◆ことばの話2530「生花店」

3月9日、花屋さんに車が突っ込む事故がありました。そのニュースで「花屋さん」のことを読売テレビでは、
「生花店(せいかてん)」
と表現しました。
この「生花店」という呼び方、時々出てくるのですが、何かなじめません。「花屋」と、「屋」の付く呼び方は俗っぽいのと、花屋さんを見下しているようなニュアンスを感じる人もいるだろうということで避けているのですが、「さん」を付けて「花屋さん」あるいはさらに「お」をつけて「お花屋さん」と言うのも、こういった事故のニュースにはなじみません。かと言って「生花店」もなかなかなじめないのです。
というのも、「せいか」という言葉には、
「成果」「盛夏」「聖歌」「製菓」「正貨」「制化」「精化」「青果」「西華」「精華」「生家」「聖火」「正課」「製靴」「声価」「西夏」「臍下」「青化」「惺窩」「正価」「聖化」「勢家」「斉家」「清家」「清香」・・・・
などなど、ワープロの変換でも次々に出てくるほど同音異義語が多く、そのため「せいかてん」と聞いても、「青果店」なのか「生花店」なのか、あるいは「製菓店」なのか、迷いかねません。(「製菓店」は、ないかな。)
その日の午後2時のニュースで毎日放送は、
「花店(ハナテン)」
と表現していました。これもシンプルでいいとは思うのですが、一瞬、
「大阪市鶴見区の『放出(はなてん)』?」
かと思ってしまいました。もし「放出の花店」に車が突っこんだら、
「ハナテンのハナテン」
ということになるのでしょうか。
ちょうどこの日に会議があって、毎日放送のアナウンス部のYさんに会ったので、
「あのニュース、『花店』でやってらっしゃいましたね。」
と話しかけると、
「あれは、いろいろ表現をどうするか悩んだんだけれど、結局ああいった形になったんだよね。」
と話してらっしゃいました。
同音異義語が多い言葉とお店の呼び方については、放送局でも悩んでいます。
2006/3/30


◆ことばの話2529「エロダクション」

『三島由紀夫のレター教室』(三島由紀夫、ちくま文庫、152ページ)に、
「エロダクションの深夜映画」
という言葉が出てきました。エロダクション?なんだそりゃ。「エロ漫画」とか「エロ映画」という言葉は知っていますが。
梅花女子大学の米川明彦先生編による『日本俗語大辞典』を引いてみると、載っていました!
「エロダクション」=(「エロ」と「プロダクション」の混交語)アダルトビデオやポルノ映画などを製作するプロダクション。「プロダクション」をもじったことば遊び。
ということでした。さすが、こんな言葉まで採取しているとは!
しかし、三島由紀夫が死んだ1970年には「アダルトビデオ」はなかったはずなので、この説明は、どうでしょうかね?現在も使われている言葉とは思えないのですが・・・『日本国語大辞典』には「エロダクション」は載っていませんでした。
Google検索では、
「エロダクション」=77件
あ、現在もごく一部で(まさに「業界」では)使われている言葉なんですね、「エロダクション」という言葉は。じゃあ『日本俗語大辞典』の「アダルトビデオやポルノ映画などを製作するプロダクション」という説明は、「当たり!」ですね。
「エロかわいい」とか「エロかっこいい」なんて言葉が流行るぐらいですから、もしかしたら、「エロダクション」も流行る・・・・わけはないか。
2006/3/30


◆ことばの話2528「超高層は何階から?」

ふと、
「超高層ビルは何階からか?」
という疑問が出ました。建築士であるわが妻に聞いたところ、まず高層ビルの定義から教えてくれました。それによると、
「高層ビル」というのは、地上31メートル以上の建物
を指すのだそうです。ビルのフロアは大体3メートルから4メートルと考えたら、8階建てくらいになりそうだとのこと。意外と低いのですね、高層ビルは。でも31メートルといえば、たしか御堂筋の高さ規制が31メートルだったと記憶しています。そう制限をすることで町の景観を保ったのだと。昔の話ですが。
なんで31メートルかと言うと、これを決めた当時の消防車(はしご車)のはしごが届く高さの限界が31メートルだったからのようです。これを越える高さのビルには、さらに厳しい消防設備が必要と言うことですね。
さあ、そして「超高層ビル」ですが、高層ビルが31メートルということは、それ以上なら「超高層ビル」になるのかというと、そうではありません。「31メートル以上」が「高層ビル」なので、「何メートルまで」という上限は、言ってないではありませんか。
「超高層ビル」と言うのは、一般的には「60メートルが境」になるそうです。これは大体、
「15階建てぐらい以上」
ということ。意外と低いですよね。そうすると、今ある30階とか40階とか50階というビルは、
「超超高層ビル」
なのかな?なんかモーニング娘。の曲の歌詞みたい。超超超超、高い感じ。「超」を付ければいいってもんじゃないと思うけど。
ちなみに、3月14日に大阪市天王寺区の「14階建てのマンション」で起きた火災のニュースでは(読売新聞)、
「高層マンション」
という表現が使われていました。
2006/3/24
(追記)

系列のミヤギテレビのアナウンス部が2000年から毎年発行している『放送で注意したい言葉・ミニ辞典』というのを送ってもらいました。50ページほどの、手のひらに収まるサイズの冊子で、2000年から毎年1冊づつ出ています。今年VOL.6が出るそうです。
読んでいると、その中に「高層ビル」に関する項目もありました。2003年3月に書かれた「高層の定義は・・・」というもので、それによると
『この「高層」、どのくらいの高さかといいますと・・・・消防法では、地上31メートル、11階以上のことで 正式には「高層建築物」といいます。』
とありました。「高さ31メートル」だけでなく、「11階以上」という規定も消防法にはあるんですね。
そうすると、「超高層」が「15階建てぐらい以上」(60メートル以上)だそうですから、「高層ビル」の指す範囲は意外と狭く、
「11階〜14階建て」
ということになるのでしょうか?ものの本によると、14,5階建てだと、大体45メートルぐらいだそうですから、そこから60メートルまでの間の「15メートルほどの高さの差」と、「15階建てぐらい以上」の「ぐらい」が曲者ですね。
また、ビジネスビルとマンションでは天井の高さや階高が違うでしょうから、そのあたりで、呼び方の差が出てくるのかもしれません。
2006/3/28
(追記2)

3月28日、あ、今日だ。今日の読売新聞夕刊に、
「銀座の高層化待った」
という見出しの記事が。銀座には、ビルの高さや容積率を規制している「銀座ルール」というのがあるそうで、それによると、
「高さ56メートル、容積率は最大1100%まで」
と制限されているそうです。ところが、松坂屋が高さ約66メートルの箱型のビルを建てる案や、低層階と高層部(135メートル〜190メートル)を組み合わせる案の計4案を検討しているほか、三越や歌舞伎座も高層ビルへの建て替えを検討しているものの、地元からは反対の声も上がっているとのことです。
松坂屋の「66メートル」というのは「高層」を越えて「超高層」になると思いますが、高いビルの多い東京では、「超」は付かないのでしょうかね?
2006/3/28
(追記3)

ちょっと古い本ですが、1989年11月に出た、NHKモーニングワイド『ニュースのことば』(日本放送出版協会)に、「高層マンション」ということばの意味が載っていました。それによると、
「建築基準法」には「高層建築物」という定義はなく、高さが45メートルを越える建物を建てる場合は高層建築物評定委員会の審査を経て建設大臣(今だと国土交通大臣)の特別許可を受ける必要があるそうです。一方、消防法では第8条の2項に、高さが31メートルを越える建築物を「高層建築物」と定義しているとのことです。それで、
「31メートルがなぜ『高層』の目安になっているか」
については、
「従来、日本では、地震対策などを考えて尺貫法でいう100尺まで、つまり31メートル未満ということになっていた」
そうです。これは、大正12年2月に東京駅前に完成した『丸ビル』の高さが、当時で言う100尺で、丸ビルは関東大震災にも耐えて残り、日本では長らくこの丸ビルを越えるような高さの建物はなかったということです。それが耐震技術の進歩などによって、昭和38年(1963年)に建築基準法が改正されて、高さ制限を廃止もしくは緩和する一方で、建物の規模(延べ面積)で規制するようになったそうです。これによって建てられたのが、”高層ビルの幕開き”と呼ばれた「霞が関ビル」で、高さが147メートルと。いくら高さ制限がなくなったからって、
「いきなり5倍近い高さ」
のものを作るなんて・・・・高度経済成長だったんですねえ・・・。消防法では、当時のはしご車のはしごが届く高さも考慮して、「31メートル」が「高層」の一つの目安になったという説もあるそうです。
一方、「超高層」については建築基準法にも消防法にも、はっきりとした規定はないそうです(1989年11月当時の話ですが)
ただ、東京消防庁は、高さが100メートル以上の建物を「超高層」と呼ぶとのこと。
1989年(平成元年)当時、日本一のノッポ・マンションは、平成元年4月に東京中央区・の大川畑に完成した40階建て、120メートルのマンションだったそうです。
こんなに超高層マンションの建設ラッシュになった2006年の今、日本一のマンションは、高さは、たしか200メートル越えていたような・・・年をとると、だんだんお空に近づくとか・・・。
調べてみると、現在最も高さがある分譲マンションは、埼玉県川口市にある『エルザタワー55』で、55階建てで高さは185メートルだそうです。聞いたことがありました。
そして、2006年8月の完成を目指して建設が進められている大阪市港区の『クロスタワー大阪ベイ』は、高さ200メートル、階数は54階建ての予定だそうです。また、今後の建築予定としては、2008年12月竣工予定「パークシティ武蔵小杉」(神奈川県武蔵小杉)が、59階建て・高さは約197mと、階数では日本一2008年1月竣工予定「THE TOKYO TOWERS」(東京勝どき)が、58階建てのツインタワーで、「高層ツインタワー」としては日本一なんだそうです。
また賃貸住宅では、東京汐留地区に建設した56階建てマンションが日本一です。3〜44階までが都市公団の賃貸住宅『アクティ汐留』で、45〜56階は住友不動産の高級賃貸住宅『ラ・トゥール汐留』だそうです。日本の都市部は「摩天楼」になってきてますねえ・・・。
2006/4/14
(追記4)

「追記2」に書いた東京・銀座の超高層ビル建設の話。結論が出たようです。4月19日の読売新聞のウェブ記事によると、銀座では、
「10階建てにあたる56メートル以上のビル」
の建設を「禁止する区域」と「容認する区域」に分けるのだそうです。
それで、「松坂屋」のビルは66メートルから190メートルという高層の構想で、しかも禁止区域に建設を計画しているので、「待った!」がかかったということです!
一方、4月20日の朝刊各紙、および読売テレビ「ニューススクランブル」の報道によると、京都市は、景観を守るために、高さ制限を厳しくすることになったそうです。それによると、市内中心部の四条通や烏丸通など6本の幹線道路沿いで、現在の最高45メートルを31メートルに規制し、これらの幹線道路に囲まれた地域についてもこれまでの31メートルを15メートルに引き下げるのだそうです。現在ある不適格な建物の560棟は、建て替えをする際に適用するとのことで、規制は来年度からスタートさせるとのことです。「街」にとって、「景観」は大切ですからね。
2006/4/21
(追記5)

2007年2月8日の読売新聞に、
「御堂筋に超高層ビル」
という見出しが。記事を読んでみると、積水ハウスが大阪市中央区の御堂筋沿いで2010年中の完成をめざしている大型複合ビルは、
「27階建て、140メートルの超高層ビル」
にする計画だというもの。そこにはアメリカの世界的なホテルチェーン「スターウッドホテル&リゾートグループ」参加の最高級ホテル「セントレジス」が日本初進出して11階から27階に入る予定だそうです。
御堂筋は1937年の完成後、旧市街地建築法などで高さが31メートルに制限されていましたが、1969年に法による規制がなくなったあとも市の行政指導で町並みが保たれていたのですが、1995年に土佐堀通〜中央大通間(1、1キロ)で歩道から奥行き10メートルまでは高さ50メートル、その後方は60メートルという現在の高さ規制となり、さらに今回の規制緩和で淀屋橋、本町3丁目の両交差点周辺を対象に、高さを140メートルまで認めるようになって、その規制緩和の第1号が積水ハウスのビルなんだそうです。いいのかなあ、こんなに緩和してしまっても。
2007/2/13
(追記6)

2007年10月26日の日本経済新聞朝刊に載っていた全面広告が、
「日本一の高さ、大阪に誕生」
という大きな見出しとともに、大きなビルの写真(完成予想図、おそらくCG)が載っていました。それによると、「ザ・北浜タワー&プラザ」という名前で、三越の跡地に立つマンションのようです。説明文には、
「高さ日本一の地上209m・54階建て」
それで、この「日本一」の上に小さな小さな小さな「米印」と「2」という数字があって、その芥子粒ほどの文字を解読すると、
「現存および現在建設中の分譲マンションにおける高さにて算出(MRC調べ・平成19年7月現在)」
ということが書かれていました。「日本一」にはいろいろ、条件が厳しいようですね。
2007/11/1


◆ことばの話2527「けさ午前8時半ごろ」

本日(3月20日)午前中に起きた山陽道の事故のニュース原稿(昼ニュース)で、
「けさ午前8時半ごろ」
というのがあって、Iアナウンサーはそのまま読んでしまいましたが、これは重複表現です。
「けさ8時半ごろ」
あるいは
「(きょう)午前8時半ごろ」
が正しい。「きょう」は、なくてもわかりますので、この場合はなくてもよいです。気をつけましょう。
さて、「重複表現」と言えば、昔からこのような言い回しがあります。
『いにしえの昔の武士のさむらいが 山の中なる山中で馬から落ちて落馬して 女の婦人に笑われて 赤い顔して赤面し うちへ帰って帰宅して 仏の前の仏前で 短い刀の短刀で 腹を切って切腹し 死んであの世へ行っちゃった』
聞いたこと、ありませんか?こういった「重複表現」について、NHKの「ことばおじさん」こと梅津正樹アナウンサーが、ホームページ「ことばおじさんの気になることば」で、2004年の5月24日に書いてらっしゃいます。それによると、ちょっと古いですが昭和57年(1982年)に、NHK放送文化研究所が放送関係などの人に調査したところ、
「日本に来日する」
「水道の水が断水する」
「火事が鎮火する」
などに「違和感を感じる」との結果が出たそうです。それぞれ、
「来日する」
「断水する」
「鎮火する」
で良いわけです。その後、平成15年(2003年)12月から2か月にわたって同じ様な調査をしたところ、
1.色が変色する。
2.頭をうなだれる。
3.いちばん最初
などの順で抵抗感があるという結果が出たとのことです。違和感を感じる(これも「感」が重なっていますが)でも、重複表現と分かっていても、「強調したい時」には使うケースもあります。例えば、
「期待して待つ」
も、言葉を重ねて強調することで「待っている」という強い気持ちが伝わるように感じますね。また重複した表現がすべておかしいとも言えません。
「歌をうたう」
はごく普通に使いますよね。結局こういったことは「慣用」なので、そのラインをどこで引くかが難しいところです。
2006/3/20


◆ことばの話2526「サンドウィッチとサンドイッチ」

JR大阪駅のプラットホームの売店に、
「サンンドウィッチ」
と書いてあるのが目に入り、おや?と思いました。この表記でよかったかな?
共同通信の『記者ハンドブック』と新聞協会の『新聞用語集』『NHKことばのハンドブック(第一版)』を調べると、
「サンドッチ」
でした。『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『明鏡国語辞典』『岩波国語辞典』『新潮現代国語辞典』も、
「サンドイッチ」
でしたが『明鏡国語辞典』は、
◇「サンドウィッチ」とも。
『三省堂国語辞典』は、
「▽サンドウィッチ」
とも書いてありました。また『新潮現代国語辞典』にも、
「サンドウィッチ」[河童]
と出ていて、芥川龍之介は『河童』の中で「サンドウィッチ」という表記を用いていることが記されていました。『日本国語大辞典』では、やはり見出しは「サンドイッチ」ですが、すぐに、
((サンドウィッチ))
とも書いてあります。用例の徳富蘆花『思出の記』(1900−1901)では、
「サンドヰッチに舌鼓をうち」
岩野泡鳴の『断橋』(1911)では、
「サンドヰチを買はうとしたのだが」
「ヰ」を使っていました。また、平出鏗二郎の『東京風俗志』(1899−1902) 中・八・酒では、
「新橋々畔にビーヤ、ホールと称ふる飲酒店開かれ、極めて簡便にビールのコップ売をなし、傍サンドウィッチ等を備へて」
とあり、「サンドウィッチ」でした。そして1933年から1937年に書かれた石坂洋次郎の『若い人』では、
「長椅子の中央の左右からサンドイッチのやうに挟まれて居た級長の玉井は」
と「サンドイッチ」でした。これを見る限り、昔の方が「サンドヰッチ」「サンドヰチ」、そして「サンドウィッチ」を使い、新しい時代の方が「サンドイッチ」になったということでしょうか。
Google検索では、
「サンドウィッチ」=97万8000件
「サンドイッチ」=396万件
と「サンドイッチ」の方が4倍ほど使われていますが、いずれも、ずいぶんよく使われているようで、どちらが正しくてどちらが間違いとは言えそうもありません。ただ新聞や放送では「サンドイッチ」を使うことに決めている、ということですね。
2006/3/24
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