◆ことばの話2475「ジャンプ一番」

去年の夏のことです。
高校野球中継を見ていたら、アナウンサーが、
「ジャンプ一番」
と言っていたのを聞いて、(これまでにも何度でも聞いていたと思うのですがこの時に限って)「あれ?」っと思いました。なぜジャンプ「一番」なんでしょうか?二番でも三番でなく・・・というより、なぜジャンプのあとに「一番」という言葉が付くのでしょうか?
これに気づいた去年の8月11日「ジャンプ一番」をヤフー検索したら、2万3000件もありました。今(2006年2月9日)、ヤフーで検索したら、
「ジャンプ一番」=3万3400件
でした。Googleで検索すると、
「ジャンプ一番」=2万0900件
でした。
「ジャンプ一番」が付くフレーズを思い浮かべてみると、まず、
「ジャンプ一番、ナイスキャッチ」(ジャンピング・キャッチしてアウト)
というふうに、野球の守備の場面で使われることが多いのではないでしょうか?
実際にネットで検索してみると、
「ジャンプ一番、○○選手が空中戦を制しました」(サッカー)
「○○選手はジャンプ一番でタックルをかわし」(サッカー)
「ジャンプ一番、見事にキャッチ」(フリスビーをキャッチする犬)
「ジャンプ一番!決まったぜ!」(スノーボード)
「シイラを、ジャンプ一番でばらし」(釣り)
といった具合で、野球以外にもサッカーやフリスビーなどでも使われていました。
野球中継担当のYアナウンサーに聞いたところ、
「古くから野球中継にある表現」
ということで、
「ここぞ!という時のジャンプに使う」
ようです。
それを聞いて考えたのですが、この「一番」は、一番・二番の「一番」ではなくて、
「大一番」「結びの一番」
のように、
「碁・将棋や相撲などの一回の勝負」(『新明解国語辞典』)
「一番」であり、
「このタイミングを外すとヤバイ、ダメだ(負けだ・失敗だ)」
という意味で、
「勝負をかけるタイミングでのジャンプ」
を示すのではないかと思いつきました。その用語を野球にも使ったのではないでしょうか?
それにしても囲碁や将棋、相撲といった日本の伝統的な勝負事・ゲーム(まあ囲碁は中国かもしれませんけど)の用語を野球に持ち込んだ時点で、アメリカ生まれの「ベースボール」は、「野球」となり、日本化したという気がしますね。
そうそう、そう言えば読売テレビの旧社屋のまん前に、「一番」という名前の中華料理屋があって、よく夜勤の時に出前を取りました。出前のおにいちゃん、
「まいどー、一番です!」
と言いながら出前してくれました。それを思い出したな。
今日の「一番」でした。
(これについて書こうと思ってメモもしてから半年経って、ようやく書けました。)
2006/2/9


◆ことばの話2474「わ〜れ〜わ〜れ〜はあ〜」

1月25日放送のフジテレビ「トリビアの泉」で、
「糸電話の糸をバネにすると、声にエコーがかかる」
というのをやっていて、とてもおもしろかったのですが、その際に「もしもし」にエコーがかかっていたのだけれど、それを聞いた出演者の一人である、ビビる大木(たぶん)が、
「『われわれはあー』というのをやってくれ!」
と言っていました。私はそれを聞いてさらに大笑いしたのですが、ふと疑問が。
「なぜ宇宙人の声を表す時に『われわれはあー』とやるのか?つまり、なぜビブラートがかかるのか?そしてなぜ宇宙人は『我々は』と言うのか?『私たちは』でも『俺たちは』でも『うちらは』でもエエやないか。一体、誰が最初に『われわれはあー』とやったのか?」という疑問です。
隣の席のHアナウンサーに聞いてみたら、
「うーん、やっぱり『ウルトラマン』に出てくる宇宙人あたりじゃあないですか?」
とのこと。
Googleで検索してみたところ(2月7日)、
「わーれーわーれーはー」=96件
ついでに
「わーれーわーれーわー」=8件
でした。そのほとんどが「宇宙人」の声でしたが、その中に気になる宇宙人が。そうです、
「バルタン星人」
です。そうか、バルタン星人がやったので、その後の宇宙人はみんな「わーれーわーれーはー」とやるようになったのか。えらいな、バルタン星人!
さらにもうちょっと、ネットのいくつかの記述を読んで見ると、今度はこんな一文が。
「『わーれーわーれーはー』と言っているのは『バルタン星人』ではなく、(正確に言うと)『バルタン星人に脳を貸しているアラシ隊員』である」
というのもありましたが、まあ、でも、「バルタン星人」でしょ。あ、でもバルタン星人と言えば、
「フォッ、フォッ、フォッ」
という笑い声も有名だな。なんだか人気者のバルタンでした。
2006/2/7
(追記)

そう言えば、OCNのコマーシャルも、
「われわれは、光の通信OCN」
「われわれは」と言っていましたね。音声もビブラートかかっていますし。宇宙人という設定なのかな、やはり。
2006/3/7
 


◆ことばの話2473「ドベ」

「最下位」のことを、
「ドベ」
と呼ぶのを聞いたことがあります。
「ドベタ」
と「タ」を付けた形で聞くこともあります。でもこれって「関西の方言」だと思っていました。ところが、名古屋出身のO君が、
「え?『ドベ』は共通語でしょ?」
と言い出し、大分出身のMアナウンサーも、
「大分でも『ドベ』って言いますよ。」
と言い出したものですから、「関西方言」ではないような感じになってきました。そして関西出身者は、
「関西では『ベベタ』とか『ベッタ』って言いますねえ。」
ああ、たしかに、「ベベタ」「ベッタ」も言いますねえ。共通語では、
「ビリ」「ビリッケツ」
じゃないでしょうかねえ。
ちょっとこれは調べなくては!ということになってしまいました。ネット検索すると・・・やっぱりこんなことを調べている人がいるんですねえ。
「ウィふり調査団」というサイトで読者からの投稿を集約していました。
それを見ると、「どべ」「どんべ」「どべた」「どんべた」は、青森、秋田、東京、愛知、岐阜、福井、三重、大阪、兵庫、愛媛、広島、鳥取、山口、福岡、長崎、佐賀、熊本と、全国の広い範囲で使われているようなんです。でも、共通語でもないんだな。全部の都道府県で使われているわけではないようだし。
「ビリ」「ビリッケツ」は関東、中部地方に多いようです。
「ベベ」「ベベタ」「ベッタ」は、大阪、京都、奈良、兵庫、徳島、広島など、西日本中心のようです。
そのほか「げっぱ、げっぺ、げべ」という言い方が東北、北陸地域限定の言い方としてあるようです。また「げった」「げっと」という言い方は関西(滋賀、岡山)で見られました。
ここで私、考えました。
「どべ」「どんべ」「どべた」の「ど」は、「どあほ」「どんじり」「どたま」などの強調の「ど(ん)」ではないか?それを省くと「べ」「べた」となりますね。そうすると、「べべ」「べべた」とほぼ同じ形ですよね。
また、「べべ(た)」というのは「べ」を強調するのに重ねているのではないか?そうすると、元の形は、
「べた」
ではないかと考えました。そこから何か、繋がりましたよ。私の結論は、こうです。
『「べっとう(別等)」から「べった」「べべた」「べべ」ではないか。強調の「ど」が付くと「どべ」「どべた」となる。』
つまり、「一等」「二等」「三等」といった順位に入らない、
「別等」
というのが訛って、
「べっとう」→「べっと」→「べった」→「べた」→「べべた」→「べべ」
となったのではないか?というのです。
「べ」がさらに訛って「げ」になって「げっと」「げべ」などに変わったものもあるのではないかと。そしてさっきも書いたように、強調の「ど」が付くことで、「どべた」「どべ」という形も生まれたのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
(実は最初は「た」は、「ほっぺた」などのように「ほっぺ」に「た」が付いたような形で「どべ」に「た」が付いたのではないかと考えたのですが、よく考えると「ほっぺた」も「ほっぺ」に「た」が付いたのではなく、「ほほ(ほお)」+「ぺた」なのではないかと考え直したのでした。)
『日本国語大辞典』で「どべ」を引いたところ、なんと載っていましたねえ。
「どべ」=陶芸で、のり状の粘土。粘土どうしをつなぎ合わせて成型するときに、接着剤として用いる。
(方言)(一)泥(二)最後。最下位。びり。しんがり。
(二)が使われる範囲は、福井県、長野県、岐阜県、静岡県「飛びやっこじゃ、いつもどべだっけ」、愛知県、三重県、兵庫県佐用郡、奈良県、鳥取県西伯郡、島根県、岡山県苫田郡、広島県備後、高田郡、沼隈郡、山口県、豊浦郡、香川県、愛媛県、周桑郡・喜多郡、福岡県、熊本県阿蘇郡、玉名郡、大分県◇「どおべ」愛媛県大三島 ◇「とっぺ」青森県上北郡「級のとっぺはあれだ」◇「どっぺ」福井県南条郡 ◇「どっぺ」青森県上北郡 ◇「とべ」愛知県奥設楽、香川県「走りごくでとべになったわ」、大分県宇佐郡、速見郡 ◇「どへ」島根県 ◇「どべえ」三重県伊賀 ◇「どべくそ」岐阜県大垣市、愛知県名古屋市、知多郡、三重県伊賀、島根県八束郡、広島県賀茂郡、香川県 ◇「とべこす」熊本県玉名郡 ◇「どべこす」熊本県菊池郡、下益城郡 ◇「どべこつ」岐阜県稲葉郡、愛知県知多郡、愛媛県周桑郡、福岡市 ◇「どべちゃ」島根県浜田市・邑智郡 ◇「どべっかす」長野県 ◇「とべつく」愛知県壁海郡 ◇「どへつく」岐阜県武儀郡 ◇「どべつくつん」岐阜県本巣郡 ◇「どべっこ」静岡県小笠郡「お前の成績は級中のどべっこか」三重県伊賀 ◇「どべっちゃ」島根県隠岐島 ◇「どべっちょ」奈良県、島根県 ◇「とべと」奈良県 ◇「どべとお」静岡県磐田郡 ◇「どべのしり」(−尻)長崎県五島 ◇「どんつべ」香川県三豊郡・佐柳島 ◇「どんばん」熊本県菊池郡 ◇「どんべ」長野県、島根県、愛媛県周桑郡、熊本県下益城郡、大分県 ◇「どんべがしら」(−頭)島根県*川郡 ◇「どんべす」熊本県玉名郡 ◇「どんべそ・どんべた」島根県隠岐島

「最下位」の意味でこれだけ載っていました。方言とは家かなり広範囲に使われていて、またそのバリエーションもものすごく多い。しかし「語誌」「語源」は載っていませんでした。残念!
2006/2/6
(追記)
なんと読売新聞の「新日本語の現場」で今取り上げている「方言の今」でも、そのしんがりとして「ビリ」「ドベ」が取り上げられました。(3月3日朝刊)
その記事によると、読売新聞の総・支局を通じて「かっけっこで最後になることをなんと言い表すか」を調べたところによると、もっとも多かった「ビリ」で、混合表現も含めると、北海道、宮城、秋田、福島、栃木、群馬、埼玉、東京、神奈川、千葉、新潟、長野、山梨、静岡、愛知、富山、石川、福井、京都、大阪、和歌山、兵庫、岡山、島根、広島、山口、香川、高知、福岡、佐賀、沖縄の31都道府県。
「ドベ」「ドンベ」と呼ぶのは、岐阜・三重・兵庫・島根・広島・山口・徳島・大分・熊本・宮城の10県。
「ビリケツ」「ビリッケツ」「ドンケツ」のように「ケツ」が付くのは、青森・茨城・東京・神奈川・新潟・福井・兵庫・徳島・長崎の10都県。
これ以外に、
「ゲッパ」(北海道、青森、秋田)
「ゲッペ」(山形)
「ゲッポ」(新潟、愛媛)
「ゲベ」(奈良、鳥取)
「ゲビ、ゲッピ」(高知
「ベベ」(滋賀、兵庫)
「ドンジリ」(鹿児島)
という報告もあったそうです。
「ドベ」読売新聞の調査では10県ですが、「ウィふり調査団」では17都府県で使われていることになっています。読売新聞は、総局や支局の大半が、県庁所在地にあるということなので、そのあたりの誤差が出ているのかもしれません。明日(3月4日)もこの特集は続くので、期待して読みましょう!
2006/3/3
(追記2)

3月7日の『新・日本語の現場』を読むと、「標準語引き日本方言辞典」(小学館)によると「ビリ」にあたる表現が、香川県では41種類もあるそうです!ひえー、スゴイ!
また、わかぎゑふさんの『大阪弁の詰め合わせ』(講談社)にも「ドベやった」というタイトルでコラムが載っていました。標準語では「ビリだった」。「ドベやった」は、どういうふうに使われるかと言うと、
「いやあ、近鉄もほんまに応援のしがいがないわ。阪神よりはちょっとマシやけど・・・そやけど、ようやった。一昨年は阪神と一緒でドベやったんやから。」
と載っています。この本は、2003年の11月に出ています。あれ?2003年と言えば、阪神が18年ぶりに優勝した年やぞ!?よく見るとこれは「大阪新聞」に1999年9月から2002年3月まで連載したものと、「産経新聞」に2002年4月から2003年8月まで連載したものを加筆・再編集したものだそうですから、「ドベ」について書いたときには、まだ阪神は強くなかったんでしょうね。それに、近鉄もまだ「あった」んですね。時代の流れを感じるなあ・・・。
2006/3/10


◆ことばの話2472「女性診療科」

1月19日の読売新聞に、
『「産婦人科」名称代わり「女性診療科」認めて』
という見出しが載っていました。総務省が1月18日、「産婦人科」の代わりに「女性診療科」などの名称の使用を認めるように、厚生労働省に検討を要請したということです。
なぜ総務省がこのような要請をしたかというと、
「産婦人科などには妊娠や性病のイメージがあり、体調不良の高校生の娘を連れて行くにも心理的な抵抗がある」
という相談がきたのがきっかけだそうです。
はあ、なるほど。「体調不良」ということで高校生を連れて行っても、「産婦人科」だと、
「あの子、まだ高校生なのに、妊娠したんじゃないの?」
などというあらぬウワサが広まってしまうかもしれませんものね。それは若い人やその家族の方にとって、ものすごく精神的な負担が大きいことは、容易に想像がつきます。
しかし、医療機関が看板など広告として表示できる「診療科名」は、政令などで定められていて、「産婦人科」の場合は、
「産婦人科」「産科」「婦人科」
しか認められていないのだそうです。厚生労働省は医道審議会(厚労相の諮問機関)の意見などを踏まえて検討する方針だそうですが、要はこれまで認められている「産婦人科」「産科」「婦人科」に加えて、「女性診療科」というような看板が出せるようにすれば良いわけですし、「産婦人科」と出しちゃダメというわけでもないので、早急に検討してもらえればいいのではないかと思いますが、いかが?
2006/2/6


◆ことばの話2471「バザーとバザール」

ふと気になったのが、
「バザーとバザールはどう違うのか?」
ということでした。
さっそく(と言っても、ほったらかしにしておいたので、このタイトルを書き付けてから2か月くらい経っていますが)『新明解国語辞典』を引いてみると、両方載っていました。

「バザー」(bazaar=イスラム教国で、市[イチ]の称)
(1)社会事業などの資金を集めるために開く即売会。慈善市。(2)(学校などで)生徒の作品を売る会。

「バザール」[bazar(*aの上にバーがある)]<西アジア地方などの>露店市場

ということで、両方載っていたのですが、「バザール」が単なる露店市場であるということに比べて、「バザー」はある目的を持った「市」のようですね。
『日本国語大辞典』も引いてみよう。

「バザー(英baza(a)r)」
(1)慈善事業などの資金を得るため、有志が持ち寄った品物を販売する市(いち)。慈善市。(2)「バザール」(一)(1)1に同じ

「バザール[ペルシアbazar(*aの上にバーがある)、フランスbazar]」
(一)(1)イスラム文化圏の市場(いちば)。バザー。(2)デパートなどの特売・また特設売り場。
(二)(ロシアbazar)統制を受けない自由販売の市(いち)。

ほほう、さすが『日国大』!「バザー」は英語で、「バザール」はペルシア語とフランス語とロシア語でそれぞれ微妙に意味が違うと。また、「バザール」の(一)(1)1と、「バザー」の(2)は、日本語の外来語としては、同じ意味で使われていることも分りますね。それが知りたかったんです!
保育所などで行なう「バザー」は慈善などの目的を持ったもの、デパートなどで行なわれるのは「バザール」。そう言えば、昔、
「バザールでござーる、バザールでござーる」
というコマーサル・・・ではなくコマーシャルがありましたね。またイスラム国の市場も現地では「バザール」と言う。もともと、そちらが発祥でしょうけどね。
ちょっとすっきりしました!
2006/2/3
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