◆ことばの話2715「公の前に」

11月15日、日本テレビ「ズームイン!!SUPER」で羽鳥アナウンサーが、西武の松坂大輔投手のメジャーリーグ入りの話題に関して、前日久しぶりにカメラの前に登場した松坂投手に関して、
「久しぶりに公の前に姿を現した」
と言った(と言うか、そういう原稿を読んだ)のですが、これも言うなら、
「公の場に姿を現した」
ですよね。もしくは、
「公衆の前に姿を現した」
なら分りますが・・・。こういった2つの表現の混ざって間違った表現を、
「混交表現」
と言います。たとえば、「大ケガをする」と「重傷を負う」が混ざった、
「大けがを負う」
とか、「明るみに出る」と「明らかになる」が混ざった、
「明るみになる」
とか、「火蓋を切った」と「幕が切って落とされた」が混ざった、
「火蓋が切って落とされた」
とか、「侃々諤々(かんかんがくがく)」と「喧々囂々(けんけんごうごう)」が混ざった、
「喧々諤々(けんけんがくがく)」
といったものもあります。気をつけたいものです。
話はちょっと変わりますが、先日、「関西ジャーナリストフォーラム」というパネルディスカッションのコーディネーターを担当した時、事前の昼食会兼打ち合わせの席で、新宮康男・関西国際広報センター理事長(住友金属工業[株]名誉会長、前[社]関西経済連合会会長)から、
「孫が『自分的には』というような言葉を使うが、あれは気持ちが悪い。最近はアナウンサーでもちょっとおかしな言葉を使っているようだが、社内で言葉に関する教育を、道浦さんなどが中心になってもっとできないものですか」
と言われました。
「一応やっては、いるんですが、なかなか一朝一夕には・・・」
と言葉尻を濁してしまいました。「自分的には」などという言葉が使われて問題になってからもう10年ぐらい経ちますが、ご年配の方の耳にも届くようになってきたということですね。もっと頑張って、言葉の教育を進めなくてはならないなと感じました。

2006/11/15


◆ことばの話2714「ブルッた」

地下鉄の駅を歩いていたら、柱の前で話をしていた若いカップルの女性の方が、
「ちょー、いまブルったから・・・」
と会話を中断してケータイを取り出しました。この、
「ブルった」
というのは、「ケータイのバイブ機能」のことですね。メールを受信したか、架電があったということのようです。女性は20代に見えましたが、これも若者言葉ですね、きっと。
Google検索したところ(11月15日)、
「ブルッた」=1870件
「ブルった」= 671件
でした。ただ、この全てが「ケータイがブルッた」訳ではなく、コワイ映画を見て「ブルッた」り、寒くて「ブルッた」りしているようです。「ケータイ」や「携帯」を一緒にキーワードに追加して検索すると、
「ケータイ、ブルッた」= 161件
「ケータイ、ブルった」= 131件
「携帯、ブルッた」= 710件
「携帯、ブルった」= 477件
「ケイタイ、ブルッた」= 6件
「ケイタイ、ブルった」= 16件
でした。

2006/11/15

(追記)

この言葉の起源はけっこう古いようです。と言うのも「ケータイ」より前の「ポケベル」時代から使われているようだからです。小林信彦『現代<死語>ノートII』(岩波新書、2000)の161ページに、「1995年に生まれた言葉」として「ブルってる」が載っています。女優の葉月里緒菜が出ていたニッポン放送の「ヴィーナス・タイフーン」のスポンサーが「NTTドコモだったと思う」が、
「ポケベルのCMでさかんに『ブルってる』と言っていた。昔は<怯えている>の意味だったが、ここでは振動型ポケベルの着信状態を指す。一般にはテレビCMで有名になった言葉」
と小林信彦が書いています。そう言えば「あ、ブルった!」って女の子が言うCMがあったような・・・。記憶って、すぐに(と言っても12年前だけど)消えてしまうものなんですねえ・・・呼び起こすこともあるけど。
2007/1/13


◆ことばの話2713「子宮卵巣セラピー」

先日、地下鉄の駅の円柱に張ってある広告ポスターに目が留まりました。そこには、
「子宮卵巣セラピー・シルクロード美顔術」
と書かれていました。
「子宮卵巣セラピー」???
一体どういうふうに「セラピー」を行なうのでしょうか?男はダメですよね、やっぱり?
えらいとこ、セラピーすんねんなー。
ためしにGoogle検索してみたところ(11月15日)、出るわ出るわ、なんと
「子宮卵巣セラピー」=4860件
も出てきましたよ、これが。
下記のアドレスのサイトには、
http://www.sweet-body.com/sikyu_ranso.html
「『ヨモギハーブ』の子宮洗浄/収縮の薬理効果と、子宮・卵巣への手技法によるアプローチで女性器の環境を整え、副腎と卵巣からの女性ホルモンの分泌を促し、女性としての魅力をアップさせます。」
と書かれていました。
女性って・・・大変ですね。尊敬します。

2006/11/15


◆ことばの話2712「直葬」

米原万里の『打ちのめされるようなすごい本』(文藝春秋)を読んでいたら、265ページに、
「直葬」
という言葉が出てきました。「直送」ではなく「直葬」。
「病院の霊安室から火葬場に直行すること」
だそうです。つまり告別式とかそういう「お葬式」をやらないのね!朝日新聞によると東京都内で4、5割がこの「直葬」なのだそうですから、驚きです。
インターネットで検索すると下記のようなページが見つかり、そこにはこうに書かれていました。
http://www.e-sogi.com/okonau/shurui.html
◆「直葬」(葬儀をしない、火葬のみ)
葬儀を行うことには法的な義務はありませんので、葬儀をしないことも可能です。葬儀をしない場合も、亡くなった場所からの搬送、納棺、安置、死亡診断書の提出と火葬埋葬許可書の取得、火葬が必要です。ですから、葬儀社への依頼が必要になり、費用もかかります。この場合、身内だけで火葬に臨みますが、火葬時に僧侶にお経をあげていただくこともできます。このような葬儀を「直葬」と呼ぶこともあります。この形を選ぶ人が増えてきています。

この10月27日に出版されたばかりの『大辞林・第三版』(三省堂)にも「直送」は載っていても「直葬」は載っていません。新しい言葉・・・と言うか専門用語なのでしょうね。
Google検索(日本語のページ)で(11月15日)
「直葬」=869件
でした。

2006/11/15


◆ことばの話2711「ガソリンスタンド、左」

先日、三重県の祖母を訪ねた時のこと。行きは私が車を運転し、帰りは妻が運転しました。ただ、この道に関しては私の方が詳しい。そこで助手席でしっかりとナビゲーターを務めました。1か所だけ、左折するところがわかりにくいところがあり、注意していました。
「(曲がるのは)次の信号?」
「いや、まだ先。もう少し先のガソリンスタンドがあるところだったよ」
と言いながら少し行くと、そのガソリンスタンドが見えてきました。行きしなに、伊藤忠の経営するガソリンスタンドで、レギュラーガソリンの値段が「131円」と書かれていたのを覚えていたのですが、まさにそのスタンドでした。そこで、
「あ、そこそこ。ガソリンスタンド、左!」
と言ったところ、妻は、
「ふーん。」
と、連れない返事。
「ほら、間違いないよ。伊藤忠のスタンドだし、レギュラー131円だし」
「ふーん、伊藤忠なの。珍しいわね」
という声が返ってくるだけで、車はそのまま直進しようとします!
「あー!!だからここ!ここを左に曲がるんだってば!」
「え!?えっ!??えっ!???」
と言いながら、交差点を行き過ぎそうになった車は、何とか車は左折しました。
「さっきから、ガソリンスタンドを左って言っただろ!」
と怒りながら言うと、
「『ガソリンスタンド、左』って、『ガソリンスタンドが左にあるよ』って教えてくれているのかと思ったんだもん」
「運転している人に『ガソリンスタンド、左』って言えば、もうそれは『左に曲がれ』ってことに決まってるやんか!誰が、左にガソリンスタンドがあることを教えるだけのために『ガソリンスタンド、左』って言うんだよ!」
とプンプンと怒っている私を見て、後ろの部座席に座っていた小学3年の息子が、ケラケラ笑っていました。まあしかし、映画『ゲロッパ!』(井筒和幸監督)をテレビで放送するから見たいと言ったら、
「カエルが出てくる映画なの?」
と言ったり、ハリウッド俳優のニコラス・ケイジが悪役を演じる映画の内容を説明したら、
「ふーん、刑事(ケイジ)さんなの」
と言った人ですから、しょうがないか。

2006/11/9
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