◆ことばの話2620「夏雨、冬雨」

ある日、ふと、思いました。
「秋雨(アキサメ)、春雨(ハルサメ)はあるのに、なぜ夏雨、冬雨はないのだろうか?」
うーん、なんでだろう?わからん。とりあえず「夏雨(なつさめ)」「冬雨(ふゆさめ)」という言葉は使われているのか、ネット検索してみました。Google検索(8月10日)では、
「秋雨」= 28万8000件
「春雨」= 138万0000件
「夏雨」= 2万3400件
「冬雨」= 750件
ダントツで「春雨」、続いて「秋雨」。思いのほか「夏雨」が多いですが、「冬雨」はやはり極端に少ないですね。
振り仮名と一緒にキーワード検索してみましょう。
「秋雨、あきさめ」= 1030件
「春雨、はるさめ」= 4万7500件
「夏雨、なつさめ」= 24件
「冬雨、ふゆさめ」= 26件
ということで、極端に差が出ました。中身を読んで見ると、「冬雨」は俳句の季語としての造語のようですね。「夏雨」も季語で、別名「夏の雨」「緑雨(みどりあめ)」とも言うようですな。
「平成ことば事情421秋雨」も参考までにお読みください。
2006/8/10


◆ことばの話2619「いやや」

歩き出すのが少し遅かった下の娘(1歳6か月)。1,2歩、歩いたかと思うと、見る間に(1週間ほどで)保育所の園庭の端から端まで歩くようになりました。
それに伴って、言葉(語彙)も増えてきたように思います。やっぱり人間・ホモサピエンスは、二足歩行によって脳が発達したんだなあ、と感じます。
さて、その娘のボキャブラリー、最初は「パパ」「ママ」でした。これは一番発声しやすい音は、口を大きくあけた状態で声を出す「ア」ですが、唇を閉じた状態から口をあけると出る音が「マ」「パ」「バ」の3音であることから考えて、当然かなと思います。ご飯を表す「マンマ」もやはり発音しやすくて、かつ生きていく上で必要というところから、早くに発する言葉になるのでしょう。「ネンネ」も言いますね。それに近い音としては「ナイナイ」も。片付ける、の意味です。「N」の音ですね。それに繰り返し。
そんな中で、最近娘が発する「ことば」、それも自分の「意志表示」として初めて発した言葉というのは、
「いやや」
でした。大阪の子どもが一番最初に口にする言葉は、やっぱり「大阪弁」なんや!しかも否定語。さらに、もう一つ、何と言っているかは耳で聞き取りにくく文字にしにくいんですが、よく言う言葉に「貸して」とか「やめて」という意味の言葉があります。これは3拍でメロディがついたような感じで、
「○―、○―、○!」
と言います。音階は、
「レー・ドー・レ!」
です。私の記憶では「あーそーぼ!」と言うときに、
「ドー・ドー・レ!」
と言っていました。アナウンス部でアルバイトのMさん(神戸出身)、Aアナ(東京出身)、Oアナ(埼玉県出身)、Mアナ(大分県出身)、I部長(富山県出身)に聞いてみたところ、神戸出身のMさんは私と同じ「ドー・ドー・レ」でしたが、そのほかは全員、「レ・ド・レ」でした。と言うことは最近は全国型の「レー・ドー・レ」が浸透して、うちの娘の保育所(大阪)でもそうなっているのかもしれません。
ちなみに、上の息子(現在小学3年生)が一番最初に発した自分の意志を表す言葉は、
「あかん」
でした。これも大阪弁で否定語。母音で始まるところも一緒です。3文字という短い言葉であるのも一緒ですね。
2006/8/10


◆ことばの話2618「おデート」

駅の改札の前で偶然会った女性の先輩に対して、後輩の女性が、
「おひさしぶりですー!・・・きょうはおデートですか?」
と言っているのを耳にしました。外来語である「デート」に「お」が付く形は、一般的ではありませんが、外来語に「お」がつくケースは、まったくないわけではありません。特に女性語(もしくは女性のある種の職業語)としては、
「おビール」
があります。それ以外では、
「おニュー」「おコーヒー」
などがある、と言うことに関しては、「平成ことば事情2030おニュー」に書きました。
「おビール」「おコーヒー」「おニュー」は美化語と考えられますが、今回の「おデート」敬意表現、敬語ですね。でも場合によっては「茶化して」いる表現ととられる恐れもありますので、使う場面は考えなくてはなりませんね。
アナウンス部のアルバイトのMさん(女性・26歳)に、
「『おデート』って言葉、使う?」
と聞いたところ、最初は「使いません」ということでしたが、使用状況を説明したところ、「ああ・・・先輩にですかぁ・・・使う・・・かも知れませんね。」
とのことでした。
Google検索(8月10日)では、
「おデート」=13万9000件
も出てきました。ビックリ!でございます。ちなみに「おビール」は3万4900件でした。
2006/8/10


◆ことばの話2617「今どきの若手女優」

2006年3月5日の読売新聞朝刊のコラム「よむサラダ」で俳優の寺田 農さんが書いた「今どきの若手女優」には、
「今どきの若手女優は、裕次郎、勝新、錦之介といった昔の大スター知らない」
と書いてありました。どこの世界も似たようなものかなあ。
アナウンサーになりたくて何千人もの応募者の中からアナウンサーになった若手が、
「小林完吾アナウンサー」
を知らない。同じ系列の大先輩ですよ。同じく「きょうの出来事」のキャスターを長らく務めた、ジャーナリストの、
「桜井よしこさん」
を知らない。名前さえ知らない輩もいます。
いくらなんでも、君達、勉強不足じゃないのか?自分の仕事の関連の先輩のことをなぜ知ろうとしない?「歴史」を知ることは、実は「未来」を知ることだということに、なぜ気づかない?不安がないのか?未来に?
そういう“時代”だからしょうがないかあ・・という気になりつつも、ベートーベンやブラームスを知らない作曲家はいないし、文学を志す奴で夏目漱石や芥川龍之介を知らない奴はいないわな。本当は、知っとくべきでしょうね。
ただ、アナウンサーやキャスターは、結局のちに名が残らないから若い人は知らないのかなあ。まさに『送りっ放し』の『放送』の宿命か。
テレビのインパクトは強いのだけれど。
「インパクトの強いものは、長くは持続しない」
「インパクトの強さとその持続時間は反比例する」
という『道浦の法則』が働いているのか?
いや、やはり彼ら・彼女らがあまりにも「勉強不足」だと思う、やっぱり。
こんなことを愚痴るのは、「おじさん」になった証拠なんですけども、ねえ・・・。
2006/8/7
(追記)

若者の話しと言えば、去年の秋、電車の中で見かけた大学2年生ぐらいの女の子2人の会話を思い出しました。それは、
「今までで一番楽しかったのは小4。次が中3かな。」
というものでした。まあ、20歳という人生においては、当然そういうケースも出てくるでしょうけど。バルセロナオリンピックの女子200m平泳ぎ水泳で優勝した、当時14歳(と6日)の岩崎恭子ちゃんの、
「今まで生きてきた中でいちばんしあわせです」
という、素直な気持ちあろうけれども思わず笑ってしまったコメントをも思い出したのでした。
つまり若い人はそれだけ近視眼的というか、経験の幅が少ないものですから、全体量が少ないのにそれを「全部」と言うと「それで全部かよ」と思われるということですね。まあ、
「今後に期待」
ということです。でも、本来問われるのは、「振り返る範囲が狭い」という点なんですけどね。
2006/8/11


◆ことばの話2616「おみおつけ」

7月29日の読売新聞「編集手帳」を読んでいたら、その前日、味噌汁の意味の「おみおつけ」を、
「御味御付」
と書いたところ、数名の読者から
「『御御御付』の間違いではないか?」
と問い合わせがあったと書いてありました。私もそれを読んで、
「え?『おみおつけ』って『御御御付』と『御』を三つ書くんじゃないの?そのうちの一つは『味』だったの?」
と疑問に思いました。「編集手帳」の筆者によると『日本国語大辞典』には「御味御付」と「御味御汁」の二通りの表記が載っているが、ともに「味」という漢字をあてているとのこと。そうなのか!
実際に『日本語新辞典』を引いてみるとたしかに、
「御味御汁」「御味御付」
と二通りの書き方で見出しには出ていました。ただ3つ載っている用例をよく見てみると、「御汁」(オミオツケ)
「おみをつけ」
「御味噌汁(オミオツケ)」
と、どの表記も、見出しの二通りの文字を使っていないのです。これで果たして用例になるのか?という疑問がありますが、どうなんでしょうか?そうすると、それを基準に論を進めることもまた、疑問が出てきます。
他の辞書ではどうなのか?引いてみたら、そのバラつきに驚きました。
『新明解国語辞典』= 「おみおつけ」  
『岩波国語辞典』= 「おみおつけ」 ※「おみそおつけ」の略
『新潮現代国語辞典』= 「大御御付(け)」  
『広辞苑』= 「御御御付」  
『三省堂国語辞典』= 「御御御付け」  
『日本語大辞典』= 「御御御付」  
『明鏡国語辞典』= 「御味御汁」  
『日本語新辞典』= 「御味御汁」  
と本当にバラバラ。『日本国語大辞典』と同じように「味」を採用しているのは、同じ編者による『日本語新辞典』と、『明鏡国語辞典』。『広辞苑』『三省堂国語辞典』『日本語大辞典』は「御」を採用しています。『『新潮現代』も「御」派だと言っていいでしょう。ただ『新潮』も『金色夜叉』の用例は
「おみおつけ(御味噌汁)」
となっていて、見出しの漢字は用いられていません。これはどうしたことなのでしょうか?
もしかしたら、昔は「御」を使っていたけど、最近の辞書の世界では「味」に変わりつつあるということなのでしょうか?
Google検索では(7月30日)、
「御御御付け」= 566件
「御御御付」= 1万3000件
「御味御付け」= 2100件
「御味御付」= 28件
「御味御汁」= 89件
「大御御付け」= 0件
「大御御付」= 1件
「おみおつけ」= 3万9900件
と平仮名を除けば「御御御付」が一番多いですね。
これについては、また気づいたら、書いていきます。
2006/7/30
(追記)

早稲田大学講師の飯間さんに、
『「おみおつけ」の表記について伺います。7月28日および29日の読売新聞「編集手帳」で「おみおつけ」の表記は「御味御汁」または「御味御付」と書いていましたが、「御御御付」という表記も一般的です。これはどういうことなのでしょうか?ご教示いただければ幸いです。』
とメールしたところ、返事をいただきました。
「「おみおつけ」について、『日本国語大辞典』で「御味御汁・御味御付」の表記を目にして「あれっ」と思ったことは私にもあります。ところが、これは第2版でのことで、初版では「御御御汁・御御御付」なのです。すなわち、
〔初版〕
おみ-おつけ【御御御汁・御御御付】《名》(「おみ」は接頭語)味噌汁
をいう丁寧語。
〔第2版〕
おみ-おつけ【御味御汁・御味御付】《名》(「おみ」は味噌(みそ)の
こと)味噌汁をいう丁寧語。
第2版が編纂されるまでの間に、考え方に変化があったようです。どう考えたのかはよくわかりませんが、想像するに、次の2点が理由でしょうか。
(1)「御御(おみ)」は、「おみ足」などに多く使われるものの、「御御御」と3つ続くのはほかに例がなく、不自然。
(2)(「編集手帳」で触れていることですが)「御味」は「みそ」の意の女性語、「おつけ」は「おしる」の意の女房詞。ということは、論理的に考えて、「みそ」の「しる」は「御味」の「御付け」である。

はなはだ無責任ですが、まあ、こんなところではないでしょうか。私自身は、子どものころにNHK「ホントにホント」というクイズ番組で「御御御汁」という表記を知って、おどろいた記憶があります。1970年代の末だったと思います。』
ということです。『日本国語大辞典』も第一版では「御御御付」だったのですね。ホホウ。
また同じくメールを送った読売新聞の関根さんからは、
『「御味」は味噌の女房言葉で、その「おつけ」だから、「おみおつけ」は三重敬語というにはあたらないというのが前田勇説だったと思います。「御」を重ねる「御御足」「御御籤」などの同類とみるか、「御味」とみるかで、表記が分かれるのでしょう。併記した辞書が見当たらないのは面白いですね。』
というメールをいただきました。ありがとうございました。
2006/7/31
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