◆ことばの話2465「チチエモン」

1月26日発売の『週刊文春』(2月2日号)を見ていたら、ライブドアの前社長・堀江貴文容疑者の父・奉文(ともふみ)氏にインタビューしていました。その記事の見出しが、
「チチエモン直撃『無一文』になっても一から出直せ」
というふうに奉文氏のことを、「ホリエモンの父」だから、
「チチエモン」
と表現していました。似たような表現では、大リーグ、シアトル・マリナーズのイチロー選手のお父さんのことを、
「チチロー」
というのがありましたが、有名人の両親は、子どもの名前やニックネームに「チチ」「パパ」「ママ」という呼称をつけて呼ばれることがありますね。
横峯さくら選手の父は、「さくらパパ」
梅宮アンナの父は、「アンナパパ」
松井秀喜選手の父は、「ゴジパパ」
狂言師・和泉元彌の母は「元彌ママ」
と言うそうです。古いところでは、
宮沢りえの母は「りえママ」
というのもありましたね。
GOOGLE検索では(1月27日)、
「チチエモン」= 388件
「チチロー」= 2万9200件
「さくらパパ」= 9万1200件
「アンナパパ」= 1万1500件
「ゴジパパ」= 550件
「元彌ママ」= 1万7500件
「りえママ」= 6万6100件
「チチエモン」という呼称は、まだそれほど一般的ではないようですね。「りえママ」は最近あまり聞かないけど、ネット上ではすごいな。これまでの蓄積ですかね。ついでに、
「ハハエモン」= 59件
「パパエモン」=410件
「ママエモン」=250件
でした。
それにしてもこれは、幼稚園や保育所で子どもの名前に「ママ」「パパ」をつけて呼ぶ傾向があることと、少し共通しているのではないでしょうか。いずれも主体・主人公は、子どもであり、親は付け足しなのであまり固有名詞で呼ばれる必要がないのです。そういう意味では、
「○○さんの奥さん」
と呼ばれる主婦の人と、同じような立場なのかもしれません。
この件については『現代用語の基礎知識2006』の「日本のことば」に書きました。そこには、
『昔から「ななちゃんのパパ(ママ)」というふうに「の」を入れて呼ぶことはあったが、「の」を省略することで、関係性を示した呼び方と言うよりも、関係性を基にしたニックネームのようになっていて、より匿名性が高まっているのではないか。薄く淡い付き合いを求める現代人の感情が、知らず知らずの間に呼び方に現れているのかもしれない。』
と書きましたが、主婦の「○○さんに奥さん」については書いていません。そういう意味では、「○○ママ(パパ)」的な呼び方は、何も最近始まった呼ばれ方ではないということですね。
2006/1/30


◆ことばの話2464「個包装」

ズームイン・サタデー担当の小林杏奈アナウンサーが、
「コンビニでこんなの見つけたんで、買っちゃいましたあ!」
と言って、くれたのが、不二家のチョコチップクッキー「カントリーマアム」の、なんと「いちご」味です。袋を開ける前に、既にいちごの香りが漂ってきました。
ひとつひとつ小さな袋に入っていますが、その袋にこんな記述が。
「電子レンジで温める場合は、個包装から取り出してください。」
へえ、電子レンジでクッキーをあっためる人がいるんだ、ということにも少し驚きましたが、それよりもこの、
「個包装」
という言葉に驚きました。ひとつひとつの包装(袋)のことを「個包装」と言うんですね。
GOOGLE検索では(1月26日)、
「個包装」=13万1000件
もありました!業界用語、専門用語のようですね。「個包装」されているものは、
「切り餅」「梅干」「チョコレート」「ティーバッグ」「たばこ」「葉巻」「魚」「チーズおかき」「ビスケット」「大福餅」「せんべい」「ボトル」「飴」「果実」などなど
いろんなものが「個包装」されているのですねぇ!
2006/1/26


◆ことばの話2463「振り抜く」

今年の高校サッカーで準優勝した、鹿児島実業高校。その迫田選手シュートの場面を描写して、読売新聞のケータイニュースで使われていた表現が、
「右足を振りぬいた」
という表現です。この「振りぬく」、もともとは「野球のバッターのバット」か、「ピッチャーの腕」に使われていたのではないでしょうか?バットは長い。長い物でないと振り抜けません。物であるバットから、体の一部である腕、そして足という流れではないか?と考えました。
野球・ゴルフ担当の小澤アナウンサーに聞いたところ、
「野球のバットやゴルフのクラブは『振り切る』ですねえ・・・」
っという答えが返ってきたのですが、GOOGLEでネット検索したところ(1月13日)、
「振りぬく」= 1万5000件
「振り抜く」= 3万1000件
「振り切る」= 14万8000件
「振りきる」= 829件
でした。
それぞれ、どういうものに使われているかというと、「振りぬく」は、
*「テニス(のラケット)」=「振りぬくスピードが変わる」
*「ボウリング」=「ボールを振りぬくように意識します」
*「野球」=「金網に当てずに振りぬくスイングなのだ」
*「ゴルフ」=「クラブを短くもって振りぬくこと」
ということで、小澤アナウンサーに言わせると、
「アプローチなどのいわゆる小技のときに「振りぬく」は出てくる気がする」
とのことでした。さらに、
*「サッカー」=「一気に右足を振りぬくとボールはゴールに吸い込まれた」
*「ボクシング」=右ヒジをたたんだまま真直に振りぬくパンチ」
また、「振り抜く」は、
*「卓球」=「大事なのは、身体の中心線を超えて逆サイドまでラケットを振り抜くことだという」
*「アコースティック・ギター」=「ストロークを行う場合、強いアクセントでは弦を振り抜く速度が速くなり」
というふうに、スポーツが多いものの、なんとギターにまで使われていて、具体的な動きを指したものが多いですね。
一方、「振り切る」はというと、具体的動作としてよりも比喩的な表現、つまり、
「○○の追撃を振り切って優勝した」「2点差で振り切った」
というのがかなり多いようで、物理的動作としての「振り切る」では、
*「ゴルフ」=「腕は糸。力を入れずに振り切る」「右足体重を死守して振り切る」「バンカーで手を止めずに、最後までしっかり振り切る」「彼のスイングは躊躇なく振り切るのが特徴だ」
*「ボウリング」=「ボールを振り切る腕力」「『振り切る』はフォローするーのことで、『払う』とも言います」
*テニス=「ラケットを横面にしてフラットで振り切る」
*「サッカー」=「マークを振り切る」
といったところ。この最後の「サッカー」の場合の使い方は、他の「振り切る」とは違いますね。
「尾行してきた車を振り切った」
のような使い方ですね。
そして、最後に「振りきる」は、
*「ゴルフ」=「ヘッドを振りきる」
*「茶道」=「旨みを引き出すため、茶こしをしっかりと振りきる」
そしてさっきの「サッカー」の「マークを振り切る」と同じような「パトカーを振りきるにはどうすればいいでしょうか」なんてのもありました。
これを示して、またOアナウンサーと話をしました。その結果、
「インパクトのあとに、必要最低限のフォロースルーをするのが『振り抜く』、限度一杯まで思いっきり振るのが『振り切る』ではないか」
という結論に達しました。
似たような言葉でも、なかなか使い分けは難しいものですねえ・・。
2006/1/26


◆ことばの話2462「理解できない」

1月11日、トルコを訪問している小泉総理が同行記者団に、9月で自分の任期が切れることに関して「ポスト小泉」の条件を挙げ、「後継指名」をする意志があることを明らかにしたと、1月12日の朝刊各紙に載っていました。
毎日新聞のその記事の「首相発言要旨」を読んでいて気になった言葉があります。
「理解できない」
という言葉です。「靖国参拝問題」に関してですが、
(前略)心の問題への政治の関与を嫌う言論人、マスメディアの批判は理解できない。一事をもって外国が首脳会談をしないと言うのも理解できない。
という文章です。
子どもの発言ではありません。一国の首相の発言です。
これは「理解できない」のではなく、
「私は理解するつもりはない。」
という意志表示です。もっと言えば、
「私に反対する者の意見に、耳を貸すつもりはない」
ということで、話し合いの可能性を自ら閉ざしているように思えるのですが、いかがでしょう。反対意見を言う者は、バッサリと切って捨てる。何も考えない。耳を閉ざす。これは、思考停止に自ら陥っている最近の若者が発する
「ありえなーい」
と、ほぼ同義のように感じました。
そして、これは去年9月の衆議院議員選挙のあたりから書こう書こうと思っていてそのまま「ほったらかし」になってしまっていたのですが、小泉総理とヒットラーの共通点について。ヒットラーの著書『わが闘争』に記されている記述が、そのまま小泉総理に当てはまるのです。
これについては既に齋藤美奈子さん渡邊恒雄さんをはじめ、多くの方が書いていらっしゃいましたが。
また9月11日の総選挙の結果を見て不安になって、翌12日に見に行ってしまった映画、『ヒトラー最後の12日間』についてもちょっと書いておきます。ドイツ語の原題は
『Der-Untergang(破滅、没落、沈没、零落、消滅)』
英語の題は、
『DOWNFALL(陥落、没落、滅亡、失敗)』
でした。
映画自体は見ごたえがあり、主演男優があまりにもヒットラーに酷似していたのが驚きでした。

ここまで、1月12日に書いてそのままになっていましたが、その後、ライブドアの堀江貴文社長(当時、と言っても、つい10日ほど前のこと)が逮捕されてしまいました。その原因の一つに「思考停止」があると思います。彼はその著書で、
「金で人も買える」「金で買えないものはない」
というようなことを述べていましたが、それは彼にとっては「信念」だったのでしょう。何か「信念」を持つということは、大変素晴らしいことではありますが、あまりにもそれに固執すると、そのほかの可能性を考えられなくなる、つまり「思考停止に陥る」ということです。そう私が考えた翌日に読んだ『不勉強が身にしみる〜学力・思考力・社会力とは何か』(長山靖生、光文社新書)の182ページに、
『「信じる」ことは思考停止に陥ることだ」
と記されていました。まさに「わが意を得たり」です。
思考停止に陥ることなく、長期的な視野で国民の利益を考え、また国際平和のために日本が果すべき役割、あり方をきっちりと示す。そういうことが、総理大臣に求められていると思います。「信念」のために思考停止に陥る人に、「総理大臣」たる資格が、果たしてあるのでしょうか。
「理解できない」
という言葉は、そのままご本人にお返ししたいと思います。
2006/1/26
(追記)

堀江貴文容疑者が、逮捕される前の1月18日の発言、
「粉飾決算しているつもりはない。もちろん。そうでしょ。…当然そうでしょ。」
と話していた電話の会話の中に出てきた、
「当然」「もちろん」
という言葉に、小泉総理の「理解できない」と同じ臭いを感じました。また、
「監査法人も通ってるわけだし」
というのは、ヒューザーの小嶋社長と同じ言い訳です。
2006/1/30


◆ことばの話2461「かわいい」

1月25日に行なわれた第17回ジュエリー・ベストドレッサー賞の授賞式で、10代の部で受賞した韓国出身の歌手BoA(ボア)さん(19)。背中が大きく開(あ)いたセクシーなドレスで登場しました。インタビューに答えて、
「背中が大きく開きすぎてスースーして涼しい。でもきっと、かわいいって言われる・・・セクシーじゃなくて」
と話していたのですが、それを受けてワイドショーのリポーターが、
「絶対かわいいですよ。」
と言っていたのですが、実はここに、コミュニケーション・ギャップがあったのではないでしょうか。
おそらくBoAさんの言う「かわいい」は、
「子犬がかわいい」とか「赤ちゃんがかわいい」
というふうな、子どもや小さい物に対してそれを愛でるような感情を指すのだと思います。ところが、リポーターが感じている「かわいい」は、
「かっこいい」「セクシー」「美しい」
というような感情を指すのだと思います。つまりリポーターの言う「かわいい」の方がその対象範囲が広いのです。きっとBoAさんは、
「背中が大きく開いた露出度の高いドレスを着ても、まだまだ私は大人の女じゃないので、セクシーではないでしょう。せいぜい子どもに対して言うように『かわいい』って言われてしまうのじゃないでしょうか。」
という意図だったと思うのですが、これが理解されなかったように感じました。きっと、現在一般に使われている「かわいい」の意味が、本来の意味の範囲を超えてきていることによるのでしょうね。
そのあたり、四方田犬彦著『「かわいい」論』(ちくま新書)を読んで、考えてみてはいかがでしょうか。
2006/1/26
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