◆ことばの話2545「いじらしい一面」

4月5日の日本テレビの夕方のニュース「NNN Newsリアルタイム」を見ていたら、民主党の代表戦に関して、小沢一郎・前副代表が立候補を表明したというニュースを伝えていました。
そのニュースの中の小沢氏の「人と、なり」を紹介するVTRの説明で男性ナレーターが、
「(小沢氏は)小鳥を飼うという、いじらしい一面もあり・・・」
と言っていたのが気になりました。小鳥を飼うのは「いじらしい」のでしょうか?
私の持っている「いじらしい」の語感は、
「小鳥を飼いたいのだが、仕事が忙しくて飼ってやれない。そこで、小鳥のぬいぐるみで我慢している」
というようなことであれば
「いじらしい一面」
かなという気がします。
『新明解国語辞典』「いじらしい」を引くと、
「いじらしい」=「非力にかかわらず精一杯努力(つらい立場にあるにもかかわらず無邪気に)している様子を見たり聞いたりして、思わずほろりとする感じだ。」
とありました。
小鳥を飼う小沢一郎は、果たして「いじらしい」のでしょうか?強面の小沢さんが、小鳥というかわいらしく小さな生き物を飼うという意味を伝えたいのなら、単に、
「意外な一面」
で良かったのではないでしょうか?なぜ「いじらしい」が出てきたのか、理解できませんでした。
一応、『日本国語大辞典』を引いてみると、
「いじらしい」=(「意地」を形容詞化した語か)自分より年齢、能力などが劣っているものの心や様子、行動などが、痛々しく同情される様子。けなげでいたわしい。あどけなく、かわいそうな感じがする。多く、子どもの様子について用いられる。
おお、そうすると「リアルタイム」のスタッフは、小沢一郎さんのことを、
「自分より年齢、能力などが劣っているものの心や様子、行動などが、痛々しく同情される様子。」
だと感じたのでしょうか?かわいそうに思ったのでしょうか?なわけ、ないな。類推するに、この感情は、「小鳥に対して小沢一郎が感じるであろう感情」なのではないでしょうか?それを、誤まって小沢さんに使ってしまった、と。そんなところかな、真相は、きっと。
2006/4/5


◆ことばの話2544「三寒四温」

桜もそろそろ満開で、もうさすがに「春爛漫」となってきました。今年は3月下旬でもコートやマフラーが欲しい日がありましたから、油断はなりませんが。
さて、今から1か月ほど前の気候は、暖かい日があるかと思ったら寒い日が続いたり、ちょっとずつ、ちょっとずつ暖かくなりましたよね。その気候を指して、
「三寒四温(さんかん・しおん)」
と言いますが、実はこれ、本来、日本のこの時期の気候のことを指す言葉ではないのです。
日本新聞協会 新聞用語懇談会・放送分科会編の『放送で気になる言葉・改訂新版』(2003)の15ページに、こう載っています。
「三寒四温」=「シベリア高気圧の影響で、冬季、寒い日が3日ぐらい続くと、そのあと4日ぐらい暖かい日が続くことをいう。したがって、春先などにこの言葉を使うのは誤り。」
「誤り」だって、春先に使うのは。しかもシベリアの話か。
『日本国語大辞典』では、
「三寒四温」=冬期、寒い日が三日つづくとその後四日ほど温暖な日がつづき、これが繰り返される気候現象。天候変化に七日ぐらいの周期のあることによる。中国東部や朝鮮半島北部などでかなり規則的にあらわれる。」
中国東部や朝鮮半島北部の話なんですね。でも、日本でも似たような気候があるのは確か。「日本での気候に使うのは『誤り』」
と切って捨てていいのでしょうか。NHKのHさんから以前、
「春先の『日本版・三寒四温』も、いずれは許容してもいいような気がするのですが・・・」
と言われたこともありました。
読売テレビでもう20年近く夕方のニュースでお天気を担当してくれている小谷純久さんに聞いたところ、
「確かに本来の使い方は中国大陸での気候を指すのだが、日本での春先での気候を指して使っても、もう間違いとは言えないと思う。」
という答えをいただきました。
今後、日本の気候にも「三寒四温」を使うケースがもっと増えれば、認められていくかも知れませんね。
2006/4/6


◆ことばの話2543「サマラ、サマーラ、サマッラ」

3月19日の新聞に、イラク戦争始まって最大規模のアメリカ軍の空爆が、イラク北西部の都市に対して行なわれたという記事が載っていました。その年の名前の表記にバラツキがありました。
毎日新聞は「サマーラ」、読売新聞は「サマッラ」、そして日本テレビはたしか「サマラ」だったのです。
Googleでネット検索してみました。(4月5日)
「サマラ」=9万8100件
「サマッラ」= 9390件
「サマーラ」=  903件
なんだか「9」の倍数のような検索件数ですね。
「サマラ:サマッラ:サマーラ」が、「100:10:1」のような割合ですね。
ネットで調べた中で、メディアの使用状況は、
「サマラ」=日経新聞、共同通信、産経新聞
「サマーラ」=産経新聞
でした。産経は「サマーラ」と「サマラ」、両方使っているようでした。(「サマッラ」を使っている大手メディアは、ネットでは探し当てられませんでした。)
あまり出てこない外国の地名は、表記が割れますねえ・・・。何とか統一して欲しいのですが。「サマワ」も、NHKさんは「サマ−ワ」でしたね。うちは「サマワ」ですが。ややこしいなあ。
2006/4/5
(追記)

な、なんと、朝日新聞は、
「サーマッラ」
なんだそうです。ということは、この地名に関するカタカナ表記は、なんと4種類もあることになりますね。これは、なんとかせんと、あかんのちゃう?
2006/4/10


◆ことばの話2542「セコウかシコウか」

2年目のIアナウンサーが、
「道浦さん、今日本テレビの『リアルタイム』のナレーターの方が、『法律の施行』を『セコウ』と読んでたんですが・・・NHKのアクセント辞典には『施行』は『シコウ』しか載ってないんですけど、どっちが正しいんですか?」
と聞いてきました。
「法律の施行」
などと使われる「施行」の読み方は、NHKなど放送各社は、
「シコウ」
としていて、
「セコウは×」
となっています。一般的には「シコウ」も「セコウ」も使われているようですが、放送界では、「セコウ」と読むと、
「施工」
と混同されるために、
「施行」=「シコウ」、「施工」=「セコウ」
としているのです。ところが、そんな放送局でも司法担当者は、
「セコウ」
と言う傾向があるようなので(読売テレビ社内では)、日本テレビでも同じ傾向があるのでしょうか?
実は少し前に、朝日新聞のFさんから、
「関西では年配の男性を中心に『施行』を『セコウ』と読む傾向があるのではないか?調べて欲しい」
という依頼があったのですが、その時は、
「明らかなそういった傾向は認められない」
ということで、結論は出なかったのです。
それで今回は、『新明解国語辞典』「せこう(施行)」を引いてみました。すると、
「せこう(施行)」=「しこう」の法律用語としての読み。
とあるではないですか!ということはやはり法律の専門家は「施行」を「セコウ」と読むのか!?
それで、思い当たりました。放送局が「セコウ」を「施工」と思ってしまうように、法律界・・・法曹界では「シコウ」を「試行」と思ってしまうのではないか?それを避けるために、「施行」=「セコウ」、「シコウ」=「試行」としているのではないか?
ということです。これは案外、当たっているのでは?
ところで、ゼネコン業界では「施工」と「施行」の使い分けはどうなっているのか?家に帰って、ゼネコンに勤める妻に聞いたところ、
「うちの業界では『施工』も『施行』も『セコウ』って言う。だからワープロで文書を作る時には、よく『誤変換』して、間違ってる。」
とのことでした。
これは同音異義語の悪しき例ですね。「私立」と「市立」を区別するために一般的には、
「ワタクシリツ」と「イチリツ」
と言い分けるような”庶民の知恵”がありますが、放送では共に、
「シリツ」
と読みますね。専門家は、同音異義語を取り違えるリスクは少ないという判断からでしょうか?でもゼネコン業界では「セコウ」で「施行」と「施工」の取り違えが多いそうだし。どうなんでしょうねえ???
2006/4/5
(追記)

朝日新聞のFさんからのおたずねメールは、こういった内容のものでした。
「関西の、普通の40代以上のおじさんは、『施行』『施策』をどう読むのが好きなんでしょうか?『しこう』?『せこう』?と言うのも、2003年度『国語に関する世論調査』で、『施策」を『せさく』と読む人が、近畿地方だけ多い(他は2割台までなのに、近畿は36%以上)からです。「おじさん」のくくりでは、全国的に40代以上男性では『せさく』が多いようです。』
これに対して私が返したメールは、
「特に調査をしたわけではないですが、数人、女性に聞いたところ(妻を含む)、やはり『施行』は『せこう』と読むみたいですね。で、ここからは勝手な推測ですが、
(1)土木関係の仕事の人が多いから『施主(セシュ)』『施工(セコウ)』からの類推で『セコウ』となったのではないか?
(2)『シェコウ』といっていたのが、『シェ』→『セ』となって『セコウ』になったのではないか?
(3)京都はお坊さんが多いので、『施主(セシュ)』からの類推で『施』は『セ』と読んでいるのではないか?
すべて何の裏づけもありませんが。ご参考になれば(?)幸いです。」
確かに根拠はありませんが、「ハハア、そういう考えもありますか」てな感じですね。
これについてまたFさんからのメール。
「女性も『せ』ですか。世論調査では全国的に女性は『し』なんですけどね。やはり関西は『せ』中心なのかなあ。お説の中では(私も関西中心の人生ですから)「しぇこう」という人が、関西のおじさんには多い気がしますね。なんでこんなことを気にしていたかというと、読者から質問されて答えるためなんですが、関西の人は『せ』だ、というのが本当に分かれば、記事にしようかと。でもデータ的な裏付けとかは難しそうですね。」
ということでした。
これは去年の9月の話ですが、今回、この項を読んで、友人のY君がメールをくれました。
Y君は仕事の関係で、「施工」の現場には詳しい人です。
「業界的には『セコウ』と言えば『施工』しかありません。ただし、『施行』を『セコウ』と読む人はいます。これは単に知識があやふやなだけです。似た話ですが、『施策』を『セサク』と読む人が、結構います。4月や10月の期首初めには、私達営業は、
『攻略施策』
なるものを書かされ、ご丁寧にも人前で読まされたりするのですが、結構『セサク』と読むのです。しかも、大体こういう書類は、事業部長あたりから部長、課長の順に読んでいったりするものですから、上の偉い人たちで『せさく』と読まれてしまうと、下の者まで『せさく』と読んでしまう。あれは、上に恥をかかせないという美徳から来ているかもしれませんが、あながち、そればかりとは思えません。若い人なんかは、もともと『しさく』だか『せさく』だか判っていないのか、『あぁ、そう読むんだ』とばかりに『せさく、せさく』と読んでいます。
『施行』に関して言えば、世間的には『せこう』でも誤用とされていないように思います。ワープロでも変換しますし。でも『施策』は『しさく』以外ないと私は思うのですが。
で、これを『せさく』と読む人たちの半分以上は、『徹底』を『撤底』って書きますね。私もここに来て漢字がすっかり書けなくなりましたが・・・。」
とのこと。なるほど、なるほど。上の人が「セサク」と読むと、部下も仕方なく「セサク」と読むと。縦型社会の縮図を見るような、そしてその中で言葉の読み方も決まっていくと。そもそも「施行」も「施策」も、私生活では使わない言葉です。仕事の中でしか使いません。当然そこには「人間関係」も入り込んでくるのでしょうなあ、ご同輩。
2006/4/6
(追記2)

国立富山商船高専・教養学科教授の金川欣二さんの著書『おいしい日本語〜大人のための言語学入門』(出版芸術社:2006、2、24)の92ページに、「施行」に関して、こんな一節がありました。
『現在、両形が拮抗しているものをあげれば、「施行」がある。漢和辞典などで「施」をみると漢音がシで慣用音がセとなっている。慣用音というのは中国古来の発音からすると誤りであるが、昔から一般に使われている読みである。つまり、シが「正しい」のであるが、既に「施療、施主、施肥」「布施」などで定着してしまっている。常用漢字表でも両方が併存している。役所ではセコウが優勢だが、これはシコウが「試行」と同音衝突する(紛らわしくなる)からである。』
やっぱり!私の考えと同じですね!
ま、金川先生の説が本当に正しいかどうかはわかりませんが、私と同じ考えの方がいらっしゃったということで。うーん、ちょっとウレシイ。
2006/4/22
(追記3)

ネット検索していたら、金川先生がご自分の『おいしい日本語』出版に関連して起きた出来事に関して書いていらっしゃいました。その中に私の『読書日記』も引用されていて、「あら、(読書日記を)読んでくださっているのだな」
と恐縮。やっぱり本を出したらその評判を知りたいから、ネット検索したりするものなんですよね。つい昨日も『大阪弁「ほんまもん」講座』(新潮選書:2006、3、20)
の著者・札埜和男先生からお手紙を頂き、一度お会いしましょうという話に。縁は異なもの・・・ですね。
さて、「セコウ・シコウ」とはちょっと違いますが、4月25日、JR福知山線の脱線衝突事故から1年のよみうりテレビの報道特別番組に出演したJR西日本の山崎社長は、「施策」を、
「シサク」
と言っていました。「シサク」だと「思索」「試作」「詩作」などの同音異義語がありますね。間違わないかな。

2006/6/15


◆ことばの話2541「ネットのアクセント」

RKB毎日のスポーツ記者が集団暴行容疑で逮捕された事件で、容疑者の記者は、
「性的暴行の場面のビデオを、ネットに流すぞ」
と被害者の女性を脅していたと、4月4日の日本テレビ夕方のニュース「リアルタイム」で伝えていました。その際の「ネット」のアクセントが、平板で、
「ネット(LHH)」
でした。もちろんこれは、
「インターネット」
の略称としての「ネット」なのですが、従来の使い方では「網」の意味での「ネット」しかなく、これは『NHK日本語発音アクセント辞典』によると、
「ネット(HHL)」
という「頭高アクセント」しか載っていません。アクセント表示も載っている国語辞典『新明解国語辞典』(第6版)には、「インターネットの略称」という意味は2番目に載っていますが、アクセントは『NHKアクセント辞典』と同じく、やはり「頭高アクセント」しか載っていませんでした。インターネットの略称としての「ネット」も、最初の頃は「頭高アクセント」の「ネット(HHL)」だったと思うのですが、最近は「平板」ですねえ。
今後、アクセント辞典の改定に際しては、「平板アクセント」の「ネット(LHH)」も、採用されるのではないでしょうか、この勢いで行けば・・・。
2006/4/4