◆ことばの話2645「うそぶくと強弁する」

だいぶ長い間寝かせていたので、時事ネタとしては古くなっちゃったんですけど・・・・2006年2月7日、渡部 完宝塚市長(当時)が逮捕されました。パチンコ店を出店計画に同意するなどの便宜を図る見返りに、神戸市内の元パチンコ店経営者らから、高級乗用車を受け取っていた「収賄」の疑いです。
その時のニュース原稿で、渡部市長が共産党の市議に「アホ、ボケ」と言ったことについて、本人は「あれは独り言」などと言ったことに関して、
「うそぶいていた」
となっていたのですが、ここは、
「強弁していた」
の方が適当なのではないかという話になりました。
また、2006年7月14日の毎日放送夕方のニュース「VOICE」では、阪南市議の容疑者が「土建屋やったらこのぐらい普通とちゃうかな」と言ったことに対して、
「そう、うそぶいていた●●容疑者」
という原稿で「うそぶいていた」が出てきました。「うそぶく」と「強弁する」はどう違うのでしょうか?辞書を引いてみましょう。『日本国語大辞典』「うそぶく」を引くと、
けっこうたくさん意味が載っていました。(7つも!)このうち、今回該当しそうなのは、
「うそぶく」=(6)強がりをいう。大きなことをいう。
のようです。もともとの意味は、
(1)口をすぼめて息を強く吐き出す。
ということのようです。一方の「強弁」は、
「強弁」=(――する)むりに理屈をつけて言い張ること。強く言い訳をすること。
でした。そうすると「強弁」と「うそぶく」はほぼ同じような意味合いのようですね。ただ、「強弁」の方がちょっと理屈っぽく、「うそぶく」はまったく根拠がなくても(あるかないかは関係なしに)主張する点がちょっと違うかな。ここでの「うそぶく」は、
「強がってしゃべっていた」
という意味で使っているようです。

2006/9/12


◆ことばの話2644「ジョッキのアクセント」

9月9日の未明、姫路市の職員が飲酒運転で事故を起こしました。車を運転する前にジョッキ6杯のビールを飲んでいました。この「ジョッキ」のアクセント『NHK日本語発音アクセント辞典』には、「頭高アクセント」の、
「ジョッキ(HHL)」
しか載っていません。そこで後輩の虎谷アナウンサーにそう指導したのですが、そのあと、どこの局のニュースを聞いても「平板アクセント」の、
「ジョッキ(LHH)」
しか使っていないようなのです。アナウンス部内で、2年目の本野アナウンサーと22年目の萩原アナウンサーにも聞いたのですが、二人とも「平板アクセント」でした。
萩原アナウンサーいわく、
「騎手の『ジョッキー』が『頭高アクセント』でしょ、だからそれと区別しようという気持ちがありますね。」
とのこと。それも一理ありますね。「平板アクセント」にしてしまうのはなぜか?私はおそらく、「食器」のイメージがあるからではないか?と考えます。「食器」は、
「しょっき(LHH)」
「平板アクセント」です。そして「ジョッキ」も言わば「食器の一種」だし、「食器」の最後の音は「き」で、「ジョッキ」の最後音も「キ」なので、もしかしたら、
「ジョッ器」
というイメージが頭の中で出来ているのではないか?だから「食器」に合わせて「平板アクセント」になっているのではないかと思いましたが、いかがでしょうか?
いずれにせよ、もちろん、
「飲んだら乗るな、飲むなら乗るな」
です!!

2006/9/11


◆ことばの話2643「インケツ」

先日、ひょんなことから家で、
「インケツ」
という言葉を使ったところ、妻が、
「なに、それ。イヤなことば。聞いたことがないわ」
と。そこで、「俗語」に関してはこれを引けばよい『日本俗語大辞典』(米川明彦編)を引いたのですが、載っていません。でもたしか、マンガの「じゃりン子チエ」(はるき悦巳)にも「インケツ」は出てきたよな、チエのお父さんの「テツ」のことを、
「インケツのテツ」
言うてたし。そこでどうも関西弁のテイストを感じたので『大阪ことば事典』(牧村史陽)を引くと・・・載っていました!

「インケツ」=かぶ賭博で手札の数を全部足して一になる最悪の手。転じて物事の最低の場合、また駄目な人。

そうそう、そういう意味です!「ダメの人」だと山本夏彦ですが。「0はブタ、1はインケツ、2は2タコ、3も3タコ、6は思案ロッポ」・・・とか言いますよね?
東京出身の森武史アナウンサーに、
「インケツって言葉は大阪弁ですかねえ?」
と聞いたところ、
「いや、東京でも使うよ。おいちょカブで『1』のことだろ。』
とのこと。かなり限定的ながら、隠語としては全国語なんでしょうかねえ。


2006/9/12


◆ことばの話2642「んなあほな」

9月15日、大阪で戦後初めての落語の定席「天満天神繁昌亭」がオープンします。
プレ・オープンは既に始まり、マスコミ向けのプレス・プレビュー、がきょう9月11日に行なわれます。
その司会に行くHアナウンサーが、仕事の下準備を私の席の横でしています。チラッと見るとその資料の中に、
「んなあほな」
と書かれたパンフレットが。これは、
「そんなあほな」
という意味ですが、そこから単語の頭の「そ」が脱落したんですね。どうやらこれは「(社)上方落語協会の協会誌」のようです。カラフルで読みやすそう。私が「ん!?」と思ったのは、もちろん、そのタイトルが、
「ん」
から始まっていたからです。しかもその「ん」は、少し小さい表記です。アフリカの言葉などでは「ん」で始まるものがありますが、日本語は、まず、ないと言ってもいいくらい珍しい。(ただ東北弁は、本当は「ん」で始まってるんだろうな。「んだ、んだ」という声が聞こえてきそう。青森出身の虎谷温子アナウンサーによると、
「んだきゃ」(=そうだよね)、「んだべ」(=そうだね)
などもあるそうです。)
んでもって(!)大阪弁でも「ん」で始まる言葉があるということですね。そう言えば、
「なわきゃない」
などと言うのは、
「そんなわきゃない」
から「そん」が脱落しています。「ん」まで脱落するとはすごい!
そうそう、アフリカと言えば、アフリカ人のスポーツ選手で「ヌデレバ」「エムボマ」あたりは、本当は、
「ンデレバ」「ンボマ」
なんでしょうが、日本風に「N」「M」の後に母音をつけるなどして、
「ヌデレバ」「エムボマ」
になったのでしょうね。
「ンケケ」
というサッカー選手もいましたが、これは「N」にしろ「M」にしろ、母音をつけると、
「ヌケケ」「ムケケ」
となって「抜け毛」「剥けた」感じになって、なんかも一つ気持ち良さそうじゃないので、そのまま「ンケケ」なんでしょうか?よく分りませんが。
話がそれました。
実は日本語でも「ん」で始まる言葉が、ないわけじゃない。その証拠に国語辞典で「ん」を引くと、いくつか言葉が載っています。例の『新明解国語辞典』の第3版から第6版まで「ん」の最後の見出しの言葉は、すべて、
「んぼ」
です。用例は「隠れんぼ」。「んとす」が一番最後かと思っていたなあ。『日本語新辞典』は、
「んで」
用例は「疲れたんで、先に帰る」。『岩波国語辞典』も、
「んで」
ですが、用例はなし。『明鏡国語辞典』は、
「んとする」
で、用例は三浦綾子の小説から、
「今まさに殺されんとする苦しみの中にあって」
などが挙げられています。こわいなあ。『新潮現代国語辞典』も、
「んとする」
で用例は、北村透谷の「各人」から「巨*(キョガク)の来り呑まんとする時、泰然として神色自若たるを得るは」、そして「会議はまさに開始されんとしていた」でした。なぜかこれは作例です。(*は魚偏にとっても難しい字。書けません)
ということで「ん」で始まる日本語(標準語)は「ないことは、ない」といったところでしょうか。方言の方が、「ん」で始まる言葉は多いと思いますね。発音の体系が違うでしょうから。
あわせて「平成ことば事情1027『んんん』」もお読みください。
2006/9/11


◆ことばの話2641「ヤホー」

大阪市営地下鉄に乗っていたら、60代後半ぐらいのおばあさん(声から判断すると、年齢はそれほど行ってないようだけど、見た目は間違いなくおばあさんと呼ぶにふさわしい感じ)とおじいさん(おばあさんと同じ)が話していました。最初は、夫婦かと思ったのですが、どうも聞くとはなしに聞いていると、夫婦ではないみたい。何かのサークルの仲間のようです。そのおばあさん、曰く、
「わたしのケータイに、Eメール(ああ、懐かしい響き!)入ったーある。」
とか「I P電話」がどうたら、なんだか電脳化されたお年寄りなのです。
おじいさんも、
「なんでもええから、パソコンからメール送って。そしたらなんぼでも情報添付して送ったげる。そやけど毎朝、パソコン開いて見な、あかんで。」
と、なかなか詳しそう。どちらかと言うとおじいさんの方がちょっと、コンピューター関係、詳しいみたいです。
そして、次におばあさんが発した言葉に注目!
「ほらあの、ヤホーとかいうヤツやろ。」
しばらく沈黙があって、おじいさんが、
「・・・ヤフーや。あれ、ヤフーって言うねん。」
ヤッホー!ブラボー、ヤホー!Yahoo!
地下鉄の中で、山登りの気分になりました。
ヤフーでもヤホーでも何でもええけど、繋がったらなんでもええねん。それは、私と同じ心境ですよ、おばあさん!
ちょっと得した気分になった、ホッコリした御堂筋線の中の会話でした。私が先に電車から降りてしまったけど、もう少し聞いていたかったなあ・・・あの会話。


2006/9/10
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