◆ことばの話2680「買い増す」

9月29日午前10時のNHK総合テレビニュースで、
「かいますことで」
というフレーズが出てきました。これは、
「(株を)買い増すことで」
ということだったのですが、聞いていたらアクセントが、
「かいます・ことで(LHHL・LHL)」
となっていたので、「買う」の丁寧体「買います」に「ことで」がくっ付いたような奇異な感じを受けたのですが、この「買い増す」のアクセントは、
「LHHL」(中高)
「LHHH」(平板)
のどちらでしょうか?
NHKアクセント辞典には載っていないし、手元の辞書を2、3引いて載っていたのは「日本国語大辞典」だけだったのですが。
いかがでしょうか?
とNHKの知人にメールで聞いたところ、こんな返事が。
『複合動詞の「〜増す」のアクセントについては、決めていないというのが実情です。「日本国語大辞典」の標準アクセントは中高の「LHHL」となっていますので、「買い増すことで」については、理論上は「LHHL・LHL」でもいいことになります。ただ実際はイントネーションの技術で、後半の「ことで」を「無アクセント」、いわば「LLL」のように読んでいることが多いのではないでしょうか。「ことで」の中高を強調しないようにするという工夫で、「LHL」の「H」を強めると不自然に感じるという意味です。
また平板の名詞につながるようなケース、例えば「買い増す場合〜」だったら、「LHHL・LHH」でも違和感はないと思いますので、「買い増す」のアクセントの問題ではなく、そのあとの処理しだいなのではないでしょうか。
なお「日本国語大辞典」では、「建て増す」について、「平板」「中高」の2つを認めています。」
なるほどー。少し専門的になりますが、たしかに「かいます」のアクセントよりも、あとの、「ことで」をことさらに「ことで(LHL)」と中高にするより、低い音をつなげて、
「ことで(LLL)」
とすると、違和感は逓減しますね。アクセント固有の問題というよりは、テクニック・読み方の問題だということでしょうかね。勉強になりました。
2006/10/20


◆ことばの話2679「おお満員」

10月19日「情報ライブ・ミヤネ屋」を見ていたら、芸能リポーターの女性が、
「おお満員」
と言っていました。それを聞いたアナウンス部員たちから、
「おおまんいんー!?」
と声が上がりました。
「満員にも、大(おお)とか小(しょう)とかが、あるのかい?」
「あるんじゃないの、そう言ってるんだから。普通は『超満員』って言うけどさ。『大入り満員』とか。」
「じゃあ、おおまんいん、ちゅうまんいん、しょうまんいん。だいまんいん、ちゅうまんいん、しょうまんいん。」
「その言い方は、やめてください!」
「なんで?いいじゃん」
「いやなんです!」
「(小さな声で)おおまんいん、しょうまんいん、ちゅうまんいん・・・」
「だーかーらー、やめてください、イヤラシイ。」
「なにがいやらしいんだよ。考えすぎだよ!」
「『ちゅうまんいん』って、何かありましたね。」
「それは、『まんちゅういん(満中陰)』や!」
「ああ、そうそう!」
と、アナウンス部が、しばし和んだのでした・・・。
2006/10/19


◆ことばの話2678「価額」

先日、国税局による「公売」に関するリポートをニュースで見ました。差し押さえた物件などを売って、税金の足しにするというものですね。
「なんと、ベンツが61万円!」
という見出しでした。安いなあ。
そのとき、「価格」という言葉のアクセントが、
「かかく(HLL)」
と頭高アクセントだったので、「ん?」と思いましたが、そのままになっていました。
数日経った10月19日、同じ「公売」に関して、総務省の広報番組で取り上げていました。その際にアナウンサーが、
「かがく(HLL)」
と頭高アクセントで、しかも濁って「科学」のように発音していることにI部長が気づき、
「さっきから2回、『かがく』と濁って言ってるけど、『かかく』じゃないのか?」
と質問。2回も言ったとしたら、もしかしたらこれは、濁る「かがく」が正しいのかも・・・と思い、辞書(新明解国語辞典)を引いてみました。すると・・・ありました「かがく」
「価額」=その物の評価に相当する金額。(法律では、特定した物・財産に対する金銭的価値を指す。例、「相続される土地の価額が決定される」)
ということで、この場合「かがく(価額)」と濁るのですね。
『NHK日本語発音アクセント辞典』によると、平板アクセントの、
「かがく(LHH)」
しか載っていませんでした。また一つ、言葉の使用例を覚えました。
2006/10/19


◆ことばの話2677「中国・外務省」

北朝鮮が地下核実験を行なったことについて、各国がコメントを出しました。その際に気づいたのですが、日本の外務省にあたる「中国の外交部」のことを、そのまま、
「中国・外交部」
と表現するのか、それとも日本になぞらえて、
「中国・外務省」
とするのか。「アメリカ」の、「日本の外務省」にあたる組織の呼び名は、日本では、
「国務省」
で統一だと思いますが。そこで、各社の用語委員会の委員の方にメールで聞いてみました。
結果は各社とも、原則として、
「中国・外務省」(「・」はあったりなかったり)
とする、でした。(共同通信「・(中ポツ)」なしの「中国外務省」)
ほかの中国の「部」も、日本の省に当たるものは基本的に「省」に直して使っているようです。ただ、コメントなどを引用した場合の「 」内は、そのまま「中国外交部」になっていることもあるようです。
韓国に関しては、「外務省」とする社(朝日新聞)と「外交通商部」とする社(TBS)
に分かれました。
また、そういった部署を「外務省」としない国「アメリカ、北朝鮮、台湾」(毎日放送)で、台湾は、国家扱いを避けるため「〜部・部長」のままとし、原稿上は「外相にあたる外交部長」としている(フジテレビ)ようです。
NHKも、画面で見ていると「中国外務省」のようですが、理念としては、
「『外交部』とすべきだ。なぜならば、指揮命令系統、責任範囲などが大きく異なることがあるので、日本のものになぞらえるのは危険が伴うから。解説などの場合は、説明を入れて、「この場合は日本の外務省に当たる」「この部分は日本では内閣府が担当している」などとすべきである」
という意見もあるようです。
記事のデータベース検索をしてくれた産経新聞はこの1年間に、
「中国(の)外交部」=8件
「中国(の)外務省」=172件
だったとのこと。「外交部」の8件には、談話をそのまま使ったと思われる文脈も多いとのことでした。また、
「キー局のTBSと共同通信が『中国・外務省』を使っているので、『中国・外務省』でOAしている、と思う。」
という毎日放送の場合、
「何かコメントを紹介するときには発言者の個人名をはっきり出すか、『外交筋』という表現を使っていることが多い。」
とのことでした。また、テレビ大阪では、
「中国・外交部」
を使っていて、あえて補足説明が必要な場合は、
「日本の外務省にあたる、中国・外交部では・・・」
などの表現にしているということでした。
ご協力いただいた各社の皆さん、どうもありがとうございました。
2006/10/20


◆ことばの話2676「口がコーヒーの口になってる」

コーヒーが飲みたい、コーヒーが飲みたい、コーヒーが飲みたーーーい!!
そういう時、
「口が、コーヒーの口になってる」
って言いませんか?
先日、冒頭のような気持ちになった時に、ポツリと独り言でそう言った自分に気付き、
「あれ?この『口が○○の口になってる』という表現って、ちょっと変わっているよな」
と思い、Google検索してみました(10月16日)。
しかし、「口がコーヒーの口になってる」では、きっちりと出てきませんでした。そこで、「コーヒーの口になる」で引くとたったの1件。「コーヒーの口」にはならないのかな?
うーん、じゃあ、他の「口」にしてみよう。
「ラーメンの口になる」=1件
やっぱりほとんどない。じゃあ、これは?
「カレーの口になる」=751件
おお、みんな「カレーの口」には、なるんだな!
と、書いていたら、カレーが食べたくなってきたので、この辺で・・・。

2006/10/16
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