◆ことばの話2485「屏風の数え方」

現在、新聞用語懇談会放送分科会では、「助数詞の数え方」のハンドブックを作るための作業もここ1年ほどかけてやっています。先日の会議の席では、
「屏風の数え方」
について、「京都チャンネル」などで古美術についてよく取材していて詳しい、関西テレビの岡本アナウンサーから、「京都国立博物館」の考え方を踏まえた説明がありました。
それによると、屏風は曲がっているところの数を数えて、「曲(キョク)」と言い、よくあるのは、
「六曲一双(ロッキョク・イッソウ)」
の屏風だそうです。これは左側の屏風一枚が、(上から見て)山が3つあるように折れていて、それと対になる形で右にも同じ形のもの(絵柄は違う)があるという屏風だそうです。つまり『六曲一双の屏風』と言えば、左右合わせて12の面でひとつの作品が構成されているものを指します。どちらか片側だけだと
「六曲半双(ロッキョク・ハンソウ)」
と言うそうです。
余談ですが、そもそも「双」という字の旧字体は、「雙」であるところから(東京のお嬢様学校、「田園調布・雙葉(ふたば)」はこの旧字を使います。)この「進」の「しんにゅう(しんにょう)」を取った形のものが2つあると「雙=双」で、1つしかないと「隻」ということですね。「双」の半分が「隻」である理由は、旧字体だとよくわかるということですね。
そして「六曲」それぞれの「面」は「扇(セン)」と呼びますが、これは順番を表す呼び方なので、
「右隻(ウセキ)の第六扇(ダイロクセン)に、あやめの絵が描かれている」
というような使い方をするそうです。
また、曲がっているところ(山)が一つしかない「二つ折れの屏風」は、
「二曲一双(ニキョク・イッソウ)」
と言うほか、
「二枚折れ屏風」
とも呼ぶそうです。(また、とんちの一休さんが捕まえようとした、虎の絵が描かれた「一枚ものの折れていない物」は、屏風ではなく「衝立(ついたて)」だそうです。)
また、屏風は形状的に、上に「梁(はり)」があることが多いので「架」で数え、「二架」で「一双」という数え方もあるようです。
いずれにせよ、言葉だけではわかりづらいので、これは問題なく「イラストを付けて」掲載することになりました。↓こんな感じのようです。
例:六曲一双の屏風 祇園祭礼図屏風 <京都国立博物館蔵>

「ものの数え方」って、調べれば調べるほど、いろいろなことがわかってきますねえ・・・。

2006/2/14


◆ことばの話2484「奥が深い」

去年11月1日の読売新聞・夕刊のコラム「ことばのこばこ」で、武庫川女子大学言語文化研究所の佐竹秀雄教授が、
「奥が深い」
というタイトルで、こんなことを書いてらっしゃいました。
「『日本語は奥が深いと思いました』。学生にレポートを書かせると、出来のよくないものにこの感想が付いてくることが多い」
ドキッ!この「奥が深い」という言葉、たしかによく使ってしまう気が・・・出来の悪い学生に戻った気分に陥りました。
佐竹先生の解釈によると、
『「関係者には大問題だが、一般の人にはどうでもいいことだし、よく分らない」を穏やかに表現したものが「奥が深い」ということらしい。』
なるほど、この言葉を言っておけば、よく分からなくても、分かったかのように相手に印象付けられるし、言われた方もそんなに悪い気はしないでしょうからね。まさにそういう意味では便利な言葉です。
でも佐竹先生のように、その奥に潜む心の仕組みまでわかってらっしゃる方にこういう言葉を使うと、墓穴を掘るということですね。佐竹先生は、コラムをこう締めくくってらっしゃいます。
「先日あるところで敬語の講釈をした。その後で、聴いてくれていた人が言った。『先生のお話は奥が深いですね』と。」
アイタタタ・・・。でも、
「奥が浅いですね」
と言われるよりは、いいのかも・・・。
さてそれからしばらくして、この4月入社予定の新人・・・の卵さんからメールが来ました。先輩から「インタビュー」に関する話を聞いての感想です。
「インタビューは自分のもくろみ通りに行かなかったり、とても奥が深いと思いました。」
で、出たあ!これはひと言、言っておいてやらないと・・・とメールを送りました。
「この『奥が深い』という言葉も、安易には使わない方がいいですよ。というのも・・・」と、佐竹秀雄先生のコラムを紹介して、
「ということですから『へえー、なんだかよく分らないけど、難しいのねえ・・・』という『思考停止』の状態を、見抜かれているかもしれませんよ(笑)」
とメールしたところ、こんな返事が返ってきました。
「そうなんですか!私、大学のレポートで『奥が深い』よく使っていました!そして『思考停止』の状態、よくなります!図星です・・・」
とのこと。いやあ、本当に言葉の世界は奥がふ・・・・危ない、危ない・・・。

2006/2/14

(追記)

いつもスクラップして読んでいる毎日新聞の「読めば読むほど〜校閲インサイド」の、去年11月1日朝刊(ちょうど佐竹先生のコラムが読売夕刊に出た日)は『「ゆかり」のゆかり』という、赤紫蘇ふりかけの「ゆかり」が商品名であるというコラムだったのですが、その最後の一文が、
「日本語の底知れぬ奥深さを感じました。」
でした。言葉の専門家である新聞の校閲の人まで「奥深さ」という言葉を使うのですから、「絶対使っちゃいけない」というものではないし、「間違い」ではないのでしょうが、安易に使わない方がいい、と、こういうことですね。
人のことばかり言わずに私もこれまでに「奥深い」「奥深さ」をどのくらい使っているか、「平成ことば事情」の検索エンジンで検証してみました。その結果「奥深い」「奥深さ」は、それぞれ1回、使っていました。
2006/2/14


◆ことばの話2483「お里が知れる」

去年11月12日、フランスで起きた暴動を引き起こした若者について、フランスのサルコジ内相の強硬発言を、NHK「ニュース7」が伝えた時の字幕の文字が、
「お里が知れるぞ」
でした。日本では死語でしょうが、フランスの場合は、旧・植民地からの移民の問題などを抱えており、「お里」は指すものは、日本とは異なると思います。
そんなことを考えていたら、林真理子『女のことわざ辞典』(講談社文庫)というエッセイ集の冒頭に、
「お里が知れる」
が出てきました。このエッセイ自体は、『マイン』という雑誌に1987年10月10日号から1989年5月25日号まで連載されて、1989年8月に単行本が出版されているので、昭和の、それもバブル期の臭いがプンプンするのですが、いやあ、1987年頃でさえ、「お里が知れる」は死語に近かったのですから、今や完全に「死語」、「廃語」になっているのかもしれません。
しかし、使われていないからこそ、新しい言葉として復活して使われる可能性は大いにあるのではないでしょうか。
以前にこの言葉が使われた背景などを理解することなしに、安易に使うことは、避けたいものです。
2006/2/14


◆ことばの話2482「余寒」

2月3日、節分・豆まき。2月4日、立春。暦の上では春ですが、なんだか立春の後は寒い日が続きました。こういう時には、
「春は名のみの寒さ」
と言うのかな。あ、そうそう、
「余寒」
と書いて、
「よかん」
という言い方もあったような。『新明解国語辞典』を引くと、
「よかん(余寒)」=立春後まで残る寒さ。
あ、合ってた、合ってた。なかなか味のある言葉ですね。
「よかん」というと思い出すのが、中島みゆきの昔のアルバムに、アルファベットで、
「YOKAN」
というのがあったような気がします。中島みゆきさんが、なんだか冷たそうな水に顔を付けようとしているような感じの、赤を基調としたジャケットだったような。
あ、そうか、あのアルバムは、ちょうど今も時期ぐらいに発売されたと思うので、「余寒」と「予感」を掛けていたから、それでアルファベットで「YOKAN」だったのか!と、20年来の疑問が解けたような気がして、確認のためにその中島みゆきのアルバムをインターネットで検索してみると・・・あれ?タイトルは漢字で、
『予感』
でした・・・アルファベットじゃなかった・・・。発売は1983年3月5日。確かにまだ寒い季節だけど。それにジャケットも赤を基調にしてはいるけど、水に顔をつけてはいない。水に顔をつけようとしているジャケットは、その1年前に出た『寒水魚』のアルバムだったようです。『寒水魚』も、寒い時期に滝などに打たれる修行「寒水業」に引っ掛けたのかなと思っていましたが。
「余寒」が「予感」につながる「予感」がしたのですがねえ・・・。「よーかん」がえたら、違いました。
2006/2/13


◆ことばの話2481「おとうくん」

『週刊文春』2006年2月2日号「私のリビング」では、作家の庄野潤三さんを取り上げていました。その記事の中に、こういう一文が。
『まどろんでいた庄野さんは、「おとうくん(おとうさん)、ご飯できましたよ」という夫人の呼び声で立ち上がる。』
庄野家では奥様がご主人のことを、
「おとうくん」
と呼んでいるのですね。そういう呼び方は初めて聞きました。
Googleで検索したところ(2月7日)、
「おとうくん」=168件
と、思った以上にこの「おとうくん」という呼び名を使っている家族は、いるみたいです。と言っても少数派だとは思いますが。ついでに、
「おとーくん」=146件
でした。「おとうさん」と「さん付け」で呼ぶよりも身近な、と言うか、同列の扱いですね、この「おとうくん」は。
故・寿岳章子さんが、昔、提唱された、
「夫(おっと)さん」
みたいなものなんでしょうか?
「おっとさん」=4万3800件
「夫さん」=65万8000件
もあってビックリしましたけど「○○夫さん」という固有名詞にも反応して検索してしまったみたいなので、
「夫(おっと)さん」
で検索したら、たったの9件でした。
2006/2/7
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