◆ことばの話2600「無言の帰国」

7月11日の『ズームイン!!SUPER』で、上重アナウンサーが、現役最後の試合であるワールドカップ決勝でイタリアのマテラッツイ選手に頭突きを食らわせて一発退場となった、フランス代表のジダン選手のことに触れ、

「ジダン選手、フランスに無言の帰国となりました。」

という原稿を読んでいましたが、ちょっと待った!
「無言の帰国」
は、やはりどう考えても、
「死んで帰国する」
という比喩表現としか思えません。それも言うなら、
「無言で帰国」
でしょう。えらい違いやで。勝手に殺してはいけません。頭突きされますよ。
2006/7/11


◆ことばの話2599「猫生」

米原万里さんの『ヒトのオスは飼わないの?』(2006読書日記82をご参照ください)を読んでいたら、
「猫生」
という言葉が出てきました。意味は、
「猫の人生」
ということのようです。でも「猫」だから「『人』生」と言うとヘンなので、「『猫』生」という表現にしているのでしょうね。ほかにも、
「猫格変化」
「猫耳東風」
という言葉も出てきましたが、これも、元の言葉は、
「人格変化」
「馬耳東風」
なのでしょう。Google検索したら(7月13日)、
「猫生」  =9万7900件
「猫耳東風」=1万8700件
「猫格変化」=    22件
でした。どうやら「猫生」と「猫耳東風」は、ネコ好きの人たちの間ではよく使われている言葉のようですね。「猫格変化」の22件は、ほとんど全部が米原さんのこの著作を引いていましたので、「米原さんの造語」と言えるのではないでしょうか。
それにしても、これらは一体なんと読むのだろう?ネコセイ?ビョウセイ?ネコカクヘンカ?ビョウカクヘンカ?ネコジトウフウ?ビョウジトウフウ?
うーん、わからん!ついでに「犬」も検索しました。
「犬生」=  8万3600件
「犬耳東風」=    10件
「犬格変化」=     0件
でした。
2006/7/13


◆ことばの話2598「ライブな社会」

先日、JR大阪環状線に乗っていたら、扉の近くのポスターに目が行きました。
「大阪市内でライブな社会を学ぼう。大阪○○大学」
ふーん、
「ライブな社会」
ですかあ。ヘンな日本語。それともこれは英語なのかな?どんな社会なんだ、「ライブ社会」って。バンドのライブ演奏が行なわれる社会かな?
「ライブな」という使われ方は一般的なのでしょうか?Google検索してみると(7月13日)、
「ライブな」=26万8000件
でした。おお、随分出てきたな。でも中には「ライブなので」というようなものもひっかかっています。この使い方では、
「ライブな日々」「ライブな一日」「ライブなセミナー」「ライブなメディア素材」
「ライブな(台風)情報」「ライブな雰囲気」「ライブな人」「ライブな広告」「ライブな英国」「ライブな音」
などなど。
「ライブ」は、「生(なま)」もしくは「生き生きとした」に置き換えられるのかな?
名詞としての「ライブ」が定着することによって、形容詞や形容動詞的に使われるようになるのでしょうね。
最近テレビの「中継」を表示する字幕が、
「LIVE」
になっていることが増えましたが、もしかしたらそれも、「ライブな」という言葉の出現に、一役買っているのかもしれません。
あ、そう言えば、ベストセラーとなった
『問題な日本語』
も、名詞に「な」を付けて形容動詞のようにして使いましたね。タイトルそのものが「問題」である、と。その違和感をキャッチコピーとして使うわけです。だからこれも、その延長線上で、「商業コピーとしては間違っていない」ということになるのでしょうか?
でも学校(大学)の宣伝だからなあ、「教育の質」を問われることに、なりはしないのか?これがコピーライターの学校だったら話は別ですが・・・あ、でもそれだと、
「『問題な日本語』の二番煎じ」
ということになってコピーセンスが感じられないので、かえって
「問題な(コピーライターの)学校」
となるのかもしれないけれど・・・。どうなんでしょうねえ・・・。
2006/7/13
(追記)

今、大学は学生獲得のためにものすごく力を入れているのだということを実感しました。というのは、JR環状線に乗ったら、その一両は、すべて大学の広告だらけだったのです!関西学院大学、大阪経済大学、樟蔭女子大学、大阪経済法科大学、大谷大学、近畿大学、京都外国語大学、兵庫医科大学、帝塚山学院大学、桃山学院大学、相愛大学、宝塚造形芸術大学、四天王寺国際仏教大学。以上13大学!
いやあ、少子化なんだなあ・・・と改めて実感しました。これがライブな実態です。
2006/7/30


◆ことばの話2597「飛翔体」


7月5日未明から、北朝鮮が7発のミサイルを日本海に発射しました。これを受けての安倍晋三官房長官のコメントの中に、
「何らかのヒショータイが発射された」
というのがありました。この聞き慣れない、
「ヒショータイ」
というのは、漢字で書くと、
「飛翔体」
ですね。「ミサイル」と、言やあ良いのに・・・と思った方も多いでしょう。私も最初、「ヒショータイ」というのが何のことか、ちっともわかりませんでした。理解するには数秒かかりました。そして、しばらくして思い出したのが、4年前、やはりワールドカップの年の9月に起きた、
「不審船」
問題です。(「平成ことば事情833不審船と工作船」をお読みください。)いずれも所属(国籍)や正体が不明のものを指します。もちろん、うすうす・・・以上にわかってはいるものの、はっきりとした証拠を握らずにそう断定すると、あとでややこしいことになりそうなものに対して、このように呼んでいるようです。あとでわかったことから類推すると、
「所属不明=北朝鮮」
ということになっているのですが。
官房長官記者発表のサイトの冒頭には、7月5日12時13分付で、こう記されていました。
「今般の北朝鮮による弾道ミサイル又は飛翔体の発射は、我が国の安全保障に直接関わることであり、極めて憂慮すべきことである。」
ということで、
「弾道ミサイル又は飛翔体」
という表現でした。この中の、
「我が国」
という表現も、最近のニュースでは使わなくなりましたが、官房長官発表では使っていましたね。Google検索(7月10日)では、
「飛翔体」=12万4000件
もありました。JAXA、宇宙航空研究開発機構の、
「飛翔体技術」
という言葉のほか、
「飛翔体特許」「小型飛翔体」「飛翔体計測」「宇宙飛翔体環境研究」「飛翔体発射装置」「超音速飛翔体」「飛翔体工学」「飛翔体加速」
のように、ずいぶんたくさん使われていました。私が思っていたよりも、比較的一般的な「専門用語」と言えるのかもしれません。

2006/7/10


◆ことばの話2596「テポドン2号」


7月5日未明、ついに北朝鮮はスカッド・ミサイルやノドン、「テポドン2」を日本海に発射しました。この「テポドン2」の「2」読み方は、「に」なのか、それとも「ツー」なのか?先日の用語懇談会放送分科会で各局の呼び方を聞いてみました。その結果は以下のとおり。
*「テポドン2号(ニゴウ)」
=朝日放送、日本テレビ、フジテレビ、テレビ東京、NHK、共同通信
*「テポドン2(に)」
=TBS
ということで、「ツー」と読む局はなく、「号」を付けて「ニゴウ」と呼ぶところがほとんどでした。委員の中からは、「に」と呼ぶTBSさんに対して、
「もし『テポドン3号』が出てきたら、TBSでは『テポドンさん』となるの?」
との声が。「テポドンさん」だと「さん」が敬称のよう・・・・。
核・・・ではなく「各」新聞では以下のとおりでした。(7月7日朝刊、朝日のみ7日は「テポドン1」しかなく、あとは「ミサイル」という表現しかなかったので、6日)

(見出し) (本文)
(毎日)テポドン2 テポドン2号
(朝日)テポドン2 テポドン2
(産経)テポドン2 テポドン2号
(読売)***** テポドン2号
(日経)***** テポドン2号

ということで、朝日新聞のみ本文で「テポドン2」を使い、それ以外の新聞は「テポドン2号」をスカッドミサイル・・・・ではなく、使っていました。

7月5日の日本テレビ系「ズームイン!!SUPER」に出演した、西元・元幕僚議長は、
「テポドン・ツー」
2回、そして
「テポドン2号(ニゴウ)」
1回言いました。恐らく専門家は、
「ツー」
と言うのでしょう。
「HIIA」
の時も、専門家にインタビューすると
「エイチ・ツー・エイ」
と言うのですが、アナウンサーは、
「エイチ・に・エー」
と読むようにしました。それと似ているのかな。
それと今回は、北朝鮮がそう呼んでいるのではなく、アメリカがそう呼んでいるので、それに従って英語で「ツー」というのか、その部分を日本語で「2号」と言うのかという問題でもあるわけですね。
日本テレビ系列では当初、「テポドン2(に)」で統一という「お触れ」が報道に流れましたが、その後、「テポドン2号」に統一ということになりました。
2006/7/10
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