◆ことばの話2640「慶事」

9月6日、秋篠宮妃紀子さまが、第3子をご出産されました。その日のテレビは、この話題一色。
「ケイジ」
という言葉が飛び交っていました。そこで新人のKアナウンサーに、
「ケイジって漢字で書けるか?」
と問題を出すと、
「ケイジって、おめでたいことって意味ですよね?」
と言うので、これは分っているのかなと思いながら、
「そうだよ」
と答えると、彼女は
「こうですか?」
と、自信満々で文字の書かれた紙を差し出しました。そこには、
「啓示」
という文字が。おいおい、神のケイジがあったとでも言うのか?
「違う!これは別の意味!」
と言うと、「間違ったと言われたのが意外!?」という顔つきをしてしばらく考え、今度は、
「こうですか?」
そこには、
「慶示」
という文字が。
「違う!でも惜しいな。」
「あ、こうですか!」
ようやく、
「慶事」
と書けました。よかった。「刑事」とか「掲示」などと書かなかっただけ、マシかな。
もう一人の新人・Tアナウンサーにも同じ問いかけをしたところ、
「ケイジって、喜ぶってことですよね!」
と目を輝かせたところまではよかったのですが、書かれた「ケイ」という文字は、微妙に違います。間違った文字です。「慶」と読めないこともないですが、書き取り試験ならば、「×」
とされる字です。そう言うと、彼女のペンを持った手は、「ガンダレ」を書いたところで止まってしまい、結局、正しい字、
「慶」
は書けませんでした。慶応大学出身じゃないから書けないのか?そういう問題ではないでしょう。
やっぱりワープロに頼ってばかりだと、自分で漢字が書けなくなっているんですかねえ・・・・皇室の慶事に際して、アナウンス部の今後に対する形而下の(?)大問題が発覚したのでした。


2006/9/10


◆ことばの話2639「『めっちゃすごい』と『すごいめっちゃ』」

ふと、思いました。
「めっちゃ〜」「すごい〜」も強調語だけど、
「めっちゃすごい」
とは言えても、
「すごいめっちゃ」
とは言えないなあ。それはなぜか?
うーーーーん、理由は「めっちゃ」は副詞だが、「すごい」は本来「すごい」という形容詞の「連体形」だったものが、今は若者語としては「連用形」として使われている。つまり従来は、
「すごい人だ」
というように使ったのが、今は、
「すごいおいしい」
と使われるようになってきていることと関係があるのではないかな?
「めっちゃすごい」
は、副詞の「めっちゃ」が形容詞の「すごい」の終止形を修飾している形だが、語順を逆にして、
「すごいめっちゃ」
とすると、形容詞「すごい」の新しい形の「連用形」が最初にくるもののそれが修飾しているものが「副詞のめっちゃ」であり、意味をなさない。
「すごい」は「程度を超えて」という連用形のほかに、「程度を超えている」という終止形の意味にもなりうるのに対して、「めっちゃ」という副詞は、終止形にはなりえない。あくまで後ろに被修飾語を必要とする、ということではないかな。
うーん、難しくて自分でもよくわからなくなりました。ニュアンスは伝わりましたかね?


2006/9/10


◆ことばの話2638「貯玉」

先日、大阪の茨木市に行った時に、駅前のパチンコ屋さんの広告が目に入りました。
「全貯玉、再プレイOK」
この中の、
「貯玉」
という言葉、初めて目にしました。「貯金」は知ってたけど。ネット検索するとたくさん出てくるんだろうな。してみるかな。
「貯玉」=10万1000件
ほーら、いっぱい出てきた。業界用語としてはよく知られた言葉なのでしょうね。「貯玉」は「貯金」のように、パチンコの玉を預けることができるんですかね?預けると利子の玉がつくのかな?そのあたり調べてみると、
「貯玉とは、玉・メダルを会員カードに貯めることを言います。カードに貯めた玉・メダルは通常の景品交換もできますし、翌日以降に特殊景品と交換することもできます。」
という説明文がありました。ふーん、そうなんだ。でもそれのメリットって何なんだろうか?とさらに読むと、ちゃんと書いてありました。
「玉・メダルをその日のうちに景品と交換しなくてもよいため、例えば閉店間際で混雑した景品カウンターに並ぶ必要がありません。端玉を貯めることができるので欲しくない物と交換する必要がありません。また、一回の遊技では手が届かなかった高額な景品なども貯玉をためれば交換することができます。」
ハハア、なるほど。たしかにそれは便利かもしれない。お店の側としてもリピーター(常連さん)を増やすのには、いいシステムかもしれませんね。利子はつかないのかな、やっぱり。それと読み方は、
「ちょだま」
でいいのかな?それとも、
「ちょぎょく」
でしょうか?「パチンコ玉(だま)」だから「ちょだま」でいいと思うんですけど。ちょっと変な語感です。


2006/9/9


◆ことばの話2637「ブレーキがかかる」

野球中継を見ていたとき、ピッチャーの球種の表現について「ホホウ」と思いました。
それぞれの球種の状態がよいことを示す言葉、つまり「ほめ言葉」が、
「直球」=「走る」
「シンカー」=「沈む」
「フォーク」=「落ちる」
そして、
「カーブ」=「ブレーキがかかる」
なんですね。
「一層ブレーキがかかってますね」
が、ほめ言葉になっているわけです。同じ「ブレーキがかかる」を使っても、これが経済状態に関して、
「売り上げにブレーキがかかる」
と言うと、これは「好ましくない表現」になりますね。また、「ブレーキそのもの」に関して言うなら、
「(自転車の)ブレーキの利きがよい」
といった表現になるでしょう。
「ブレーキ」というものが「スピードを落とす」ものであるだけに、それを使った結果が「良い方向」に向かうのか「悪い方向」に向かうのかで意味が変わってくるというのは、ちょっとおもしろいなと思いました。

2006/9/9


◆ことばの話2636「帝王切開」

9月6日午前8時27分、秋篠宮妃・紀子さまが、第三子・男のお子様を「帝王切開」でご出産なさいました。
さてこの「帝王切開」ですが、ドイツ語では
Kaiserschnitt
で、その訳語と言われています。英語では、
Caesarean operation
です。『日本語新辞典』によると、
「(ローマ帝王カエサルがこれにより生まれたという故事による名称という)」
として、
「腹壁を切り、子宮を切開し、胎児をとりだす開腹分娩法。難産のときに行う」
とありますが、実はこの「帝王切開」という日本語は、「誤訳」であるという説を聞いたことがあります。「シーザー(カエサル)=皇帝」と間違えたというものです。どの本に書いてあったか、いろいろと探したのですが、分りませんでした。ネットで検索すると、「錬金屋の辞書」というサイトに、こんなふうに出ていました。
(http://home.att.ne.jp/wind/alchemist/dict/teiousekkai.html)
それによると、「帝王切開の語源の間違いを正すというのは、わが国の雑学本(雑学サイト)が好んで取り上げる話題だ」だとして、
『ラテン語で「切る」は「caesarea」ですが、これをドイツ語に訳す時「caeser」とローマの帝王ジュリアス・シーザーと間違えてしまったのです。日本の医学はカルテに代表されるようにドイツ医学を基本に発達してきたため、その翻訳がそのまま日本にも定着したのです。帝王切開の帝王はシーザーに由来します(ただし誤解ですけど)。ラテン語で帝王切開のことを sectio caesareaといいました。この caesarea は「切る」という意味なのですが、カエサル(皇帝)の意味と間違えて、ドイツ語に Kaisershinitt と翻訳されそれが世界中に広がったのです。』
などと書いてあることが多いが、「実はそうではない」というのです!

え!?そうなの?
このサイトによると、
『ドイツ語の‘Kaiser’はたしかに「皇帝(の)」なのだが、同時に「分離する・切除する」という意味もある。‘shinitt’というのは「切開する」ことだから、‘Kaisershinitt’で「切開切除」という意味になる。つまり上記例にも出てくるラテン語‘sectio caesarea’を素直にドイツ語に移しかえているだけなのだ。誤訳なんてこれっぽっちもしていない。(ラテン語‘sectio’はドイツ語‘shinitt’とほぼ同義)ラテン語をドイツ語に訳したときの間違いではなくて、‘Kaisershinitt’を日本語に訳したときのミスなのは明白だ。』
そして、ドイツ語を日本語にするときに「誤訳した」とする説の元は、『広辞苑』だと指摘しています。たしかに『広辞苑』の第四版の「帝王切開」の項目には、
「(中世の俗説に惑わされて、ラテン語 sectiocaesarea の caesareaを「切る」の意でなくカエサル(帝王)の意と誤解し、それを Kaiserschnitt(ドイツ) と直訳したものという)」(『広辞苑・第四版』)
とありましたが、「広辞苑・第五版」では、その記述が削除されています。
また別の「逅游日乗」というサイトの2004年3月7日に、
(http://d.hatena.ne.jp/taro3/)
『実はドイツ語Kaiserには「分離する・切除する」という意味もあって、ラテン語sectio caesarea(切開切除)をKaisershinittで「切開切除」(shinittは「切開する」)とするのは、ちっとも誤訳ではないそうだ(むしろ直訳すぎるくらいだ)。誤訳はラテン語→ドイツ語ではなく、ドイツ語→日本語で起こったのだという。』
と書かれていました。
結局、「誤訳」によって本来は「切開切除」と訳すべきところを「帝王切開」と訳してしまったようだ、というのはわかりましたが「誰がいつ?」というところまでは、たどり着けませんでした。
でも今回は、「皇室」だから「帝王切開」かあ・・・となんとなくイメージされた方も多いのではないでしょうかね?ともあれ、男の子誕生(お子様誕生)、おめでとうございます!

2006/9/8
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