◆ことばの話2730「天下茶屋」

11月22日の「ニューススクランブル」のナレーションに出てきた大阪の地名、
「天下茶屋」
を、北海道出身でもう19年も大阪に住んでいるSキャスターが、
「てんがちゃや(LHHHL)」(Lは低く、Hは高く発音します)
と読んだのを聞いた、神戸出身のWアナと泉州出身のKアナが同時に、
「てんがちゃや?アクセントがヘン!」
と言い出しました。確かに関西人は、
「てんがちゃや(HHHHH)」
と、全部高く発音します。
それを聞いて思い出したのは、(もうリタイアされましたが)大先輩で東京生まれ東京育ちのTアナ。現役時代、関西に住んで30年以上経っていたのに、「天下茶屋」を、
「てんがぢゃや」
「茶屋」の部分を濁って発音していました。その話をするとやはり東京出身のUアナが、
「てんがちゃやって、言いにくいんですよ。」
と言い出しました。「天下(てんが)」の濁音の「が」の後の「茶屋」は、どうしても濁ってしまうというのです。
そう言われてみれば「天下」は、単独だと普通は「てんか」と濁らないのに、それが「てんが」と濁るし、「茶屋」も「○○茶屋」という場合はたいてい濁るのに、これは濁らないということで、それが「連続攻撃」で来るから、ついつい間違ってしまうということでしょうか?
私も含めて関西で育った者は、「天下茶屋」という漢字表記を覚える前に、地名・駅名としてまず「音」で、
「てんがちゃや」
と覚え、その後も駅名看板の「ひらがな」でその上から知識として定着しますから、「てんがちゃや」を間違うことはありません。ある程度の年齢になって初めて「てんがちゃや」の漢字表記が、
「天下茶屋」
であることを知るのです。
子どもの頃、南海電鉄の沿線に住んでいた私は「てんがちゃや」について、
「なんだかガチャガチャした、『おもちゃのチャチャチャ』のように楽しいイメージ」
を持っていました。豊臣秀吉との関係などは、まったく知りませんでした。
目から入った言葉より、耳から入った言葉の記憶の方が強いのかもしれませんね。
2006/11/22


◆ことばの話2729「指づめ注意」

その昔(20年ぐらい前)、関西以外の土地の人から、
「やっぱり大阪はすごいねえ・・・」
と言われたことがあります。なぜかと聞くと、
「電車に乗ったら、ドアのところに『指づめ注意!』って書かれたシールが貼ってあるじゃない。あれってやっぱり、関西は『ヤ』のつく職業の人が多いから『指づめ』なんて言葉が普通に使われているんでしょ。」
え?だって「指をつめる」って「指をはさむ」ことだから、「ヤ」の付く職業とは全然関係ないのに・・・と当時、不思議に・・・不満に思ったことが何度もありました。
その後、マスコミなどでもこの
「指づめ注意」
が話題になったことから、
「共通語(東京)の感覚だと、この表現はおかしいのだ」
と、ヘンに自覚してしまった関西人の中では次第に廃れて、最近ではほとんど見なくなってしまいました。
ところが!
何年、いや何十年ぶりかで、昨日(11月21日)「指づめ注意」のシールを見たのです!
場所は梅田の「旭屋書店」の入り口。証拠写真を撮りましたのでご覧ください。


ね!こんなところに生き残っていたんですねえ!ちょっと感激。
2006/11/22

(追記)

これを読んだ2年目の五十嵐竜馬アナウンサーが、
「ボクも見つけました!写真、撮ってきました」
と、「大阪心斎橋・大丸」で見つけた「指づめにご注意」の表示の写真をくれましたので、ご紹介します。やっぱり大阪ではまだまだ街の中に生きているのですね!五十嵐のカメラの写真の方が、キレイだなあ。


2006/12/1


◆ことばの話2728「全幅」

11月19日、世界最大の旅客機、エアバス「A380」が成田空港に来訪したというニュースで、
「全幅80メートル」
という表現があり、某局のナレーターがこれを、
「ゼンハバ」
と読んでいたそうです。もちろん普通に読むと、
「ゼンプク」
ですね。「車の幅」のことを指す、
「車幅」
は「シャフク」ではなく、
「シャハバ」
と重箱読みしますけど。(『広辞苑』『新潮現代国語辞典』では「シャフク」で載っていますが。)
しかし「全幅(ゼンピク)」を辞書(『新明解国語辞典』)で引いてみると、
「全幅」=(「全面積」の意)あらゆる点でそのような状態にあり、それ以外の不純な要素はまったく認められないこと。(例)「全幅の信頼を置く(寄せる)」
という意味での「全幅(ゼンプク)」しか載っていませんでした。
この件について指摘してくれたNHKの原田邦博さんは、
「『全幅の信頼〜』などとの兼ね合いからも、『翼の部分の幅』とか『最大幅』とか言ったほうがわかりやすいような気もします。」
というご意見です。確かに。単に、
「翼の幅」
と言った方が、ずっと良いような気がします。「書き言葉」か「話し言葉」かという問題ですね。11月20日の朝刊各紙(大阪版)の表現を見てみました。
(読売) 翼幅約80メートル
(毎日) 全幅79、8メートル
(産経) 翼長約80メートル
(日経) 翼の幅は七十九・八メートル
*朝日新聞はエアバスの記事が載っていませんでした(載っていたかもしれませんが、見つけられませんでした)
ということで、「翼幅」「全幅」「翼長」「翼の長さ」と、4紙とも違う表現を使っていました。日経の「翼の幅」という表現が、話し言葉的には適当なのかな。
あ、でも「翼」という言葉を使うのなら、「幅」ではなく「長さ」か。そうすると、
「主翼の長さ」
という表現が適切なのかな?そうすると「産経」の表現が、一番いいのかな?
しかし意味はそのとおりでも「翼長」という言葉はどうでしょう?よく使われているのかな。なんだか、
「空飛ぶ恐竜」
の翼の長さのようですね。Google検索(日本語のページ、11月20日)では、
「翼長」=6万8400件
と思った以上に多く使われていて、「セスナ」や「グライダー」などの飛行機で、この「翼長」が使われていました。スズメやシギといった「鳥」にも使われていましたが。そこで「翼長、飛行機」で検索してみたら、
「翼長、飛行機」=2万5200件
でした。
ここで『大辞林・第三版』で「全幅」を引いてみると、
「全幅」=(1)あらん限り。ありったけ。(例)「全幅の信頼」(2)(画面・紙面などの)はばいっぱい。
これも(2)のように思えるけどちょっと違う気もしますね。「翼長」も引いてみました。
「翼長」=鳥類の、つばさの付け根から末端までの長さ。
ん!?ちょっと待てよ。これに従うと、
「飛行機の片方の翼の長さ」
になっちゃうぞ!『日本国語大辞典』も引いてみました。
「全幅」=(1)はばいっぱい。画面・紙面・布面などの全体。(2)ある物事の領域の全部。あらんかぎり。(用例は省略)
うーん、この場合は(1)なのかなあ。「翼長」も引きました。
「翼長」=翼の長さ。特に鳥の翼の付け根から翼端までをいう。
やはり、片方の翼だけなのですね。そうすると飛行機でも、
「翼端から翼端」
「翼長」と呼ぶのは間違いと言わざるを得ないなあ。あ、そうだ、
「翼の全長」
で、どうでしょうか?Google検索では、
「翼の全長」 =54件
「翼の全長、飛行機」 =19件
でした。
2006/11/20


◆ことばの話2727「重傷と軽傷2」

「平成ことば事情646重傷と軽傷」と関連で、「重傷と骨折」の関係についての新聞記事の検証です。
2006年11月19日(日)、岡山県のJR津山線で列車が脱線し、乗客25人が重軽傷を負うという事故が起きました。これを報じた11月20日の各紙朝刊の、ケガに関する表現は、
(読売)胸の骨を折るなど2人が重傷
(朝日)腰の骨が折れた岡山県津山市の女性(62)ら3人が入院した
(毎日)2人が腰の骨を折るなどの重傷
(産経)60代の女性客2人が骨盤骨折などの重傷を負い
(日経)六十代の女性二人が腰の骨を折るなどの重傷
ということで、読売テレビの大阪府警キャップ(2002年4月当時)が「平成ことば事情646重傷と軽傷」で言っているように、
「骨折=重傷」
となっていますね。折れたのは「腰の骨」ですから、確かに重傷でしょう。読売だけ、なんで「胸の骨」なのかな?
この前日の毎日朝刊(11月19日)に載っていた事故の記事では、大阪市東淀川区で、荷物用のエレベーターが落下して1人が死亡、2人が重傷した事故の本文でのケガの表現は、
「他の2人も足を骨折するなどの重傷」
とありました。やはり足の骨でも「骨折=重傷」です。
さらに11月20日、京都府向日市で下校中の小学生の列に飲酒運転の軽トラックが突っ込むという事件がありました。11月21日の読売新聞朝刊の見出しは、
「下校の列、飲酒軽トラック」
日経新聞も、
「児童の列、飲酒軽トラ」
でした。「軽トラ」で「大トラ」なのか。容疑者本人は、
「酒は飲んだが、運転はしていない」
と、同乗者がいないにもかかわらず、わけの分らないことを供述しているようですが。
この記事のケガに関する表現は、
(読売)「2人は全身打撲などで重傷」
(朝日)「2年生の男児(いずれも8歳)が全身打撲などの重傷を負った」
(毎日)「2年生男児2人(いずれも8歳)が、足の骨折や顔を打つなどして重傷を負った」
(産経)「足を骨折するなどの重傷を負ったが、命に別状はないという」
(日経)「二人は足の骨を折るなどの重傷」
といずれも「重傷」ですが、「骨折」と書いているのは「毎日、産経、日経」で、「全身打撲」としているのは「読売と朝日」でした。
2006/11/21


◆ことばの話2726「パケホーダイ」

ケータイのコマーシャルを見ていて、これまでにも耳にしていたけど特に気にならなかった言葉が、急に気になりました。それは、
「パケホーダイ」
という言葉です。ハッと気づいたのは、これはつまり、
「パケ放題」
ということですから、意味は、
「パケット通信使い放題」=「定額制」
ということで、当然「携帯電話」ですから、
「かけ放題」
駄洒落なんだな、とそこに気づいたのです。「パ」と「か」が入れ替わっただけなんだな。だから、比較的気にならずにすんなりと耳に入っていたのだな、と改めて思った次第です。
以上、終わり!
2006/11/21
(追記)

よく考えたら、もっと身近な「○○放題」という言葉に、
「食べ放題」「飲み放題」
がありましたね。
「○○放題」の「○○」には、普通は「動詞の連用形」が入りますね。その場合、下一段活用の動詞だと、2つ目の○が「え段」になるので、「食べ」「かけ」のような形になり、たまたま「パケット」の最初の2文字をとると「パケ」と「え段」になったために、名詞の一部である「パケ」が入った「パケ放題」にそれほど違和感がないんだろうと思いました。ここから逆に「パケ」を動詞化すると、
「パケる」
になりますが、この言葉はまだ聞いたことがありません。
「ハゲ」と「ハゲる」の関係は、もともと「ハゲる」があって、その語幹部分が「ハゲ」という名詞になったので、この場合には当てはまらないでしょう。
2006/11/22

(追記2)

そう言えば昔、
「テレホーダイ」
というのがありましたね。
「いやあー照れるなあ、もうそれ以上言わないでよ、恥ずかしいよおおおおーー!!」
と言うものではなく、電話をかけ放題のプランだったのじゃないかな。
「ウィキペディア」によると、「テレホーダイ」は、
「テレホーダイとは、1995年よりNTT東日本・西日本が提供する、電話サービスのオプション(選択サービス)の商品名。深夜早朝の時間帯(23時〜翌日8時)に限り、予め指定した2つまでの電話番号に対し、通話時間に関わらず料金が月極の一定料金となるもの。俗に「テレホ」とも略称される。従来、接続時間による従量課金のみであった電話料金に、限定的ながらも初めて定額制を導入したという点で画期的なサービスであり、利用者のスタイルにも大きな影響を及ぼした。」
とのことです。定額制のはしり、ですね。1995年かあ、もう、ひと昔前の話なのですね。それが現在は「パケホーダイ」に変わったと。音声でのコミュニケーションが、文字(メール)でのコミュニケーションに変わった、と。この10年で日本人はもしかしたら無口になったのかも。話し方を知らない人が増えるわけだ・・・。
2006/12/11
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