◆ことばの話2455「地元で取れたクレソン」

1月24日の「ニューススクランブル」で、兵庫県は有馬のお店の、綿菓子を使った「すき焼き」というのを紹介していました。その名も「雲海鍋」というすき焼きの鍋には、まず綿菓子を入れて、その上に牛肉を。綿菓子が「雲海」のように見えるところからこの名がありますが、肉に砂糖を振り掛けるよりも、肉全体に砂糖の甘みが広がるんだそうです。鍋にはこのほかに、赤こんにゃくとクレソンを入れますが、これを紹介したコメントが、
「地元で取れたクレソン」
というものでした。
これにちょっと違和感を覚えました。というのは、名前からもわかるように外国原産の「クレソン」を「地元で取れた」というところに引っかかったのです。
「地元で取れた」という場合には、本来「自生しているもの」を採取する場合に使うべきではないでしょうか。クレソンは明らかに地元の畑で作っているでしょうから、
「地元で取った」
と言うべきではないかと。
そう意見を言ったところ、隣の席のHアナウンサーが、
「うーん、それは許容範囲ではないですか。」
と。確かに私も「絶対使ってはいけない」とは思わないけれど、なんとなくひっかかったのでした。
2006/1/24


◆ことばの話2454「まつげとまゆげ」

朝、鏡を見ていて、「まつげ」に目が行った時に、ハタと気づきました。
『「まつげ」の「つ」は、「沖つ白波」の「つ」なんだ!「上つ道、中つ道、下つ道」の「つ」、つまり「の」の意味だ。「ま」というのは「目」のこと。「目深(まぶか)」などの読み方があるよな。だから「まつげ」=「目の毛」の意味か・・・じゃあ「まゆげ」の「ゆ」は何なんだろう??』

鏡を見ていても、いろいろ思いつくものですな。
「ま」=「目」関係の言葉を思い浮かべてみました
「まなかい」=互いに視線を合わせること。
これも「『ま(目)』な『交い』」だよね、きっと
「まなじり」=「ま(目)」な「尻」=「目尻」のこと。これは「港」=「水(み)な門(と)」、「津波」が「津な水(み)」が語源であるのと似た「な」の使い方ですね。「問題な日本語」の源はここにあったか?あ、「源」=「みなもと」も「水(み)な元」なのか?ま、いっか。
「まぶた」=「ま(目)」の「蓋」=目の蓋だから「まぶた」
そして、「まゆげ」は、
「まうえげ(目上毛)→まうげ→まゆげ(眉毛)」
ではないかなあーと思ったのですが、実際のところはどうなんでしょうかね?
『日本国語大辞典』「まゆ」の「語源説」を引いてみると、
「まゆ」=(1)マウヘ(目上)の約転。(和訓栞・言葉の根しらべ=鈴江潔子)メウヘ(目上)の約転(日本釈名・名言通)。マユ(目上)の義[紫門和語類集]
(2)マユ(目従)の義[和語私臆鈔]
(3)マウヘゲ(目上毛)の義[日本語字源=林甕臣]。メウヘゲ(眼上毛)の義[本朝字源=宇田甘冥]。マウヘノケの略転か[風土と言葉=宮良当壮]。
(4)八の字に似ているところから、マナヤツ(目八)の反(名語記)
(5)マユ(蚕)の義。またマヨケ(両横毛)の義[言元梯]。
(6)「眉」の字音から[外来語辞典=荒川惣兵衛]。

と6種類も語源説が載っていました。いろんな説があるんですねぇ。私の考え方も、一応(1)で入っていましたね。いやあ、勉強になりました!
2006/1/24


◆ことばの話2453「事案」

Sキャスターからメールです。
『最近、「事案」という言葉が放送原稿内で登場することが多くなっているような気がします。今日も、「大阪市内で子供が男に腕をつかまれた事案」という表現が出てきました。その他にも「子供への声かけ事案」などの例があります。
警察的には、正式な事件・事故でなくても、注意喚起が必要な案件に対して、この「事案」という言葉を使っているようです。ただ、「ひったくり事案」のように、犯罪そのものに使うケースもありますが・・・。でも、どうなんでしょう?何か耳慣れないというか、業界チックというか、放送用語としてこなれていない気がするのですが・・・・。』
このメールに対して、私は、
『お役所業界用語でしょうねえ。もしくはビジネス業界用語。さっきYデスクに、堺の母娘殺傷事件の土曜日の原稿で「短パン」が見つかったというのが出てきて、新聞も他局もそのままやっていたが、俗語っぽいので「半ズボン」に代えたが、『短パン』は正しいのか?と聞かれたので、「短パンは俗語だから好ましくない。『半ズボン』、もしくは略さずに『ショートパンツ』と言うべきだろう。おそらく警察が言ったのをそのまま書いたのだろうが、ちゃんと意味を吟味する必要があるのではないか。『トレパン』もおかしいだろ。『トレーニングパンツ』とニュースでは言うべきだろう。裏が取れない場合に『警察が、こう言った』という担保を取るために、あえてそのまま使っているのだろう。」と答えたが、それと同じようなことかなあ。』
というようなメールを返しました。
思えば先月、和歌山で嬰児の遺体が見つかった事件でも、遺体が入っていたのが「ビニール袋」「ナイロン袋」「ポリ袋」と表記が分かれましたが、現在、ナイロン袋やビニール袋はまず売っていません。おそらく、警察側がそう言ったのを、そのまま書いたということでしょう。「事案」も警察用語ではないかなあという感じがします。ビジネス用語だと、
「案件」
ですかね。
GOOGLE検索(日本語のページ)では(1月25日)、

「事案」=162万件(全ページでは351万件)

使用例としては、「振り込め詐欺事案」「不審船事案」「不審なCD−ROMが配布される事案」「フィッシング事案」「警察に届出のあった、子どもへの声かけ事案」「日本人拉致事案」「自殺予告事案」「産業廃棄物不法投棄事案」などなど。やっぱり警察関連が多いですね。「子どもへの声かけ事案」に関しては、説明がありました。
『「声かけ事案」とは、「子どもに対する声かけ」のうち、事件には至らないものや、不審者の出没事案などを言います。』
とのことですね。Sキャスターの言っていたとおりですね。日本語のページ限定よりも全ページの方が倍以上あるということは、中国語でも「事案」という言葉があるということでしょうね。そのほかも検索しました。
「案件」=308万件(全ページでは641万件)
「事案、警察」=33万6000件(全ページでは34万件)
でした。
2006/1/25


◆ことばの話2452「でんちの『ち』って」

小学2年生の息子が夕食後、急に質問して来ました。
「なあ、でんちの『ち』って、なんで『池』なん?『地』と違うの?なんで『さんずい』なん?」
ちっちきちー。
「うーん、それはなぁ、電池って、電気が溜まって詰まっているからや。池ってさ、水が溜まってるやろ。だからそういうふうに溜まっているところを『池』という漢字を使って表すんやな。」
一応納得したようです。私が今作った話なので、本当かどうかはよくわかりませんけど、まあ、おおむねあっているのではないかな。
しばらくすると、今度はこんな質問です。
「ショートケーキがあるなら、なんでビッグケーキがないんやろ?」
「それはな、ショートケーキというのは『短い』という意味のショートではなくて、材料に『ショートニング』というのを使うからショートケーキと言う、という話はあるな。他にも説はあるみたいやけどな。それについてはお父さんが『平成ことば事情』のホームページに調べて書いたけどな。それを見りゃ、わかるわ。(「平成ことば事情1120ショートケーキ」をご参照ください。)それより、ショートの反対はロングやで、ビッグとちゃうで。」
と話している途中で息子はテレビのマンガを見出して、「ふん、ふん」とエエ加減に相槌を打っていました。
ま、なんだかまた、いろいろと疑問が出てくる年頃なのかも知れませんね。そう言えば、3歳か4歳ぐらいの時にも、
「あの世ってどこにあるの?」
とか、毎日のように質問されたことがありましたが。子どもに説明するのは、結構難しくて、勉強になりますねえ。
2006/1/24
(追記)

「子どもに『でんちの「ち」はなんで「池」なの』と聞かれた」という話をHアナウンサーにしたところ、
「そうですかあ。で、やっぱり『それは「ボルタの電池」だから』と答えたんですか?」
「え?なんだっけ、『ボルタの電池』って。」
「ほら、硫酸か何かの液に、亜鉛と銅の電極を入れると電気が流れるって、実験しませんでしたか?」
「ああ、何かあったね。」
「そのボルタの電池は液が入っているから(液体なので)サンズイ偏の『池』だって説明したんじゃないんですか。」
「そこまでは説明しなかったな。」
ということでした。よく覚えてるなあ。たしか、ボルタというイタリア人が、この電池を考え出したんでしたよね、それで、彼の名前をとって電圧の単位を「ボルト」というんではなかったっけ。なんかそんなのを読んだ記憶がうっすらと・・・。
そしてまた息子と一緒に風呂に入っている時に、その日通った水泳教室の話を聞いていたら、
「プールは波がないから泳ぎやすいけど、海は波があるから泳ぐのが難しい」
という話になりその中で、
「なんで海の波は、満ちひきがあるの?」
と息子が聞いてきました。
「それはな、引力や。」
「いんりょく?」
「そう。月の引力やな。」
この辺の話し方が、なんとなく「中島らも風」です。落語風でもあります。息子は、
「なんか、引っ張る力やろ。」
「そう!よう知ってるな。その引っ張る力があるから、潮の満ちひきが起きるし、人間も地球の引力があるから、地面に立っていられるんやで。」
「そしたら、日本では人が立ってるけど、日本の裏側のブラジルの人は、下に落ちてしまうやん。」
「そやなくて、引力は地球の真ん中の方に引きつける力なんや。」
「地球の真ん中って、マグマがあるところ?」
「そう!よう知ってるな!その真ん中に引きつける力があるから、ブラジルの人も日本の人も立っていられるんやな。それにもし引力がなかったら、地球は自転して回っているから、人間は遠心力で飛ばされてしまうで。」
「地球は、どのくらいの速さで回ってるん?」
「地球一周は4万キロやろ。1日24時間で1周するんやから・・・」
「わかった4万かける24や!」
「違う!逆や。1時間あたりに進む距離が速さ=時速やから、40000キロを24で割んねん。そしたら、エーっと大体1600キロぐらいかな。ジェット機が大体、時速900キロぐらいやから、その倍ぐらいのスピードで回ってることになるな。」
「速いンやなあ!!」
「結構、速いね。」
「でもコンコルドは、時速1800キロぐらいやから、地球が回るのより速いな!音速の2倍の速さやろ。」
「コンコルド、1800キロやったっけ?音速=音の速さは、1秒間に330メートル、3秒で1キロ、1分で20キロということは、60かけて時速で言うと1200キロ。マッハ2は音速の2倍やから、時速2400キロか。そうするとコンコルドは、地球の自転の1、5倍くらいの速さやな。」
「ねえねえ、お父さん、飛行機が着陸する時に、タイヤは前と後ろと、どっちが先に地面に着くと思う?」
「ん?そりゃ、後ろやろ。」
「正解!じゃあ、後輪が着地してから前輪が着くまでの時間は、何秒と思う?」
「うーん、1秒!」
「ブー!2秒でした。」
なんでそんなこと知ってんねん!
子どもの興味はどんどん広がるものですね。すっかり、のぼせてしまいました。お風呂の科学の時間でした。
そういえばこの間、ワンセグ・ケータイってどんな感じかなと思って、ケータイ電話屋さんをのぞいたあとに、息子が一言。
「ケータイも進歩し続けてるねえー。」
って、おまえはおっさんか!・・・小学2年生なんやけど。
2006/1/27


◆ことばの話2451「ことばの変容とスピードの関係」

「量は、質に変化する」
これはどこかの偉い哲学者が言ったことだそうですが(聞いたけど、忘れてしまいました・・・)、私はそれを知らずに、なんだか急にひらめいて実感したことです。
そしてこの週末、子どもを病院に連れて行って待合室で待っている間に、またふと思い浮かんだのは、
「量は、質の変化をもたらす」
ということです。そうすると、大量の情報を多数の人々に送り出す「テレビ」=「マスメディア」は、受け手である視聴者の「変容」を促すとともに、「自ら」も変容するのではないか。その意味においては、お互いに影響を及ぼしあうものではないでしょうか。言い換えると、テレビは「触媒」としても働くが、純粋な触媒ではなくテレビ自体も変容してしまうものではないか?ということです。
そしてその影響力についてですが、スピードが上がれば単位時間あたりの量は増えますよね。そして最初に立ち戻ると、量が増えると質が変わる。つまり、
「スピードが上がれば量が増えて、量が増えると質が変化する。質の変化にかかる時間が短くなる」
ということですね。しかもこれは加速が付くと、雪だるま式にそのスピードは上がるということです。
つまり、「ことばの乱れ」と呼ばれる現象は、「ことばの変化のスピード」が速すぎることによって引き起こされており、「質の変化は、スピードアップによってもたらされている」のではないか、ということを考えたのでした。
そんな週末でした。
2006/1/23
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