◆ことばの話2490「『人たち』のアクセント」

2月1日のお昼前に放送していた『ご存知ですか』という番組を見ていたら、リポーターの若い男性アナウンサーが、
「人たち」
という言葉の「と」の音が飛んでしまって
「ひったち」
としゃべっているように聞こえました。何度かこの言葉が出てきたので気になりました。確かに「ひとたち」という言葉は、発音面から見ると、
「hitotati」
というふうに「ハ行」と「タ行」が続くために、「h」と「t」にはさまれた「i」に「母音無声化」が起きるので、音として出にくく、無声化された音は促音に繋がっていく傾向があるため、楽な発音の仕方をすると、
「ひったち」
になってしまいます。それでもなんとなく「ひとたち」と言っているように聞こえるし、本人も言ってるつもりになれますが、やはりこれは「雑な感じ」に聞こえることは否めません。無声化の音を出す時には、他の有声音を言う時よりも息を強く出さないと、きっちりと音が出ませんので、ご注意を!
2006/2/15


◆ことばの話2489「駅徒歩フラット3分」

駅の近くで今、新しいマンションが建設中です。その塀にこんな文字が。
「駅徒歩フラット3分」
この「フラット」って、どういう意味なんでしょうか?駅から段差のない
「『平らな』道で3分」
ということでしょうか?それとも陸上競技などで「13秒フラット」とかいうような意味で、
「3分『ちょうど』」
の意味?でもそれだと「フラット3分」ではなく、
「3分フラット」
と言うのではないでしょうか?それとも、
「『フラっと』歩いて3分」
でしょうか?これはなさそうですが。『新明解国語辞典』「フラット」を引いてみました。
「フラット」=(一)平面的で、一様に変化の乏しい様子だ。(例)「フラットな印象の絵」(二)アパートなどの一つの階全部。(三)[楽譜で]半音だけ低くする記号。変記号。「♭」。(四)[競技で]かかった時間に秒未満の端数が無いこと。(例)「十一秒フラット(=かっきり)」
とありました。(ちょっと「かっきり」が気になりましたが。「きっかり」ではないのか?)
どうもこの(四)の意味の「フラット」のようですが、それならやはり順序が違いますね。
○「3分フラット」
×「フラット3分」

だと思います。おそらく「ジャスト3分」と「3分ジャスト」ならば、順序がどちらでも使えるので、それにならって「フラット」も使ってみたと思われますが、これはあかんな。
Google検索では(2月15日)、
「1分フラット」= 369件
「2分フラット」= 183件

「3分フラット」= 165件
「4分フラット」= 110件
「5分フラット」= 316件
「6分フラット」=  75件
「7分フラット」=  74件
「8分フラット」=  86件
「9分フラット」=  35件
「10分フラット」=126件
「11分フラット」= 28件
「12分フラット」= 42件

と、まあまあの件数が出ました。これに対して、順序が逆の「フラット○分」は、
「フラット1分」= 2件
「フラット2分」= 9件

「フラット3分」=20件
「フラット4分」=14件
「フラット5分」=16件
「フラット6分」= 1件
「フラット7分」= 6件
「フラット8分」= 5件
「フラット9分」= 6件
「フラット10分」=5件
「フラット11分」=0件
「フラット12分」=1件

件数は、どちらかというと少ないですね。しかもこのうち「フラット5分」は、塗料関係「全艶消し」などと並んで、
「フラット5分艶消し」「フラット7分艶消し」
などとあるので、これは「ごぶ・つやけし」「しちぶ・つやけし」と読んで、関係なさそうです。
また、「フラット8分」も、
「フラット、8分音符」
という音楽関係の用語が入っていたりします。不動産関係では、
「JR甲南山手駅フラット4分」(S不動産)、「最寄駅までフラット6分」「JR「高槻」駅フラット徒歩8分。」(N不動産)、「武蔵境フラット10分」
というようなものがありました。そこで、N不動産に電話で、「フラット」の意味について聞いてみたところ、なんと、
「平らな道と言うことです。」
という答えが!
「フラット3分というと、3分ちょうどという意味ではないんですね?」
と念を押すと、
「はい、違います。山の斜面などのような道ではなくて、平らな道ということです。」
「それは、ちょっとした段差なんかもないということですか?」
「うーん、少しぐらいの段差はあるかもしれませんが、ベビーカーなども押していけるような道ということです。」

という答えが。意外でした。そう言えば、
「学園前ノンフラット12分」
と言うものも見つかりました。「ノンフラット」は「斜面である」、つまり「上り坂」(下り坂)ということのようです。
そうすると、「平らな道で駅から3分ちょうどでワンフロア全部が一部屋であるような家(マンション)」は、
「駅徒歩フラット3分フラット・フラット」
となるのでしょうかね・・・いや、冗談です。
大変、勉強になりました。N不動産のお姉さん、丁寧なご対応、ありがとうございました。
2006/2/15
(追記)

家に帰ってから、ゼネコンに勤務する妻に、
「『駅徒歩フラット3分』ってどういう意味だと思う?」
と聞いてみたところ、
「そりゃ、駅から歩いて3分で、アップダウンのない平らな道、ということでしょ」
と、こともなげに答えました。
「それって常識なん?」
と問うと、
「業界内ではね。でも宣伝文句にまで登場するようになったのは、明らかに『高齢社会になったため』で、『フラット』ということを強調した方が売れるからよ。一軒家からマンションに移り住む、リタイアしたお年寄りも増えているから、バリアフリーとかフラットとかそういうことを売り文句にして、ターゲットとして狙っているのよ。」
とのことでした。そんな背景があったとは・・・。
2007年問題の陰で、「フラット」という言葉が不動産広告に増えている、という話でした。
2006/2/16
(追記2)

住宅関係と言うか金融関係と言うか、2007年5月4日の日経新聞に載っていたベタ記事に、
「フラット35」
というのがありました。これは住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)が民間金融機関と提携した最長35年の長期固定ローンのことで、その5月の適用金利を発表したという記事でした。
2007/5/7


◆ことばの話2488「立飛」

少し旧聞に属しますが、去年の10月31日、国立国語研究所の座談会に招かれて行ってきました。以前、国語研究所は東京都北区西が丘にあったのですが、立川市内に移転しています。JR立川駅からタクシーで7分ほどのところにあります。
その立川市内の看板に、矢印とともに、
「立飛」
という文字が記されていました。一瞬考えて、これは、
「『立川飛行場』の略ではないか?」
と思ったので、タクシーの運転手さんに、
「この辺に、立川飛行場はありますか?」
と聞くと、
「ある」
とのこと。自衛隊の飛行場のようです。
会社に帰ってから、インターネットで調べてみました。それによると、1922年(大正11年)に陸軍の飛行場として設置されて、街の発展の中核になったみたいですね。戦後は米軍に接収され、米軍立川基地として1969年(昭和44年)11月まで使われました。1977年(昭和52年)11月30日、立川基地は全面返還され、1980年(昭和55年)から国営・昭和記念公園の建設が始まり、1997年(平成9年)4月には、公園の一角に、首都圏で戦後作られたものとしては最大規模となる日本庭園が誕生というような記述がありました。
「Google Earth」で見てみると、国立国語研究所の西側に、広大な敷地の滑走路が見えました。これか!現在は使われているのかな。自衛隊かな。

と、ここまで書いて2〜3か月放っておいたら、今度は小学2年の息子がこんな質問をしてきました。
「なあ、お父さん、空港と飛行場はどう違うの?」
「うーん、そうやな。大雑把に言って、外国に行く飛行機が発着するような大きな国際空港は『空港』、もっと小さなものは『飛行場』や。でも関西の人は、『空港』のことを、ぜーんぶ『飛行場』と言う傾向があるかも知れんな。昔の人は、『空港』やなくて『飛行場』と呼んでたんだと思うよ。」

そうそう、隠れた関西弁としての「飛行場」がありました。それと自衛隊などの飛行機の発着場は「空港」ではなく「飛行場」ですね。この間、問題になったのも、
「岩国飛行場」
でした。「岩国空港」ではなく。とすると、
「一般人が出入りできる大規模な飛行機の発着場を『空港』と呼ぶ」
のじゃな。あれ?「K」のキーを押したつもりが、隣の「J」のキーを押してしまったようじゃな。ま、いいか。『新明解国語辞典』「飛行場」を引くと、
「ひこうじょう(飛行場)」=飛行機が発着するための平らな広い場所。空港。エアポート。
「空港」
を引くと、
「くうこう(空港)」=公共用飛行場。エアポート
あ、やっぱり!「空港」には「公共」、つまり「一般の人が使う」という意味合いが含まれるんですね。「飛行場」にはその概念がない。だから米軍や自衛隊(だけ)が使うのは「飛行場」であり「空港」ではないということですね。
『日本国語大辞典』「飛行場」を引くと、
「ひこうじょう(飛行場)」=航空機の発着する設備を有する陸上・水上の区域。
一番古い用例は1924年の『陣中要務令』九四で、
「宿営地及飛行場其他軍事施設の偵察を行ひ」

です。一方、「空港」は、
「くうこう(空港)」=航空輸送のため公共用に供する場所。エアーポート。
一番古い用例は、1932年の『現代語大辞典』(藤村 作・千葉 勉)で、
「くうこう 空港 飛行機や飛行船などが停まる所。エアポート(airport)。」
となっています。「現代語」の辞典に取り上げられているのが1932年なので、やはり「飛行場」の方が古く、空港は新しい言葉だと思われます。
ここまで調べてみて感じたことは、昔は飛行機に乗る人は、特別の地位か職務の人だけだったので、「飛行場」と呼んでいたのが、「空の便」が一般の人たちにも開放されるに至って、海での「港」にあたる「空の港」=「空港」という概念が生まれてきたのではないか、ということです。だから「空港」の方が新しい言葉ではないかと。Airport(エアーポート)の訳語としては、早くからあったのでしょうか?いや、外国でも状況は同じだったのでは?うーん、でも外国ではAirport以前に違う呼び方があったかどうかに関しては、よくわかりません・・・。
ちなみに、ライト兄弟が飛行機の動力飛行に世界で初めて成功したのは、1903年12月17日です。
てなところで、一旦、締めます。

2006/2/14
(追記)

立川高校出身の大学時代の友人S君(今は立川市には住んでいませんが)に聞いたところ、
「一部(大半?)が国営昭和記念公園になったりして、今はありません。ネットで検索すると、それなりの情報が得られると思います。「立川基地」とも呼ばれていたように思います。私にとっても遠い昔の記憶の中の風景です。」
またこの「立飛」はなんと読むのかを聞いたところ、
「私自身はこういう言葉(=立飛)は使ったことがなく、見聞きもしませんでしたが、おそらくは「たちひ」「たっぴ」はあっても「りっぴ」はないのではないかと思います。たぶん「立川飛行場」の略かなというくらいの認識です。ちなみに、多摩川を渡って立川市と日野市を結んでいる橋が「立日橋」(たちひばし)という名前です。」
ということでした。S君、ありがとう!
2006/2/14
(追記2)

国土交通省のホームページ「空港」の欄を見てみると、全部で95ありました。これに2月16日から「神戸空港」が、そのほか、新北九州空港、静岡空港、新種子島空港、百里飛行場というのが計画されているらしい。合計するとちょうど100です。そしてその中で「飛行場」と名前が付いているものは、15です。順不同で列記すると、
但馬、岡南、美保(米子)、広島西、天草、杭崎、大分県央、徳島、小松、札幌(丘珠)、名古屋、弟子屈、三沢、調布、そして百里飛行場。
第一種空港は全国に5か所(成田国際、東京国際、関西国際、大阪国際、中部国際)で、第二種(A)空港は19か所(神戸空港も含む)、第二種(B)空港は5か所、これらはすべてジェット機に対応していますが、52か所ある第三種空港のうちジェット化されているのは29か所に過ぎません。「飛行場」は15か所中5か所だけです。そういう意味でも「空港」より「飛行場」の方が、一般的に「小さい」と言えるのではないでしょうか。
また、『大阪府のことば』(郡史郎編、明治書院)に、
「共通語と言えるかもしれないが、実は地域性がある表現の例」
として「飛行場」が挙げられています。
「ひこうじょう(LLHLL)」=(大小を問わず空港:タクシーで「伊丹の飛行場へ行ってください」などと言う)
ということで、大阪では(特に年配の方は)、
「空港」=「飛行場」
ということですね。
2006/2/15


◆ことばの話2487「なんとおっしゃる・・・」

「ゲツキン!」のスタッフのU君(30代後半)がプンプン怒っています。何を怒っているのかを聞いたところ、
「若いやつに、『なんとおっしゃる、うさぎさん』と言ったところ、『何ですか、それ?』って言われたんですよ!最近の若いヤツは『うさぎとかめ』の歌も知らないんですかね!」
という、なんだかおもしろい「怒り」だったのです。
(おそらく)ご存知のように、
「なんとおっしゃる、うさぎさん」
は同様「ウサギとかめ」の2番の歌詞です。われわれぐらいの年代まではこの歌は「知っていて当たり前」の曲なので、
「♪なんとおっしゃる・・・・」
と言われれば、合いの手を入れるように、
「うさぎさん♪」
と答えるものだ、という「常識」が崩れ去ったことに、U君は憤っていたのです。
実際、どうなんでしょう、
『どの年代ぐらいまでならば、「なんとおっしゃる」の後に何か動物の名前を「○○さん」と続けるとしたらどう言うかと聞いて、「うさぎさん」と正解するのか』
アナウンス部内で調べて見ました。と言っても、たった6人ですが。
結果は、ちゃんと正解の「うさぎさん」と言えたのは2人。6年目・28歳の女性アナウンサーと、5年目29歳の男性アナウンサーです。不正解は、4人。3年目・25歳の女性アナウンサー、この春入社予定の22歳の女性、去年入社した1年目の23歳の男性アナウンサー、アルバイトの25歳の女性でした。
このささやかな調査によると、現在25歳以下(1980年代以降生まれ)は、「なんとおっしゃる・・・」と言われても「うさぎさん」と答えられない、それ以上の年代はかろうじて「うさぎさん」と答えられるということになりました。
不正解の中には、
「こぐまさん」「こいぬさん」「こねこさん」
など、「惜しい!!」というものもあったので、なんとなく聞いたことはあるし、歌詞も1番は知っているのでリズムだけはつかめているんだけど・・・・というような感じなのでしょうか。
皆さんも25歳と26歳の間の「壁」を、「なんとおっしゃる」で感じてみてはいかがでしょうか。
2006/2/14


◆ことばの話2486「UHFとVHF」

去年入社した新人のMアナウンサーと一緒に昼食に言ったとき、ふと思いついて、
「VHFとかUHFって知ってる?」
と聞いてみたところ、
「それって、ベータとかなんとかいうヤツですか?」
「それはVHSやろ!」

ということで、やはり、1981年生まれの彼は知りませんでした。テレビ局の社員なのに・・・。
会社に戻ってから、彼より1歳年上の1980年生まれ、3年目のKアナウンサーに聞いてみましたが、ハッキリとは知らないようで、
「それって、テレビの裏のところに書いてあるやつですよね。読売テレビってVHFですか?それともUHF?」
と言っていました。ちょっとはわかっているようですが・・・。
新人で1982年生まれのIアナウンサーにも聞いて見ましたが、
「テレビの端子の名前ですよね。ケーブルテレビの名前ですか?」
「じゃあ、読売テレビはVHF?それともUHF?」

と聞くと、
「・・・UHFです」
「!?」
「VHFです」
「ふーん・・・」
「・・・UHFです」

とやっぱりわかっていませんでした。
我々が子供の頃のテレビは、もちろんリモコンなどはなくって、チャンネルをガチャガチャ回すものでした。そのチャンネルは、
「VHF」
のチャンネルで、その後カラーテレビを購入した時に、もう一つチャンネルが付いていて、それが、
「UHF」
のチャンネルでした。
しかし、生まれた頃からリモコンが当たり前で、その空きチャンネルである(関西だと)、
「1、3、5、9、11」
に、UHFのチャンネルを割り当てて使っていると、UHF局の本当のチャンネルを知らなくても済むということなんです。私なんかは子供の頃から、
「テレビ大阪が19チャンネル、サンテレビは36チャンネル、KBS京都が34チャンネル」
と覚えていますが、今の若い人は、
「テレビ大阪は・・・11チャンネルですか。サンテレビは3チャンネルですよね」
というふうに、自分の家のリモコンに入れているチャンネルでしか認識していない人が多いのではないかと思うのです。本当のチャンネルは、新聞のテレビ欄のそれぞれのテレビ局の名前の横に記されてありますから、一度、見てみてください。
ちなみに「VHF」「UHF」というのは、
UHF=ultra high frequency(超極短波、デシメートル波)
VHF=very high frequency(超短波、メートル波)

のこと。「U」とか「V」とかは、「ウルトラ」「ベリー」の頭文字だったんですね。割りと身近な英語です。『知恵蔵2006』によると
<電磁波>
ガンマ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、ミリ波、センチ波(またはマイクロ波=SHF)、デシメートル波(UHF)、超短波(VHF)

ということで、「FMとテレビは超短波(音声)」なんだそうです。
あ、そうそう、新聞のテレビ欄を私も改めて見てみたら、あらら、最近は地上デジタル放送が始まってるから(三大都市圏は、2003年12月1日から)、地上アナログ放送のチャンネルの横に、読売テレビだと
「D10」
というふうに、
「地上デジタル放送のチャンネル」
も記されているのですね。読売新聞だと、あと視聴者センターの電話番号とホームページのアドレスまで書いてあります。親切!普通の人は、気にも留めてないんだろうけど・・・。
地上アナログ放送とチャンネル番号が違うのは、
NHK総合=D1
NHK教育=D2
サンテレビ=D3
京都テレビ=D5
テレビ大阪=D7

でした。
2006/2/14
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