◆ことばの話2290「カテゴリー5」

1000人以上の死者を出す大災害となったアメリカのハリケーン「カトリーナ」。
その爪あともまだ生々しい中、今度は大型ハリケーン「リタ」が、「カトリーナ」が襲ったニューオーリンズがあるルイジアナ州の隣の、アメリカ・テキサス州を狙って近づいています。現地時間の9月21日午後現在、最大風速は78メートル、中心付近の気圧は897ヘクトパスカルと、アメリカ大西洋岸では「カトリーナ」を上回り、史上3番目の強さだそうです。9月24日にも上陸が予想されるため、22日には130万人に非難命令が出ました。(その後300万人が避難しました。)
そのハリケーンですが、アメリカ海洋大気局によって強度が分類されています。分類は5段階で、一番勢力が弱いのが「カテゴリー1」、一番強いのは「カテゴリー5」で、最大風速が70メートル以上です。今回の「リタ」は一時、その「カテゴリー5」となりました。日本時間の9月23日午前8時現在は「カテゴリー4」(=最大風速が59メートルから69メートル)のようです。
この「カテゴリー」と聞くと私が思い出すのは、サッカーのワールドカップのチケットの客席。「カテゴリー1(ワン)」から「カテゴリー4(フォー)」までの4段階に分けられていて、「カテゴリー1」が一番値段が高いのです。またJリーグ発足当時、Jリーグのグッズを扱っていたお店の名前が「カテゴリー1(ワン)」でしたねえ。懐かしい・・・。
さて、この「リタ」の勢力の表示ですが、読売新聞(9月22日)だけが、
「レベル5」
と表現しています。なぜなんでしょうか?他紙はみんな「カテゴリー5」なのに。「カテゴリー」はわかりにくい外来語なので「レベル」なのでしょうか?読売新聞の知り合いのSさんに聞いたところ、
「共同通信も『レベル』を使っているようだ。『カテゴリー』よりも『レベル』の方が、一般読者には分かりやすいだろうとの判断もあったのではないか」
とのこと。その後、テレビでコメントしていた日本の専門家が「レベル」と言っていたので、もしかしたら、日本の専門家は「レベル」と言うのかな?
日テレも「カテゴリー5」でした。ただし読みは、「ファイブ」ではなくなぜか日本語の「ご」でしたが(9月22日「ズームイン!!SUPER」の中のニュースで)。同じ日本テレビのワイドショー「情報ツウ」(9月23日)では、「カテゴリー4(フォー)」「カテゴリー5(ファイブ)」と、ともに英語読みの「フォー」「ファイブ」でした。
2005/9/23
(追記)

またまたハリケーンです。今度のは、
「ウィルマ」
という名前。何でも、今年21個目のハリケーンなんだそうですが、事前に用意していた20の名前を全部使い果たしてしまったとか。しかも北大西洋・カリブ海域でこれまでの観測史上最低(最強)だった1988年の「ギルバート」(888ヘクトパスカル)を下回る、882ヘクトパスカルに低下、最大風速は78メートルに達していると、10月20日の朝刊は伝えています。大変だ・・・。
で、この「ウィルマ」の規模が、5段階基準で、
「カテゴリー5」
と10月20日の毎日新聞と日経新聞は伝えていました。同一年に、一時「カテゴリー5」にまで発達した巨大ハリケーンが3つもアメリカ本土に上陸するのは、異例だそうです。
2005/10/20


◆ことばの話2289「意に沿う」

9月20日、車の中でNHKラジオを聞いていると、正午の全国ニュースに続く12時15分からの関西ローカルニュースで、女性アナウンサーが、さきの総選挙において公職選挙法違反で捕まった大阪府堺市議会議長に関するニュースを読んでいました。その中に出てきたのが、
「意に沿う」
という言葉です。これを彼女は、
「いにそう(LH・HL)」
と読んだのです。この意味では『NHK日本語発音アクセント辞典』によると、「意」は「頭高アクセント」のはず。「平板アクセント」にすると、
「胃」
になってしまい、
「胃に沿う」
ということになります。これでは「胃カメラ」
です。 また、大阪弁では、「去る・帰る」ことを「いぬ(去ぬ)」と言いますから、このアクセントでは、
「いにそう」=「帰りそう」
という意味合いになることも考えられます。(ちょっと無理矢理ですが。)
一文字の単語と二文字の単語のアクセントは、実は一番難しいと私は感じています。だからこそ、キッチリと読まないといけないなと思うのです。
ちなみに、「沿う」も、私が会社に入った頃(21年前)のアクセント辞典には、
「沿う(LH)」
という「平板アクセント」しか載って(認めて)いませんでした。関西人の私は、なんの疑いもなく、
「沿う(HL)」
と、「頭高アクセント」で読んでいましたが、そのたびに先輩からしつこく、
「『沿う(LH)』だぞ!」
と注意されました。しかし、その後アクセント辞典の方が関西化されたのか(?)、頭高アクセントの「沿う(HL)」も認められるようになったのです。だから20年ぐらい前の「正しいアクセント」で読むならば、
「意に沿う(HL・LH)」
となるのです。これを一つの言葉として考えるとコンパウンドして、最初の女性アナウンサーのように、
「意に沿う(LHHL)」
となるのですが。さて、さらに20年後には、どう変わっていますやら・・・。
2005/9/23


◆ことばの話2288「ヘラクレスとヘルクレス」

最近、小2の息子がハマっているのが「ムシキング」というゲーム。100円で、世界中のカブトムシのカードが1枚出てきて、そのカードのバーコードを読み込んでゲームで遊べるらしくて、そのカード集めに夢中です。
中でもお気に入りのカブトムシは、
「ヘラクレスオオカブト」
というもの。ただ、彼はこのカブトムシのことをいつも、
「ヘルクレスオオカブト」
と言うので、
「ヘラクレスだろ?」
と言うと、
「ムシキングではヘルクレスやねん!」
たしかに、「ムシキング図鑑」を見ると「ヘルクレス」とい書いてありました。
「ラ」か「ル」か?
ネットのGoogle検索(8月14日)では、
「ヘラクレスオオカブト」=1万7900件
「ヘルクレスオオカブト」=5680件

と、「ラ」が3倍以上使われています。
これに「ムシキング」というキーワードを付け加えて検索してみると、
「ヘラクレスオオカブト、ムシキング」=4530件
「ヘルクレスオオカブト、ムシキング」=4770件

「ル」が優勢でした。どっちなのかなあ。
2005/9/11


◆ことばの話2287「長足の進歩」

先日アナウンス部会の席で、
「最近、Kアナはずいぶんニュース読みがうまくなってきた。やはり場数を踏んだことと、本人の努力の成果であろう。3〜4か月前の状態から考えると、長足の進歩である」
とKアナのことをほめました。
会議が終わってアナウンス部に戻ると、当のKアナの周りの先輩アナが、ニヤニヤしています。何かな?と思ってあとで聞いてみると、
「道浦さん、やっぱりKは、まだまだですよ。」
「なんで?」
「『長足の進歩』を『超速の進歩』だと思っていたらしいんです。」
「・・・・」
ちなみに新人のI君も、
「ボクもそう思っていました。」
と、胸を張って言うではありませんか。横からWアナが、
「道浦さん、あんまり難しい言葉を使っても、この子ら意味がわかってないから、甲斐ないですよ・・・。」
これも同音意義語のひとつなんですかねえ・・。もう「超音速旅客機・コンコルド」も引退したので、「超」の出番は少ないんじゃないのかなあ。
それにしても、おれが「超速の進歩」なんて言うはずがないだろうが・・・もうっ・・・。
2005/9/23
(追記)

あれから1年半、Kアナにも後輩が5人も出来ました。その後輩である、新人のYアナ。1か月にわたる新人研修の成果がそろそろ出てきたようで、このところなかなか頑張っています。そこで、
「いやあ、以前に比べると発声も鼻濁音も、チョーソクの進歩だね」
とほめました・・・・不安になって、
「『チョーソクの進歩』、漢字で書いて!」
と書かせてみると、やはり、
「超速」
と書くではないですか・・・・。そんなに速くはないのよ、あなたの進歩は。
ちなみに2年目のKアナに書かせても、おんなじように「超速」と書きました・・・アチャー・・・。
2007/6/17
(追記2)
教えに行っている甲南大学の学生に「チョーソクの進歩」の「チョーソク」を漢字で書かせたところ、ちゃんと正しく、
「長足」
と書けた人は、55人中たったの6人(10、9%)でした。一番多かったのは
「超速」
でした。たしかに、意味はそういうことかもしれないけど・・・それじゃあ早すぎるやろ!?でも、こう書いた人は、55人中なんと45人(81、8%)と圧倒的でした。
そのほかは、
「超即」「超早」(?)「超足」「跳捉」「わからない」が、各1人(1、8%)でした。
ちなみに、同時に行ったでした。「三十一文字(みそひともじ)」の読み方を問うた問題と両方で正解した学生は、55人中6人(10、9%)でした。トホホ・・・。
2007/10/25
(追記3)
2008年9月10日の朝日新聞朝刊に、北京パラリンピックの記事が載っていました。日本の北京パラリンピックでの「金メダル第1号」は、自転車の男子1000メートルタイムトライアル(脳性まひ)で自らの持つ世界記録を更新して優勝した石井雅史選手だったのですが、その記事の見出しが、
「石井 超速の記憶」
というものでした。ここに「超速」という言葉が出てきてしまいましたね。
石井選手は将来を嘱望されたプロの競輪選手だったのですが、練習中に自動車と衝突。一命は取り留めたものの、「記憶が途切れ、考える力が続かない」という、脳に外傷を負うことで生じる「高次脳機能障害」という後遺症が残ったのだそうです。レース後の記者会見でも、金メダルを持ってくるのを忘れて、「こうやって時々記憶が混乱するんです」と話していたそうです。
2008/9/10


◆ことばの話2286「仰げば尊しの歌詞の意味」

2005読書日記064にも書きましたが、『NHK日本語なるほど塾2005年2月号〜本当はおもしろい文法のはなし』(森山卓郎、NHK出版:2005、2、1)を読んでいたら、「仰げば尊し」が載っていました。その歌詞でよく意味を間違われているのが、
「今こそわかれめ」
の部分で、
『「今こそわかれめ」の「わかれめ」は、「分かれ目」ではない。「こそ〜め」の係り結びである』
と書かれていました。これは実は知ってました。エッヘン!・・・と威張るほどのことではない。しかし、その次に書かれていた記述には、目からウロコが落ちました。
『「思えば、いととし」の「いととし」は、「いと、疾し」である』
ええ!そうだったのか!ずっと「いとおしい」の意味だと誤解していた!うーむ、やっぱり文語は難しい・・・
ちなみに、9月17日放送の日本テレビ系「女王の教室」最終回で、子どもたちが担任の阿久津真矢先生(天海祐希)に対して「仰げば尊し」を歌うシーンがありました。最近は小学校では「仰げば尊し」を歌わないんですよね。ほかのもっとポップな曲を歌うそうです。このドラマでも、学校として卒業式で歌ったのはほかの歌で、6年3組の子どもたちがこの曲を偶然知って、阿久津先生のためだけに歌うという感動のシーンです。
しかし、演じていた彼ら・彼女らは、歌詞の意味をわかって歌っていたんでしょうか、ねえ・・・・?
2005/9/23
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