◆ことばの話2495「『甘エビは匹か?尾か?」

報道ディレクターのM君から内線電話です。
「お忙しいところすみません。実は今日の放送で、甘エビでダシを取ったおいしいラーメンを紹介するんですが、甘エビは『匹』でしょうか?『尾』でしょうか?」
「生き物として数える時は『匹』、商品としては『尾(び)』『本』と、『数え方の辞典』には書いてあるけどねえ。まあ、『尾』でもいいかなあ・・・・もちろん『匹』でもいいんだけど。甘エビを丸ごと使うの?」
「いえ、甘エビの『頭だけ』を、ラーメン1杯に30匹分使っているんですよ。」
「あちゃー、頭だけかあ。じゃあ、『尾』はまずいわなあ。やっぱり『匹』かなあ。」
「そうですねえ。お店のご主人も『匹』って言ってましたし・・・わかりました。じゃあ『匹』でいきます!」

ということで「匹」で放送しました。ラーメンは、あったかそうで、とってもおいしそうでした。
2006/1/30


◆ことばの話2494「0コンマ5秒」

2月8日の「ザ・ワイド」の中で、アナウンサーが、
「0(レイ)コンマ何秒」
という言葉を使っていたが、これは間違いで、
「0(レイ)テン何秒」
と言うべきである。「コンマ」「カンマ」と小数点は違うものだが、明治時代の人が誤まって使ったものだというご指摘を、視聴者の方からハガキでいただきました。(宝塚市の消印しかないので、お名前はわからないのですが)
確かに、
「0コンマ何秒」
という言い方は古い感じで、あまり最近耳にしません。Googleで「0コンマ」で検索したら、
「0コンマ」=2万2000件(2月14日検索)
でした。ネットのフリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」では、
『「コンマ」=コンマ(comma)は、カンマとも呼ばれ、約物のひとつで、横書き文書で文の途中の区切りに打たれる点である。(中略)英語圏諸国や日本では、数字の3桁ごとの区切り(桁区切り)にコンマを用いるが、非英語圏の欧州諸国では、小数点にコンマを用いる。このことから、日本でも小数点を「コンマ」と言い表すことがあり、たとえば、0.21秒を「0コンマ21秒」や「コンマ21秒」などと言う。』
と載っていました。朝日新聞の知り合いに
「新聞で『0(レイ)コンマ5秒』のような『コンマ』は使うのでしょうか?」
と聞いたところ、
「時間の表記には使いません。話し言葉で『0.1秒』を指して『あとコンマ1秒早ければ…』というような例はあります。」
とのことでした。どうやら、絶対に間違い、とは言えないようですね。
2006/2/17


◆ことばの話2493「『どんどん』のアクセント」

市町村合併で、また近畿の市町村に新しい名前のものが加わりました。
その「おしらせ」のメールをアナウンス部内に送ったところ、新人で長野県出身のIアナウンサーが、
「なんだか市町村合併で、どんどん市町村の規模が大きくなりますね」
といったのですが、その際の「どんどん」のアクセントが「平板アクセント」で、
「どんどん(LHHH)」
だったので、「待った!」をかけました。
『NHK日本語発音アクセント辞典』には、もちろん「頭高アクセント」
「どんどん(HLLL)」
しか載っていません。そう指摘すると、
「え・・・そうなんですか、でも・・・」
と言いかけたので、
「『でも・・・』じゃない!確かに最近、東京の若い人で、そういったアクセントでしゃべる人を聞いたことはあるけど、やっぱりそれはおかしいよ。文章全体をコンパウンドしてしまったら、『強調の副詞』である『どんどん』が目立たないでしょ。」
と説明しても、なんだか納得行かない様子でした。
何人か若いアナウンサーに聞いてみましたが、平板アクセントでしゃべる人は、ほかにはいませんでした。ちょっとホッとしました。
2006/2/17
(追記)

このIアナウンサーは、「半袖」のことを、
「ハンソデ(HLLL)」
と「頭高アクセント」で、また「震度4」を、
「シンド・ヨン(HLL・LH)」
というアクセントで言うのですが、これは長野のアクセントなのでしょうか?・・・って、誰に聞いてるんだ??
2006/3/2
(追記2)

NHKの原田さんから、メールをいただきました。
『「半袖(ハンソデ)」のアクセントですが、以前、長野県(松本)の出身者が、中高の「半ズボン」を、頭高(HLLLL)で発音しているのを聞いたことがあります。
ただ、長野県の場合、地域性があり、北信と南信では、アクセントがやや異なりますので、一概には言えないかもしれません。』
やはり、「ハンソデ(HLLL)」は、長野では言う地域がありそうですね。原田さん、ありがとうございました。
2006/3/3


◆ことばの話2492「おめでた婚」

2月17日の産経新聞に、
『「おめでた婚」サポート』『3カ月内の挙式特典プラン続々』
という記事が載っていましたが、この言葉は1月30日の読売新聞のコラム「ことばのこばこ」でも、そのまんまの言葉「おめでた婚」というタイトルとして、梅花女子大学の米川明彦教授が書かれてました。それによると、これは「できちゃった婚」の「言い換え」の言葉であると。また、
『「できちゃった婚」は俗語なので新聞には使いにくいためだろう』
『この「おめでた婚」は結婚産業から出た言葉だ』

このほか、
「ダブルハッピーウエディング」(おめでたと結婚の二重のハッピーということ)
「ママリッジ」(ママになってマリッジ[結婚])

という言い方もあるが、英語だと、
「ショットガン・ウエディング」
という「父親の発想」だと紹介しています。なるほどね、ショットガン・・・
Google検索では、(2月16日)
「できちゃった婚」= 8万7000件
「おめでた婚」=  1万9600件
「ダブルハッピーウエディング」 =374件
「ママリッジ」= 204件
「ショットガン・ウエディング」 =245件
去年(2005年)の11月1日に検索したときには、「おめでた婚」は137件、2004年4月に検索した時には「できちゃった婚」も7660件しかなかったのに、もんのすごく増えていますね!
ついでに
「作っちゃった婚」= 427件
「授かり婚」=  602件
「でき婚」= 1万3200件
「できちゃった結婚」= 8万8900件
「マタニティ結婚」= 96件
でした。「できちゃった結婚」は2001年に放送されたフジテレビのドラマのタイトルでもありました。「作っちゃった婚」「授かり婚」は、去年11月の検索時(それぞれ、673件、658件)より減っています。「おめでた婚」が定着しつつあると見ていいでしょう。
ところで、先日実家に寄った際に、母からこんな話を聞かされました。
若くして戦死した、母の叔父の遺族年金の受給者変更の手続きのために、戸籍抄本を取ってきて見てみたところ、
『母の両親(私の祖母)の「入籍」(戦前ですから。今で言う「婚姻届の提出・受理」です)は、母の誕生の1か月前である』
ということがわかったと言うのです。つまり、戸籍上はまさに今で言うところの、
「できちゃった婚」
であると。
その件に関して母が、90歳を越えた祖母に問うたところ、
「昔はみんなそんなものやったのよ・・・」
という返事が返ってきたということです。
それを聞いて私が考えたのは、これは今のような「できちゃった婚」ではなく、そもそも家から遠い役所まで出張って「届け」を出しに行く必要性や迅速な正確さが、今から70年以上まえには求められていなかったのではないかということです。
そう言えばこの間、ナイジェリア出身のタレント、ボビー・オロゴンさんが、実は年齢をごまかしていた(32歳と言っていたのが戸籍上は39歳であった)ということがありましたが、それについて、同じくアフリカ出身のムルアカさんが、
「アフリカではよくあることなのよ」
と言っていましたが、たしかにそうなんだな、と思いました。年齢をごまかすということがよくあるのではなく、戸籍があってもわりと緩やかな(悪く言えば、いい加減な)モノであるということです。日本だって70年ほど前は、今のアフリカと同じような国だったのだなというようなことを想像したのです。それは、そんなに昔のことではありませんね。
なお、「平成ことば事情331できちゃった婚」もご覧ください。
2006/2/17
(追記)

「なるトモ!」の「今日は何の日・2月21日」に、2001年の2月21日の、松嶋菜々子・反町隆史の結婚を報じたスポーツ紙を紹介していました。その紙面には、
「ナチュラル婚」
という文字が出ていました。ふーん。Google検索では(3月1日)、
「ナチュラル婚」=6件
でしたが、注目はその中に松嶋・反町の結婚を扱ったものの他に、最近は「できちゃった婚」が増えているので、これまでのような普通の結婚を指して「ナチュラル婚」と言うという記述があったことです。これは携帯電話が増えたことによって、家の電話を「家電」「ウチ電」と呼ぶようになったことと似ていますね。まだそういう動きは大きくはないようなので、今後の動向を見守ります。
2006/3/1
(追記2)

報道局のアナウンサーの机の上に置いてあった、内閣府の「平成17年版・国民生活白書〜子育て世代の意識と生活」という本をパラパラ眺めていたら、その54ページ「結婚行動における新しい流れ」の中に、
「法律婚へのこだわりー『できちゃった婚』」(20代前半までの結婚は「できちゃった婚」が主流)
という記述がありました。1980年には12、6%だった「できちゃった婚」が、2000年には26、3%と20年間でほぼ2倍になったこと、また15歳〜19歳では第一子の8割以上、20歳〜24歳ではの約6割が「できちゃった婚」で生まれているのだそうですから、若い世代での「できちゃった婚」率の高さには目を見張りますね。
2006/3/7
(追記3)

関連の話題で・・・。
『三島由紀夫レター教室』(三島由紀夫、ちくま文庫、175ページ)で、「マタニティドレス」のことを指して、
「マターナルドレス」
という言葉が出てきました。最近は、全然聞いたことがない表現なんですが・・・。
Google検索では(3月27日)、
「マターナルドレス」=0件
「マタニティドレス」=3万3500件
でした。「マターナルドレス」、1件もないとは・・・・。
『Daily Concise English Dictionary』の和英で「妊婦服」を引いたら、
a maternity dress
とありました。また、「マターナル(maternal)」には「母の、母らしい、母方の」という意味は書いてありましたが、「妊婦の」という意味は「マタニティ(maternity)」の方にしか載っていませんでした。
「マターナルドレス」というのは、三島の造語だったのでしょうかね?
2006/3/27
(追記4)

追記3と同じく『三島由紀夫レター教室』(三島由紀夫、ちくま文庫:1991、12、4第1刷、2000、11、25第21刷)の中で、
主人公の若い二人は、今で言う「できちゃった婚」「おめでた婚」で、妊娠を機に結婚披露宴を中華料理屋で開くのですが、その様子を見た、ヒロインのいとこの丸トラ一君は、
「この御新婦さんが御産婦さんだと思うと、僕はおかしくてたまりませんでした」
と言っている場面などは、当時の「できちゃった婚」に対する若者の見方のようなものが垣間見えました。
2006/3/28


◆ことばの話2491「関係者に殺されました」

なにやらブッソウなタイトルですが・・・。
1月31日の「ニュース・スクランブル」の最後のコーナーニュースファイルで、メキシコの闘牛場で、興奮した体重500キロもある牛が客席に飛び込んで、けが人が出たというニュースを伝えていたのですが、その最後で、
「なお牛は関係者に殺されました。」
となっていたので、これはいくらなんでも、直接的過ぎるのではないかとおもって、
「『殺されました』よりは『処分されました』の方がよかったのではないか。」
とSキャスターにメールしたところ、
「日本テレビから受けた外電のニュースだったのですが、その元の原稿が、
『刺し殺されました』
だったようですね。『ニュースプラス1』の先出しニュースでは、
『刺殺されました』
とやっていました。」

との返事が。ああ、生々しい。その後さらにSキャスターから、
「牛の名前は『小鳥ちゃん』だったそうです。合掌。」
とメールが。牛なのに小鳥ちゃん・・・。なんだかなあ。「小鳥ちゃん」の冥福を祈ります。合掌・・・・トリノオリンピック・・・。
2006/2/15
(追記)

トリノ・オリンピックも閉幕しました。
福岡伸一『もう牛を食べても安心か』(文春新書)を読んでいたら、22ページに、
「殺処分」
という言葉が出てきました。「殺処分されました」という言い方もあるかも知れません。
Google検索では、
「殺処分」=11万5000件
「殺処分されました」=179件
でした。犬やネコ、つまり野良犬や野良ネコの、保健所による「殺処分」に関する記述がたくさん出てきました。
2006/2/28
(追記2)

2005年11月21日の毎日新聞「ペットとヒトとのお付き合い」という、2006年6月施行の「改正動物愛護管理法」の解説記事の中に、
「安易な殺処分は禁止」
という見出しがありました。捨てられたり逃げ出したりして保健所などの施設に引き取られる犬や猫は、毎年40万匹近くいて、そのほとんどが「殺処分」されているんだそうです・・・確かにかわいそうですねえ・・・・。
2006/3/7
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