◆ことばの話2780「赤本」

去年10月、所属する男声合唱団の一員として、豊中市制70周年記念のミュージカル「紙のピアノ」(作・山路洋平、作曲・前田憲男) に出演した時のこと。歌った曲「闇市ブギ」の歌詞に、
「エロ本、赤本」
と言うのが出てきました。闇市では金さえ出せばなんでもある、という歌詞の中にです。この「エロ本」はもちろんわかるのですが、
「赤本」
というのは何か?合唱団員の間で話題になりました。もちろん、
「大学受験の問題集」
ではないですよね。団員の一人から、
「共産党関係の本のことを、そう呼んだんじゃないの?」
という話が出て、「なるほど」と一旦は話が終わったのですが、後日、合唱団の会長である昭和28年(1953年) 大学卒業のT大先輩(うちの合唱団は大学のOB合唱団なので、卒業年度が常に語られるのです。そういう意味では「タテ社会」ですね。)からメールが届きました。
「昨日、赤本のことが話題になっていましたが、自信がなかったので口出しを避けていました。それで今日、『大辞林』とインターネットで確認しましたが、その結果をお知らせする次第。インターネットのアドレスは下記の通りですが『大辞林』でも、『赤本』とは、
『いかがわしい内容の本』
という意があります。歌詞にある『赤本』はこれに該当するものと思います。以上、念のため。」
http://wpedia.search.goo.ne.jp/searchlist.html?MT=%C0%D6%CB%DC&mode=0&kind=epedia

ネットの百科事典「ウィキペディア」には、3種類の「赤本」が載っていました。
「赤本(あかほん)」
(1)教学社(世界思想社)が発行している、大学・学部別の大学入試過去問題集の俗称である。正式名称は「大学入試シリーズ」。表紙が赤いことから、赤本と呼ばれている。(以下略)
(2)明治期から出版された少年向きの講談本・落語本で、表紙に赤系統の色が好んで使われ、内容も低俗とみなされたものの俗称。(以下略)
(3)江戸時代に子供向けに出されていた初期の草双紙の一種。
これによると、終戦後に出た手塚治虫の『新宝島』も「赤本」だったようですから、そういったものを指したのでしょうね、『紙のピアノ』では。
そのほか、
*「英俊社が出版する、主に近畿圏の中学入試・高校入試問題の過去問題集の俗称。」
*「アスキー出版局から発売された『FM TOWNSテクニカルデータブック』のFM TOWNSユーザーの間での俗称。由来は表紙の色が赤いことから。」
というのもあるようです。
言葉がシンプルなだけに、それぞれの分野や時代によって、「赤本」が別々に使われているようですね。
『新潮現代国語辞典』では、
「明治時代の少年の読み物で、表紙や口絵に赤・緑・黄・緑などの原色を使った、安価な書物。また内容が低俗で、製本・装丁の手がるな書物」
とありました。
『新明解国語辞典』には、
(1)昔話などを題材にした、営利の大衆向けの読み物。赤い表紙をつけて売り出された。(広義では、明治期観光の落語・講談本中、子供向けのものをも指す)
(2)俗悪・低級な小説本。(広義では、縁日などで売られる、内容のいかがわしいものをも指す)
(3)(俗に)大学別に編集した、過去の入試問題集。
となっていました。なかなか詳しいですね。
2006/1/8


◆ことばの話2779「どっぽうか」

年末に北海道に行った時のこと。列車が「東室蘭駅」に停車した時に妻が、
「室蘭と言えば、中学の時の友達が室蘭工大に行った」
と言いました。
「私立?」
「うううん、国立」
それを聞いて私は、
「いまは『国立』とちゃう(違う)ねんで。『独立行政法人化』やで。
と言うと、妻は、
「ああ、どっぽうか」
と言いました。え?どうっぽうか??まんじゅしゃげ?みたいなもの?
「何?それ?」
と聞くと、
「独立行政法人のこと」
と言うではありませんか。
「ああ、そうか。略語・・・というか、業界語やな」
と言うと、
「ええー、行政の人はみんな使ってるよ!」
とのこと。だからその業界(=行政)の「業界語」なんだってば。その業界の人は、その言葉が業界語かどうか、あまり気づかないものなんですよ。「気づかない業界語」か。
Googleで日本語のページで検索したところ(1月8日)、
「独法化」=12万1000件
もありました。ひらがなは、
「どっぽうか」=4件
でした。
ついでに「欧米か」は65万9000件もありましたよ、タカアンドトシ。
皆さんも、
「どっぽうか!」
と突っ込みを入れましょう!え?「か」が一つ足りない?気にしない気にしない!
2007/1/8


◆ことばの話2778「オーストリー」

昨年11月中旬、オーストリア大使館の商務部のサイトに、
(http://www.austriantrade.org/japan/our-office-in-tokyo/ja/)
「これからは国名のカタカナ表示を、これまでのオーストリアから『オーストリー』にする」
という記事が載ったのを、NHK放送文化研究所の塩田雄大さんに教えてもらいました。サイトを見てみると、カタカナ国名変更の最大の理由は、
「オーストラリアとよく間違われるから」
だそうです。うーん、たしかに間違うことがあるかもしれないけど、今頃変更すると、かえって混乱を招くのでは?と思いました。
さっそく新聞用語懇談会の事務局「対応はどうするのか?」と質問したところ、いろいろと調べてくれて、
「どうもまだ大きな動きではないようだ。駐日オーストリア大使は日本語が堪能ではなく、大使館の中でも足並みが揃っていないようで、新聞協会にもそういった要望はない。外務省も動く気配はない。」
とのことで、当面そのままにしておくことに。
そうこうしているうちに年が明けて、ガンバ大阪の宮本恒靖選手「オーストリア」1部リーグの「ザルツブルク」に移籍することになりましたが、その報道も、
「オーストリア」
でした。
今、(1月8日)改めて「オーストリア大使館商務部」のサイトを見てみると、なんと昨年11月 23日付けで、ペーター・モーザー駐日大使が、
「オーストリアの公式日本語表記変わらず」
と発表していました!それ(参考和訳)によると、
「オーストリア大使館は日本国外務省に対し日本語におけるオーストリア国名の公式表記の変更を要請していないことを明らかにする。表記の変更は専ら日本国の裁量下にあると認識している」
で始まり、
『たしかに「オーストラリア」と「オーストリア」が頻繁に混同されるのは、注意してもらいたいが、観光・文化立国「オーストリア」のイメージは既に確立している』
として、今回、
「任意的に会話ならびに日常的使用において、オーストリーを奨励するこの運動が、メディアおよび日本国民の間に大きな反響を呼んだことを歓迎する」
「わが国の日本語における公式表記 オーストリア が変わらないが、オーストリア大使館は 以前既に長年使われた経緯のある オーストリー が広く利用されることにより、『オーストリア』 が 『オーストラリア』 が混同される頻度を減らすことに役立つことと願っている。」
と締めくくっています。
うーん、結論は「これまでどおり」なんですが、中身を読むと「灰色決着」ですね。
そんなに「オーストリア」は、「オーストラリア」と間違われるんだろうか?言い間違いはあるとは思うけど。
結局、「大山鳴動、ねずみ一匹」ですね。
2007/1/8

(追記)

NHK放送文化研究所の塩田雄大さんが、このサイトを見て資料を送ってくださいました。
共同通信社用語委員会『用語委員会だより』第78号(2006.12.13発行)です。そこには、
「『オーストリー』で空騒ぎ 国名変更は撤回」
というタイトルで、この騒動の様子が載っていました。ネットのフリー百科事典『ウィキペディア日本語版』は11月中旬、項目の見出し、正式国名、記事中の国名のほとんどを「オーストリア」から「オーストリー」に変更したが、11月下旬に再度「オーストリア」に書き換えたことが記されていました。
「同ウェブには実際に関係項目を書いたと思われる人物のコメントも載っており、軽率に反応したことを後悔している様子だ」
と『用語委員会だより』は書いていますが、しかし、ウェブの良さは反応の速さ・腰の軽さにあると思います。変更されたらまた直せばいいのです。そのあたりは、活字とはスタンスが違うように思いますが、どうでしょうか?
なお、この騒ぎとは関係ないとは思いますが、小学館の『ビッグコミック・オリジナル』2007年1月20日号に連載されている、『イリヤッド〜入谷堂見聞録』(画・魚戸おさむ、作・東周斎雅楽)の舞台は、
「ウィーン・オーストリー」
となっていました。
2007/1/24


◆ことばの話2777「次々に」

ニュース原稿を読んでいて最近よく見かける表現に、
「次々
があります。それを見るたびに私は、
「『次々』ではないのか?」
という疑問を持ってしまいます。品詞で言うと、「次々と」は「副詞」ですが、「次々に」だと「形容動詞」のように感じます。だとすると「活用」できるはずですが、「活用」させてみると、
「次々な」「次々だ」「次々なら」「次々だった」「次々で」
というように、ヘンな感じになってしまいます。
『新明解国語辞典』では「次々」が見出しになっていて 「副詞」で、「次々」に続くのは「に」「と」となっています。「次々に」も認められているのか。でも用例は「次々」か「次々と」しか載っていません。
『新潮現代国語辞典』では用例に、ヘボンの『和英語林集成』から「次々に」をそのまんま載せていて、「次々と」は載っていません。うーん。
『明鏡国語辞典』「次々(に)」「次々(と)」の両方の用例を載せています。
『岩波国語辞典』では注釈として、
『助詞「に」「と」「の」などを付けて使う。「次々と事件が起る」』
と書いてあります。そうか。「に」とか「と」は助詞ですね。じゃあ「次々に」もOKなのか。
『三省堂国語辞典』の見出しは、「次々(に)」になっていました。用例なし。
『日本国語大辞典』では見出しは「継継・次次」とあり、一番目の意味の用例では「つぎつぎの」「つぎつぎは」「つぎつぎに」などがありましたが、これらは『宇津保物語』(970―999頃)から『浮世草子』(1712)までの古い用例。ここで問題にしているのは2番目の意味の「副詞」の方で、
『多く「に」「と」を伴って用いられる』
とあります。その用例は「次々」「次々に」「次々と」の例が載っていました。
私の語感としては「次々と」の方がいいんだけどな。まあ、しょうがない。
2007/1/8


◆ことばの話2776「2007年の読み方」

昨年12月の用語懇談会放送分科会で、
「『2007年問題』の読み方は、『ニセンななねん』か『シチネン』か?」
ということが討議のテーマに上がりました。その時は
「決めていないが『ニセンななねん問題』という読みが広がっているだろう」
という意見が大勢でした。また、
「『問題』が付かない『西暦2007年』は『ニセンななねん』か『シチネン』か?」
ということについても討議され、各委員からは、
「西暦は『ななねん』の傾向が強い」(TBS)
「報道は『ななねん』にしたい意向のようだ」(フジテレビ)
「『シチネン』が多い。若干名『ななねん』」(テレビ東京)
「取り決めはないが、アナウンス室長は『ラジオのために「なな」を残して欲しい』と言っている」(MBS)
「個人的には、(1)シチ(2)なな」(関西テレビ)
「私は『シチネン』と言うように教育されたが、今の若いアナは『なな』」(日本テレビ)
「『ニューイヤーコンサート2007』のように『2007言い切りの形』は『なな』」(NHK)
「個人的には『シチ』だが、他のアナウンサー10人は皆『なな』。社内は『なな』が優勢」(テレビ大阪)
というような意見が出ました。またNHKの委員から、
「今年(2006年)7月にネットで『放送で言う場合』と限定して20代〜80代に『国語力テスト』でアンケートしたら、
(1)『なな』=40%   (2)どちらかと言うと『なな』=30%
ということで『なな』が大勢ではある。」
というような例も紹介されました。またこれは前回までの懇談会でのことですが、「シチ」を強く主張する委員の中には、
「シチ(7)とイチ(1)を混同するようにしか読めないのは、プロのアナウンサーとして失格ではないか」
という厳しいご意見も出ました。確かにそう「あるべき」なのですが、私はその一方でこうも思いました。
「イチとシチの区別が出来ない人はアナウンサーじゃないというのは一理あるが傲慢。なぜなら、イチかシチか判別するのは視聴者だから。聞き取れない恐れがあるなら、その危険性を回避すべきではないか。」
特に音声のみのラジオでは、聴取者への配慮が欠かせないでしょう。
ということで、正しくは「シチネン」だろうけど、世の中の大勢は「ななねん」で、特に関西では、そしてラジオを持つテレビ局では、視聴者・聴取者の皆さんが聞き間違わないように「ななねん」というのが優勢 であるということですね。
その後、「7」の読みに関して言うと、12月8日深夜に放送していたTBSの『ニューイヤー駅伝2007』のスポットコマーシャルでは、
「ニューイヤー駅伝2007(なな)」
2007(なな)年元日」
と男性ナレーターは読んでいました。そのあと中島美嘉出演の
『NANA』
の映画のCMをやっていました。これも
「ナナ」
でした。当たり前か。またパチンコ台
「羽根ぱちんこウルトラセブン」
のコマーシャルでは、
「7(なな)のつく日はセブンの日だ。」
と言っていました。
また、思いついたのですが、「台風7号」など、「7号」は「なな」で「シチ」とは言わないですねえ。
そのあとに見た12月13日の「ズームイン!!SUPER」の男性ナレーターが、池袋のメトロポリタンホテルで、ノロウイルスで食中毒患者が出たニュースで患者の数を、
「347人(ななにん)」
と言っているのを耳にしました。
また、2007年1月4日の夜放送の日本テレビ『石田さんチの大家族スペシャル』で、
男性ナレーターの羽佐間さん(?)は「2007年」
「にせんななねん」
と読んでいました。同じく1月4日の読売テレビ『ニュース・スクランブル』藤田勇人ナレーターも、
「にせんななねん」
でした。また、1月5日放送予定の『欽ちゃんの仮装大賞』のCMで、
「2007年のまくあけは」
というのを、男性ナレーターは、
「にせんななねん」
と言っていました。
1月4日夜の日本テレビ『ニュース・ゼロ』で、ラルフ鈴木アナウンサーは、
「にせんシチネン」
と2度、同じ番組のスポーツコーナーの男性ナレーターは、
「にせんななねん」
と2度読みました。また、1月7日の朝日放送「パネルクイズ・アタック25」の新春系列女性アナウンサー大会に出場していた長野朝日放送・平沢幸子アナウンサーは、
「にせんななねん」
と言っていました。まさかこんなチェックをされているとは思ってもいなかったでしょうね。だからこそ、自然体でそういっているかが分るというものです。どうも聞いていると「にせんななねん」が主流のようですね。
読売テレビアナウンス部では「どちらで読まなければいけない」とは決めていませんが、「放送ではどちらで読みますか?」とアンケートを取ったところ(回答者17人)、「2007年」は、
「ななねん」=12人(70、6%)
「シチネン」= 5人(29、4%)
で、ほぼ「なな:シチ」=「2:1」でした。「シチネン」と答えた人も、
「ふだんは『ななねん』です。放送の場合は『シチネン』とします」
とか、逆に、
「イチとシチが紛らわしい時は『ななねん』でもしょうがないかなと思う」
という意見もありました。
また「平成19年」は、
「じゅーキューネン」=14人(82、4%)
「じゅーくねん」=   3人(17、6%)
と、こちらは「キューネン:くねん」=「4:1」圧倒的に「キューネン」でした。
なお、『ニュース・スクランブル』のお天気キャスター大浦理子さんは1月8日の放送で
「ニセンななねん、イチおし」
と言っていました。
2007/1/8