◆ことばの話2305「口どけ」

「生茶」(キリンビバレッジ)という飲料のCMに出演した松嶋菜々子のセリフの中に出てきたのが、
「くちどけ」
という言葉。
「口の中で溶けるような、口当たりの良さ」
を表した言葉です。その後、チョコレートのCMなどでも使われているようです。「雪どけ」であれば「雪」が解けるのですが、「くちどけ」は「口」そのものが溶けるわけではありません。あくまでも「口の中で」溶ける。
「口」に関する耳に新しい表現ではありますが、けっこう昔から使われているみたいです。と言うのも『ことばのくずかご88年版』(見坊豪紀ほか、筑摩書房)で取り上げられていたのです。見坊さんと言うと『三省堂国語辞典』の編纂者で、言葉のカードを120万枚も(パソコンのない時代に!)書き集められた方です。さすがです。
それによると1986年9月、木村屋総本店食パン包装紙に、
「あっさりした口溶けのよい食パンです。」
と記されていたそうです。比喩的と言うよりは、本当に口の中で溶けたのでしょう、この食パンは。
このほか、1986年10月10日の毎日新聞・朝刊14面の松下電器の広告にも出ていたとのことです。但しこれについては、毎日新聞縮刷版で確認したところ、10月10日の16面にたしかに、「多様なケーキが焼ける」という松下電器産業の「オーブン電子レンジ」の広告は載っていましたが、「口どけ」という言葉は見当たりませんでした。縮刷版と当時の新聞は違うものだったのでしょうか。そういうことも、ままありますので、ね。
2005/10/6
(追記)

10月20日、テレビを見ていると、キンキ・キッズの男の子が出ていた、「森永DARS」というチョコレートのコマーシャルで、
「口どけに甘えればいい」
というセリフがありました。「口どけ」、使われていますね!
2005/10/20
(追記2)

先日、東京出張に行った際に山手線に乗ったら、車両の外側に大きく「森永DARS」の広告がありました。そこには、やはり、
「口どけに、甘えればいい。」
と大きな広告が張ってありました。
2005/11/5
(追記3)

2008年2月17日に見た、「ミスタードーナツ」のCMは、
「今度は口どけ。リッチドーナツ。」
というものでした。
なお、1月に出た『三省堂国語辞典・第6版』には「口どけ」は、
「口溶け」=「口の中でのとけ方。(例)口溶けのよいチョコレート」
と載っていました。同じく1月に出た『広辞苑・第6版』には、
「口溶け」=「チョコレートや和菓子などの、口の中で溶ける感触」
とありました。
2008/2/19
(追記4)

JR神戸駅のキオスクで見かけた、湊川神社正門前・菊水總本店の、
「瓦せんべい、瓦まんじゅう」
の広告文の文句には、こうありました。
「小麦粉は、厳選された小麦を一粒一粒丁寧に焼き、丹念にふるまわれた上質のものを使うことで、柔らかな口触り、口解けの良さ、焼き色や艶を最高の状態に保っています。」
ここで注目は、
「口触り」
という言葉と
「口解けのよさ」
という漢字の使い方ですね。Google検索(3月3日)では、
「口触り」=  1万9400件
で、「くちどけ」系は、
「口解け」=  4万0440件
「口溶け」=  19万件
「口どけ」=  38万7000件
「くちどけ」=  5万9700件
でした。
2008/3/3
 


◆ことばの話2304「第163 特別国会」

NHKの国会中継を見ていたら、冒頭、
「第163、特別国会」
と言っていました。それを聞いて、
「なぜ『第163』と、『回』がつかないのだろうか?」
と疑問に思いました。後輩の坂アナウンサーに聞いてみたら、
「たしかにニュースでは、いつも『回抜き』ですねえ・・・。」
とのこと。さらにちょっと調べてくれて、
「衆参両院のホームページには『回付き』で表記してますなぁ。」
ということ。なぜ放送では「回」と言わないんだろう?
坂アナウンサーによると、
「国会には通常国会、臨時国会、特別国会と3種類ありますけど、それぞれに回数を数えるのではなく、トータルの回数で数えています。『回』というのは、ある周期で回ってくるものについて使うので、3種類の違った国会を束ねて数えている今回のようなケースには『回』を使わないのではないでしょうか。」
そうなのかなあ。でも衆議院と参議院では「回」をつけてるんでしょ。それに、天皇陛下の国会冒頭のごあいさつは、
「第163回国会の開会を・・・」
と「回」がついてました。なぜ放送では「回」をつけないのかは、疑問のまま。NHKの知り合いに質問しているのですが、「通例」ということ以上にはよくわかりません。なんでかなあ・・・。ご存知の方、ご一報を!
2005/10/6


◆ことばの話2303「手のひらのアクセント」

広島テレビからのネットのニュースを聴いていたら、加藤進アナウンス部長がナレーションを読んでいらっしゃいました。それを聞いていた新人・五十嵐アナウンサーが、
「『手のひら』のアクセントが『てのひら(LHLL)』でしたね」
と言うので、
「伝統的なアクセントは『てのひら(LHLL)』なんだよ。君たち・・まあ、俺も使うけどそのアクセント『てのひら(HLLL)』は新しいアクセント。アクセント辞典を引いてごらん!」
引いてみると、やはり「てのひら(HLLL)」が先に載っていて、2番目に「手のひら(LHLL)」が載っていました。今では頭高アクセントの「てのひら(HLLL)」が主流ということですね。
驚いたのは、そのあたりに載っていた「手の○○」という言葉のアクセントです。
「手の内」は、最初に「てのうち(HLLL)」と頭高アクセントですが、2番目に「てのうち(LHLL)」という中高アクセントが載っていたのは良いとして、「手の裏」は最初に載っていた「てのうら(HLLL)」という頭高アクセントしかないと思っていたら、「てのうら(LHLL)」という中高アクセントがあるんですね。2番目に載っていました。「手の裏を返す」という成句として載っていましたが、「手のひらを返す」は聞いたことがあるけど、「手の裏を返す」は知らないなあ。
ほかにも、「手の筋」「てのすじ(LHLL)」という中高アクセントが、それも最初に載っていました。あまり使わないなあ・・・。(「てのすじ(HLLL)」という頭高アクセントは2番目に載っていました。)どういうところで使うのかなあ。
2005/10/5


◆ことばの話2302「漁家」

少し古い話になりますが・・・。
夏休みに北海道に行った時に読んだ北海道新聞(8月21日)の記事に、こんな見出しがありました。
「サンマ豊漁で困る漁家」
この「漁家」ってどう読むのでしょうか?ルビは振ってありませんでした。
Googleしらべ(9月8日)では、
「漁家」=13万1000件
と、結構ありましたが、読み方はわかりません。でも、読み方の可能性は、
「ぎょか」「ぎょけ」「りょうか」「りょうけ」
ぐらいではないでしょうか。全部辞書を引いてみよう!『新明解国語辞典』を引っ張り出してきました。まず「ぎょか」・・・あ、いきなり載ってる。
「ぎょか」=漁師の住む家。
でも「家」を指すのではなく、この場合は「漁業で生計を立てている家庭・世帯」のことだと思うのですが。
ちなみに「ぎょけ」「りょうか」「りょうけ」は全て載っていませんでした。
そういえば「漁」という漢字は、もともと「ギョ」しか読まなかったのに、「漁師」の読みを、山の「猟師(リョーシ)」に引かれて「漁師(リョーシ)」としたと、どこかで読んだことがあります。とすると、やはり「漁」は本来のとおり「ギョ」と読んで「ギョカ」ですか。「家」を「カ」と読むか「ケ」と読むか、漢和辞典を引くと、圧倒的に「カ」が多いですね。原則「カ」と読んだ方が「当たる可能性」は高そうです。
『日本国語大辞典』を引くとやはり「漁家」は「ぎょか」で載っていました。意味は、
「漁をして生計をたてている家。漁戸(ギョコ)」
とありました。へー、「漁戸(ギョコ)」というのもあるんですか!用例は漢文でしたから、漢語の世界では「漁戸」の方が使われているのかもしれません。
Google検索(10月5日)では、
「漁戸」=168件
「漁家」=13万1000件

「日本語のページ」に絞り込むとだと、
「漁戸」=168件
「漁家」=9万8200件

でした。「漁戸」はどっちでも同じ件数かあ。「ぎょか」と「ぎょこ」、勉強になりました。
2005/10/5
(追記)

同期のアナウンサーで、テレビ岩手の柴柳アナウンス部長から電話がありました。それによると、
「岩手では『漁家』は、ごくごく一般的に使う。『養殖をしている漁家の皆さんは』のように、毎日のように出てくるよ!」
とのことです。ただ、神戸出身の彼は、岩手に就職してから初めてこの「漁家」という言葉を知ったそうです。
「農業をしている家のことを『農家』と言うのと同じように、漁業をしている家のことを『漁家』という。『漁師』は海に出て漁をする人のことだから『漁家』とはニュアンスが違う。道浦が『漁家』を知らないと書いていたので、驚いて電話した」
と言うことでした。わざわざ連絡を、どうもありがとう!
しかし、漁業が主な産業である地域では、おそらく普通に「漁家」は使われているのでしょう。大阪は(というか、私は)、漁業と縁が薄いということでしょうね。
2005/10/19
(追記2)

『NHKことばのハンドブック』を引いてみると、載っていました!
「漁家(ギョカ)」=「漁民」「漁業者」などと言い換えると、かえって不自然になるようなときには、「漁家」を使ってもよい。<例>農家や漁家の主婦が集まって・・・
やはりよく使われているようですね。
2006/2/23
(追記3)

漁業をしている家を「漁家」と呼ぶということをアナウンス部内にメールしたら、Sアナウンサーから、
「じゃあ、林業している家は、『林家』ですか?」
と質問が来たので、
「『林家』は、『噺家・落語家』だろ。」
と答えましたが、もしかしたら、「リンカ」と読んで「林業をする家」なのかな???
2006/3/8


◆ことばの話2301「リッチュー」

軽自動車のダイハツOPTY(オプティ)のコマーシャルを見ていたら、最後に、
「リッチュウもOK」
と言っていました。
「リッチュウ」
って「立駐」、つまり、
「立体駐車場の略」
なのかなあ。いつからコマーシャルで、注釈もなしに使うくらい一般的になったのだろうか?GOOGLE検索では(10月5日)、
「リッチュー」 =29件
「リッチュウ」=52件
「立駐」=1万1600件
「立体駐車場」=32万件

あれま。「立駐」という漢字表記ではかなり使われていますねえ、知らない間に。カタカナの「リッチュウ」「リッチュー」は少ないですが。今後気をつけてみます。
ちなみに我が家も、いつの間にか「立駐」でした。
2005/10/5
(追記)

訂正です。その後コマーシャルを何回か見ていたら、この自動車は「ダイハツのオプティ」ではなく、
「日産のオッティ」
でした。すみませんでした。
2005/11/29
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