◆ことばの話2670「猟官運動」

9月27日の読売新聞に、
「ズラリ入閣待望組〜安倍新内閣」「ケータイで一本釣り」
という見出しの記事が載っていました。その中に、
「あからさまな猟官運動が功を奏したケースも」
とありました。この、
「猟官運動」
という言葉、聞いたことはありますが、あんまり使うことはないなあと思って辞書(『新明解国語辞典』)を引いてみると、
「猟官」=官職につこうとして懸命に奔走すること。
とありました。10月2日のGoogle検索では、
「猟官運動」 =2万3500件
「猟官」 =3万3400件
と、けっこうたくさん「猟官」が出てきました。この新聞の場合は「大臣の職につく=入閣すること」が「猟官」の目的ですね。「りょうかん」という言葉の響きから私が連想するのは、
「良寛さん」
ですが、同じ「りょうかん」でも、随分違うものです。

2006/10/8


◆ことばの話2669「実家と帰省」

今年(2006年)の正月の話(古いなあ)、お正月休みどうしていたかをSアナウンサーに聞いたところ、
「12月31日までは北海道の実家に帰省していました。」
とのこと。この「実家」、本来ならば、
「嫁に行った女性にとっての親元の家」
であり、そこに帰ることを、
「帰省」
と言います。あるいは、東京で下宿している学生の親元が「実家」であり、そこに帰るのも「帰省」でしょう。しかし最近は、独身男性(以前より増えています)が「実家」に帰ったりするので、「帰省」も意味が拡大しているようですね。
「帰省緩和」
かな。◆ことばの話278「実家」もお読みください。

2006/9/12


◆ことばの話2668「大号泣」

Mアナウンサーが遠慮がちに話しかけてきました。
「あのお、最近気になる表現で『大号泣』っていうのがあるんですけど。番組のPRスポットで『女子アナ大号泣』というのを見たし、『なるトモ』の原稿やスポーツ紙の見出しなどでもよく使われているのを見ます。これっておかしくないですか?」
「そりゃ、おかしいね。『号泣』というだけで、既にものすごく激しく泣いている様子だから『大』をつけなくても・・。」
と答えましたが、Google検索では(10月2日)
「大号泣」=20万4000件
も使われているようです。最近の「感動」「涙」「泣いてストレス発散」のブームの中で「号泣」が使われすぎてしまい、
「もっと強調したい!」
という気持ちから「大」をつけた「大号泣」という言葉が出てきたのではないでしょうかね。
2006/10/6


◆ことばの話2667「内縁の妻・内縁の夫」

9月14日のお昼のうち(読売テレビ)のニュースを見ていたら、
「内縁の夫」
が絡んだものが出てきました。この「内縁の夫」を、読売新聞夕刊(9月14日)は、
「交際していた堀江美佳容疑者のマンションに」
その他の各紙夕刊は、
(朝日)「母親の交際相手」
(毎日)「明陽(はるひ)ちゃんの母親で石原容疑者と内縁関係にあった美佳容疑者」
(日経)「母親の内縁の夫の無職、石原昌好容疑者」
「産経」は記事が載っていませんでした。
「交際していた」「交際相手」「内縁関係にあった」「内縁の夫」
と様々な表現をしています。
その2週間後の9月30日、朝日放送テレビの夜のニュースで、高野純一アナウンサー(入社2年目のようです)が、
「大阪市大正区で、内縁の妻が夫を刺し、死亡させた」
という原稿を読んでいました。ここでは、
「内縁の妻」
という表現を使っていました。この表現については、随分前(恐らく6、7年前)に、新聞用語懇談会放送分科会の席で、
「『内縁の妻』という表現を使ってもいいのかどうか?」
という話が出たのですが(私が出しました)、その際に東京の用語委員から、
「最近はそんな表現は使わない。ニュースに出てこない。」
と言われたことがありました。関西の局の委員からは、
「そんなことはない、よく出て来る。」
という意見が出ていたのですが。やっぱり今も使われているのですね。
当時は「夫婦別姓」が社会的にも注目を浴びていたので、そういった状態の「夫婦」のことを「内縁の妻(夫)」と呼ぶのかどうか?ということだったと思います。実質的には「夫婦別姓」で籍を入れていない(作っていない)夫婦は、「内縁の妻(夫)」と同じですねからね。でも「内縁の妻(夫)」という表現には、
「なんとなく、後ろめたいような響き」
があるために、そういう言葉を使ってもいいのかということになったのだと思います。
そんなことを思っていたら、10月2日の朝刊に愛媛県宇和島市で、会社役員の男とその「内縁の妻」でその会社の社長が、臓器売買防止法違反の疑いで逮捕されました。この法律の違反で逮捕者が出たのは、全国で初めてのケースです。
この会社社長と役員の関係について、日本テレビ系列とNHKは、
「内縁の妻」
と伝えました。そして各新聞の表記(10月2日)は、
(毎日)内縁の妻
(産経)内縁の妻
(日経)内縁の妻
(朝日)内縁関係にあった
(読売)内縁関係で
でした。「内縁の妻」は使われていますし、「内縁関係」という言い方も使われていますね。
Hアナこの話をしたら、
「『内縁の妻』はいいとして、『内縁の子』っていう言い方はするんでしょうかね?」
という疑問が。
「内縁の妻の連れ子を『内縁の子』って呼べるかってこと?あんまり聞いたことがないなあ。『内縁』というのは、直接、夫とか妻にしか使えないんじゃない?」
と言いながら『新明解国語辞典』を引いてみると、
「内縁」=婚姻届を出していないために、法律上の夫婦とは認められない男女関係。
とありました。
ということはやはり「内縁の子」という表現は「おかしい」のですね。「内縁」は男女間にのみ使われる言葉だったのです。
2006/10/6

(追記)

10月8日、大阪市東住吉区で起きた昼火事で、一人で留守番をしていた坂本万燿(まよ)ちゃん(5歳)と見られる遺体が見つかりました。母親と、同居している男性の2人は外出していました。読売テレビでは、この男性のことを、
「同居している男性」
と表現しましたが、翌日朝刊各紙の表現は以下のとおりでした。
(読売)内縁の夫
(産経)知人男性
朝日、毎日、日経はこの男性に関しては言及がありませんでした。
2006/10/9

(追記2)

京都府長岡京市で、3才の男の子佐々木拓夢(たくむ)ちゃんが、母親に虐待されて餓死するという痛ましい事件が起きました。それを取り上げた10月23日の夕刊各紙では、この両親の関係をこういうふうに表現していました。
(読売)内縁の妻西村知子(39)容疑者
(産経)内縁の妻
(朝日)同居の女からの虐待
(毎日)同居の西村知子容疑者(見出しは「同居の女が虐待主導か」)
(日経)同居していた西村知子容疑者・内縁関係になり
と、読売・産経が「内縁の妻」を使い、それ以外は「同居の女」「同居の」「同居していた」(日経は本文の中では「内縁関係になり」という表現もあった)になっていました。
2006/10/23

(追記3)

2007年1月26日、「追記」で書いた長岡京市の事件の一審判決が出ました。父に懲役5年6か月、その内縁の妻・西村知子被告に懲役6年です。それを報じた各紙夕刊の見出しと本文での「内縁の妻」の表わし方は以下のとおりです。
  (見出し) (リード・本文)
(読売) 内妻に懲役6年 内縁の妻
(産経) 「犯行あまりにも残酷」
父5年6月 内妻6年
内妻
(朝日) 内縁の妻懲役6年 内縁の妻
(毎日) 義母に懲役6年実刑 内妻
(日経) 同居の女懲役6年 同居の西村知子被告
でした。毎日は「義母」と、なくなった拓夢ちゃんの視点から呼んでいます。そのほか、ここにきて読売の見出しと毎日の本文に「内妻」いう言葉が出てきています。日経は一貫して「同居」を使っていますね。
2007/1/26


◆ことばの話2666「れっきとした妻子持ち」

民主党の細野豪志議員(既婚)と、今週からTBS「ニュース23」のキャスターを担当し始めた元・朝日放送アナウンサーの山本モナアナウンサーの不倫疑惑が、雑誌(9月29日発売の写真週刊誌フライデー)で取り上げられています。その話題で、10月3日の「ザ・ワイド」で、細野議員のことを、
「れっきとした妻子持ち」
という表現を使っていました。それを聞いて思ったのは、
「『れっきとしていない妻子持ち』というのがあるのか?」
という疑問です。「れっきとした」というのは、漢字で書くと、
「歴とした」
で、その「歴」を強調した形が、
「れっき」
ですね。辞書(『新明解国語辞典』)を引くと、
「周囲から、その存在がはっきりと認められ、重んじられている様子。(例)「れっきとした(=押しも押されもしない)家柄」「れっきとした(=りっぱな)証拠」「れっきとした」(=一人前の)俳優」「れっきとした(=ほかに対して公言しても恥ずかしくない)夫のある女性」
お、と言うと、この最後の用例である、
「れっきとした夫のある女性」
というのは、今回の「れっきとした妻子持ち」に近いニュアンスですね。
「押しも押されもしない」「りっぱな」「一人前の」「ほかに公言しても恥ずかしくない」の4つから選ぶとしたら、「れっきとした妻子持ち」の「れっきとした」は、「ほかに公言しても恥ずかしくない」でしょうか。もしくは「一人前の」かな?
でも、ここに書かれているように「れっきとした」が「ほかに公言しても恥ずかしくない」という意味なら、「れっきとした妻子持ち」なのに不倫している夫は「れっきとした夫」ではないですね。では、
「れっきとしていない妻子持ち」
とは、どんな「妻子持ち」なのか?うーん、もしかしたら、離婚して子供を母親が引き取った、というケース?それだと「妻子持ち」ではないなあ・・・。あ、その後離婚して、今は2人目(か3人目以上)の妻と結婚しているので、「妻」は持っているけど、その妻との間に子どもはいなくて、前の妻との間に子どもがいる、というケースはいかがでしょうか?なんだか”無理矢理”ですねぇ。
という具合に、やっぱり「れっきとしていない妻子持ち」というのはなさそうです。そうすると「れっきとした妻子持ち」と言うのも、なんだか変ですよね。単にここは、
「既婚者(で、子どもまでいる)」
ということを言いたかっただけではないでしょうか?さらに言えば、そのことを強調したかったので、「れっきとした」という表現を使ったと。そのあたりが真相ではないでしょうかね。
2006/10/3
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