◆ことばの話2355「いかーすかー」

『ビッグコミックスピリッツ』というマンガ本(2005年11月21日号)の中の、吉田戦車『殴るぞ』を読んでいたら、「呼び込み」という4コママンガがありました。
「杉並区」と「世田谷区」が呼び込みしているというもので、タキシードに蝶ネクタイのお兄さんが、
「杉並区いかがです?いい道ありますよ」
と呼び込みをしています。「区も大変なんだな」というのが落ちですが、それはさておき、「杉並区」に対抗して「世田谷区」も呼び込みをしています。法被に長髪のお兄さんの口調は、
「世田谷区いかーすかー」
この「いかーすかー」「いかがですか」を素早く慣れた口調で言った場合の言い方です。つまりツウの言い方をそのまま「文字表現」したもの。
たとえそう聞こえても、そのまま記すべきかどうか?と言うのが従来の日本語の表記法だったと思いますが、マンガでは古くからそれは破られてきました。最近のメールの文章もマンガに近いものです。
「いかーすかー」の方が俗っぽいけれども、その分「いかがですか」より生き生きしています。
「ミッキーマウス」と「行きます」、「揚げ豆腐」と「アイ・ゲット・オフ」のような関係かな。
2005/11/11
(追記)

平成ことば事情1999「こんちゃーす」と平成ことば事情2166「オーツカイでーす」もお読みください。おんなじような現象だと思います。
2005/11/12


◆ことばの話2354「お待たせをいたしました」

11月1日、東京からの新幹線に乗りました。その時のJR東海の車掌さんの車内アナウンスを聞いていたら、こんな言葉を言いました。
「お待たせをいたしました。」
この「を」はいらないですよね。
先日の用語懇談会に出席した時に、NHK放送文化研究所の柴田 実さんが、
「最近なんでも名詞にして、そのあとに『を』を付けつける傾向がある」
というお話をされていましたが、まさにその実例が、この新幹線の車掌さんのアナウンスということで、しっかりメモしたのでした。
また、11月9日の日本テレビ『情報ツウ』で中継していた、本田美奈子の通夜・葬儀会場である埼玉県朝霞市斎場。そこに映し出された会場入り口の立て看板に、
「館内撮影は禁止とさせていただきます」
これは「禁止する」という「名詞+する」動詞の間に『と』が入って名詞化された状態です。「禁止する」を「させていただく」形にすると「禁止させていただきます」となって、
「しさせ」と、サ行が3つ続いて発音しにくくなり、そのために「し」と「する」の間に「と」を入れて言いやすくしたのではないか?と思われますが、看板に書く「文字」なら、言いやすい・言いにくいは、関係ないのにな。
そもそも「お待たせ」も「禁止」も動作を名詞化したものなので、それに「する」を付けて動詞化したものを、また「と」や「を」を間に入れて「名詞化」しているというのは、なんだか面倒くさいですねえ。
このほかにも、パーティーの司会のときなどに耳にする、
「閉会とさせていただきます」
も、「と」を抜いて、
「閉会させていただきます」
でいいんですよね。なぜ「と」を入れるか?ここには、「のほう」などに見られるのと同じように、
「少しでも語句を長くして丁寧に聞こえるように、婉曲表現として使っている」
ように、私には思えますが、いかがでしょうか?
ついでに言うと、同じ車内アナウンスで、「JR東海」がコンパウンドして、
「ジュエイアール・トウカイ(LHHHH・HLLL)」
となっていました。昔のコマーシャルでは「JR東海」は、「JR」と「東海」は、たしかアクセントが別でしたよね、シンデレラエクスプレスの頃は。民営化してから、もう随分経ちますから、コンパウンドしたんですかねえ。
2005/11/9


◆ことばの話2353「連敗続き」

10月、日本シリーズの中継を見ていたら、
「千葉では『連敗つづき』だったタイガース。」
と、実況のアナウンサーがこう言っていました。でもちょっと待って!タイガースは「2連敗しかしてへん」っちゅうに。これも言うなら、
「連敗した」
が正しいのでは?「連敗が続いている」のならば、
「最低でも1勝をはさんで、2連敗が2回以上」
なければいけないのではないでしょうか。気持ちとしては「連敗が続いている」ように感じたとしても。
これはおそらく「連敗」ということと「敗戦が続いている」という表現が合成されて、つい口から出てしまったということでしょうが、お気を付けいただきたいものです。
2005/11/6


◆ことばの話2352「防犯カメラか防犯ビデオか」

報道の若いディレクターがニュースで使った文言について質問してきました。

『道浦さん、「防犯カメラに写った映像」と言うべきでしょうか、それとも「防犯ビデオに写った映像」なんでしょうか?どっちを使うか、何か「きまり」はあるのでしょうか?』

「ああ、なるほど。『防犯ビデオ』というのは『防犯ビデオカメラ』の略と考えるか、そのビデオカメラで撮影して録画している『記録媒体のビデオテープ』の略かということだね。でも最近は、記録媒体はDVDやハードディスク(HDD)ということもあるから、必ずしも『ビデオテープ』ではないよね。でも撮影している道具は、記録媒体に関らず『カメラ』だから、『防犯カメラ』の方が、汎用性が高いのではないかな。スチールカメラの場合も、『カメラに映った映像』と言えば、それが『フィルム』でも『デジタルカメラ』のメモリースティックでも構わないのとおんなじかな。それとは別に考えないといけないのは、『防犯カメラ』は目的の一つを名前にしてるんだけど、より広い意味では『監視カメラ』とも言えるんだよね。監視の目的が『防犯』だというのが『防犯カメラ』だけど、もしかしたら『防犯』以外の目的に使われる恐れがあるかもしれないことも考えて、『防犯カメラ』か『監視カメラ』かという用語の選択も考えないといけないね。」
と言うと、そのディレクターは、
「はあ、なるほど」
と言っていました。考え出すとキリがありませんけどねえ。
2005/11/5


◆ことばの話2351「ブログ2」

静岡・伊豆の国市の母親毒殺未遂の女子高生の事件。容疑者の少女が、犯行に関することを「ブログ」に綴っていたと。その「ブログ」
11月1日の読売新聞夕刊は、
『インターネット上で日記形式の簡易ホームページ「ブログ」』
でした。NHK11月1日の「19時のニュース」では「ブログ」のことを、
「インターネット上で」
また11月2日、日本テレビの「情報ツウ」では、
「インターネットの日記」
と。字幕スーパーでは、
「容体悪化を日記に記録16歳女子高生゛心の闇゛」
でした。同じく11月2日のフジテレビの「ニュースジャパン」では、
『インターネット上で公開していた日記』『日記には…』『日記の中で』
11月3日産経新聞朝刊は、
「ブログ(日記風簡易ホームページ)」
11月4日の各紙朝刊は、
(読売) 「インターネットのブログ」
(産経) 「ブログ(日記風簡易ホームページ)」「ブログ(日記風サイト)」
(毎日) 「パソコンでつけた日記」
「パソコンの日記」
(日経) 「インターネット上で母親の容体の変化などを詳述したブログ(日記風サイト)」

読売新聞は説明をやめたのかな?毎日の「パソコンでつけた日記」は、ブログとは微妙に違うものを指しているようです。
『ブログ・世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア)という本によると、
「ブログとは、ウェブへの短行の投稿からなるオンライン日誌のこと」
だそうですが。
それにしても平成の大合併で誕生した「伊豆の国市」ですが、妙な事件で有名になってしまいました・・・。
2005/11/5
(追記)

12月1日の毎日新聞「記者の目」で「高一少女のタリウム投与事件」というタイトルで、静岡支局の古関俊樹記者が書いていました。その中で「ブログ」は、
「ブログ(日記のような個人のサイト)」
と説明がついていました。
2005/12/5
(追記2)

上の(追記)の毎日新聞と同じ、12月1日の日経新聞では、
「ブログ(日記風の簡易型ホームページ)」
と、一面の特集『法化社会、備えはあるか・上』の中で使っていました。
2005/12/6
(追記3)

12月16日の産経新聞のコラム「鬼の耳」で、ニフティの古河健純社長を取り上げていますが、そこに出てきたのは、
「ブログ(簡易版ホームページ)」
という表現でした。
2005/12/16
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