◆ことばの話2345「マツケムシとマツクイムシ」

先日、白露の頃に読んだニュースに、
「松のコモ巻き」
がありました。冬の間に松の害虫を暖かいコモの中に封じ込めようという恒例行事です。
しかし、いつもの原稿と違ったのは、この害虫が、
「マツケムシ」
だったのです!いつも読むニュースでは、害虫の名前は、
「マツクイムシ」
です。そこで、本当に「マツケムシ」でいいのか、『広辞苑』を引いてみたら・・・・ちゃんと「マツケムシ」が載っていました。
「マツケムシ」=マツカレハの幼虫。松の葉を食う大形の毛虫。褐色と灰黒色との細斑を混じ、白色と黄褐色の鱗毛がその上を覆う。胸部背面に二個の横皺があって、中に藍黒色の短毛を密生。

そして「マツクイムシ」も載っていました。
「マツクイムシ」=松に大害を与える害虫の総称。特に、マツキボシゾウムシ、マツノキクイムシ、マツノマダラカミキリなどの甲虫をいう。

まあ、「マツクイムシ」は松を食う害虫の「総称」でもあるものの、その中でも特定された種類がいるんですねえ。
ちなみに今日(11月7日)は、「立冬」。国宝・姫路城でまた、「松のコモ巻き」が行われたと、Yアナウンサーがお昼のニュースで読んでいました。その原稿で出てきた害虫は、
「マツクイムシ」
でした。

2005/11/7


◆ことばの話2344「負託と付託」

9月17日の日経新聞夕刊に、
「安保理付託 合意せず〜イラン核問題」
とありました。ここで
「付託」
という文字を目にしました。一方この日は、民主党の新代表に前原誠司氏が決定したニュースで持ちきりでした。その日の夜7時のNHKニュースを見ていたら、
国民新党の綿貫民輔代表が、その民主党の新代表・前原誠司に、
「国民の負託に応えるよう」
とコメントしたと、字幕で出ていました。これを私の実家で見ていた時に父が、
「フタクのフは、『付ける』じゃないのか?」
と言い出しました。たしかに私もちょっと引っかかっていたので、さっそく辞書を引いて見ました。すると、
「付託」「負託」
と二つの「ふたく」が載っていたのです。意味の違いは(『新明解国語辞典』)、
「付託」=審議などを他の代表者に任せること。「委員会に付託する」
「負託」=責任を持たせて任せること。「国民の負託にこたえる」(負托とも書く)

うーん、微妙な使い分けだなあ。同音異義語で、これを言い換えるのは難しいなあ。
あえて違いを言うと、「付託」の方が、自分たちも関っていた問題に関して「あとはよろしく!」と任せる感じですが、「負託」は、最初からそれに関する直接的な権限がない人たちが、責任のある者に託する、という感じがあるということかな。
なかなか難しい言葉ですね。誠司の世界・・・いえ政治の世界の言葉のような気もします。同音異義語はムズカシイ・・・。
2005/11/5


◆ことばの話2343「人工受精か?人工授精か?」

京都府福知山市の由良川で11月5日の土曜日、子どもたちに豊かな自然を体感してもらおうと、サケの人工授精の見学会が行われたというニュースを読みました。
その原稿を見ていると、最初のリード部分には
「人口受精」
と書いてあったのに、本文の中では、
「人工授精」
となっていました。
「あれ?この『じゅせい』は受けるが正しいの?それとも授けるなの?」
と聞くと、担当記者が、
「す、すみません、『こう』が間違ってました!」
とあわてて飛んできました。ああ、よく見ると、リード部分の「じんこう」が、
「人口」
になっています。こいつは気づかなかった。「じゅせい」したら、人間ならその後「人口」が増えますけど。
「ああ、それはそうとして、『じゅせい』は、どっち?」
と聞くと、
「うーん、どっちでしょう?」
と首をひねっています。
『広辞苑』を引くと、「じんこうじゅせい」の項に、なんと、
「人工受精・人工授精」
両方の表記を載せています。これでは使い分けが分りません。報道のデスクにあった『岩波国語辞典(第四版)』を引くと、
「人工授精」
しか載っていませんでした。また同じくデスクの上においてある『NHK新用字用語辞典』(第三版、2004年3月)を引くと、
「人工授精」
しか載っていません。「受」は使わない、という注意書きもありました。「人工授粉」「受」は使わないとなっています。ただ、単独の「じゅせい」を引くと、
「受精」
となっていて、使用例は、
「受精卵」「体外受精」
となっています。やはりデスクにあった、もう少し古い『NHK新用字用語辞典』(昭和56年・1981年、初版一刷、平成4年・1992年9月、14刷)を見てみると、なんと「人工授精」「人工授粉」ともに項目そのものがありません。「人工」が頭に付く言葉は、
「人工呼吸」「人工心肺」
の2つだけです。1992年の段階では、まだ「人工授精」がそれほど一般的ではなかったということでしょう。
最新の『読売新聞スタイルブック2005』を見てみると、「じゅせい」の項に、
「受精」=〈卵子が精子と結合する〉受精卵、体外受精、体内で受精する
「授精」=〈人為的に精子を与える〉人工授精、顕微授精

と、使い分け方法を書いてありました。1996年に出ている『新聞用語集』にも、まったく同じ使い分けが記されていました(用例は、「体内で受精する」だけなかった)。『2005年版朝日新聞用語の手引き』も、用例の順番がちょっと違うだけど、同じことが書かれていました。共同通信の『記者ハンドブック用字用語集・第9版』(2002年4月)にもほぼ同じ使い分けが記されていました。そして、
「受精」=一般用語
「授精」=特別用語

となっていました。
どうやら、使い分けはもう定着しているようですね。
2005/11/5


◆ことばの話2342「気配値」

11月4日、名古屋証券取引所(名証)の情報配信システムが止まってしまうトラブルがありました。その前日では東証でも同じようなトラブルがあったばかり。そのニュース原稿の中に、
「気配値」
という言葉が出てきました。ルビは振ってありません。一見すると、
「けはいち」
と読んでしまいがちですが、株価関連の用語ではは、「最高値」「最安値」ともに「さいたかね」「さいやすね」「値」は「ね」と読みますね。だから、もしかしたらこれは、
「けはいね」
ではないか?そう思って辞書(『広辞苑』『日本国語大辞典』)を引いてみたのですが、「気配」の説明文の中に「気配値」という言葉は出てきていますが、その読み方は書いてありませんし、「気配値」は見出しにはなっていません。そこで、デスクに読み方を聞いても、
「わかりません・・・」
おーい、読み方のわからない文字を書いてアナウンサーに渡すなよ。
そこで『会社四季報』を引っ張り出してきて、証券会社に電話してみました。その結果、野村證券と岩井証券では、
「けはいね」
と言う、ということでした。(午後5時を回っていたので、日興コーディアル証券と大和證券は、代表電話はもう繋がりませんでした。)
また経済担当の清水記者が、大阪証券取引所に電話で聞いてくれて、それによると、
「『けはいち』『けはいね』、どちらも言うが、『けはいね』と言う人の方が多いように思う」
ということでしたので、「ね」と読むことにしました。
あとで『新明解国語辞典』を引きましたが、やはり「気配値」は載っていません。「気配」の説明も、株式用語としてはありませんでした。『明鏡国語辞典』を引くと、「気配」の項目の解説の中に「気配値」があって、
「取引市場で売り方・買い方が希望する値段」
と意味は書いてあったのですが、悲しいかな、読み方は書いてありませんでした。「けはい」は古くは「けわい」と言ったことも書いてありました。『岩波国語辞典』では、取引用語としては「きはい」とも言うと書いてありましたが、「気配値」については記述なし。『新潮現代国語辞典』も「気配値」はなし。ただ『「けはひ」のあて字「気配」から生じた語』とありました。
2005/11/5


◆ことばの話2341「けむい」

大阪府豊中市にある日本民家集落博物館。昭和31年と言いますから、今から50年近く前より、全国から古い民家を移築して集めています。その数12棟。大阪に長年住んでいながら、この存在は知りませんでした。先日、早朝番組「ゲツキン!」の取材で、初めて訪れたのです。
その中の一つ、大阪・能勢の民家でボランティアをされている増田晃彦さん(70)が、民家の「へっついさん」(かまど)の前で、こんなことを話してくれました。
「最近、見学に来る小学生は、かまどの煙を『くさい』」というんですよ。『けむい』という言葉を知らないんですなあ。そういえばふだん、家の中で、生活の中で『けむい』思いをすることが、のうなったんですかなあ・・・。」
そうなのかぁ。たしかに「けむい」と言えば、タバコの煙ぐらいになってしまってるのかなあ・・・。そのタバコの煙さえも、最近は「嫌煙」で、タバコを吸わない私などにとっては、あまり身近に感じなくなってきてますもんね。魚もマンションでは焼かないし。そういう意味では、ちょっとさびしいですね・・・。
2005/11/4