◆ことばの話2450「違法ドラッグ」

11月25日の読売新聞に、これまで、
「脱法ドラッグ」
と呼ばれていたものについて、厚生労働省が、
「違法ドラッグ」
と呼ぶようにするという記事が出ていました。
そもそもこの種の「ドラッグ」は、日本の法律では規定されていなかったために、当初、
「合法ドラッグ」
と呼ばれていましたが、いくら法律で規定されていないとはいえ明らかに良くないものであり、外国においては規制されている。日本の法律が追いついていないだけだという意見が広がったために、
「脱法ドラッグ」
という呼び方が誕生しました。それが今回、国(厚生労働省)によって「違法ドラッグ」と呼ぶようにするということなのですが、「違法」というからには「法律に違反しているのかどうか」というところがポイントになります。
厚生労働省のホームページで、報道向けに厚生労働省・医薬食品局監視指導・麻薬対策課11月10日に出した、
違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)販売業者に対する立入検査等について」
という発表を見つけました。
それによると、
「無承認無許可医薬品である亜硝酸エステル類を含有する「RUSH」等の違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)(以下、単に「違法ドラッグ」という。)をアダルトショップ等に卸売販売していた販売業者に対して、下記のとおり厚生労働省及び東京都が合同で、薬事法に基づく立入検査を行い、必要な措置をとりましたので、お知らせします。」

として具体的には、

「香川県が薬事法に基づき販売中止等の措置を指導した違法ドラッグ販売業者の仕入先を調査したところ、無承認無許可医薬品である違法ドラッグを卸売販売している疑いが強まったため、11月2日、薬事法第69条第3項に基づく立入検査を実施し、違反製品である22製品・839個について店舗内にあった違法ドラッグの廃棄を指導し、違法ドラッグの販売の中止、自主回収を指導した」
とのことです。そして(参考)として「違法ドラッグ」の解説がありました。

<違法ドラッグについて>

違法ドラッグとは、麻薬等と同様に多幸感、快感等を高めるものとして販売されている製品であるが、乱用者自身の健康被害の発生にとどまらず、麻薬や覚せい剤等の乱用の契機(ゲートウェイ)となることも懸念されるとともに、犯罪等に悪用されるおそれもあるものである。平成17年2月25日付け厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知「いわゆる「脱法ドラッグ」に対する指導取締りの強化について」において、違法ドラッグについては、使用目的に係る標榜ぶり如何に関わらず、事実上、人体への摂取を目的として販売されていると判断される場合には、薬事法上の無承認無許可医薬品に該当し、取締りの対象になる旨を各都道府県等に通知している。

そのホームページを見て数日後の、1月11日の読売新聞朝刊に、

「脱法ドラッグ初告発へ」「薬事法違反容疑で厚労省、『RUSH』輸入元」
という記事がトップに出ました。それを追っかけるように、その日の夕刊各紙にも同じ記事が出ました。読売の記事には「違法ドラッグ」という記述はありませんでしたが、夕刊各紙には、

「脱法ドラッグという呼称が『法の網から逃れている』との誤解を与えるとして、厚生労働省は『違法ドラッグ』と改めることを決めている」(日経)
「脱法ドラッグは麻薬・向精神薬取締り法が適用できないため、『合法ドラッグ』とも呼ばれていたが、販売・製造が薬事法違反に該当することから、厚労省の検討会は昨年九月、『違法ドラッグ』と呼称を改めることを決めている。」(産経)

という記述があったほか、毎日新聞は、見出しは「脱法ドラッグ」でしたが、本文では、

「脱法(違法)ドラッグ」

と1回目に書いてあって、2回目以降は「違法ドラッグ」を使った上で、

「違法ドラッグについて、厚労省は薬事法を改正し規制することを決め、次期通常国会に改正案を提出する。有害性があり、麻薬と似た構造の化学物質を正統な理由がなく含む製品を違法ドラッグと定義。販売や輸入を禁止できるようにする。」

と、「玉木達也記者」が署名入りで書いていました。

話を総合すると、ここで言われている「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」「違法ドラッグ」はみな同じ物で、「麻薬取締法」「覚醒剤取締法」「向精神薬取締法」といった既存の法律では取り締まれないものの、使い方によっては使用者に悪い影響を及ぼすだけでなく、そのドラッグによって精神状態に異変をきたした使用者が、周囲の人々にも何らかの悪影響を及ぼす恐れがあるといった物のようです。ただ、定められた使用方法で使う範囲においては「違法」とは言えず持っているだけでは取り締まれないために、未承認・無認可の薬品の「製造・販売を禁止」する法律である「薬事法」を適用することで、表舞台での販売を取り締まろうというのが厚生労働省の戦法のようです。また、その意図を明らかにするために、まだ今期の通常国会に提出「予定」という「法案」に反するということで、「違法」という言葉を使ってまで取り締まろうとしているわけですね。

確かにこういったドラッグはいけないとは思いますが、一つ問題なのは、「まだ制定されていない法律」に違反すると「違法」と呼べるのかという問題。これが許されると、まだ立法されていないのに(法律が制定されないのに)お役所の意向に反するものはすべて「違法」と判断されてしまうのではないかというおそれがあることです。恣意的な法の運用を国側が行なうのは、望ましいことではありません。日本では未承認の薬品でも、海外では認められているものもあり、日本でもその後認められるようになるものもあるんですね。それを違法と呼んでしまっていいのか。

読売新聞と朝日新聞が「違法ドラッグ」という呼び名を使わなかったのは、そういう判断もあるのではないかと。一方毎日新聞は、そういう危険性よりも違法(脱法)ドラッグの蔓延の危険性の方が高いと判断したので「違法ドラッグ」という呼称を用いたのではないでしょうか。もちろん法律が成立した後であれば「違法ドラッグ」と呼ぶことはまったく問題ないのですが。

今後この問題にも注目していきます。
2006/1/24
(追記)

1月30日、「RUSH」を販売していた会社「リッツ」を、警視庁は強制捜索しました。これを報道した放送各社(日本テレビ、テレビ朝日、NHK)は、「脱法ドラッグ」「いわゆる脱法ドラッグ」として、「違法ドラッグ」は使っていませんでした。
2006/1/30


◆ことばの話2449「プレステージ」

去年11月、読売テレビ社内に張ってあった「プロ野球オールスター・スポーツフェスティバル」(2005年12月1日、大阪城ホールで開催)のポスターを見ていたら、
「プレステージ」
という一番チケットの値段の高い席がありました。おや?これまで「プレステージ」と言うと、
「品位」「威信」「名声」
とかいう感じの意味かなと思っていたのですが、このイベントでの使い方で言うと、
「かぶりつき」「すなかぶり」
という意味でしょうかね。
「プレ」=前、「ステージ」=舞台
と考えれば確かに「かぶりつき」の意味になりますね。でもよく考えたら、「品位」「威信」「名声」の方の「プレステージ」は、
「prestige」
で、発音記号から言うと、
「プレスティージ」
ですね。「スポーツフェスティバル」の方は、
「pre―stage」
ですね、きっと。あ、それに「名声」の意味の「プレスティッジ」も引っ掛けたのかも。そういう英語があるのかどうかは、知りませんが。
なお、このイベントの模様は、今年の1月8日に全国ネットで放送されました。
2006/1/23


◆ことばの話2448「短パン」

1月10日、大阪府堺市で起きた母娘殺傷事件は、1月23日現在、いまだに犯人は捕まっていません。その容疑者の物とみられる衣服の一部が見つかったというニュースが、1月21日土曜日に流れました。それに関して、当日のYデスクから質問メールです。

「ひとつ質問があります。堺市で今月10日に起きた母娘殺傷事件に関するニュースで、新しい遺留品として『短パン』が発見されました。21日朝刊で読売新聞が見出しで『短パン』と書いたこともあり、放送各社の昼ニュースでは、『短パン』を使っていましたが、私は「短パン」という言葉が放送原稿になじまない様な気がしたので、
『見つかったトレーニング用パンツは、半ズボンで・・・』
と言い換えました。「短パン」は正しいでしょうか?ご教示ください。」

とのことでしたので、こう返事しました。
「『短パン』は俗語だから好ましくない。『半ズボン』、もしくは略さずに『ショートパンツ』と言うべきだろう。おそらく警察が言ったのをそのまま書いたのだろうが、ちゃんと意味を吟味する必要があるのではないか。『トレパン』もおかしいだろ。『トレーニングパンツ』とニュースでは言うべきだろう。裏が取れない場合に『警察が、こう言った』という担保を取るために、あえてそのまま使っているのではないか。和歌山で嬰児の遺体が見つかった事件でも入っていたのが、『ビニール袋・ナイロン袋・ポリ袋』と表記が分かれたが、現在、ナイロン袋やビニール袋はまず売ってない。警察側がそう言ったのをそのまま書いたということではないか。」
と答えました。
「短パン」は文字通り「短いパンツ」ですが、「メジャーリーグ」「メジャー」だけを漢字に直して「大リーグ」と言うのと同じように、「ショートパンツ」「ショート」「短」という漢字に置き換えると「短パン」になりますね。
「ショーパン」「半パン」という言い方もあると、坂アナウンサーから教えてもらいました。
GOOGLE検索では(1月23日)、
「短パン」= 51万8000件
「ショートパンツ」= 53万9000件
「半ズボン」= 31万4000件
「半パン」=  3万6800件
「ショーパン」= 1万5500件
「ショートパン」= 376件
「半パンツ」=  650件
そして、
「トレパン」= 4万2900件
「トレーニングパンツ」= 26万6000件
でした。
2006/1/23


◆ことばの話2447「親しい知人」

入社5年目、今年30歳になる独身のSアナウンサーが、新人のIアナウンサーと話しているのを聞いていたら、
「『親しい知人』って一体なんだよ。それって『親友』と違うのか?」
と言っていました。ほおっておくと、「親しい知人」などという言い方は間違いで、
「親しい知人」=「親友」
と解釈されそうなので、ついつい、おじさんは口を出してしまいました。
「『親しい知人』と『親友』は違うよ。そもそも『知人』ってのは、家族を含めた付き合いまではしていない程度の人。会社の付き合いとかともちょっと違う。顔も名前も知っていて、話をしたこともあるけど、奥さんの顔も名前も家族のことも知らないような淡い関係の知り合いのことで、その意味で友人とは違うよね。
その『知り合い』の中も、何度も飲みに行ったりしてよく連絡を取り合っている人だけど、家族を含めてまでの付き合いはしていない・・・というような人たちは『親しい知人』と言えるんじゃないかな。あまり若いうち、独身のうちは、親しい付き合いをする人とはすぐに『友人』になるから、個人的な付き合いが始まって『親友』になりうるけれども、結婚して家庭を持ったりする中で、『親しい知人』にはなれても『親友』にまで昇格することは、なかなかないかもしれないよ。」
と、訳知り顔に話してしまいました。
『新明解国語辞典』「知人」を引くと、
「知人」=なんらかの関係で互いに知っている人。知合い。知己。
ついでに、「友人」は、
「友人」=「とも(だち)」の意のやや改まった表現。
なんだ、じゃあ、「とも(だち)」を引かなきゃ。
「とも」=ともだち。仲間。同類。
なんだ、なんだ、これは!
「ともだち」=一緒に何かをしたり遊んだりして、気持ちの通い合っている人。友人。
なんだか、「ともだち」の方が一緒に「遊んだり」して、子どもっぽいですよね。「知り合い」はもっと大人っぽい感じがするな。「水魚の交わり」、と言いますか・・・どんな意味だっけ、一応引いておこう。
「水魚(すいぎょ)の交わり」=(水を離れれば魚は死んでしまうように)離れることの出来ない親友としての交際。
あ、思っていたのと意味が違う!「淡水の交わり」だっけか?・・・あ、
「君子の交わり 淡きこと水の如し」
か。そういうことですね。
あと、自分のことで隠しておきたいような話題で、でも話を聞いて欲しい・相談に乗って欲しい時などに、
「親しい知人のことなんだけど・・・」
というふうに言う人が、時々いますね。
2006/1/23


◆ことばの話2446「石工の読み方」

1月15日(日)夜放送の「大阪ほんわかテレビ」を見ていたら、愛知県の父娘の石職人を紹介していました。その中で、ナレーターで先輩のMアナウンサーが、
「石工(せっこう)」
と読んでいたので「おやっ?」と思いました。アナウンサーの世界では(?)「石工」は、
「いしく」
と読むのです。若い頃に叩き込まれたので、間違いありません。そこでMさんにメールを送りました。
『「ほんわかテレビ」で今やってた女石職人の話題、Mさんのナレで「せっこう」と読んでいたのは、もしかして「石工」ですか?それなら「いしく」ですよね、正しくは。それとも「石膏」ですか?』
これに対して、すぐにこんな返事が。
『下読みでイシクと読んでましたが、ディレクターが取材の時にお父さんに聞くと、昔は「イシク」とよく表現していたそうですが、最近は「セッコウ」と言うほうが、一般的だと言われたらしいです。だいぶ数は減らしたのですが…』
それは初耳です!まだ採用している辞書はないのではないでしょうか?業界用語的読み方かもしれないですね。用語懇談会で提案してみることにします、と返事を送って、翌日、会社で国語辞典を片っ端から引いていきました。すると、なんとほとんどの辞書に、
「石工(せっこう)」
載っているではありませんか。もちろん「いしく」も載ってはいるのですが。そうすると、「せっこう」という読み方も、あながち間違いとは言えません。
『NHK日本語発音アクセント辞典』を引いてみると、「いしく」は載っていても「せっこう」は載っていません。それを見て、ハタとわかりました。
たしかに「石工」を「せっこう」という読み方はあるのでしょう。しかし放送上「せっこう」と言うと、
「石膏」
と音の上では区別が付かず、間違われる恐れがある。そこで、放送上の決まり事として、「石工」=○「いしく」、×「せっこう」
と便宜上、決めたのではないでしょうか。
なるほどねえ、いろいろ調べて見ないとわからないものですね。
2006/1/20