◆ことばの話2315「ぬるつき」

テレビを見ていたら、S社の化粧品の「メイク落とし」のコマーシャルに出ていた加賀まり子さんが、
「ぬるつきまで落とす」
と、「ぬるつき」いう言葉を使っていました。あまり耳にしたことがない言葉です。「ぬめり」は聞いたことがありますが。
もちろん「ぬるつき」の意味はすぐにわかります。「ぬるぬるした感じ」のことですよね。
Google検索では(9月9日)、
「ぬるつき」=797件
「ぬめり」=  4万件

でした。やはり「ぬるつき」はそれほど多くは使われていないようです。国語辞典を引くと、『新明解国語辞典』『新潮現代国語辞典』『明鏡国語辞典』『日本語新辞典』『岩波国語辞典』『広辞苑』『日本国語大辞典』には「ぬるつき」は載っていませんでした。
しかし、『日本国語大辞典』『広辞苑』には「ぬる」が載っていました。
「ぬる」=髪など細長いものがずるずるとゆるんで解けたり、抜けたりする。(『日本国語大辞典』)
でもこの「ぬる」ではないなあ、と思ってもう少し読んで見ると、「方言」として、
(1)滑る。雪の斜面を滑走する。(秋田県鹿角郡)
(2)蛇が蛇行する。鰻などが泥に潜る。(岡山県真庭郡、愛媛県大三島)

というのが載っていました。この(2)の、蛇やウナギには「ぬるつく」って言葉、使うような気がするなあ。
もしかして加賀まり子さんは、岡山や愛媛の出身かな?しかし調べてみると、東京出身。東京でも「ぬるつく」「ぬるつき」は使われているのでしょうかねえ。
この「ぬる」に、接尾語として「つく」が付いた語が「ぬるつく」だと考えられますから、そういう意味では複合語として特に不自然な構成ではないと思います。今後、増えるかもしれません。
2005/10/14
(追記)

川崎市の西尾さんから、またメールをいただきました。
『「ぬるつき」は、擬態語「ぬるぬる」の「ぬる」+「つき」という構造のような気もします。広辞苑の見出し語でこのような構造の「○○つき」は、あまりありませんが、動詞の「○○つく」は、たくさんあります。それを機械的に「○○つく」に置き換えてみると以下のようになりました。もとの動詞が「擬態語+つく」なのか確信が持てないのですが、いかがなものでしょう?(あまり見慣れない・聞きなれないのは除きました)

<見出し語> <擬態語> <名詞化>
いちゃつく いちゃいちゃ いちゃつき
うろつく うろうろ うろつき
かさつく かさかさ かさつき
がさつく がさがさ がさつき
がたつく がたがた がたつき
がっつく がつがつ がっつき
ぎらつく ぎらぎら ぎらつき
ぐずつく ぐずぐず ぐずつき
ぐらつく ぐらぐら ぐらつき
ご たつく ごたごた ごたつき
ごちゃつく ごちゃごちゃ ごちゃつき
ごろつく ごろごろ ごろつき
ざらつく ざらざら ざらつき
そわつく そわそわ そわつき
だぶつく だぶだぶ だぶつき
だらつく だらだら だらつき
ちらつく ちらちら ちらつき
にたつく にたにた にたつき
にちゃつく にちゃにちゃ にちゃつき
にやつく にやにや にや つき
ねとつく ねとねと ねとつき
ぱくつく ぱくぱく ぱくつき
ばさつく ばさばさ ばさつき
ぱさつく ぱさぱさ ぱさつき
ばたつく ばたばた ばたつき
ばらつく ばらばら ばらつき
ひくつく ひくひく ひくつき
びくつく びくびく びくつき
ひりつく ひりひり ひりつき
ふらつく ふらふら ふらつき
ぶらつく ぶらぶら ぶらつき
べとつく べとべと べとつき
まごつく まごまご まごつき
むかつく むかむか むかつき
もたつく もたもた もたつき』

ひえー、西尾さん、す、すごい!どれも名詞としてありそうですね。どうもありがとうございました!
2005/11/6


◆ことばの話2314「逆王手」

パリーグのプレーオフが盛り上がっています。2連勝してパリーグ優勝に王手を掛けた千葉ロッテ・マリーンズ。絶体絶命の立場に立たされた福岡ソフトバンクホークスが、土壇場から2連勝して、2勝2敗のタイに持ち込みました。いよいよ今日10月17日、勝者が決まります。
今朝の朝刊のスポーツ欄の見出しには、
「逆王手」
という言葉が踊りました。
「タカ連勝 逆王手」(毎日、読売)
「鷹本領ズレータ連発 逆王手」(産経)
「ソフトバンク逆王手」(日経)
朝日新聞だけが、
「連勝タカも王手」
と「逆王手」は使いませんでした。昨日のテレビ中継でも字幕に「逆王手」と出ていました。また、先日のメジャーリース・ヤンキースのプレーオフでも、
「ヤンキース逆王手」
と使われていました。
この「逆王手」、将棋の用語から来たのだと思いますが、将棋の場合は、先に王手を掛けてきた相手の王手を防ぐと同時に、自分が王手を掛けることを「逆王手」と言いますが、野球のこの使い方だと、実は両チームとも王手の状態であり、将棋の逆王手とは使い方が違うんですよね。ともに王手の状態だから。順番があるものだと、あとから王手しても、負けてしまいます。
野球の場合の状態に一番近い比喩としては、麻雀の、
「おっかけリーチ」
があると思いますが、字数が多いので、新聞の見出しには使われないのでしょうか?将棋の用語「(逆)王手」の方が、一般的だという判断なのでしょうか。いつ頃から使われだしたんでしょうね。ちょっと疑問の残る使い方です。
2005/10/17
(追記)

坂アナウンサーからの報告によると、今日のスポーツ紙の見出しは、
サンケイスポーツ「王 底力だ タイ」
日刊スポーツ  「ズレータ連弾 逆王手」
デイリースポーツ「2発に笑う逆王手」
スポーツニッポン「逆王手 ズレ様2発」
スポーツ報知  「逆王手 王ソフト」

で、「逆王手」を使っていなかったのは、サンケイスポーツだけだったようです。
Google検索(10月17日、日本語ページ)だと、
「逆王手」=4万9300件
でした。
2005/10/17
(追記2)

2006年9月27日の読売新聞スポーツ欄に、プロ野球パリーグで、9月26日にソフトバンクに勝った日本ハムがパリーグ1位となり、レギュラーシーズンの最終決戦が9月27日に行なわれることになったという記事が載っていました。その記事の見出しが、
「ハム逆王手」
でした。これは前日まで首位の西武が負けて2位になり、日本ハムが首位に浮上。27日の最終戦で日本ハムが勝つか引き分けると1位が確定する状況で、日本ハムが敗れて西武が勝った場合のみ、西武のレギュラーシーズン1位が決まるという状況です。
この場合は、西武は日本ハムの負けを期待するしかないわけで、
「自力Vはない」
状況、かたや日本ハムは勝てば1位(レギュラーシーズン優勝)なので、まさに西武と立場が変わって
「逆王手」
という表現はOKでしょう。最初に書いたのは短期決戦で、先に3勝すればいい状態で、両チーム2勝を挙げて「ともに王手」の状態だったので、「逆王手」はおかしい、と書いたのですが、今回は王手をかけているのは日本ハムのみなので、逆王手という表現は適当であると思いました。
2006/10/2
(追記3)
2008年10月20日の読売新聞スポーツ面に大リーグのアメリカンリーグ優勝決定シリーズでレッドソックスがレイズを4対2で破り3勝3敗のタイに追いついた記事で、見出しは、
「Rソックス逆王手」
でした。本文は、
「3勝3敗のタイに戻した」
でした。
2008/10/21


◆ことばの話2313「残暑はいつまでザンショ?」

今年はお彼岸が近づいても、けっこう暑かったですね。で、気になったのは、9月も下旬になった時の暑さについて「残暑」と呼んでいいのか?ということです。
たとえば、「残暑見舞いハガキ」は、立秋から8月一杯(31日)までぐらいですよね。9月に入ったら、いくら暑くても「残暑見舞い」を出すのは、はばかられる。とすると、「残暑」という言葉も9月には使えないのではないか?と思ったのです。これについて、
「『残暑』自体は、お彼岸まで。」
と言うのが、「ニュース・スクランブル」のお天気担当・小谷さんと、「ゲツキン!」出演の気象予報士・米畑詩子さんの見解。
そうこうしていると、10月の3日、東京を始め全国で、最高気温が30度を超える暑さ=真夏日を記録しました。これは「残暑」なのか?もうお彼岸を、とっくに過ぎています。
もう一度、お天気の小谷さんに聞くと、
「うーん、俳句の季語で言うと『秋暑し』とか、『暖秋(だんしゅう)』と呼ぶような気候ですね。」
とのこと。
へえー、「暖秋」ですかあ。Googleの日本語のページで検索してみると(10月7日)、
「暖秋」=  516件
「秋あつし」=27件
「秋暑し」= 631件

それが分った頃には、大分涼しくなっていました。
2005/10/7


◆ことばの話2312「赤ちゃんが乗っています」

クルマを運転していると、よく自動車のリア・ウインドウ(後部ガラス)のところに、
「赤ちゃんが乗っています」
というプラスティックのプレートがゆらゆら揺れていることがあります。英語で書いてあるものもあります。おそらく、
「赤ちゃんが車に乗っているので、あまりスピードを出さずに丁寧に運転しています。だからあなたもイライラしないで、我慢してくださいね。後ろから煽ったりしないでね。」
という意思表示がこういった言葉に表れていると思うのですが、なんだか押し付けがましくて、好きではありません。でもまあ、赤ちゃんが乗っているんだったら、こっちも気をつけて運転しようかな、と思わなくもない。
でも・・・・こないだ見かけた表示にはさすがに、
「それがどないしたっちゅうねん!」
とクルマの中で叫んでしまいました。そこには、

「犬が乗っています」

と書かれていたのです。一体、どないせーっちゅうねん!
ま、恐らく、このプレートを設置したドライバーの方にとっては、人間の赤ちゃんと同じくらい、犬も大事だから・・・と言うことなんでしょうが、それにしたって・・・・ねえ。
愛犬家の方には申し訳ないですが。

2005/10/7
(追記)

8月15日に免許の更新に行った時に見かけたものは、
「GROOMING DOG乗車中」
というシールでした。どういう意味があるんでしょうか????
2005/11/9
(追記2)

11月3日の毎日新聞朝刊の4コママンガ「アサッテ君」(東海林さだお)の第10676回で、「赤ちゃんがのっています」を取り上げていました。
「つまり注意してくれっていってるわけだよね」
と、クルマを運転しているアサッテ君が奥さんに話しかけています。そして、アパートの前に張ってあった張り紙、
「イグアナが住んでいます」
を見て、
「これもそういう意味かな」
と話していました。いろんなペットを飼っている人がいますからね、最近。でも赤ちゃんとイグアナが同列かあ。たしかにペットを人間と同列に考えている人は増えていますね。
2005/11/9


◆ことばの話2311「版木か?板木か?」

9月20日、奈良大学で与謝蕪村の挿絵の「版木」が見つかったというニュースがありました。これを伝えたNHKの20時45分からの近畿ローカルニュースを見ていたら、字幕が、
「板木」
でした。あれ「版木」ではないのかな?
翌日、21日の読売新聞朝刊には、
「版木」
で出ていました。どっちでもいいのかなあ。
Google検索では(10月7日)、
「版木」=6万5700件
「板木」=3万1400件

「版木」の方が「板木」の倍、使われているようです。これに「与謝蕪村」をキーワードとして足すと、
「版木、与謝蕪村」=312件
「板木、与謝蕪村」= 19件

でした。
『新明解国語辞典』「版木」を引くと、「表記」のところに、
『「板木」とも書く。』
としっかり記してありました。なんど、どっちでもいいのか・・・。
2005/10/7
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