◆ことばの話2380「紀の川市」

11月19日、ニュースを見ていたら、和歌山県でハンググライダーの男性が墜落して重傷を負ったというニュースを伝えていました。その場所は和歌山県の、
「紀の川市」
だと伝えていました。「紀の川市」?初めて聞きました。いつの間に、そんな「市」が?
ちょうど和歌山市に住んでいる義父も、我が家で一緒にニュースを見ていたので、
「『紀の川市』って、いつできたんですか?」
と聞くと、
「11月からやね。桃山町、貴志川町、打田町、粉河町、那賀町の五町が合併したんや。」
とのこと。なんでも、桃山町にハングライダー基地があるそうです。平成の大合併は、本当に進んでいるんですね。調べてみると、11月7日に発足していました。でも「紀の川市」って、僭称では?
『市町村合併で「地名」を殺すな』(片岡正人、洋泉社)を読んでみると、
「那賀郡6町のうち5町が合併したもので、どの町も紀ノ川の流域に位置し、その意味では問題がないが、那賀郡の残りのひとつの町・岩出町は単独市制を目指しているので『那賀』の名前が消える。『紀ノ川』は川の名前なので、放って置いても消えないのから、『地名保存』の原則から言って『那賀市』とすべきではなかったか。」
と記してありました。地図で見てみると、「紀の川市」は「和歌山市」と同じくらいの面積がありそうです。ちなみに川の名前の「紀ノ川」は「ノ」がカタカナですが、新しい市の「紀の川市」の「の」は、平仮名です。
2005/11/29
(追記)
紀の川市のホームページを見ると、新市の名称は公募した結果2416件の応募があり(有効投票は2379件)、その種類はなんと643種類!その中から最終候補に残った5つの名前を、2004年9月30日の第7回・那賀町5町合併協議会に出席した34人の委員が投票した結果
「紀の川市」= 33票
「紀の里市」= 0票
「那賀市」= 1票
「紀北市」= 0票
「きのかわ市」= 0票
だったということです。
2005/12/1


◆ことばの話2379「おとんぼ」

11月25日、武庫川女子大学言語文化研究所主催で開かれた講演会に行ってきました。講師は、朝日新聞の夕刊紙上の「勝手に関西世界遺産」のコーナーで関西の言葉などの取材を続けている河合真美江記者(朝日新聞大阪本社)でした。
その会の中で、会場の参加者(女性)から、
「末っ子の弟のことを、昔『おとんぼ』と呼んだが、これの語源や意味はどういうことなのか?『おと』は『弟』のことか?」
という質問が出てきました。「おとんぼ」、なんだか「トンボ」になったような気分。末っ子は、「極楽トンボ」だから「おトンボ」なのでしょうか?私はこの言葉は初めて耳にしましたが内容から、
「『おとんぼ』の『ぼ』は、『坊』が短くなったものではないか。そして『坊』なので、当然、男の子のことを指すのではないか。」
と思いました。でも「ぼ」は分っても、「おとん」が分りません。
家に帰ってから、牧村史陽『大阪ことば事典』を引くと、果せるかな、載っていました!
「乙ん坊」
と書いて、意味は「末っ子、おとご。」ちなみに「おとご」というのは、
「乙子」
と書くようです。「甲乙丙丁」の「乙」ですか。乙(おつ)な言葉ですね。男子に限られるかどうかは分りませんが、「ぼ」は「坊」ですから、「男」でよいでしょう。使用範囲は、近畿のほか西日本全般に広がっているようです。
『日本国語大辞典』を引いてみたら・・・載っていましたよ、少しですが。
「おとんぼ」(乙坊)=方言→おと(弟)
おお、やっぱり「弟」も関係しているのか?「弟(おと)」を引いてみました。
「おと」(弟・乙)=(2)長子でない子をいう。とくに末子をいうことが多い。おとご。
あ、そうか「おとうと(弟)」という言葉の語源が「乙(おと)の子(こ)」だったのか!たぶんそうに違いない。「方言」として「おとんぼ」を使う地域としては(辞書に載っている地名は、現在の「平成の大合併」で変わっているところもあるかと思いますが、そのまま引きます)、
「長野県下伊那郡、三重県、京都府、大阪府大阪市、泉北郡、兵庫県、奈良県、和歌山県、島根県、岡山県、広島県比婆郡、山口県、大島、香川県、愛媛県、高知県、長崎県西彼杵郡」
そして語尾が伸びる「おとんぼう」は、
「兵庫県揖保郡、神戸市、和歌山県、島根県石見、岡山県、広島県、山口県」
で使われています。また、撥音の「ん」が欠落した「おとぼう」を使うのは、
「広島県安佐郡・芦品郡、佐賀県、藤津郡」
そのほか「おとんぼし」は高知県室戸、「おとべ」は三重県志摩郡で使われているとのことです。すごい調査ですねえ。
「おと」の「語源説」を読んで見ると、(1)年劣ル義、と『大言海』から引いてきていますが、この「おとんぼ」の意味の「おと」は、
(4)オトゴ(乙子)の略という『大日本国語辞典』の記述や、(5)オツ(乙)の転という『名語記・俚言集覧』の記述にあたるのではないでしょうか。「オトゴ」を引いて見ます。
「おとご(乙子・弟子)」=(1)末に生まれた子。末子(ばっし)。すえっこ。
「弟子」は「でし」ではありませんよ、この場合。なんと用例は『延喜式』(927年)から取ってきています。古い、歴史のある言葉なんですね。そして、
「おとごの祝い」「おとごの朔日(ついたち)」
という言葉も載っていました。これは陰暦の十二月一日は末の弟を祝う日として餅をついたり、小豆飯(赤飯のことか)を炊いたりしたんだそうです。一説には「一年で最後の朔日」ということで祝うのだそうです。ふーん、今では廃れてしまった風習ですよね、少なくとも都会では。まだ続けている地域もあるのかしら?
昨今は少子化で、なかなか「末っ子」という感覚もなくなってきていますから「おとんぼ」という言葉も廃れてきたのでしょうね。
いずれにせよ、勉強になりました!
2005/11/28


◆ことばの話2378「『ところが』のアクセント」

新人のIアナ。すでにニュース・デビューも果たしましたが、まだまだ半人前です。その彼の読み方で気になる点は・・・一杯ありすぎて書ききれないのですが、そのうちの一つに、
「にわか雨の降るところがあるでしょう。」
という天気予報原稿の一文があります。この短い文章の中の
「ところが」
が、彼が読むと、妙に耳に立つのです。
なぜならば、「降るところが」を普通は、
「ふるところが(HL・LLLL)」(Hは高く、Lは低く発音する)
と言うのですが、彼は、
「ふるところが(HL・LHHL)」
抑揚を付けで読むのです。そうすると、「ところが」が際立つために、
「降る。ところが!」
「逆接」のように聞こえてしまって、大いに違和感があります。
こういった読みのクセと言うのは、なかなか治りません。日頃の会話のしゃべり方から気をつけないといけません。
アナウンサーは、最初の3年ぐらいは、24時間、標準語・共通語の話し方を身に付けるべく注意しなくてはならないと私は思います。使い分けができるようになったら、自分の言葉である「方言」をしゃべっても良いと思いますが。「言葉の職人」になるわけですからね。日々是精進!!頑張れ!
2005/11/29


◆ことばの話2377「ネットワーカー」

9月9日、ロケの合間に、ファミリーレストランのSで遅い昼ご飯を食べていた時のこと、入り口に「新ルール」と題してこんな注意書きが。
「商談や会議のネットワーカーはお断わりします」
この「ネットワーカー」って何?ネズミ講のようなもの?
インターネットで調べてみると、GOOGLE検索では(11月22日)、
「ネットワーカー」=16万9000件
でした。
どうもいろんな人脈を使って繋がるものを「ネットワーカー」と総称するようです。「子育てネットワーカー」「NPOのネットワーカー」「市民運動のネットワーカー」などがあるほか、通信工業の世界では、「一人親方」「みなし法人」「個人事業主」のことを言うとあったりしますが、やはり、こういう記述もありました。

『ここで言う“ネットワーカー”とは世間一般で使われている意味(何らかのネットワークを利用、活用する人達)とは全然違います。“ネットワークビジネス(=MLM、マルチ商法)”に関わっている人達の中でも、特に複数のマルチ商法組織を渡り歩いている連中・・・いわばマルチ商法のプロを指す呼称です。マルチ商法関係者及びウォッチャーの間ではポピュラーな言葉ではありました』(『蛙の水鏡』というサイト、2004年9月26日付け)

やっぱりそうでしたか・・・・。
そう思ってから2か月あまり。昨日(11月21日)フラッと入った喫茶店で隣の席の人が、なにやら大きな声で話しています。
「うん、IP電話ってわかるかな、うん、今まではNTTを通さないとしゃべられへんかったのが、ネットでしゃべれるからタダになるわけ。タダとお金かかるのやったら、どっちがいい?・・・そうやんな、そりゃタダの方がええわな。」
というように、30代半ば位の男性が一方的にまくしたてています。その前の席には20代と思しき若い夫婦と3歳くらいの男の子。それと同じくらいの年恰好の女性が、若夫婦と向き合う席で、まくし立てる男の人の横に座っています。どうやら、若夫婦の妻とこの女性が「友だち」のようです。旦那はそれに付き合って来ているという感じ。
うるさいなあ、と思いながら、しばらく聞くとはなしに聞き耳を立てていると・・・こ、これだ!ネットワーカーというのは!
なんだか、電化製品を販売するとマージンが入ってくるというような話。そしてその「子」を増やせば、どんどん儲かる・・・という。しかも、
「“連鎖販売”っていうの聞いたことある?うん、これはそういう販売方法なんやけど、欲しい人にだけ売るっていう方法で・・・」
やっぱりネズミ講
やんか!
若夫婦のうちしゃべっているのは妻の方だけ。儲かりまっせ!でも最初に協賛金というか資金がいる、という話を聞いて、
「生活費の足しにしたいし、儲かるのはうれしいんやけど、最初にお金を払うのはいや!」
と完全に拒否。女友達に対して、
「あんたが最初のお金出してくれるんやったら、ええわ」
「誰が出すって?私が・・・なんで?」

という人間関係崩壊スレスレの緊張感あふれる会話が、隣のテーブルで飛び交っています。
「私、お金をもうけるのは生活費のタシになるからいいんですけど、最初にお金を出すのはイヤなんです。」
と繰り返す若妻に対して、
「うーん、それは価値観の違いということで、そう言うこともあるよね。で、クーリングオフの期間は契約をした日を含めて○○日間ということで、もしやめたくなったらクーリングオフすればいいから・・・」
と、人の話を聞いているようでまったく聞かないで話を進めようとする男。
約1時間後、しゃべりまくった男が「ちょっと、トイレに・・・・」と席を立ったすきに、若夫婦がボソボソと話しています。
「・・・これってネズミ講やろ。オレ、お前の友だちやからこうして付き合ってやってるだけやからな。」
「わたしも、○○ちゃんとの付き合いがあるから一応、話、聞きに来ただけやん。」

どうやらこの商談は不成立のようです。
トイレから戻った男と若夫婦は、それから約20分、気まずさを取り繕うかのような会話をした後に、席を立って店を後にしました。
うーん、たしかに大きな声で、別に聞きたくもないほかの客の耳にまで聞こえてしまう内容の会話を、コーヒー一杯で1時間半以上も行われては、店の評判にも響くというもの。あのファミリーレストランが「ネットワーカーお断り」と貼り紙をしたのも分かりました。それにしても、やはりむげに客を断れないという気配りからか、
「新ルール」
と書いた店長、よっぽど困ってはってんね。
皆さん、この手の販売は「人情」に付け入りますから、ダメな物はダメ、イヤなことはイヤ、友情とこれは別。こんなことを押し付けてくるヤツの方が、友情がない!と、キッパリと断りましょうね!

2005/11/22


◆ことばの話2376「遺家族」

太宰 治『ろまん燈籠』という本を読んでいたら、こんな言葉にぶつかりました。
「遺家族」
ふーん、「いかぞく」と読むんでしょうね。「イカめし」や「カニ族」なら聞いたことがありますが、「イカゾク」はあまり目にも耳にもしません。「遺された家族」ですから、意味はすぐわかりますが、これは今なら単に、
「遺族」
と言うところではないのでしょうか?
『新明解国語辞典』を引いてみると・・・載っていました。
「遺家族」=一家の中心であった人が死んだ後に残された家族。(狭義では、故人の妻や遺児を指す)
ああ、そうなのか。単なる遺族ではなく、一家の大黒柱に先立たれたケースを言うのですね。さらに『日本国語大辞典』を引いてみると、
「遺家族」=(1)一家を支えていた人や主人に死なれて、後に残された家族。遺族。
(2)戦死者・戦病死者の遺族。

とありました。
ああ、そうなんだ、きっとこの(2)の意味の「戦死者・戦描写の遺族」として使われることが減ったので、「遺家族」という言葉もあまり耳にしなくなったのではないか。つまり戦後60年、曲がりなりにも「平和」な状況に我々は身を置いてきたことが、「遺家族」を遠ざけたのではないでしょうか。
Google検索をしてみたら(11月14日)
「遺家族」=1万0110件
でした。
2005/11/22
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