◆ことばの話2360「共稼ぎと共働き」

11月8日の読売新聞朝刊1面の『女性の力・中』という特集で取り上げていた女性は、松本幸四郎夫人の藤間紀子さんでした。その記事の中にこんな言葉が。
「結婚直後に先代幸四郎夫人の正子さんが『役者の夫婦は共稼ぎ』と言っていた言葉が今、よくわかる。」
最近は、
「共稼ぎ」
という言葉は、あまり目にしなくなっていて、その代わりに目に付くのは、
「共働き」
です。それで、この文章が印象に残りました。
Google検索(11月12日)では、
「共稼ぎ」= 9万2900件
「共働き」=61万4000件

でした。それで思い出したのは、平成ことば事情1574「1968年の“みたく”」では『言語生活』(1968年9月号)の座談会で語られた「気になることば」について書きました。その座談会の出席者は、入江徳郎(朝日新聞論説委員・当時)、大石初太郎(専修大学教授)、見坊豪紀(著述家)、そして若き日の曽野綾子(小説家)という面々。その中で取り上げた言葉の一つが、
「共稼ぎと共働き」
でした。ここに書き写します。

(見坊) 「『共働き』ということばがありますね。このごろわりあいに使われているらしいですが。あるとき『共働き』ということばがある席で問題になったんだけれども、ご列席の言葉の専門家たちがだれ一人知らなかった、という話聞いたことがあるんですよ。」
(大石) 「いつごろのことですか。」
(見坊) 「去年だったと思います。(中略)少なくとも六、七年前から使われているんですね。」
(大石) 「ぼくの聞いたのは、もっと古いんです。知人が結婚したときだから十年ぐらいになりゃせんかな、あのときに、近頃は『共かせぎ』といわないで『共働き』というそうです、というあいさつを聞いたことがあるんです。」
(見坊) 「そうそう。それです。わたしもいろいろ材料を調べてみますとね、やはりいまおっしゃったようなことが書いてあるんです。近ごろ『共働き』ということばがはやっているというんですね。『共かせぎ』が『共働き』というふうに変わったとか。それから女性雑誌で『共働き』というのを社の編集方針として使うようにきめている雑誌があるらしいですね。」
(大石) 「『かせぐ』ということばが語感が悪いのかな。」
(見坊) 「そういうことらしいですな。」

ただ、「はたらき」が連濁して「ばたらき」となる方が、「語感が悪い」ような気もするのですが、大石さんが言っている「語感」と言うのは「その語の持つ意味」の感じなんでしょうかね。いずれにせよ、今はもう「共働き」という言葉も実態も定着していると言えるのではないでしょうか。
2005/11/12


◆ことばの話2359「パワーランチ」

ある日のお昼前、Wアナウンサーが、
「パワーランチ、行ってきまーす!」
と言って、アナウンス部から外に行こうとしました。パ、パワーランチ?そんな力強いヒルメシがあるのかい?そこでWアナに、
「え?パワーランチって、なに?」
と聞くと、そんなの常識よ、というような顔で、でも丁寧に、
「打ち合わせをしながらお昼ご飯を食べることです。」
「ふーん、そうなのか、初めて聞いた」

と言うと、
「アメリカでは、普通に言いますよ」
そうなんだ。アップルコンピューター(マック)とは関係ないの?「パワーポイント」とかなんとか「パワー」ってつく名前のが多いじゃない。
「それは関係ないです。」
そうなのか。新しい言葉を知ったので、妻に、
「打ち合わせをしながら昼ごはんを食べることを『パワーランチ』って言うんだって、知ってた?」
とメールで聞いたところ、
「『ビジネスランチ』と、どう違う?」
という返事が戻ってきました。「パワーランチ」も「ビジネスランチ」も古い英和辞典には載っていません。GOOGLE検索をしたところ(11月7日)、
「パワーランチ」= 1万8100件
「ビジネスランチ」=2万3200件

でした。どちらも結構使われているんですよね。もしかしたら、ちょっと前は「ビジネスランチ」と言われていたものが、最近は「パワーランチ」と言われるようになったのでしょうか?どなたかご存じないですか?
2005/11/11
(追記)

またまた川崎市の西尾さんが、「パワーランチ」についていろいろと調べてくださいました。

『フードビジネス実用辞典』(日経レストラン編、日経BP社、2001年)
【パワーランチ】 power lunch(英)
米国で1970年代に使われ始めた言葉で、商談をしながら昼食を食べること。ビジネスランチとも言う。一般に、会社の費用で取引先を接待する。相手の好みに合わせて店を選び、あらかじめ予約しておくことが多い。また、朝食を取りながら商談を進めることをパワーブレックファストと言う。

ふーん、やっぱり「ビジネスランチ」とも言うようですね。アメリカでは「パワーランチ」は1970年代から使われているのか。そのほか、

『プログレッシブ英和中辞典』=power lunch
パワーランチ:有力者同士の昼食会。
『EXCEED 英和辞典』=power lunch (ビジネス界の有力者たちの)昼食会。
『大辞泉』=パワー‐ランチ【power lunch】  有力者たちの昼食会。
『大辞林』=パワー‐ランチ [power lunch]  ⇒ ビジネス-ランチ(1)

「パワーランチ」もネットの辞書には載っているのですね!また『大字林』では「パワーランチ」を引くと「ビジネスランチを見よ」になっているので、「ビジネスランチ」についても、調べてくださいましたよ。

『大辞林』『デイリー 新語辞典』=ビジネスランチ [business lunch]
  (1)商談や打ち合わせをしながらとる昼食。パワー-ランチ。
  (2)ビジネスマン向けの低料金ランチ。
『大辞泉』=ビジネス‐ランチ【business lunch】
  1 仕事の打ち合わせのための接待昼食。
   → ビジネスディナー → ワーキングディナー
  2 ビジネスマン向けの低料金の昼食。 ◆2は日本語での用法。

ああ、たしかに「2」のような日本語での用法の「ビジネスランチ」は、私もよくお世話になっています。
西尾さんは、
『もともとの意味は「有力者たちの昼食会」ということですが、日本では、単に打ち合わせをしながら昼食を採る「ワーキングランチ」の意味で多く使われているようです。ちなみに私の周辺では「ランチミーティング」と呼んでいます。』
とのことでした。「ワーキングランチ」も耳にしたことはありますが、消化に悪そうです・・・。

Googleでも検索してくださいました(2005/11/27)。全く無関係な内容も含まれているとのことですが。
「パワーランチ」=1万6500件
「ビジネスランチ」=2万5000件
「ワーキングランチ」=586件
「ランチミーティング」=3万3700件
「power lunch」=42万4000件
「buisness lunch」=401件
「working lunch」=40万5000件
「lunch meeting」=43万2000件

これを見ても「ビジネスランチ」は日本で使われる用語のようですね。英語では「power lunch」「working lunch」「lunch meeting」は、ほぼ拮抗していますね。
西尾さんいつも週末に精力的に調べてくださって、本当にありがとうございます!本文よりも追記で載せさせていただく方が長くなることもしばしばで・・・。
でも・・・お仕事やご家庭のほうは、大丈夫ですか?ほどほどでいいですよ、こっちは。どうも気になってしまって・・・。

2005/11/28


◆ことばの話2358「SE7EN」

「スタートライン」という曲を歌っている歌手で「セブン」という人がいるそうです。テレビの音楽組で紹介していました。その「セブン」の表記が、
「SE7EN」
でした。これはちょっとおもしろいですよね。「ラッキーセブン」の意味のようですが、アルファベットで英語として書くなら、当然、
「SEVEN」
という綴りであるところ、「V」を、「SEVEN」の意味であるところの数字「7」に置き換えて(「V」→「7」)いるのですね。
全体としては、それほど違和感なく収まっている感じがします。
似たようなケースでは、「A」のかわりに「Δ(デルタ)」を使うようなこともありますね。
この「SE7EN」を見て私が最初に思い浮かべたのは、
「タバコのセブンスター」
でした。タバコは吸わないのですが。
Googleで検索すると(11月12日)、日本語のページだけでなんと、
「SE7EN」=48万1000件
も出てきました!それを見てみるとこの歌手は、1984年11月生まれ。韓国人なんだ!2003年3月に韓国本国でデビューして以降、現地のポップ・チャート番組で軒並み1位を獲得、年末の各歌謡賞では新人賞を独占して以来、その人気と影響力は韓国トップ・クラス。インターネット・ファンクラブの会員数はなんと26万人を突破、日本デビューも果たしているということです。シラナンダー。
2005/11/12


◆ことばの話2357「AED」

今年夏に関西国際空港に行った時に、
「AED」
と赤い文字で書かれた看板を目にしました。これは、
「AED(AutomatedーExternalーDefibrillataor)」
の略称です。日本語では、
「自動体外式除細動器」
のことで、突然の心停止を起こした患者さんに電気ショックを与えて、心臓の細動を取り除く(除細動)医療機器です。これまでは医師にのみ使用が認められていましたが、2004年の7月1日から「一般の市民の方」も使えるようになったそうです。
関西国際空港では、この
「一般市民の方が使えるAED」
を、旅客ターミナルビル館内に27台、エアロプラザ・ホテル・展望ホール等に8台と、空港島内で合計35台設置しているそうです。これは「英語+日本語」の2か国語で音声ガイダンスができるAEDだとのこと。外国人も当然多いでしょうからね、空港は。今年の8月12日、関空の旅客ターミナルで突然倒れて心肺停止状態になった大阪市の男性(33)にAEDが初めて使われ、男性の救命に成功しました。国内の空港でAEDによる救命が成功したのは初めてのケースです。空港以外の公共の場所にも次々設置されているようです。
そういったニュースを聞いてしばらく経った9月、いつものテニスコートに行くと、
「大切な命を救うために当施設はAEDを設置しています。」
と書かれたポスターが張ってありました。こういったところにでも設置するようになったのですね。
さらに先月(10月)になって、子どもが通う水泳教室にも、「AED」の実物が置かれていました。透明のプラスティックの箱の中に置いてあったのですが、子どもたちが、
「これ、何やぁ??」
と興味深そうに見ていたので、
「それは心臓が止まった時に、もう一回、心臓を動かす道具やで。」
と説明しておきました。
こういった設備が増えることで、助かる命が増えることは望ましいことですね。
今後もAED、注目します!
2005/11/11

(追記)

11月18日の朝日新聞の家庭欄に「AED」の特集記事が載っていました。
「救命あなたにもできる〜まちかどのAED(上)」
心室細動に陥った人が一命を取り留める確率は、AEDを早く使うほど高くなるとのことで、3分以内に使うと7割以上の人が助かるが、5〜7分後だと4割程度になるそうです。この5〜7分と言うのは神戸市内で119番通報から救急車が到着するまでの平均時間だそうです。
9月12日、神戸市営地下鉄の名谷駅で発車間際の車両で男性が倒れたため、助役がホー−ムにいた男性に、AEDのある駅長室への連絡を頼み、この男性は一命を取り留めたそうです。また、患者さんが女性の場合は、AEDを使う際に、はだけた胸が見えないように人垣を作るなどして隠す配慮も、重要な手助けになると、十河朋子記者は書いていました。
余談ですが、同じ日(11月18日)の毎日新聞の家庭欄の特集は、
「30〜40代のED 10年で4倍に増加」
でした。「A」が足りない「ED」は、「AED」とはまったく関係なく、
「勃起不全」
のことを指しているのは言うまでもありません。でも・・・アルファベットの略号は、ややこしいですね。

2005/11/22


◆ことばの話2356「『いじる』と『いじくる』」

ふと思いました。
「いじる」と「いじくる」、「ほじる」と「ほじくる」はどう違うのか?
「いじる」「ほじる」でも良いわけですが、この間に入る、
「く」
は、何なんでしょうか?なんか「く」が入った方が、ネチネチと執拗にその行為を行っているような気がするのですが。
そんなことを鼻くそをほじくりながら考えていた・・・いや、何とはなしに考えていたのでした。
その後。
幸田文の『流れる』が入った全集のうちの一巻を読んでいたら、その名も『いじくる』という随筆にバッタリと行き当たりました。読んで見ると、
「いじくるといふ語感と生の魚や肉をつなげると、そこにはまつたく食欲は起こらない、きたなさがあるばかりである。」
とありました。たしかに。「いじる」だと少し触っているだけなのに、「いじくる」だと全体にゴチャゴチャ、ゴネゴネと回しているような感じがします。
『新明解国語辞典』「いじくる」を引くと、
「『いじる』の口頭語的表現」
と出ていました。単に「口頭語」と言うことではないと思うけどなあ。
『日本国語大辞典』を引くと、「いじくる」「補注」に、
『「いじる」の【3】以下とほぼ同義であるが、「いじくる」の方が、より細かい物事について言う場合が多く、また、しつこくもてあそぶ感じこもる場合もある。』
とありました。「いじる」の【3】の意味は「指先でなでたり、ひねったりする」でした。【1】と【2】の意味は、
【1】弱いものを困らせたり、苦しめたりする。からかったり、いじめたりする。ちょっとしたことをこせこせ言う。
【2】無理に求める。強要する。ねだる。

でした。
この「く」は「くる」、つまり「いじくる」は、
「いじる」+「くる」
という複合語なのではないか?とちょっと考えました。「くる」にはどんな意味があるのか?調べてみると、
「刳(く)る」
という言葉がありました。
「刳る」=器具を使って、くぼみや穴を作ったりそのような図形をつくったりする。えぐる。
とありました。「くりぬく(刳り貫く)」の「くる」か。なるほど、「ほじる」に「くる」、「いじる」に「くる」、イメージとしてはこんな感じだな。
その後また、「いじる」に関するこんな言葉にぶち当たりました。
「いじくり倒す」
これ、違和感ありますよね?普通、程度を超えて「いじくる」場合にくっつく言葉は、「回す」で、
「いじくり回す」
になるのではないでしょうか?たとえば「乗る」ならば、程度を超えて使う場合には、
「乗りまくる」
が標準語的で、関西弁ぽくすると、
「乗り倒す」
という感じですが、なぜ「いじくり」だと回すなのでしょうか?「まくる」じゃ使わないのでしょうか?って、何をおれは考えているのか?どういう思考回路なんだろう?ま、いいけど・・・あ、わかった!「まくる」にしても「倒す」にしても、
「次から次へ」
という感じがありますが、「回す」は、
「同じ場所で何度も繰り返す」
ので「次から次へ」は行かないのですね。「いじくる」が行われる範囲は、比較的狭い地域なので「回す」となり、「まくる」や「倒す」はあまり使われない。そこに「倒す」を使った「いじくり倒す」が出てくると違和感を覚えるというわけか。すっきり。
2005/11/5