◆ことばの話2770「ケージとゲージ」

12月21日の「ザ・ワイド」で、先月放送した徳島の「崖っぷち犬」のその後を取材・放送していました。今は保護されているのですが、その犬小屋の隣に、まったく同じような犬がもう一匹いました。崖っぷち犬が保護された前日に、ほぼ同じ場所で保護された犬なんだそうです。
ところがその2匹、まったく目を合わそうともしません。テレビのスタッフがいるからだろうということで、カメラだけを置いてスタッフが外に出たところ、10分後に崖っぷち犬は、のそりと立ち上がり隣の犬の方へ!目を合わすのかと思ったら、隣の犬を無視して小屋の外に出て行ってしまったのです。その様子を放送していて字幕で、
ゲージの外へ」
となっていたのですが、これは誤りです。正しくは、
ケージの外へ」
です。よく間違うんですよね、これ。
同じようなことはスポーツ関連でもあります。本当は、
「バッティング・ケージ
なのに、なぜか濁って、
「バッティング・ゲージ
と言ったり書いたりする人の多いこと!「ケージ」は「かご」ですが、「ゲージ」は「目盛り」ですから、明らかに違う。なんで間違っちゃうのかなあ。気をつけたいものです。
漢字で書くと「刑事」と「芸事」かな?ウソです。
2006/12/21


◆ことばの話2769「東寺とはぼたん」

12月21日、この日は京都では「終い弘法」の日です。
京都の東寺の境内で、弘法大師の月命日の21日に、毎月開かれる露店を「弘法さん」と言うのですが、1年の最後の弘法さんは「終い弘法」と呼ばれて、骨董品や植木などに加えて、正月用品なども売りに出されてたいへん賑わうのです。
そのニュースをお昼に読んだ私は、京都の「東寺」を、
「とうじ(HLL)」
「頭高アクセント」で読みましたが、午後2時のNHKの全国ニュースを聞いていたら、東京のアナウンサーが、
「とうじ(LHH)」
「平板アクセント」で読んだので、私としてはなんとなく違和感がありました。でも地元の人も平板で言うような気がしてきたな。たしか近鉄電車の車掌さんは、
「とうじ(LHH)」
「平板アクセント」で言っていた気がします。京都駅に行くのによく近鉄に乗るのですが。(本当のところはどうなんだろ?と思っていたら、午後3時のNHKニュースで、大阪のスタジオからニュースを読んでいた藤井彩子アナウンサーが、
「とうじ(HLL)」
「頭高アクセント」でリードを読み、本文部分を読んでいた京都放送局の男性アナウンサーも、
「とうじ(HLL)」
「頭高アクセント」で読んでいました。よしよし。)
そんなことが気になりながら2時のニュースを見ていたら、買い物客のおばあさんがインタビューに答えて、
「『はぼたん』を買いに来ましてん」
と言っていました。その「はぼたん」のアクセントが「頭高」で、
「はぼたん(HLLL)」
だったので、私はてっきり、兵庫国体のマスコットで観光大使にもなった黄色い鳥のぬいぐるみ
「はばタン(HLLL)」
を買いに来たのかと思ってしまいました・・・。『NHK日本語発音アクセント辞典』によると、標準語(共通語)の「はぼたん(葉牡丹)」のアクセントは、
「はぼたん(LHLL)」
という「中高アクセント」だけしか載っていません。しかし京都方言のアクセントでは、「はぼたん」は「頭高アクセント」なんでしょうね。京都らしいです。
あ、もしかしたら、兵庫国体のマスコット「はばタン」の人気が出たのは(出たんですよ、本当に。兵庫界隈では)、「京都アクセントの『はぼたん』」にアクセントが似ていたからかな・・・・なわけ、ないか。
2006/12/21


◆ことばの話2768「アとオの口」

なんと2008年入社予定のアナウンサーの採用試験をしています。入社まであと1年4か月もあるのに。対象は主に大学3年生。早すぎる気もしますが、東京のキー局はもうほとんど終わっています。
その受験者たちの発声を見ていたら、「お」の口の形が「あ」に近い学生がいました。
「口の形をしっかりしないと、正しい日本語の母音の音は出ないよ」
と注意したのですが、そのときにハッと、あることが頭をよぎりました。
以前、あれは「トリビアの泉」だったかで、
「おこそとのほもよろを」
「お段」の音を続けて言うと、
「俳優のえなりかずき君が『あかさたなはまやらわ』と言っているように聞こえる」
というのがあって、実際にやってみると、たしかに、えなりかずきが「あかさたなはまやらわ」言っているように聞こえたので、ビックリしながら大笑いしたことがあったのですが、笑い終わったあとに、
「なんで『えなりかずき』になるんだろう?」
と不思議に思っていました。その理由が唐突に分かったのです。
「あかさたなはまやらわ」と「おこそとのほもよろお」は、「行」はまったく同じで、「段」が違うのですね。「あ段」と「お段」です。で、「あ」の口の形と「お」の口の形は、「あ」の方が縦に大きく開けますが、それをややつぼめると「お」になります。違うのは、
「その母音の口の形の開きが、大きいか小さいか」
だけです。母音(あ、お)は唇の形で変わりますから、「行」はまったく同じなんだから、
「か行のk」「さ行のs」「た行のt」「な行のn」「は行のh」「ま行のm」「や行のy」「ら行のl」「わ行のw」
に関しては、「舌の形」が「子音」を決定してゆき、「あかさたなはまやらわ」と「おこそとのほもよろを」の子音=舌の形は、まったく同じだということです。
だから、「あかさたなはまやらわ」と「おこそとのほもよろを」は大変よく似ている。えなり君のちょっと籠もった「あかさたなはまやらわ」に聞こえるというのは、
「お段の音が、あ段に似ている」
ということを指していると言えるのです。
まとめましょう。
「子音は舌の形で作り、母音は口の形で作る!
だから、『おこそとのほもよろを』と言うと、えなりかずきが『あかさたなはまやらわ』と言っているように聞こえるのは、母音の口の形があいまいだから。『行』が同じ動き方をしているので『子音』つまり『舌の動き』は同じ。お段を言うと、あ段が籠もったように聞こえるのは、あ段とお段の動きは口の形、開き方の程度の違いに由来する。」
とまあ、こんなことが、自分の口の中を鏡でのぞかなくてもわかった、という話でした。
2006/12/21
(追記)

NHK放送文化研究所の塩田雄大さんからメールで、
「似たようなものに『こんとんじょのいこ』がある」
と教えていただきました。こんとんじょのいこ・・・あ、
「簡単じゃないか」
かあ!なーるーほーどー。字で見ると分りにくいけど、口に出して発音すると分りますね。
「こんとんじょのいか」
というのも、同じですね。また、これはえなり君ではないのですが、
「てめれめせけぜです」
というのも、「トリビアの泉」で以前やっていたそうです。これも全然わからない・・・あ、
そうか、
「田村正和です」
かあ!そうすると、えなり君は「あ段」を「お段」で発音し、田村正和さんは「あ段」を「え段」で発音していると、こういうことですね。おもしろいですねー。
2006/12/22
(追記2)

こういった言葉を自分で見つけました!
口をすぼめて
「タロイモー」
と言うと、ちょっとくぐもった、
「ただいまー」
に聞こえます!道浦俊彦でした!
2007/2/26


◆ことばの話2767「50平方メートル」

お昼のニュースを見ていたら、Nアナウンサーが火事のニュースで、
「50平方メートル」
を、
「ごじゅっ・へいほうメートル」
と読んでいました。これ、なんとなく違和感がありました。
と言うのは、「平方メートル」の前の「50」をどう読むか?ということなのですが、普通に読めば、
「ゴジュー平方メートル」
というふうに「ジュー」の部分を伸ばした形になりますよね。でも、ついつい「ごじゅっ・へいほうメートル」と詰まった形で読みたくなるんです。これが、
「50本」
ならば、
「ごじゅっぽん」(もしくは「ごじっぽん」)
と詰まった形で正しく、「ゴジューほん」は間違いと言えます。後ろに来る「本(ほん)」半濁音化して「ポン」となるからです。ところが同じ「ハ行」の音とはいえ、「平方メートル」の「へ」は「ペ」となって、
「ごじゅっ・ぺいほうメートル」
半濁音化は、もちろんしません。だから促音化はしないはずなのですがねえ。
おそらく、「10」のあとに「ハ行」の音が来ると半濁音化する、というのは正しいのでしょう。ただしその場合は「10」を、従来の正しい読み方である、
「ジッ」
と読むんですね。「ジュッ」という形は新らしい形です。だからその「ジュッ」という新しい読みに「ハ行」が来たとしても、促音化というのは、まだなじまないのでしょう。そのため、「ゴジューへいほうメートル」と読む方が収まりがいいのではないでしょうか。
「ごじゅう」と「ごじっ」との混同から、その後ろにくる単位(助数詞)が半濁音になるかどうかに、違いが生じるのだと思います。
2006/12/15
(追記)

12月20日、MBSのニュースで、10年目ぐらいの男性アナウンサーが、「30平方メートル」を、
「さんじゅっ・へいほうめーとる」
と読んでいました。
2006/12/21
(追記2)

先日、うち(読売テレビ)の新人のTアナが、ニュースで「20平方メートル」を、
「ニジュッへいほうめーとる」
と促音にして読んでいましたが、これはそのまま、
「にじゅー・へいほうめーとる」
でいいと思うとメールしておきました。
2007/1/24


◆ことばの話2766「何本」

大阪府下に違法な性風俗店は、260店以上あるんだそうです。
先日「ニュースリアルタイム」「情報ライブ・ミヤネ屋」で、違法性風俗店の摘発の特集のナレーションを担当しました。
その時に見た、違法な店舗型性風俗店摘発に入った大阪府警の捜査員の言葉は、次のようなものでした。
「これはなんや、出勤表か?売り上げ表か。今日は(客が)何本ついたかということやな」
これを聞いて思ったのは、こういう店では「客の数え方」は「何人」ではなく「何本」なのか!そ、それはやはりその仕事でこなすモノの数え方が「本」だからなのか???ということでした。
ま、しかし我々も、
「今日はナレーションの録音が5本もあってクタクタや」
と言いますから、「仕事」の数え方は「本」なのかな?
飯田朝子『数え方の辞典』(小学館)「仕事」を引いてみると、
「口、つ、人時、人月」
の4つしか載っていません。「本」はありません。
よく考えると「ナレーション録音」の数え方の「本」は、「ビデオテープに録音」するわけですから、
「そのビデオテープの本数=ナレーションの数」
になっているのですね。ビデオテープは巻き取ってあるけど、伸ばせば細長いから「本」で数えるんですね。ということはやはり、性風俗店の客の数え方が「本」なのは・・・・なんでしょうか?
うーん、どうなんだろう。『数え方の辞典』で逆に助数詞「本」を引いてみると、ものすごくたくさん載っています。(1)から(11)まで!う−んすごい!ちょっと見てみると・・・「本」
=<1>細長いものを数えます。
(a)「鉛筆1本」「傘3本」「紐5本」「樹木3本」など。数える物の横の長さに対して縦の長さが1:2程度なら「個」、横:縦の比が1:3程度だと「本」で数えます。
(b)中身が入っている細長い容器を数えます。「缶ジュース1本」「消火器2本」「ビール1本」
(c)高層ビルやタワーなど、大きいが細長いと感じる建造物を数えます。「橋2本を架ける」「副都心の高層ビルが遠くに4本見える」「タワー3本」
(d)トンネル・井戸・油田などを数えます。
(e)細長いテープが巻き込まれているものを数えます。「カセットテープ3本」「ビデオテープ2本」「フィルム2本」

これがおそらく「ナレーションの数え方」に繋がったのでしょう。

(f)弦楽器・管楽器を数えます。「クラリネット2本」
<2>相手との交信を数えます。
(a)電話で交信した回数を数えます。電話はダイヤルをして、相手に要件が伝わった時点で「本」で数えます。「お祝いの電話が5本あった」

これなんか「仕事」っぽいですね。

(b)便りを数えます。主に消息を知らせる葉書や短い手紙などを数えます「都会に出た息子は葉書一本よこさない」

やめた!
(11)まで全部写すのは!皆さん、本を買って読んでください!
その(11)まで、ざっと読んで関係がありそうなのをいくつか挙げてみると、
*(文芸)作品や出し物、論文
*映画、テレビ・ラジオ番組
*広告・CMの数
*新聞や雑誌の項目、ニュースや話題の項目
*コンピューターやゲームのソフトウエアの商品
*販売者側から見た商品
*達成するのに時間や努力を要する課題(ノルマ、企画や計画)
あ、これだ!この最後の、
「達成するのに時間や努力を要する課題(ノルマ、企画や計画)」
というのが、違法性風俗店での客の数え方だ!
よかった・・・・○○の数で数えているのじゃなくって。ホッとしました。
それにしてもこの『数え方の辞典』はおもしろいねえ。
2006/12/15
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