◆ことばの話2735「映画『酔いどれ天使』の言葉」

10月に「紙のピアノ」という、豊中市の市民ミュージカルに出演しました。その際の「役」は、
「戦後の闇市で踊る男たち」
だったのですが、「衣装は自分で用意してください」ということでした。しかし、当時の闇市に来る人たちがどんな服装だったのか、生まれる前なので同時代的感覚では知りません。
たまたま読んだ『週刊文春』の小林信彦のエッセイで、
「闇市の風景を一番忠実に描いているのは、黒澤 明の『酔いどれ天使』と『野良犬』だ」という一文を見かけたのでさっそくレンタルビデオ店で借りてきてみました。もちろんモノクロの映画です。『酔いどれ天使』の公開は、昭和23年(1948年)です。服装の感想は、
「思ったよりも、パリっとしたきれいな服を着ている」
ということでしたが、それ以外にも、
「へえー、そうだったんだ」
と思ったことを、つれづれなるままに・・・。
*診療所の視力検査。一番上は左から、ランドル氏環が、「左あきC、ル、ヒ」カタカナだった。
「南新町マーケット」という看板の文字が、いまと同じように「左から右書き」だった。*「ダンスホール」がある。
*主人公の三船敏郎に対する言葉、
「どうした?ばかにふさいでいるじゃないか」
の中の、
「ふさいでる」
は、今はあまり使わない言葉だ。今なら、
「へこんでる」
と言うでしょう。「落ち込んでる」とか「元気がない」とか。
*ガード下の広告「ワカフラビン」「生活力ビタミン」と書いてあった。Google検索したら、出てきました、ワカフラビン。現在も売られているのか?実在の薬の広告だったんだ!
「うみたて玉子一ツ十八円」。
今、近くのスーパーで10個入りのLサイズの卵のパックが「208円」だった。Mサイズは「186円」。ということは「1個20円前後」。驚いたことに60年前と値段が変わらないのだ。物価は何十倍、いや100倍以上になっているだろうに。この映画の最後のほうで主人公・三船敏郎が死に、その葬式代が、
「6000円とちょっと」
というシーンが出て来る。先日どこかで読んだ、
「葬式代の平均は150万円」
というデータを信じると、葬式代60年間で「250倍」になっているのに卵は「1倍=同じ」。これってすごい!
もちろん、「テレビ」とか「電卓」とか「ヘッドホンステレオ」とか、その後進化した電化製品で時代遅れになった型の物は、昔何万、何十万円もしたものが数千円と、十分の一、百分の一になることはあるけれども、食品の値段で変わらないというのは、スゴイと思います。きっと「バナナ」もそういう食物のひとつなんじゃないでしょうか?
そんなところに注目して見ていました。
2006/11/29
(追記)

佐藤卓己『キングの時代』(岩波書店)を読んでいたら、1921年(大正10年)に、作家の吉川英治は、懸賞小説で得た「600円で母の葬式をした」のだそうです。
『酔いどれ天使』で三船敏郎の主人公「60000円ちょっと」で母の葬式をしたといっています。1948年(昭和23年)まで、27年経って、もちろん戦争で敗けたということもありますが、葬式代は「10倍」になっているということですかね。
2009/11/25


◆ことばの話2734「逸品と一品」

街を歩いているときに見かけたファミリーレストランの「のぼり」に、
「冬のぜいたくな逸品、フカヒレご飯」
とありました。この場合、
「逸品と一品の違い」
は、どういうところなのでしょうか?
「逸品」は「秀逸な品」ということですよね。「一品」は読んで字のごとく、「ひとしな」
「逸品」は「一品」に限らずに「二品」「三品」あることもあるけれども、「一品」は必ず「ひとしな」だということでしょうか。
問題は、「逸品」が「一品」の場合は、
「逸品」=「一品」
が成り立つのではないか?ということです。
先日、出張先の愛媛県松山市内をブラブラ歩いていたら、
「一品料理」
という看板をよく見かけました。この場合の読み方は「ひとしな」ではなく、もちろん「いっぴん」ですが、気持ちの中には、
「一品=逸品」
という気持ちがあるのではないでしょうか?
念のため、辞書を引いてみましょう。『日本国語大辞典』では、
「逸品」=特別にすぐれた品。一品(いっぴん)。絶品。
「一品」=(1)一つのしな。ひとしな。(2)他に類のない、特別にすぐれた品。第一等の品。逸品。絶品。
でした。やっぱり!「一品」の(2)の意味では、
「一品」=「逸品」
だったのですね!「絶品」もあったか。勉強になりました。
2006/11/29


◆ことばの話2733「1メディア」

助数詞の話です。
年賀状の写真の印刷を頼もうと、なじみのカメラ屋さんへ行ったときのこと。
最近はデジタルカメラが増えたことで、店頭にデジタルカメラのプリントアウトを簡単に自分でできる機械が置いてあります。そこに書かれていた言葉が、
「1メディア一回につき60枚以上、20%OFF。デジカメプリント。」
というものでした。
ここで使われている「1メディア」の「メディア」というのは、「助数詞」ですよね。この「メディア」は別に「テレビ局」「新聞社」を指しているのではなく、フロッピーとか(もうそんな物は使われていないか)スマートなんちゃらとか、そういった、
「デジタルソース」
とでも言うんでしょうか(「おたふくソース」や「ブルドッグソース」は関係ありません)、
「記録媒体」
のことですね。それを指して、
「メディア」
と呼んでいるようです。
新しいメディアができるとそれに伴って新しい助数詞も増えるというお話でした。
2006/11/27


◆ことばの話2732「デニム」

10月16日(月)から、読売テレビの新アニメ、
「結界師」(月曜よる7:00から)
が始まりました。その放送に先駆けて、10月の11日に大阪で、第1話・第2話のプレミア試写会が開かれ、声優の皆さん(吉野裕行さん、斉藤梨絵さん、石井正則さん、和希沙也さん)が特別ゲストで大阪に来てくれました。
その司会を私が担当したのですが、皆さん大ハッスルで、なかなか楽しい会になりました。
その後、スタッフも含めて「お疲れさん会」が開かれ、私も参加させていただきました。
その席での出来事。
お座敷でスタッフなど30人ほどが参加しての会でしたが、某チーフプロデューサーが酔っ払ってワインのびんを倒してしまい、残っていたワインがこぼれて、斜め前に座っていた石井正則さん(アリtoキリギリス)のところにまで・・・。
それを見た吉野裕行さんが、
「石井さん、デニム大丈夫ですか!?」
と言ったのを、酔っ払いながらも私は聞き逃しませんでした。
「デニム(LHH)」
とは、明らかに、石井さんがはいていた
「ジーパン」
のことを指していました。我々の世代は、あの丈夫なインディゴ・ブルーのズボンを、
「ジーパン」「Gパン」
と呼びますが、私たちより若い世代や、同世代でもちょっとオシャレな人は、
「ジーンズ」
と呼びます。しかし吉野さん(1974年2月生まれ)のように、さらに若い世代でオシャレな人は、
「デニム」
と呼ぶようになってきているのではないか、と。東京だけかな?
アナウンス部の若手、新人の川田裕美アナと2年目の本野大輔アナに、
「なんて呼ぶ?」
と聞いたところ、
「『ジーパン』と言います」
という答えが返ってきました。よかった・・・・。
2006/11/29
(追記)

『現代用語の基礎知識2005年版』(自由国民社)の別冊付録Bの119ページ〜120ページ、「団塊と話す」という欄に「ジーパン」が載っていました。
「デニム地のカジュアルパンツのことを何と呼ぶかで、ある程度の世代が分かる。現在の20〜30代はジーンズまたはデニムと言う。それ以上の世代はジーパン。特にフォーク・ロックスターの影響で若い頃から履き習わして(ママ)きた団塊の世代は、この呼び方が変えられない。1972年から放送されたテレビドラマ『太陽にほえろ!』で松田優作が演じた名物キャラクター「ジーパン刑事」の記憶も強烈に残っているためだ。」
とありました。なるほどね。
2007/2/16
(追記2)

2008年2月11日の読売テレビお昼の『ストレイトニュース』の関西ローカルで、強盗の事件を報じていました。その中でエアガンを撃って逃げた男の人着(にんちゃく=人相と着衣)について、
「逃げた男はジーンズ姿で」
という一文がありました。これはおそらく警察発表をそのまま使っているのですが、これまでなら、
「逃げた男はジーパン姿で」
となっていたところだと思います。それが「ジーンズ姿」となったというのは、警察の発表する部署の人たちが、
「『ジーパン世代』から『ジーンズ世代』にかわってきたから」
ではないでしょうか?今後も、「ジーパン」と「ジーンズ」に注目します!
2008/2/12

(追記3)

2008年10月11日の日経新聞夕刊「TVの壺」(うん?どこかで聞いたような・・・)というコラムでエンターテインメント評論家という麻生香太郎さん(うん?どこかで聞いたような・・・1字違いで大違い?)がX−JAPANのYOSHIKIがテレビに出ていたことについて触れていました。そこで、
「昔、彼の女性スタッフのデニムのフロント部分がファスナーではなく編み上げになっていたのを思い出す。(当時、最先端だったのです)。今回のYOSHIKIのデニム姿もなにげないが実はワンウォッシュの加工ダメージデニム・・・・日本では入手困難だろう。」
「デニム」を使っていました。わかった!普通のものは「ジーパン」、かっこいいのは「デニム」と言うんだ、きっと!
2008/10/24
(追記4)

『ありふれた思い出なんてないさ』(沢野ひとし、新風舎) という本の中で、沢野さんが、
「紺色のズボン、ジーパンが大人も少年たちもとりこにした。単なる作業ズボンなのに、これほど魅力的な色をしたズボンはない。安保反対のデモをしている若者たちも、このジーパンと飴色をしたワークブーツを欲しくて仕方がなかった。新聞に、都内で不良どもに囲まれ、はいているジーパンを脱がされたという記事が出ていたぐらいである。」
と書いていました。これは1959(昭和34)年、沢野さんが高一のときの話です。もちろん、「ジーパン」です。
2009/3/17
(追記5)

普通の藍色のジーパンのことを、
「ブルージーンズ」
といいますが、これは「ジーンズ」しか合わないですね、「ブルー」がくると。
「ブルー・ジーパン」「ブルー・デニム」
合わない気がしますが、「ブルー・デニム」は今後出てくるかも知れません。(もう、出てるかも)。Google検索(4月9日)では、
「ブルージーンズ」=19万4000件
「ブルージーパン」=    283件
「ブルーデニム」 =13万7000件
でした。げ!もう「ブルーデニム」が「ブルージーンズ」に迫る勢いだ!ついでに、
「ブルージーン」=24万7000件
でした。「ブルージーン・ブルース」って曲もあったな。
2009/4/9
(追記6)

テレビで、竹内まりやさんの『人生の扉』という曲が流れていました。その歌詞の中に、
「君のデニムの青が」
というものがありましたが、この「デニム」は、いわゆる「ジーンズ」のことですよね、きっと。やっぱりおしゃれな人は「デニム」なのね。
2009/6/9
(追記7)

『おんなのひとりごはん』(平松洋子、筑摩書房:2009、3、20)所蔵の「ひとり焼き肉のハードル」の中に、
「カウンターから回りこんできたおばちゃんが丸椅子を引いてやり、黒いタンクトップにジーンズのミニスカートのママの背中を抱えこむ。」
「ジーンズ」が「生地」の意味で出てきました。「デニム」ではなくて。
2009/6/10


◆ことばの話2731「都下と都内」

平成ことば事情636「府下と府内」、1270「県内と県下」でも触れましたが、「東京都」のケースです。
『広辞苑・第五版』(岩波書店)を引いてみると、
「都内」(2)東京都のうち。特に、二十三区内。
「都下」(2)東京都下の略。東京都の管轄下の意。また、東京都管轄下のうち、23区を除く、市部・郡部・島の称。
と言うことなのですが、11月21日放送の日本テレビ「ニュースゼロ」で、11月18日にグランドオープンした東京都武蔵村山市と立川市にまたがる巨大ショッピングモール、
「ダイヤモンドシティ・ミュー」
を紹介していました。その中で、
「都内最大級の巨大ショッピングモール」
「都内武蔵村山市」
と、東京23区の中にはない「武蔵村山市」のことを、
「都下」ではなく「都内」
と表現していました。Google検索(11月22日)では、
「武蔵村山市、都下」=4万2100件
「武蔵村山市、都内」=8万6500件
でした。「都内」の方が多いのですね。「都内」の1番目に出てきたサイトも、ズバリ、
「三越、ジャスコ、シネコンが合体!都内最大級のSCが武蔵村山に完成『ダイヤモンドシティ・ミュー』」
でした。
従来「都下」とされていたところも「都内」と呼ぶのは、「都下」に含まれるちょっと差別的なニュアンスが嫌われたのかもしれませんね。
2006/11/24
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