◆ことばの話2710「別条と別状」
「命に“ベツジョー”なし」
の「ベツジョー」を、あなたは漢字でどう書きますか?「別状」?それとも「別条」?
日本新聞協会の『新聞用語集』では、
「別条」
に統一となっていますが、NHKの用語辞典には、
「別状」
しかないと、今年の春先にNHKの原田邦博さんが教えてくれました。
用語幹事の金武さんによると、40年ほど前に統一したようです。ただ、現在では辞書やネット検索でも「別状」のほうが優位で、議論する価値があるようだ、と原田さんは言います。
その後、4月14日の昼ニュースで、札幌で高校生が母親の胸を刺す事件がありました。その際に札幌テレビのアナウンサーが読んだコメントは、
「命にベツジョウはないということです」
で、字幕は、
「別条」
でした。Googleで検索しました(4月14日)
「別状」=21万7000件
「別条」= 5万2200件
と、原田さんのご指摘どおり、ネット上では
「 別状>別条 」
のようです。せっかくだから最新の分も検索してみましょう。(11月7日検索)
「別状」=26万6000件
「別条」= 4万9000件
さらにその差は広がっているみたいです。ちなみに、
|
(4月14日) |
(11月7日) |
「命の別状なし」= |
656件 |
1380件 |
「命に別条なし」= |
600件 |
5580件 |
「命の別条なし」= |
**** |
0件 |
「命に別状なし」= |
**** |
534件 |
でした。
2006/11/7
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◆ことばの話2709「木枯らし1号」
今日、11月7日は、二十四節季の「立冬」。もう暦の上では冬です!早いものです。
さて、その立冬の日に、
「木枯らし1号」
が吹きそうです。(*吹きました!)気象予報士の米畑詩子さんが、「ズームイン!!SUPER」でそう言っていました・・・って、私も昨日(11月6日)の夜のニュースから、天気予報でそう読んでいたんですが。
さて米畑さんがそう伝えた際に字幕が、
「木枯らしピューピュー」
と出ていたのですが、これで思い出したのは、童謡「たきび」の歌詞。たしか、
「♪木枯らしピーピュー吹いている」
ではなかったかな?つまり「ピューピュー」じゃなく「ピーピュー」。
ネットでしらべてみると、そのどちらでもなく、
「♪きたかぜ ぴいぷう」
でした。そうか「ぴいぷう」かあ・・・。
ところで、「木枯らし1号」と認定されるための条件って、ご存知ですか?「木枯らし」というのは、
「晩秋から初冬にかけて吹く北よりの冷たい風のこと」
ですが、昔、お天気の小谷さんに教えてもらった基準(というか木枯らし1号の定義)によると、
(1)二十四節季の「霜降」(10月21日頃)から11月末までの時期で
(2)西から北寄りの風が
(3)風速8メートル以上
(4)気温が前日より6度以上低くなる
だったように思っていたのですが、私の記憶違いかもしれません、ネット検索で調べてみると、(1)はそのままですが(2)の風向は「北から西北西」、(3)は「風速8メートル以上」、そして(4)の気温は、「3度以上低く」だそうです。(この「気温」は、「絶対条件ではない」というような話も聞きましたが。)
要は「西高東低の冬型の気圧配置になることも必要」・・と言うか、そういう気圧配置のときに「木枯らし」は吹くんですよね。
そして今回、
「そうだったのか!」
と初めて知ったのは、この「木枯らし1号」というのは、
「関東と近畿だけにしか吹かない」
という事実です。「吹かない」というか、もう少しちゃんと言いますと、
「大阪と東京の気象台だけが『木枯らし1号』を観測の対象としている」
ということのようなのです。知らなかった!東北や九州や名古屋では「木枯らし1号」の発表はないんだ!ちなみに、台風と違って「木枯らし2号」「木枯らし3号」というのはありません。
また、平成16年(2004年)8月10日の「気象庁キャンペーン資料」によりますと、
東京における平成6年(1994年)から平成15年(2003年)までの「木枯らし1号」の記録は、以下のとおりです。
(日付) |
|
|
(最大風速) |
平成6年(1994) |
11月 |
4日 |
10、4m |
7年 (95) |
11月 |
11日 |
9、0m |
8年 (96) |
10月 |
26日 |
11、3m |
9年 (97) |
10月 |
27日 |
10、5m |
10年 (98) |
11月 |
5日 |
8、2m |
11年 (99) |
11月 |
16日 |
10、6m |
12年 (00) |
10月 |
18日 |
9、4m |
13年 (01) |
11月 |
6日 |
9、4m |
14年 (02) |
11月 |
2日 |
9、4m |
15年 (03) |
11月 |
17日 |
8、1m |
似たようなものに「春一番」がありますが、これは冬から春先に吹く風ですね。
これは、立春(2月4日)から春分の日(3月20日頃)までの間で、次のような気象条件が成り立つと「春一番」と発表しているようです。
(1)低気圧が日本海側にある
(2)南寄りの風が吹いている
(3)最大風速8m以上である
(4)最高気温が平年値または前日より高い
この「最大風速」はというのは「最大瞬間風速」ではなく「10分間の平均風速」の「最大」を言うとのことです。なおこの日(11月7日)、「木枯らし1号」が吹きました。
2006/11/7
(追記)
お天気担当の小谷さんに聞いたところ、
「『木枯らし1号』に関しては、わりとあいまい。昔は気温も3度以上前日より低くなるのも条件だったけど、最近は条件じゃない。『木枯らし1号』を観測しているのは、大阪管区気象台と気象庁の天気相談所の2か所だけなんだけど、気象庁の中での天気相談所の位置づけは、上から3番目。地震情報や大雨・少雨の情報よりは下位の位置づけなんだ。『春一番』も『木枯らし1号』と同じように天気相談所が観測してる」
ということでした。
なお、東京でも11月12日、「木枯らし1号」が吹いたと気象庁が発表しました。
午前4時5分に最大瞬間風速18.9メートルの西北西の風、10時24分に最大瞬間風速20.5メートルの北北西の風が観測されたということで、これは去年と同じ日に記録されたのだそうです。
2006/11/14
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◆ことばの話2708「短髪」
(ずいぶん古いですが)話2004年4月10日、ニュース原稿に、
「男は身長170センチぐらい、短髪で」
と出てきました。この「短髪」が耳で聞いた場合に分りにくいのではないかと思い、報道デスクと相談して
「髪は短く」
に直しました。そこでふと思ったのですが、
「長髪」
は、ちゃんと話し言葉になっていてなじんでいるんですが、「短髪」はそうなっていないですよね。つまり、
「非対称」
ですね。こういった例は、ちょっと違うかもしれませんが
「勝負強い」
に対する、
「勝負弱い」
があるかと思います。詳しくは『現代用語の基礎知識2007』(自由国民社)の「日本のことば」の項目(1262ページ)をお読みください。今年も執筆しました!
2006/11/6 |
◆ことばの話2707「ショウロンポー」
阪急百貨店の催事場からの中継を見ていたら、飲茶(ヤムチャ)の、
「小籠包」
を紹介していました。さてこの読み方は、
「ショウロンポー」?「シャオロンポー」?
どっちなんでしょうか?つまり「漢字の日本語読み」か「原語(中国語)の発音」を取るのか、さあ、どっち?という問題です。私が覚えているのは、
「ショウロンポー」
ですが。Googleで、まずは「漢字」で日本語ページを検索(9月21日)したところ、
「小籠包」=42万1000件
もありました。日本語のページなのにすごい数!続いてカタカナ表記(発音)を検索しました。結果は以下のとおり。
「ショウロンポー」= |
4万6200件 |
「ショウロンポウ」= |
8万6400件 |
「シャオロンポー」= |
949件 |
「シャオロンポウ」= |
1320件 |
「シャオロンパオ」= |
1350件 |
これによると「ショウロンポウ」が一番多いですね。「シャオロンパオ」の方が言語(中国語)には近いかもしれませんが、「漢字の日本語読み」に近い読み方が定着していると考えていいのでしょう。
そういえば、「餃子」はもちろんのこと(表記に関しては「平成ことば事情1766怒りも一入」をお読みください)、
「青椒肉絲(チンジャオロースー)」
も定着しているなあ。Google検索(11月6日)では、
「チンジャオロースー」= |
7万2600件 |
「ヨンヂャオロースー」= |
718件 |
「青椒牛肉絲」 = |
5万7900件 |
「青椒肉絲」 = |
9万8100件 |
でした。
ちなみに、10月13日にコンビニの「サンクス」の看板で
「ダイローパオ(大肉包)」
というのを見かけました。Google検索(11月6日)では、
「ダイローパオ」= |
6840件 |
「大肉包」= |
1400件
(日本語のページ。ウェブ全体では3万5100件) |
でした。なんだか、中国の料理の漢字表記で、現地の音に近いけど、そっくりそのままではない読み方が随分定着しています。常用漢字表には恐らく「包」を「パオ」とは読まないはずです。また「青島」を「チンタオ」と読むのが定着しているので、「青椒肉絲」の「青」を「チン」と読めるのでしょうかね?
2006/11/6 |
◆ことばの話2706「焼きカキか?焼きガキか?」
「カキ」のシーズンになってきました。水産物の貝の、
「牡蠣」
の話です。
兵庫県赤穂市坂越(さこし)の「カキ」を取材したKディレクターから電話がかかってきました。
「道浦さん、海のカキは、焼いたり蒸したりして食べる時は『焼きガキ』『蒸しガキ』と濁るんでしょうか?それとも濁らずに『焼きカキ』『蒸しカキ』でしょうか?」
という質問です。
うーん、難しいこと聞いてくるね。
「私なら濁るかなあ・・・でもまあ、どっちも間違いじゃないと思うけど、地元ではどう言ってるの?それに従ったら?」
と当たりさわりのないことを 答えておきました。
Google検索(11月7日)
「焼きカキ」= |
1万3200件 |
「焼きガキ」= |
2万5200件 |
「蒸しガキ」= |
3万5700件 |
「蒸しカキ」= |
661件 |
「蒸しカキ」だけは極端に少ないですね。「蒸す」時は濁るみたいです。
取材したKディレクターが、赤穂市漁業共同組合の組合長さんに話を聞いたところ、
「坂越のカキは、1年物の『1年ガキ』という。『焼き』も『蒸し』も濁って、『焼きガキ』『蒸しガキ』と言う」
とのこと。しかし、そのカキを料理として出しているお店の人に聞くと、
「濁るのも濁らないのも、どっちも言う」
とのことだそうです。カキとガキは難しいですねえ・・・。
2006/11/7 |