◆ことばの話2665「リニアモーターカーの英語」

ソニーで井深大さんの通訳を担当し、その後、集英社新書から『英語屋さん』というベストセラーを出した翻訳家の浦出善文君は、大学の同級生。
その彼が出しているメールマガジン「英語屋さんの作りかた」の第62号(2006、09、24)のコラム、「こんな英語、見つけたよ!」(第61回)で、9月22日にドイツで起きたリニアモーターカーの衝突事故のことを取り上げていました。その中にこんな一節が。

『その事故を伝える記事を見て思い出したのですが、日本語で、 「リニアモーターカー」
と呼ばれているこの種の列車は、英語では、
「maglev train(マグレブ、磁気浮上列車)」
というのが普通です。「maglev」は、
magnetic levitation(磁気浮上)
を短くしてできた言葉。』

そうだったのか!知りませんでした。英語でも「linear motor car(リニアモーターカー)」と言うのかと思っていました。さらに読み進むと、この電車の表現についての、日本語メディアと英文メディアの表現の違いに関しても浦出君は触れています。

『この事故を伝えている記事の見出しを比べると、日本の新聞やウェブサイトでは、
独リニア衝突
とあるのに対し、英語メディアの見出しでは、
German train smashes into maintenance vehicle(ドイツの列車が保守作業車に衝突=CNN)
とか、
Monorail disaster shakes Germany(モノレール事故、ドイツに衝撃=BBC)
のように、「train」や「monorail」というわかりやすい単語を使っていることに気付きました。その代わり、記事本文で改めて「maglev train」または「magnetic levitation train」という言葉を使って、その技術を簡単に説明していました。』

なるほど、英文メディアの方が決めこまやかな表現の違いがあるんですね。
ただ日本の場合「リニアモーターカー」という名前が既に定着していて、定着しているからこそ略語としての、
「リニア」
という言い方も認知されているのではないでしょうかね。その辺について浦出君は、

『「リニア」(linear)だけなら単に「線形」「直線」という意味ですから、「リニア」という省略語は、リニアモーターカーがどういうものかを知らない人にはわかりにくいと思います。もちろん、技術大国日本では誰でもリニアモーターカーを知っていて、「リニア」といえばそれとわかるという前提で記事を書いているのでしょう。』

と続けていますが、まさにその通り。
浦出君にメールしたところ、こんな返事が返ってきました。

『拙著『不惑の楽々英語術』に書いた「ペットボトル」と同じようなものかと思います。PETという素材名は英語として存在しても、PET bottleという英語は一般には使われていないようです(米国人はふつうplastic bottleと呼びます)。
これと同様に、「linear motor(リニアモーター)」という言葉は存在しても、英語圏では「linear motor car」という言い方が普及しなかった、ということでしょう。』


なるほど「ペットボトル」も、ある意味「和製英語」なのか。いろいろ勉強になります。

なお、浦出君が「maglev train」という英語を知ったのは、ソニーで井深さんの通訳をしていたときのこと。当時、鉄道総合技術研究所(JRグループの研究部門)の会長を務めていた井深さんがリニアモーターカーの推進に熱心で、そのときに初めて知ったとのことです。
2006/10/6


◆ことばの話2664「人事構想は順調に進んでおりますでしょうか?」

9月20日、自民党の新総裁となった安倍晋三氏。その翌々日(22日)の朝、安倍総裁に日本テレビの記者が、こう声をかけた様子を、テレビで放送していました。
「人事構想は順調に進んでおりますでしょうか?」
これって、間違った敬語ですよね。
「おります」は謙譲語。それを相手(安倍総裁)に対して使うのはおかしいのですが、なんとなく「おります」は「丁寧語」だ思っている人が多いのでしょうね。気をつけたいものです。
ところで本筋とはまったく関係ないのですが、なんだか知らないけど、「じんじこうそう」を変換すると、
「人事抗争」
が、「あべそうさい」を変換すると、
「阿部葬祭」
になるんですけど・・・。本当は、
「人事構想」「安倍総裁」
と書きたいのですがねえ。
2006/10/2


◆ことばの話2663「ヘマムショ入道」

「ヘラ(箆)」
のアクセントを調べていて、『新明解日本語アクセント辞典』を引いたところ「頭高アクセント」しか載っていませんでした。
そんなことよりビックリしたのは、その「ヘラ」が載っている同じページに書かれたイラスト。なんじゃこりゃと思ったら、
「ヘマムショ入道」「ヘマムシ入道」
と書かれていました。その上には、
「ヘヘノノモヘジ(新はヘノヘノモヘジ)」
と書いて、やっぱり皆さんよくご存知のイラストが記されていました。
つまり、これは落書き・・・と言うか、そういった遊び言葉なんですねえ。でも聞いたことないな、「ヘマムショ入道」。『NHK日本語発音アクセント辞典』にはどちらも載っていませんでした。
Google検索では(9月21日)
「ヘマムショ入道」 69件
「ヘマムシ入道」 134件
「ヘヘノノモヘジ」 4件
「ヘノヘノモヘジ」 668件
「へのへのもへじ」 11万4000件
ということでした。
うーん、中 勘助の『銀の匙』に出てきたり、山東京伝の「奇妙図彙」の中にも出てくるのか。知りませんでした、『銀の匙』は読んだのにな。『銀の匙』には前編の最後に、引っ越してしまったおけいちゃんが使っていた学校の机に、
「鉛筆で山水天狗やヘマムシ入道がいっぱい書いてあった」
とのこと。また中 勘助がおけいちゃんの「ヘマムシ」を発見する約90年前には、「ヘマムショ入道」の形で、鍬形惠斎の近世職人尽絵巻(きんせいしょくにんづくしえまき、東京国立博物館)に描かれているそうです。
「今から約200年前すでに寺子屋の落書きに描かれるほどポピュラーであった『ヘマムショ』、それを約110年後に中 勘助の幼なじみが鉛筆で描き、現在自分がブログでそれを話題にしている。それなら、100年後にも誰かがこの輪を引き継いでくれることが期待できそうだ。注: 「おけいちゃん」の「けい」は「鍬形惠斎」の惠に草冠を加えた字です。』
と、「10億人が楽しめる手描き文字絵」というサイトで紹介されていました。
http://mojieken.cocolog-wbs.com/ld/2005/09/post_6b30.html
確かに廃れかかっている「ヘマムショ」を『新明解日本語アクセント辞典』や、こういったサイトが、なんとか後世に伝えているのですね・・・。
2006/10/2


◆ことばの話2662「やばいくさい」

最近の若者は、「とってもおいしい」時には、
「やばい」
と言います。そして、「それっぽい」「そういう感じがする」時には、
「〜くさい」
と言います。そうすると、ここからが問題なのですが、
「このケーキ、やばいくさい!」
と言った場合、このケーキはおいしいのでしょうか?それとも、おいしくないのでしょうか?
ああ、問題だア!!

え!もうおしまい?はい、そうです。それってヤバクなーい?
2006/9/29


◆ことばの話2661「本屋大賞」

第2回本屋大賞を受賞した恩田 陸の「夜のピクニック」が映画化されるようです。そのコマーシャルをテレビで見ました。ナレーターの男性が、
「第2回本屋大賞」
と言うのを聞いた時に、私の耳には、
「第2回オンエア大賞」
と聞こえました。「本屋」と「オンエア」。似ているのか?ローマ字で発音を表記して見ましょう。
「HONYA」
「ONEA」
あ、たしかに、「ほんや」の最初の「ほ」の「H」が聞こえにくかったら、あとは、
「ONYA」(オンヤ)
と、
「ONEA」(オネア)
となって、かなり近い響きの音になりますね。「本屋」と「オンエア」、なんとなく関係がありそうな気が、しないでもない・・。
2006/9/29
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