◆ことばの話2560「お願いをいたします」

先日、京橋駅からJR環状線に乗ろうとした時のこと。紀州路快速が近づいて来て、プラットホームでは男性駅員のアナウンスが聞こえてきました。
「この電車は、桜ノ宮、天満には停まりませんのでご注意をください。」
これの何に引っかかったかと言うと、
「ご注意をください」
です。その中の「を」ですね。これはない方がスッキリするし、普通は、ないでしょ。
「ご注意ください」
で良いはずです。しかし、最近こういった言い方をよく耳にします。
今日(5月6日)のNHK大阪制作の番組「生活笑百科」の冒頭で、司会の笑福亭仁鶴さんが、
「よろしくお願いをいたします」
と挨拶していましたが、この「を」も、なくても通じますね。普通は、
「よろしくお願いいたします」
です。でも関西ではこういった言い方、以前からよく耳にするような気もするな。
「よろしくお願いをしておきます」
とか、そういった言い方です。とすると、最近よく耳にするようになったというのは、関西風(?)のこの言い方が、全国に広がり始めたということでしょうか?一旦「を」をいれてブレイクして、(一息入れて)クッションとして使っているのかな?
また、京阪電車の特急電車を待っていたら、京橋駅の男性駅員の生の声のアナウンスで、
「特急は丹波橋で各駅停車に連絡をいたします。」
と言っているのに気づきました。これも「連絡を」の「を」が余計ですよね!確実に伝えるための技法なのでしょうか?同じくホームに流れたテープの女性の声は、
「各駅停車に連絡いたします」
と、「を」は入っていませんでした。
サ変動詞「する」がつく言葉、「(ご)注意」などは、「名詞」としても使えるので、
名詞に「する」をくっつけて、いくらでも作れるので、一旦作ってから「を」を入れてまた分離させているのかな。今後もこの形に注目して行きます!
2006/5/6
(追記)

5月11日に乗った東海道新幹線では、
「品川に到着『を』いたします。」
とJR東海の車掌さんが車内放送していました。「を」が余計ですが、丁寧に聞かせるための車掌さんの工夫なのかなあ、やっぱり。鉄道業界にはかなり広まっていそうだぞ。
2006/5/15
(追記2)

7月5日の阪神VS横浜戦を見ていたら、伊藤史隆アナウンサーが、
「この放送は、解説○○さん、△△さんでお送りをしています」
と言っていました。このクラスのベテラン・アナウンサーでも「お送りしています」ではなく、
「お送り『を』しています」
という言い方をするのですね・・・。
2006/7/5
(追記3)

夏休み中のマレーシア・ボルネオ島で見たNHK衛星海外放送で、「生活笑百科」を放送していました。いつも土曜のお昼に放送している、NHK大阪放送局制作の長寿番組です。その冒頭、司会の笑福亭仁鶴さんが、
「よろしくお願い『を』いたします」
「を」を入れる形で挨拶していました。ということはこの「を」を入れる形というのは、
「大阪風」
なのかもしれませんね。

2006/8/1
(追記4)

2007年6月25日の読売新聞に、元NHKディレクターの吉田直哉・武蔵野美大客員教授(映像論)が、
「余計な『を』にご用心」
と題したコラムを書いていました。鳩山由紀夫民主党幹事長のある日の発言が、
「・・・チンシャをするだけでなく深くハンセイをし、問題点をカイメイをする、という決意のヒョウメイをしていただかなければ・・・」
であったとして、
「なぜか一つの動詞にするのを避け、解明すると言えばすむところで、解明『を』するというから、長々とややこしく、わかりにくい」
と書いてらっしゃいます。そのとおりですね。そして、
「このよけいな『を』をいれることの最も多いひとりが安倍晋三首相であり、もうひとりが菅直人民主党代表代行であることだ。そしてなぜか、不正行為の発覚した組織の責任者の謝罪である。お詫びをする、反省をする、とみんなそろって『を』する動詞を連発。」
と続き、
「肝心のものを隠そうとしている」
と看破しています。結局、「婉曲表現」なんですよね、これ。怖がっているというのもあると思います。
2007/6/25
(追記5)

「追記4」の記事を見る前の5月23日、阪急・梅田駅で、男性の車掌さんが構内放送で、
「まもなく発車をいたします」
と言っていました。「発車します」ではなく「発車『を』」でした。この車掌さん、
「足元にご注意くださ〜い」
という口調で、ちょっとフシがついていました!
2007/6/28
(追記6)

9月12日、突然、安倍総理が辞意を表明しました。その席で安倍総理が、
「お伝え『を』する」
と言っていました。
2007/9/12
(追記7)

11月11日に、JR大阪駅で停車中の快速米原行きの車内アナウンスで、
「まもなく『の』発車となります」
「の」が入っていました。「の」を入れることで、「まもなく」という副詞を伴う文章が、「名詞句」
になっているのが特徴です。「を」を入れる人は「名詞」が好きなのかな?
2007/11/30


◆ことばの話2559「カンラン」

4月30日、日曜日。お昼のNHKのど自慢は滋賀県米原市からの中継放送でした。その中で、畑仕事している85歳のおばあさんが出場、見事に歌い切りました。曲は、何だったか忘れたけど、元気に歌っただけで、鐘を一つ多く鳴らしてあげてもいいのではと思います。
さて、そのおばあさん、司会の宮本アナウンサーに、
「畑では何を作っていますか」
と聞かれて、
「豆、カンラン」
と答えました。カンラン?一瞬、何のことかわからなかった全国の視聴者は多かったことと思います。特に都市部に住む若い人は。ここで宮本アナは、すかさず、
「キャベツですね」
とフォロー。おばあさんも、
「そうそう、キャベツ、キャベツ」
と嬉しそうに答えていました。さすがベテランアナウンサー!
「甘藍」
と書いて「カンラン」。「キャベツ」の漢語名です。ちなみに、
「玉菜(たまな)」
というのも、キャベツの別称ですよね。以前歌った、北原白秋の詩による男声合唱組曲の中に「玉菜」というのが出てきて、「一体、なんだろう?」と調べたことがあったので、覚えていました。
「甘藍」は、おそらく農業関係の方の間では、よく使う言葉なのでしょう。一般ではあまり耳にしないような気がしますが。それにしても「のど自慢」は、事前にいろいろ準備して、よくできた「ドラマ」だと思います。
2006/5/2


◆ことばの話2558「つんくさんのアクセント」

歌手(ロックバンド「シャ乱Q」のボーカリスト)で「モーニング娘。」などを手がける音楽プロデューサーの「つんく」さん(37)が結婚報告をしたと、4月25日の日本テレビの朝のワイドショー「スッキリ!!」で伝えていました。
その際の、「つんくさん」と呼ぶ時の「つんく」のアクセントが、司会の3人(加藤浩次、テリー伊藤、阿部哲子)が揃いも揃って、
「つんくさん(LHHHH)」
「平板アクセント」で、気持ち悪いことこの上ない!最初は、何と言っているのか、聞き取れませんでした。普通、これは、
「つんく(HLL)」
「頭高アクセント」なのではないでしょうか。
昔、「所ジョージさん」と番組スタッフが言う時のアクセントがコンパウンドして、
「ところ・じょーじさん(LHH・HLLLL)」
となって、どう聞いても
「トコロジおじさん(LHHH・HLLL)」
と聞こえた話を書いたことを思い出しました。(「平成ことば事情38」参考)
ただ、番組の中で、芸能リポーターの井上公造さんは、
「つんくさん(HLLLL)」
「頭高アクセント」だったし、何よりVTRで出演していた「つんくさん本人」が、
「つんく(HLL)」
「頭高アクセント」で話していました。似たような「平板アクセント」の話は、
「ケインコスギ」
にも感じたなあ。これも書きましたっけ?(書いてます。「平成ことば事情647」をお読みください。
なんだか気持ちの悪いアクセントです。いつからこうなったんだろう!!
2006/4/28


◆ことばの話2557「行き過ぎた経済設計」

耐震強度偽装事件で姉歯元建築士が逮捕された4月26日、テレビ朝日のお昼のニュースを見ていた、隣の席のHアナウンサーが、
「行き過ぎた経済設計」
という言葉に引っかかっていました。いわく、
「行き過ぎているのでは、もう『経済設計』とは呼べないのでは・・・」
ということです。
たしかに、そうですね。安全な範囲に収まってこそ「経済設計」と言えるのであって、その限度を超えた物=行き過ぎた物は、経済設計とは呼べないはずです。
しかし、この場合は、
「経済設計が行き過ぎた」
のであって、その名詞句の形が、
「行き過ぎた経済設計」
となったのではないか?と思いますが、いかがでしょうか?
2006/4/26


◆ことばの話2556「姉歯容疑者です」

4月26日のお昼のニュース、耐震強度偽装事件で逮捕された、姉歯元一級建築士の名前が連呼されていました。
その中で、カツゼツの悪い男性記者が、
「姉歯容疑者、姉歯容疑者が今、出てきました」
と言うのを、なんとはなしに聞いていたら、
「あれ?このニュースは韓国のニュースなのかな?」
と、錯覚してしまいました。と言うのも「姉歯容疑者」の響きが、
「アンニョンハセヨ」
と聞こえたからです。ためしに、口をだらしなく使って、
「アネハヨウギシャ」
と2回繰り返してみると、おっ、たしかに
「アンニョンハセヨ、アンニョンハセヨ」
と聞こえなくも、ない。「アンニョンハセヨ」の「アンニョン」は、漢字で書くと
「安寧」
だそうですが、記者であってもアナウンサーであっても、もっとはっきりとしゃべるように訓練を積んだ方がいいですよね。
あまり関係ないですが、4月28日の日経新聞のコラム「雑記帳」に、浄土宗本願寺派が27日、5年後の親鸞聖人750回大遠忌の標語を、
「世の中安穏なれ」
に決めて、
「安穏」
と大書したポスターを作ったという記事が出ていました。「安寧」と「安穏」、ちょっと似てますね。アンオンハシムニカ。
2006/4/28
Copyright (C) YOMIURI TELECASTING CORPORATION. All rights reserved