
「ざ→だ」
になる「和歌山弁」(泉州弁)です。車掌さんの言葉にかすかに残る「お国訛り」に、ホッコリしたのでした。
この話を、たまたまアナウンス部にいた泉州地域出身の清水アナと川田アナに話すと、
「そんなことありませんよー!!」
と声をそろえて否定されてしまいました。
でもでも、本当なんだってば!
ウソだと思ったら、皆さんも「オーシャンアロー」に乗って耳を澄ましてください!
2007/1/9


◆ことばの話2781「ゆうどうろ」

1月6日、秋田空港の「誘導路」に、大韓航空機が着陸するという「事故」がありました。幸い、誘導路には待機している飛行機がなかったために、人身事故にはなりませんでしたが、誘導路は、滑走路の半分の幅(滑走路は60メートル、誘導路は30メートル)しかなく(長さは滑走路、誘導路ともに2500メートル)、重大な事故に繋がりかねなかったということで、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会が調査官を派遣して、原因の究明に乗り出しました。
このニュースを最初に見た(聞いた)時、
「ゆうどうろ」
が、私は最初、
U道路」
に聞こえました。T字路のようなものかな?と一瞬思いましたが、よく考えてみるとそんな道路はありません。でも、「音」だけ聞いて意味を考えなければ、ありそうな気もしてきます。つまり、
「ゆうどう・ろ」
と取るか、
「ゆう・どうろ」
と取るかという違いです。なぜそんな間違いが起こるか?おそらくこの原因のうちの一つには、
「長音が2か所も入っている」
ことがあると思います。つまり、この言葉は発音されると
「ゆーどーろ」
となって、最初の二つの音がともに長音で発音されます。そのために意味の切れ目がわかりにくくなって、「ゆーどー・ろ」になったり「ゆー・どうろ」に感じられたりするのではないでしょうか?アクセントはどちらも同じですし。
なぜ「誘導路」に着陸してしまったのか?原因究明は徹底的にお願いしたいと思います。
2007/1/9
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